その4
「しかしながら、状況は変わっているのではないでしょうか?」
グラリッチは、エリオを見据えてそう尋ねてきた。
沈黙を続けると見せ掛けて、一気に間合いを詰めてきたのだった。
「と言うと?」
エリオは、ニヤリとしながら聞き返した。
「???」
それを見たマイルスターは、いつものように驚いていた。
ここは、どう見ても笑みを見せる場面ではないと感じていたからだ。
「事がスムーズに動いていれば、閣下はこうして自ら出てこないかと思います」
グラリッチは、エリオの反応が気になったが、話を進める事にした。
「ああ、そう言う事ですか……」
エリオは、ますます余裕が出てきたようだった。
最早相手の意図を見切ったようだった。
「……」
味方であるはずのマイルスターは、固唾を飲んでいた。
意味が分からないからだ。
だが、対照的に傍らにいたシャルスは、興味がなくなってきているようだった。
「状況は変わっていない事は、貴公達の方がよく分かっているのではないですか?」
エリオは、グラリッチに逆質問で返す事にした。
「……」
グラリッチは、思わぬ逆質問に黙る他なかった。
隣にいたトピーズは、思わず苦笑いしてしまった。
2人のシンクロが崩れた瞬間でもあった。
「私が出撃してきたのは、我が女王陛下のご意向です。
ただそれだけですよ」
エリオは、もう話は終わりとばかりに、そう言った。
「左様でございましたか」
グラリッチは、柔らかい口調でそう言った。
探り合いは終わりというエリオの提案を受け入れたのだった。
「で、連絡しますか?」
エリオは、体の向きとは逆の艦尾方向を親指で差しながらそう聞いた。
「はい、そうさせて頂きます」
グラリッチは、素直にそう答えた。
そして、一礼すると、トピーズ共に、艦尾方向へと歩いて行った。
エリオ艦隊の後方からは、ホンド・グリア商会の商船が1隻接近しつつあった。
「閣下、どういう事です?」
マイルスターは、グラリッチ達が遠ざかると、真っ先にそう尋ねてきた。
「彼らは、俺の値踏みをしに来たらしい」
エリオは、やれやれ感満載で、苦笑いしていた。
(ああ、成る程そう言う事か!)
マイルスターは、これまでの変なやり取りに納得したようだった。
グラリッチとトピーズも、この直談判で事態が動くとは思っていなかった事がこれで判明したのである。
つまり、エリオの人柄を直接見に来たと言った感じだろうか?
「で、合格点は頂けたのでしょうか?」
マイルスターは、いつもの和やかな表情で、そう尋ねた。
「不合格じゃないかな……」
エリオは、ぶっきら棒にそう答えた。
(そんな訳、ないでしょうに……)
マイルスターは、そう思ったが口にはしなかった。
エリオが意外と機嫌を損ねていると察したからだった。