その13
「し……」
サラサは、国王の言葉に対して、何か言おうとした。
が、それより、早く、国王が、
「貴公は更に第2艦隊の指揮官でもある。
艦隊は、陸軍の各軍に相当するものである。
そう考えると、今まで参加できなかった事自体が非常に不味いと考えている」
とサラサが何か言う前に、畳み掛けるように言った。
どうにも勝手が違っていた。
先へ先へと国王に、先程から先を越されっぱなしだった。
(珍しい事もあるものだな……)
バンデリックは、興味深げに2人のやり取りを見ていた。
自分も当事者だという事を忘れて……。
ただ、この国王、人の良さそうな顔をしていて、それだけではない事を示していた。
「しかしだな、他の侯爵家との兼ね合いもある。
直ぐには無理だが、その辺の調整と言う事になる」
国王は、そう言って話を終えたようだった。
なので、サラサの反応を待っている様子だった。
サラサの方は、突然の事なので、反応に困ってしまった。
これは自分が認められた事になる。
ここは当然、喜ぶべき所だった。
だが、迷将という所以だろう。
サラサが反応に困っていたのは、ただただ面倒事が増えるような気になったからだった。
この辺は、もう一人の方と考え方が完全に一致していた。
と言う事は、やはり、サラサも迷将という事になる。
この証明は、我ながら理論的だと自負している。
まあ、それはともかくとして、国防委員会の会議に出るという事は、それだけ仕事が増えるという事である。
権限も与えられ、意見も言える立場になる。
とは言え、権限の行使、意見を通す為には、やはり、労力が必要である。
率直に言うと、いい面も悪い面もあるという事になる。
その辺の考えが、サラサの頭の中を駆け巡っていた。
「恐縮です」
サラサは返事を求められていたので、取りあえず、当たり障りのないように短く言った。
「うむ、そなたは慎重だな……」
国王はサラサを見ながら、感心していた。
「……」
サラサは、また反応に困っていた。
国王と話した事はこれまでほとんどなかった。
これ程、色々な事を考えているとは思っていなかったので、面食らっていたのだろう。
「そなたは、才能とそれを実行する力を示した。
それに相応しい地位に就くべきじゃろう」
国王は、煮え切らないと言った感じのサラサにそう語り掛けた。
とは言え、これは、煮え切らないという訳ではない。
ある意味、嫌がっていたのだった。
「恐縮です」
サラサは、本音を言う訳にもいかずに、同じ言葉を繰り返した。
「まあ、いずれはやらなくてはならない事が早まったという事じゃよ」
国王は、微笑みながらサラサにそう言った。
「御意」
サラサは、驚きを隠しながらそう言った。
これは、完全に自分の心を見透かされたと感じたからだ。
確かに、いずれは父親の後を継がなくてはならないのだ。
サラサは、改めてそう思い知らされるのだった。
やはり、この国王、よく人を観察している。
だが、決して自分の能力を過信している訳ではなかった。
政治の才はないので、基本的には口出しはしない。
その代わり、偏らないようにこうして新風を吹き込むような事をする。
でも、これで上手く行くのだろうか?
いや、これまでの結果が示しているとおり、上手く行っている。
つまり、意外にも神業という言葉が相応しいと思われる。
「そうか、これで、余も安心じゃ」
国王は、更に笑顔になっていた。
そして、サラサは更に戸惑うのであった。