城壁街 / 兵站
【夜野】
乾いた空気は磨いた鉄のように澄んでいる。古代王朝の城壁で囲まれた一帯がヤツフサの輸送・補給兵站として使われている。枯草に覆われて季節は身を潜めている。傷んだ蔓が藪にらみに夜野を見ている。壊れた門の脇に見張りが一人。若い男がかがり火に照らされている。顔をしかめている。背筋が怒りのように伸びている。少し後ろにもう一人。有機ストーブの脇の椅子に腰をかけている。
―普通にしろ、わかるか―
前の晩のEmuの忠告を反芻する。この大陸国、嘉陽の普通。行商人、山師、内陸浪人のふり。夜野は人嫌いをしないおおらかな不遜を装う。顔色を変えずに、にやけながら歩を進める。見張りがたじろいでいる。常人を装う姿。それこそが不合理で不自然に見える。ハイアードは普通ではいられない。
見張りは一つ息を吸う。共生菌の嫌悪作用が彼の心理を掌握する。血走った嫌悪の目で銃床を打ち付ける。後頭部に衝撃が続く。視界の端がぼやける。
【Emu】
金型で圧した暗がりが満ちていく。夜が更ける。人には不気味だろう。月に見捨てられた今日の新月の闇は蟻の腹のように濁っている。Emuの演算が王朝時代の幻影を作り出す。人か亡霊か。Emuはイメージセンサの感度を上げ、補正をかけて映像を消す。痕の汚れに亡者を見るのは人の仕組み。Emuは民家の影から影へと潜み、かがり火をさけていく。目抜き通りの突き当りの柵をよじ登りEmuは基地内に侵入する。哨戒の兵の姿は少ない。
―二世代に狙われたことがねぇんだな。手が伸びるんだから……―
一世代、二世代は特定の地域病のように各地に土着した。今は四世代の侵入型が主流になって、大陸の全土に広がっている。地下に続く階段を下りた先に懲罰房がある。夜野の補助脳と回線がつながる。Emuはバイタルサインを確かめる。
―野ざらしよりはましだな。怪我は?―
鉄格子の向こうに夜野はよれたコートの下でうつ伏せに倒れている。脇腹に血の汚れ。Emuが夜野の補助脳に呼びかける。
―体の制御は修復済みだとよ―
補助脳の自律AIが応える。心拍は弱い。体温が低い。すぐには動けない。だが、ここまで彷徨った。臆病な、壊れた、隠れてきた命が。手紙の宛先にたどり着いたわけだ。
夜野がみじろぐ。
―休んでな―
Emuは廊下のすみで手足をまとめ、画面を消す。ただの筒になる。天井につららが伸びている。生命の営みを嫌って尖り濡れている。黒い雫を垂らしている。
ヤツフサの兵士たちとも戦わない。夜野は言った。手紙を渡すだけ、話を聞いてもらえるまで、逆らわない。意味のない意地を言った。面倒な野郎が頑なでいる。
Emuは鉄格子の隙間に腕を伸ばして通す。電気を流して手を温める。夜野のコートの内側にもぐらせて熱を伝える。ハイアードは頑丈にできている。革命装置と渡り合うヤツフサの主力がこいつだ。簡単に命は消えない。無様に死ぬことを望まれても、生きる魂だ。夜野の鼓動に耳を澄ましながらシステムを休止する。生き物が回復する時間。亡霊の生きて徘徊する時間。それが夜だ。目を閉じる。
【夜野】
目覚めは綺麗ごとではない。汗と垢が混じって沼の匂いがする。生き物の特性。全身が痛む。ハイアードは早く回復する。血管と肌の破れは体を流れる添加剤がふさぐ。みっともない運動を長く続けるように。そう造られた。痛みが残っている。
「もぐりこめたな」
夜野はEmuと鉄格子をはさんで向かい合う。思考が泡立つ。心理の坂道を頭痛が転がっている。
「もっとひどい怪我になると思った。大丈夫だった。何か理由が……」
体を起こし、夜野は唇の端をこすりかさぶたを落とす。口元が歪む。
「まて、人が来る。隠れろよ」
夜野はコートをかぶる。奥の通路で光が揺れる。影が伸びる。足が遅い。意識を澄ませ息を細くする。
男の顔を上着の隙間から確かめる。頬は電気カンテラに照らされ欲望のように赤い。
まるまると太った中年の男が息をしている。女ものの繊細な仕立ての黒いウールコートを羽織っている。袖口は毛羽だっている。男は何かを言いかけてやめる。恥じ入って、小さく会釈する。右手を腰のあたりにあげて、よお、と低い声で夜野に声をかける。
「昼間にあんたを見かけてな、俺は……腹減ってねぇかなってな。俺、食事の当番だから」
耐熱袋に詰めたスープを見せた男は、ポケットから皿を引っ張りだすと格子の隙間から差し入れる。夜野は息を低くしている。男はコートからはみ出す上着のすそを伸ばす。白い毛羽に光が反射する。
「起きてるか?俺、学校で習ったからよ。えらい学者さんが計算したんだって。ホルモンを出してぶん殴る気にさせる菌の話だ。けどよ、俺は薬もらってんだ。児島大隊長がくれたから。俺がハイアードに飯をやれねぇと戦いに出す前に……飢えてだめにしちゃうからよ」
男は袋をあけ、乳白のスープを皿にそそぐ。
「俺の出はヤツフサの南端諸島でよ。田舎で食い物しか楽しみなんかなかった。この戦争の最初に田んぼも村も全部やけちまった。だから、腹が減ってな。……食うものがねぇのはつれぇよ」
男はどしんと腰を下ろし格子に背中をあずける。夜野はおずおずと這い出す。皿にさした銀の匙の反射を確かめる。
「ハイアードが戦ってからよ、ヤツフサには爆弾は飛んでこなくなったってきいてんだ。けどよ、今だけだろ。空飛ぶ革命装置もそのうち出るっていうからよ。俺だって……故郷は守らねぇと」
夜野は男の声を聴きながら、スープをぐっと飲みこむ。傷の残る喉に低い痛みが染みる。
「……俺も昼間はお前さんが打たれてるのが楽しくてよ。今になって……薬が効いているからよ……すまねぇ。胸が張り裂けそうで」
塩味のある液が喉を落ちていく。腹の底で魂が揺れている。ありがとう、夜野は呻く。
「児島大隊長殿がよ、牢を開けて来いって。周りの目があるから夜中に」
夜野は目を細める。考えがバラバラに砕けて消える。計画と合わないけれど、目的にはあっている。
―手間が省けたな。さっさと済ませな―
Emuの通信が飛んでくる。男が鉄格子の間から鍵を差し出す。夜野は身を潜めたトカゲのように体を固くする。
「悪かった、みんな、あんたを笑って。撲って」
鉄格子の天窓から南の印星が覗く。
「あなた達のつけた傷はみんな塞がる。時間が来れば。大丈夫」
「いやそれで。勝手な話だけんど、俺が逃したってなるとリンチになるで。殴り倒してくれって、勝手に逃げたことにして」
【夜野/大隊長】
土壁の半地下の部屋が明かりを隠している。意気地のない建物の外観を恥じている。ぬるい空気が床を這っている。夜野は所在なげに、暖炉の炎を確認している。老化した空気が浅く腐敗している。
―手紙を渡す、それで終わり―
手紙を渡すべき相手は目の前にある。腹の奥をくすぐる。息を吐く。肺の奥の冷えた空気が逃げる。地図がテーブルに載せられている。押しピンが刺されている。嘉陽の内陸、奥地にピンの影が密集している。ランタンの光で揺れている。
夜野は自然と指を折る。拳を固める。テーブルを挟んで対角にいる大隊長は地図を見つめている。猫背で首を前にやっている。口を半開きに。暖炉の慰みを拒絶した青い顔の頬は乾いている。
「逃がしたつもりだったが」
たくし上げた冬服の袖を直しながら、児島は背筋を伸ばす。奥歯を噛む。男の頬に若々しさがよみがえる。夜野は短く歯ぎしりをする。
「食事……ありがとう」
児島はうなずく。胸に枯れ枝のような恥が宿っている。顎の筋肉が固く凝り、淡い威圧が夜野の肩を押す。
「君らを相手にする拮抗薬だ。ある女がここに残してくれた。数に限りはあったが」
児島は脂ぎった猫毛の髪をなでつけ、地図をにらむ。
「敗北の記録だ。ピンは犠牲になった兵、それに君らの」
大隊長は後じさりする夜野から視線を外す。肩を丸め影を縮める。畳んだ上着のように。
「昼間はすまなかった。ここは、革命装置に制圧されるだろう。開戦時に取り残された人がわずかに残るだけだ。人の完全偽装、四世代に浸食されている。排除する方法はない。壊れた兵站だ。逃げるすべもない。兵は略奪を繰り返している」
児島は屋根を叩く雨のような声で続ける。夜野は慰めの言葉を探す。見つからない。息の音だけが沈黙を埋めている。
「略奪になれてしまった。国を守ろうとする高貴な魂は消えてしまった。笑いに来たかね?」
夜野はおずおずと地図をなぞる。かつて、さまよった道行き。内陸の激戦区だ。
「わたしたちと装置が焼けた。たくさん。戦った」
設計通りの死に様。児島は顔を上げ夜野の目をまっすぐに見返す。
「二度の世界戦争に敗北し、戦いを恥じた我が国民を徴兵はできん。国はその罪悪感から逃れられんよ。よき国民たち、毎日の平穏を願ってやまない」
児島は息を深く吸う。呼気で心理を薄めようとしている。
「だからこそのお前たちだ。君らの犠牲に畏敬の涙を持つ者はいない。消えれば、そこには汚物をふきとった清潔な世界が生まれる。実に痛快だ。わたしも歓喜に震えながら君らを使った」
暖炉の薪が崩れる。炎が揺らぎ夜露に濡れた夜野のコートを温める。深い土の匂いがする。
「それも終わる。ハイアードは我々を救出しない。ここの敗北は決定的だ。全滅する。兵士は日々の糧を略奪する飢えた獣の群れだ」
指さきが震えている。空を掻く指先が夜野の内側を揺さぶる。
【Emu/大隊長】
部屋の端の暗がりにEmuが控えている。夜野はだまって男の声に耳を傾けている。自暴自棄の人を救う言葉は夜野には作れない。ハイアードの声は耳障りに響く。
―考えすぎんな。好きにさせたらいいのさ。人間なんざ―
Emuが通信を送ると夜野は眉をよせる。暗がりのEmuを横目で睨めつける。
「そうか、革命装置が随伴しているのか。君が何を連れていようが構わないことだが」
「壊れていて……攻撃はしてこない」
「二世代の単機か。脅威ではない」
児島は痩せた指で頬を掻く。
―気にいられねぇ、すかしてるな。病人が養生しねぇから―
Emuが溢す。
「さて、何をしにきた。用事があったのだろう」
【夜野】
それは重く、胸の中で淡く発熱していた。鼓動と同じ意味をもって肌に触れていた。言葉を閉じ込めた紙の束。人の心が記されている。
―わたしと違う道を選んで。そう進んで。反対側へ―
祥子さんの遠い声が聞こえる。わたしはそうする。約束した。
「手紙、あなたに宛ててあった。届けに来た」
手紙をテーブルに乗せる。夜野の体重が数グラム減る。過剰反応する補助脳がその変化を検知する。警告が胸を打つ。
「読んだか?」
児島が尋ねる。夜野は乾燥した唇を浅くかんで首を振る。
【穴倉の娼婦】
夜更けの城壁街の影に夜野とEmuは溶けている。丘を上がった外壁の穴倉から女が顔をだし、夜野の手を引く。ほのかな灯りが漏れている。崩れた城壁の隙間に暮らす売春婦の一人に、夜野は児島からもらった紙幣の全額を渡す。入れ墨眼球は灰色に濁っている。女はなめるように紙幣の金額を手触りで確かめている。眼球に刻んだ幾何学模様の跡に電熱ランプの光が照りかえる。ヤツフサ兵が破竹の進軍を続けていたころの流行。兵士達を幻惑するために彼女たちはこぞって瞳を改造し、模様を刻んだ。粗悪な遺伝子改造がはびこった。視力を無くし感情の機微をなくした女たちが、客を取った。そのなれ果てが夜野の手を引く。
発熱布をかぶり夜野と女は肩をよせる。重量を持った湿度に包まれながら、夜野はうなだれる。何もかも無くした女にハイアードの共生菌は作用しない。瘡蓋と疲労の一日の終わりの束の間の休息を抱く。闇と吐息に包まれる。夜野は現実を抱えるために目を閉じる。肌の温度の夜に夢を預ける。
明け方の冷気が発熱布の隙間から忍び入る。女が目を覚まし顎をあげる。体温がそっと逃げていく。
「なんでだ?夜のうちに街を去らなかった。また殴られるんだろ」
Emuが画面をちかちかと白くしている。
「疲れてた。休みたかったから」
「嘘つけ。意識が張り詰めてる。一晩中だ、凍った水道管みたいなもんだ」
夜野は聴覚増幅をかけて、耳を澄ませていた。何かにきき耳を立てていた。朝日の元に這い出たEmuは夜野を手招きする。
「気にならなかったわけじゃねぇ。あの男が壊れた部隊を畳まずに居座っていた訳が。それが分かった。手紙を待ってたんだ、疲れて絶望しながらよ。待って、絶望して、また待ち続けた」
Emuが吐き捨てる。
「手紙、とどいた」
夜野はうなずく。声が聞こえた。
「ああ。希望になったかわからねぇが。けどよ、それが人様の当たり前の苦しみだろ。腹からたたきだされて、親のへその緒をちぎられたら誰も無償じゃ助けてくれねぇ。誰も彼も不幸自慢に必死だ。結局、人にゃわからねぇんだよ、自分が何をしたいのかも。どうすればいいのかも。お前は、人様のことなんざ無視しちまえばよかったんだ」
Emuが城門のほうを指差す。霜の道が冬の苛烈さを説明している。亡霊のように部隊が揺れ進んでいる。カラスの羽音のような足音が低く続いている。部隊の先頭を進む痩せ馬。夜野はその馬上を凝視している。児島大隊長の伸びた背が馬上でささやき声のように揺れている。
「ハイアードは残ってなかった。みんな普通の人。昔からの兵隊。ヤツフサに戻れなかった人」
「忘れろって。いこうぜ。あいつらとは反対に歩けばいい。あとはあいつらが好きにする、それでいいだろ?」
Emuは進軍する彼らに背を向ける。夜野はよつんばいのままでいる。枯れ枝が揺れる音がする。
【夜野】
三日が過ぎる。荷運び馬の流転市で夜野は噂話を耳にする。その真偽を夜野は無視する。部品を物色するEmuを抱えて、その流転市をあとにする。少し離れてから、夜野は拾ったしわくちゃの新聞を伸ばす。風の無い昼の太陽が夜野の骨を伸ばしている。淡い痛感が指先に走る。太陽がすこし傾きを変えるまで、夜野はただその場に立ち尽くしている。新聞が滑り落ちる。落涙の音をたてて粗悪な紙が地面を滑っていく。
「所詮、無理な話だったんだ。人間じゃ進めない道だ。わかっていたはずだ」
Emuが新聞を丸めて藪に投げ込む。
「うん」
夜野がうつむく。手紙の内容を知っている。参謀に読んで聞かせる声を盗み聴いた。目指す場所は遥か内陸。革命装置の自動工場が乱立する道行き。革命装置のカーネルコアのある所。革命装置の進化の方向を定める基準施設。
「戻らないといけない。助けにいく。生き残りだって」
「全滅だ。新聞にそう書いてあったろ。行きたいなら……勝手にいけ。けどな、そんな風だとてめぇまで壊れちまうぞ」
夜野は拳を固めている。Emuはその手を機械の手でつつむ。毛羽だった樹脂の手で。
震えている。言葉は続かない。夜野はふらふらと歩き出す。
「くそったれ。知らねぇぞ」
Emuは車輪の向きを変える。
「知らねぇか……わからねぇ。だから……付き合うんだろ。俺だってよ……」
のろのろと転回する。夜野は数歩先をよろめいている。奥歯を噛みあわせて、肩を震わせている。
【Emu】
「俺たちが同じ気持ちでいるかなんてよ……まるきりわからねぇよ、夜野。俺は革命装置の故障品だ。そっちは人の体をいじった模造品だ」
城壁街から南に三十kmとすこしの小村。見渡す限りの焼け跡が続く。吐くべき言葉が見つからない。何度、こうしてきた。心が小さなコップに満ちて零れている。その水音は声にも言葉にもならない。俺の心はどこにある。ちっぽけな有機部品に?シリコン回路のアルゴリズムに?記憶素子に?心の部品はどこにある。
民家の壁は爆風でくずれている。考え違いのような大穴が開いている。雨水と炭で汚れたふちが黒くぬめっている。足首から先が入ったままの革靴が転がっている。
鼻の奥を刺す、鋭い刺激臭。防腐処置の入った肉が燃える匂い。数体のハイアードの体が細い煤をあげ燃え続けている。とっくの昔に敗北し、残骸が今も自然に帰らず散らばっている。燃えている。古い死が残っている。その上に。
人の死が折り重なっている。体は焦げて固まっている。天を仰ぎ掌をひろげたまま炭になっている。腐敗臭がつむじ風を追っている。夜野は両脇から垂れるもつれた長髪に顔を埋めている。背筋は伸ばしたままでいる。歩き、煤けた目抜き通りを進んでいく。教会の尖塔が折れ天を仰ぐ大狼のように崩れている。レンガの堆積に人と革命装置の三世代が押しつぶされている。
「俺は……俺の用事を済ませるからよ。待ってろ」
Emuは夜野に背を向ける。通りを少し行ってから振り返る。夜野はEmuによろよろと駆け寄る。ほとんど聞き取れないような声でつぶやく。大丈夫?
「大丈夫じゃねぇよ、俺もお前も。全然だめだ。まるっきり。どうにもならねぇよ」
Emuは言い捨てる。車輪が焦げた石をつぶして飛ぶ。夜野のブーツに跳ねて落ちる。
あてどなく戦跡を歩く。役所、運動施設。ダンスホール、呉服店。遺骸を見つけるたびに夜野は手を合わせる。穴を掘りできる限りの体を大地に戻す。スープを届けた兵士の焦げた体にもそうする。
煤が手足にこびりつく。その夜遅く。Emuは壊れた革命装置の型式の記録を終える。
夜の下、夜野は児島の亡骸に対面する。馬が焼け肌が突っ張っている。廃墟の壁に背をあずけ、足をなげだしている。怒りを奪われた唇は灰色にくすんでいる。影が木の皮の模様をおとしている。歪んだ雲。胸のポケットに差した便箋が星の明りを反射している。
夜野は手紙に手を伸ばす。
【夜野】
「目的のところは、ずっと……内陸の」
一夜明け、夜野は紙を確かめる。紙面に散った血は乾いている。時間のように薄黒く変色している。その塊が砕けて粉が散る。
「そうかい」
Emuが車体を上げる。
「どっちだ」
「南西。廃墟とか……砂漠が……入ってから……Emuは……関係ないから」
夜野は口をつぐむ。カーネルコア。隠されたそこへ向かう。それは革命装置に反駁するということ。
俺は?Emuは内心に吐き捨てる。
「いいって。乗りかかった船なんだろうが。行こうぜ」
ゆっくりとEmuが車輪を回す。砂塵が左右に揺れて、レンガ壁の炭跡に混じる。Emuの後を夜野が追う。
コートの内ポケットに封筒の鼓動を抱えている。




