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第九章:デスゲーム

-1-


「一体秋桜ちゃんに何をしたんだ?」

濃霧の広がる夜の学園。

つまりここは夢幻空間。


僕の数メートル先に立つは山崎司。


「何って?別に?

射川先輩こそ急にどうしたんですか?

もうここには来ないかと思っていましたが?」


「僕の質問に答えて!」

「おお、怖!」


「お兄ちゃん!!」

と、霧の向こうから弟の声が響く。


「明人!?なんでまた…

もう来るなって言ったのに…!!」


僕の数メートル先に山崎司。そして山崎司のさらに数メートル先に

明人が立っていた。

あの水色の和服を着て。


「お!お前また来たな?!

昼間行ったこと忘れたんだ?

行ったよな?次ここに着たら、

ぶっ殺すってー…!!」


そういい終わるか終わらないかのうちに

山崎司は

明人の方へと駆け寄る。

手にはいつの間にか巨大なハサミが。



「危ない!!

アキ!逃げてー!!」

僕の言葉を合図にやっとのことで明人は

山崎司に背を向けて走り出した。


僕も慌てて二人を追い学園の奥へと走りだす。


しかしこの濃霧。


二人の姿が今にも消えそうだ。


息を切らせながらなんとかし二人を見失いように走り続ける。


すると明人は学校の校舎の中に逃げ込んだ。

すかさず追う司。


と、

「おや、鬼ごっこ中だった?」


僕の前に黒い影が舞い降りた。


このバリトンボイスは…


「桜倉先輩…」


思わず足を止める。


「この先には行かせないよ?」

「…と…、通してください!!」


「かわいそうに。

もうここには来るなと言う忠告を無視した君たち。

死ぬ運命を選択した訳か…」


「な…何を言っているんです!!お願いです!

通してください!!」


「いや、無理だね」

そういって桜倉先輩は腰にさしてあった日本刀をスッと鞘から抜いて見せた。


「じゃあね、可愛い後輩君!」

そういって刀を僕に向かって振り落として見せた。

「!!」


-2-


射川明人は必死になって階段を上り続けた。

苦しい…。

胸が張り裂けそうだ。

胸に手を当てながらなんとか屋上に通じる扉の前までやってきた。

ドアノブに手をかけると、

扉はゆっくりと外に向かって開いた。


「お前意外と足早いんだな?

ちびのくせして。

おかげでこっちまで息が上がっちまったじゃねーかよ。」


屋上にやってきた山崎司と距離を置くようにじりじりと後退していくが

とうとう背中がフェンスに当たってしまった。

フェンスの高さは僕の肩ぐらいまである。

飛び越えようと思えば飛び越えられるが

飛び越えた先にあるものは、何もない。


「さぁ~てと。どう料理してやっかな?」

ジョキン!!ジョキン!

巨大なハサミは音を立ててこちらへと近づいてくる。


ど…ど…どうしよう!!

お兄ちゃん!!早くぅ!!


しかしどんなに待っても兄は現れない。

それどころかとうとう詰め寄られハサミの刃が僕の数センチ前まで迫っていた。


「あばよ!」


次の瞬間山崎司が振り下ろした巨大ハサミが何か硬いモノにぶつかってはじき飛び

数メートル先のフェンスの柵に刺さった。


「誰だ!?」


と山崎司が叫ぶとほぼ同時に黒い影は

風のように移動し僕の目の前に舞い降りた。


霧さえも吹き飛ばし

姿を現したのは…



「お…お前!?ど…どういう事だ!?」


山崎司が動揺するのも仕方がない。

だって僕の目の前に現れたのは…


「明人君!怪我はない?!」


「し…紫苑…さん?」


一瞬鏡を見てるのかと思ったぐらいだが

服装が違う。

からし色の和服に葡萄色の袴。

そして手には巨大な鎌のような鋭い刃物が。


「ど…どういう事だ!?

蛇使い座が…二人!?」


「違うよ!僕は蛇使い座じゃない。

蠍座の観月紫苑だよ!!」

そういって鎌を振り下ろすと

強風が起こり

あっという間に山崎司は

屋上入口の壁のところまで吹っ飛ばされてしまった。

そして意識を失って倒れる山崎司。

す…すごい…。


思わず口をポカーンと開けてその様子を見守る僕。


「大丈夫?」

そういって紫苑はこちらに向き直り僕の両肩に手を置いた。

「う…うん。

!!

あ…!!

危ない!!」

思わず叫んだがとっさの事で声が上ずる。


紫苑が振り向くとそこには横瀬桜倉の姿が。

そして手には日本刀。

しかしその日本刀には鮮血が滲んでいた。


振り下ろされた日本刀に対しすかさず鎌の柄で防御して見せる。


「まさか君がこの世界にやってくるとはね。

命知らずもいいところだ。で?

スコーピオンは元気かい?いるんだろ?」


「もちろん!僕はスコーピオン。でもスコーピオンは僕自身。

だからどちらでもあってどちらでもない!!」


「何をよくわからない事を。」

ギリギリと音を立てて日本刀が紫苑の方へと迫る。


どうしよう!!

このままじゃやれれちゃう!!


どうしよう!!

どうしよう!!


そうだ!!

僕、リィーンの力使えるかな?!

指輪もあるんだ。

きっと使える!!


お願い!!


「フィディー!!」


指輪の中から突如大蛇が現れ

横瀬桜倉のみぞおち目指してまっすぐに勢いよく飛び出した。


「うっ!!」


横瀬桜倉はフィディにアタックされ

勢いよく

後方へと飛ばされ倒れた。


「明人君!?」

紫苑がびっくりしてこちらを振り向く。

「君がやったの?」

「うん!蛇使い座の力、僕も使えるみたい!!

さぁ逃げよう!!」


そういって紫苑の手をつかんで見せた次の瞬間、

「ううっ…」

突然紫苑が胸を押さえてしゃがみ込んでしまったのだ。


「ど…どうしたの!?」


「だ…駄目だ…」


「え?」


「僕を置いて逃げて!!…はや…く!!でないと…」

「そ…そんなことできないよ!!

一緒逃げよう!!早く!!」


「くぅ…」


一体どうしたと言うのだろう…

さらに紫苑は苦しそうに胸をきつく抑えて

ぎゅっと目を閉じた。


額には汗がにじんでいる。


と、紫苑が顔を上げた次の瞬間、僕は思わずぞっとせずにはいられなかった。

瞳の色が赤紫色に光っていたからだ。


「スコーピオンか!?」

ゆっくりと体を起こしながら横瀬桜倉が叫ぶように言う。


「ご名答。」

冷静に発したその言葉が余計に冷たい恐ろしさを含んでいた。

僕の手を離すと鎌を持ち直し

そして桜倉めがけて振り下ろそうと構えた。


「黄道12星座のリーダーとか言ってたよね?自分で。

で?そのリーダーが死んだら?

次は俺様がリーダー、かな?

ケケケ…」


「よ…よせ!!」

なんとか立ち上がると桜倉も日本刀を構えて見せる。


僕は驚いて身を引いた。

なぜなら

紫苑の足元から黒い光のようなものが生まれて霧を飲み込んでいくのを見たからだ。


「二人とも!動くな!」


聞き覚えのある声の方を向くと

屋上入口のところに兄が立っていた。

手には光る弓矢を構えている。


「おやおや、サジタリウスさん、俺をまた封印しにきたか?

だが面白いことを教えてやる。

お前が紫苑を封印すれば紫苑は死ぬ。

俺がこの男に鎌をかければこの男は死ぬ。


どっちみち誰かが死ぬんだ。


誰を選ぶ?」

にやりと気味悪い笑みを作った紫苑は

鎌の刃を突然明人に向けた。


「!?」


「サジタリウスが溺愛している弟君からまず死んでもらおうか?」


「やめろー!!」

竹人の弓を引くに一層の力が入る。


ダメだ!

このままじゃ本当にスコーピオンが言う通り必ず誰かが死ぬシナリオだ。


どうしたらいい!?

どうすれば!!


…!!

ごめん、紫苑君!!


弓矢を持つ手を、

離した。


パァァァァン!!


光の矢は一直線に紫苑の心臓目掛けて飛んでいく。

もうだれも止められない。


そう誰もが思った次の瞬間、紫苑の姿がフッ!と瞬間的に消えたのだ。


指輪にキスをしたからだ。


ということは…


!!


ドスッ!!


鈍い音がした。


そしてばたりと音を立てて倒れたのは、

弟、明人だった。


「う…

嘘だろ!?」

思わず言葉が零れる。


横瀬桜倉がそばに立っていることも忘れ

明人に駆け寄る。


「明人!!

明人!!しっかり!!」


しかし…


明人が倒れた身体の下からどす黒い液体が池を作り始めていた。



血…



な…なんてことだ…!!


と、

明人の体全体が突然真っ白に光り出したではないか。

一体何が起こっているんだと解らずそっと明人の体に触れようとした次の瞬間…


ザァッッッッ………。


明人の体がまるで砂のような細かい光の粒になったかと思うと

風に吹かれるように流れて消えて行ってしまったのだ…。



「弟を殺した、か」

背後から低音ボイスが聞こえた


しかし僕の体は固まって動けずにいた。


大粒の涙がボロボロと零れ落ちてくる。


違う!!


これは、

夢だ!!


そうだ…夢なんだ!!


ハッと我に返り思わず安堵のため息をつく。


なんだ…ただの夢なんだ…。


嫌な夢だったけど

夢は夢。


これは現実じゃない…。


そう…現実に戻ればいい。

紫苑君のように!!


キュっと下唇をかむと

左手小指に光ったアメジスト色の石に軽くキスをした。


-3-

ゆっくりと目を開く。


すると、

いつもと変わらない天井がそこにはあった。


良かった。


夢で…。


ホッとため息を一つ付いた。


しかしこれは悪夢だ…。


そっと体を起こすと目覚まし時計に目をやる。


2時14分。


まだまだ眠っていい時間だ。


けれど、念のため…


ゆっくりとベッドから抜け出すと

廊下にでて明人の部屋の前に立った。


この前見たいに明人から飛び出してくることは、

ないようだ。


そっとドアノブに手をかけ扉を開いた。


静かに中を覗くと

部屋はだいだい色の光に包まれいていた。

明人は部屋を真っ暗にして寝るのが苦手なのだ。


ベッドには、

いつも通りに横たわっている弟、明人。


目を閉じて動かない。


どうやら眠っているようだ。


ホッ。


ゆっくりと扉を閉めると

再び自分の部屋に向かいベッドにもぐりこんだ。


明日は明人に土下座して謝らなければならないな…。


-4-


…なんだろう…なんだか…

騒がしい…


そんな気配で竹人は目を覚ました。


目覚まし時計を見ると時刻は午前4時48分。


まだアラームが鳴るには時間が早すぎる。


と…


廊下の方が騒がしい事に気が付く。


バタバタと誰かが階段を上り下りしているような、そんな音も。


なんだ?

またアキが喘息の発作を起こしたのだろうか?


正直これは日常茶飯事。

なのだが…

何故だろう。

今日はいつもとは違った胸騒ぎがあった。


ベッドから起きると部屋のドアを開けた。


すると母がちょうど階段から登ってきたところだった。

「どうしたの?アキ、また喘息の発作?」

しかし次の瞬間目を見開く。

母が顔を真っ赤にしながら泣いているのだ。


「ど…どうしたの?!

アキは?」


「…ああ…竹人…ちょっとこちらへいらっしゃい!」

そういって僕の腕をグイっとひっぱると明人の部屋の中へと

誘いこんだ。


部屋の中を見ると

ベッドには夜中見たのと同じ姿で眠る姿の明人と

その脇に立つ、父。

父は僕がやってきたことに気づくと顔を上げたが

その顔が驚くほどに青ざめていた。


「え?」


「みんな揃ったか?」

神妙な面持ちで父が言う。

「どういう…こと?」


すると父は静かに首を横に振って見せた。

「もう…手遅れだった」

その言葉を合図に母は泣き伏せた。

ど…どう言う事?!

明人の元に駆け寄ると、すぐにその異変に気が付いた。

唇が、真っ青なのだ。

そっと首に手をやる。

「…冷たい…。」


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