1-11『親父のダンジョン第二階層その3』
「──《火球》!」
かざした手のひらの前に形成された火の球が射出されて、攻撃すると念じた相手へと飛んでいくのを確認しながら俺は《鑑定》のスキルを発動させて相手のステータスに注目する。
「ヴヴッ」
[スロウフライ LV.1 HP0/3 MP0/0]
《火球LV.2》の直撃を受けたハエのモンスターはその一撃でHPを全損させて火だるまになった直後に粒子となって霧散した。
「……威力は上がってるな、うん」
現在、俺は親父のダンジョン第二階層を探索中である。本日はダンジョンへ潜る前に色々とあったが、基本的に俺のやるべき事には特に支障は無いのだ。無いったらない。
なので、探索を進めつつ、魔法スキルのレベルについての検証や、レベルアップによる肉体の感覚の違いなんかを把握しようとしている。
「ハエに《火球》を撃った場合、LV.2なら一撃、LV.1だと二発必要、ただしLV.2の場合は消費MPが2ポイント」
《火球》の場合、意識して威力の増減が可能ならしく、現在は二段階しか加減は付かないがレベルが上昇すれば恐らく自在に火力を変化させられるのではないかと思っている。
「……レベルに左右されずに威力を上げられそうな感じはあるんだけどな、流石にもっと魔法に慣れないと無理か」
ありがちな設定だが魔力の過剰供給によって別物の魔法にしちゃったり普通の魔法が超必殺技みたいな位置付けになったりと、そんなスキルもあるんじゃないかと考えている訳で、実際感覚的なものだがコツが解ればいけるんじゃね? という直感めいた“掴み”を一瞬捉えた気がしたのだ。
まあ、気のせいかもしれないのでなんとも言えないが。
そんな感じで出てくる敵を燃やしてたり、たまに棒で殴ったりしつつ奥へと進む。
レベルが上がった事により、バッタについても頑張れば追い付いて攻撃出来るようになったし、気付かれる前ならそれこそ《火球》をまず当ててから近付けば、わりと容易に狩る事が出来た。昨日の苦戦は本当になんだったのかって話である。
まあ、初動さえヘマしなければ楽勝だという事だろう。
そうして、バッタ一匹、ハエを三匹ほど倒したところで天の声が響いた。
──レベルアップ~♪ やーやーやーおめでとー! ステータスをチェックするのだー!!
【ステータス】
シン・フジムラ
レベル 3 Exp[0/45]
クラス ――
HP 22/22→31/31(↑9up)
MP 30/38→30/44(↑6up)
基礎攻撃力 12→13(↑1up)
基礎防御力 12
魔法攻撃力 2→3(↑1up)
魔法防御力 6
筋力 12→15(↑3up) 速力13→15(↑2up)
体力15→16(↑1up) 技量9→11(↑2up)
魔力 7→12(↑5up) 精神16→17(↑1up)
〈スキル〉
火属性魔法
神聖魔法
EXP獲得量増加
スキルEXP獲得量増加
〈装備〉
E.木刀
E.竹刀
E.剣道衣
E.剣道防具
E.剣道袴
〈スキルレベル〉
[《火球》 LV.2 S.EXP14/45]
[《小回復》LV.1 S.EXP 6/30]
ボイス固定じゃなくて複数パターンあるのかよ、というツッコミを飲み込みつつステータスを確認。三倍の成長率だけあってレベルが上がるのがやたらと早い。
確認したところ、ハエがEXP3ポイント、バッタが9ポイントなようで、本来なら1ポイントと3ポイントという事になる訳だ。
コイツら相手にレベリングとか、実はけっこうめんどくさいんだろうね。弱い分だけ経験値も低くけりゃアイテムドロップも期待出来ない、本当に生物を倒す事へ慣れる為にだけ存在する階層っぽい。
「最初に倒す事に躊躇するようなモンスターと戦わせて足切りした方が良いと思うんだがね、まあなるべく沢山の人間に潜って貰いたいからこそなのか」
それはさておき確認の続きだ、能力値の上昇率はやはり二割増ぐらい、若干魔力の上昇率が大きいのは魔法を連発しているからかね、確認は取れていないがそんな感じだ。
身体を軽く動かしてみるが、正直レベル1の時とはこの時点でまるで違う。なんて言えば良いのか……今なら運動部で超高校級って呼ばれるプレイが出来るかもしれないっ。
まあ部活動に勤しむつもりは毛頭無いけど。
あとは、魔法のスキルレベルについてか、《火球》のスキル経験値は一発撃つ毎に3ポイント。《小回復》についても同様らしく、ヤンキー兄さんの焼失した頭頂部の手当てに使用した二回分で6ポイント経験値が入っている。
更に、《火球》をLV.1として威力と消費MPを抑えた状態で使用した場合、経験値は1ポイントのみ獲得した。どんな計算になっているのか知らないが、到達しているレベルの威力で使用しないと経験値が減算されるという事だろう。まあ、この辺はそこまで神経質に考える事はしなくて良いだろう。使った分だけレベルが上がる、それだけ覚えておけば良い。
問題は《小回復》の方だ。試してみたのだが、きちんと傷を癒さないと経験値が得られない事がわかったのだ。
HPがフルの状態で自分を対象に回復を施しても魔法は発動するしMPも消費されるが、スキル経験値は得られないらしく、回復系の能力はさっさと熟練者になりたかった俺としてはちょっとめんどくさい仕様であることが分かった。
回復極めたいなら怪我めっちゃたくさんしろって事ですよ、嫌でござる。
やっぱりあれだな、近所に住んでるアクティブニート、太郎さんを誘致して是非とも肉壁として起用したい所だ。ダンジョンから出たらすぐにでも親父に相談しておこう。
ちなみに俺はダンジョンで死亡判定受けるつもりもダメージ負うつもりも一切無い。痛いのは大嫌いなので可能な限り安全マージンを取らせて頂く。
その為というか、俺は今回中学生の時分に部活動で使っていた剣道の道具一式を物置から引っ張り出して装備してきている。だいぶホコリとカビの臭いが酷いが背に腹は変えられない。
あと、ひのきの棒は今回お留守番だ、だって短いんだもの。代わりに中学の修学旅行で行った京都土産の木刀と、やはり部活で使っていた竹刀を二刀流で構えていたりする。
別に二刀流で剣道やってた訳じゃ無いのだが……いや、スキル生えないかなって。
二刀流のスキル、欲しくない?
俺は欲しい、スターがバーストでストリームしちゃう連撃技とか使いたい。
「ステータスでは竹刀の分の攻撃力、加算されてないけどなっ!」
そんな感じで第二階層を進み、俺は第三階層への階段に到達するまでに更に数匹のバッタやハエと戦い、ダンジョンでの戦闘に少しずつ慣れていった。
第三階層への階段を発見し、第二階層と同様に階段中間に非常口を見つけたのでその日の攻略はそこで終了した。明日は第三階層からのスタートとなる。
〈武器防具解説〉
《檜の棒》攻撃力+5
・檜の建材を加工する際に余った端材を削って持ち易くした棒。用途は生活面において様々で武器としては子供の護身用程度の扱い。
《檜の棒+10》攻撃力+15
・お父さんが片手間に硬化と強化を施した棒。超固くて太い、何故か黒々とした色をしていて微妙に反り返っている。何を目的に製作したのかは不明で息子の為にわざわざ用意したわけでは無い。
《木刀》攻撃力+8
京都のお土産。人の近くで振り回して遊ぶのは止めよう。
《竹刀》攻撃力+4
・剣道用。取り扱いは指導者の言う事を良く聞いて取り扱おう。
《剣道防具一式》防御力+9
・面、胴、手甲、垂、剣道衣、袴の一式。あくまで試合用の防具なので実戦向きとは言えない装備。
《くそダサいシャツ》防御力+1
・主人公のお気に入り。何処かのアニメの公式デザインシャツらしく人前で着るようなデザインでは無い。