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断編集 CGF劇場  作者: CGF
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第四話『実験』


「技術というものは全て既成事実の上に積み重なるものだよ」



恰幅の良い黒田主任はサンドウィッチを摘まみながら続けた。



「例えば医学。未確認の病原体に対して治療薬を開発するには?何度も実験を繰り返す…人体を使って」


「いや、マウス実験からでしょう?」



俺は反駁はんばくした。


黒田主任が言いたい事は判っている。要するに罪悪感を打ち消す為に俺達の行為を正当化したいのだ。


……そして、それは俺も同様だ。だから敢えて反駁するのだ、彼が語りやすい様に。



「もちろん、緊急性が無ければね。しかし致死性の高い場合は悠長な事は出来無いだろう?マウスや猿で効果が有っても人体に有効かは別だ…だから特効薬となりそうなものを手当たり次第試す」


「まぁ、そうですね。そして見付かるまで既成事実…死体を積み重ねる。と」


「そうだよ菅原君!どんなに科学技術が発達しようが、コンピューターが進化して予測が正確さを増そうが、トライ&エラーはせざるを得ない」



そう言うと黒田主任は俺から目を逸らした。



「……そう、トライ&エラーだ」


「俺達は悪人ですね…」


「紛れも無く。そして我々の行為が評価されるかは怪しい。悪人どころか人非人だよ、それを自覚し続けなければならない」



俺達は昼飯を終えると実験棟へ足を運ぶ。いつもの様に。




────────


俺達の目の前にはマジックミラー越しに二つの部屋が並んでいる。


部屋は仕切りが厚く、防音が施されている。


それぞれの部屋の中央には、椅子にベルトで固定され、そっくりな顔の娘が一人づつ。



どちらも頭をつるりと剃り上げられて目隠しとヘッドホンをつけられている。剃られた頭には脳波測定のパッドを幾つも貼られていた。



「…それでは再開する。理奈、痛みを感じたら場所を報告しなさい」


『……もぅ、いい加減にして』


「私語は慎む様に」



マイクを切った後、黒田主任は俺に頷いた。


俺の担当は『理奈』の居る反対側の部屋、『美奈』である。


頃合いを見計らって俺はスイッチの一つに指を伸ばす。



「間隔はランダムになる様に」


「解ってます」



一定の間隔では実験にならない。



『…ぃ、いやあああぁ!』



美奈の悲鳴が響く。


二人の身体にはそれぞれスイッチを押すとどこかに針が刺さる。


視覚と聴覚を塞がれ、何の前触れも無く、針が刺さるのだ。


どこに刺さるかも、いつ刺さるかも解らない状態で待ち受けるのは恐怖でしかない。



『……右腕』



理奈が黒田主任に答えた。


美奈の右腕に針が刺さっている。


俺はスイッチから指を離した。



『……痛みが消えた。ねぇ!もう止めて!』


「私語は慎む様に」



黒田主任が理奈に告げながら手許のシートにチェックを入れる。


口許が弛んでいる。幸先の良いスタートだからな。



俺はまたスイッチに指を伸ばした…




────────


「今日の結果は良好だったな」



黒田主任は口許を弛ませながら言った。


実験を始めるまでは罪悪感が俺達の心に重くのし掛かる。


しかし、終わる頃には成否に一喜一憂している。なるほど人非人だ。




冷戦時、大国が血道をあげた超能力研究は今や廃れていた。



『普遍的な訓練が効かない。ワンオフな能力でしかなく増員が出来ない』



破壊的な念力を行使出来たとして、たった独りでは限界がある。


数の暴力に抵抗出来るほどの性能にまで高める事も出来なかった。


しかし現在、我国では今更ながらこの廃れた研究を行っている…秘密裏に。



『双子の片割れが怪我をすると、もう片方も同じ部位に傷が出来る』



こんな都市伝説が注目された。


これはテレパシーの副次効果では無いのか?


解析し訓練法を探ればテレパシーを実用化出来るのではないか?


もちろん、この様な事例は滅多にあるものでは無い。


しかし我々は美奈と理奈という貴重なサンプルを得た。



「我々が行っているのは人クローン製造解禁に向けた先行実験だ」



一卵性双生児の間にのみテレパシー発現の可能性があるとしたら?


他者でも兄弟でも無く、同一の遺伝子で生まれているからこそテレパシーを送受信出来るとしたら?



クローンは一卵性双生児ならぬ一卵性複数児と謂える。これが数百人、数千人でテレパシーを送受信出来たなら。


無線も暗号も必要の無い、傍受不可・距離不問の交信が可能だ。


軍事利用・諜報活動としてどれだけの価値となるか計り知れない。


また、他の超能力の発現・訓練の雛型となるだろう。



「……もっとも、いつになったらクローン解禁にこぎつけられるか、解らんがね」




────────



「お願い、理奈に会わせて……家に帰して…」



美奈は俺の顔を見ると決まってこう言う。


彼女達の戸籍は抹消されている。生まれた記録さえ残っていない、両親もこの世には既に存在しない。


絶望を与えない様に秘密にしているが、賢い双子だ、薄々は解っているだろう。



「君達が積極的に協力してくれれば、実験も早く済むだろうね…さて、検診の時間だ」



実験が彼女達の身体にどう影響しているか、判り切っている事まで調査しなければならない。


採血をしながら俺の口許が弛んでくるのを自覚する。


経過は良好だ。




────────


(いつまでこんな事が続くの?)


〔解らない、死ぬまでかも〕


(恐い…気が変になりそう)


〔もうなっているのかも…だってこうしてあなたと『話し』ている〕


(幻覚かもしれないわ、本当は『話していない』のかも)


〔私はあなたを感じている……あなたは?〕




────────


もう何度目の実験を繰り返しただろうか?



「理奈の前にはボール…ゴルフのボールが置かれています…数は三個…」



二人は視覚を共有するまでになった。



「ふむ…では次だ。えぇと…どれがいいかな?」



美奈に見せる為の小道具を詰め込んだ箱から、俺は野球のバットを取り出して机の上に置いた。


美奈はつまらなそうに眺めていたが、急に取り乱した。


目を見開きキョロキョロと辺りに視線をさ迷わせる。



「どうした?」


「ぃ、嫌っ!?何するの止めて!」


「…何だ?何を言っている?」


「理奈!理奈が…あなたと同じ格好の男に!嫌っ!…お願い理奈を助けて!」



……黒田主任!?


あの男、何を…



「待ってろ!動くんじゃないぞ!」



俺は実験室を飛び出し、理奈用の実験室へ急いだ。



「黒田主任!何を」


「ん?菅原君…どうかしたのか?」



勢いよく扉を開いた俺の目には驚いた黒田主任のポカンとした顔。





…なんだ?


何も起きていないじゃ





頭に強い痛みを感じて視界が暗転する前に見たのは、黒田主任の驚いた顔と…



…理奈の歪んだ微笑みだった。




────────


【報告】


黒田武士主任研究員 死亡。死因:撲殺。

菅原正人研究員 重傷。復帰の見込み無し。


黒田班を解散し、同班の研究は別班へ引き継ぐ。



検体:『美奈』『理奈』逃走。


検体は個別に逃走しているが高められたテレパシー能力で相互に連絡を取り合っているものと思われる。


この為、捜索は続行するも発見は困難とみられる。



実験班より検体の補充要請有り。受理する。




────────



(あなたはそっちに行くの?)

     〔しばらくは会えないわね〕

    (仕方無いわ)





〔会えなくても〕

      (私達は繋がっている)






─────第四話 終。


楽屋裏


美奈「女の子にスキンヘッド!?」


理奈「いやハゲヅラだから」


武士「やっぱり悪役でした」


美奈「しかも私らに撲殺(笑)」


正人「エグい話だなぁ…」


理奈「正人こういうの苦手?」


正人「ちょっとね。ラスト少し救いがあったからなんとか」


美奈「…いや救い無かったら私らがしんどいから」


理奈「スキンヘッドだしね」

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