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断編集 CGF劇場  作者: CGF
3/9

第三話『部屋』



「黒田、ちょっと話があるんだけど」



坂田さんから声を掛けられたのは、久し振りに残業も無く、机を片付けているところだった。


日頃接点のない坂田さんが僕に何の用だろう?



……っていうか、接点の無い男を呼び捨てってのも、どうなの?



「あ…ハイ何です?坂田さん」




僕の応えた言葉の何が気に障ったのか、坂田さんはハァ~と溜め息をついた。



「……ま、いいわ。ついて来て」



会社を出て駅へ。


僕のアパートとは反対方向の電車に乗り込む。



「……あのぉ、坂田さん?」


「理奈よ」


「え?」


「理奈。私の事『理奈ちゃん』って呼んでたでしょ」



…………いつ?誰が?



「……やっぱり忘れてるのね?じゃあ美奈の事も」



……美奈?


聴き覚えがある様な…無い様な?



改札を出て五~六分、目の前のアパートを指差して坂田理奈が言う。



「あそこ、私達のアパート」



私達?坂田さんと誰?…僕じゃ無い事は確かだ。



「お、お邪魔します」



中は女性らしさを感じる整理された部屋だった。


…何故か真ん中からカーテンで仕切られる様になっているのが気になるけど。



坂田さんはそのカーテンをシャッと開けて部屋の全貌を見せた。




────────



「座って…コーヒー飲む?」


「あ、どうも」



部屋の中央に据えられた炬燵こたつに座る。背広を脱がせて脇に置いた。



「…やっぱり背広脱ぐんだね?前もよくそうしてた」


「あ、あの?ここに来るのは初めてだし、坂田さんと話すのも」


「理奈よ。『ちゃん』付けしなくてもいいけど、名前で呼んで」



二人分のコーヒーを炬燵に置き、坂田…理奈さんは僕の対面に座って話し始めた。



「…まさかアンタまで美奈の事覚えていないなんてね。付き合ってたのに」



僕が?誰と?



「まぁ、順を追って話すわ…ここは私と双子の姉の美奈とでシェアしてた部屋。仕切りのカーテンはその為」



なるほど、カーテンの向こう側、今理奈さんが座っている方は部屋のこちら側とは雰囲気が違う。


こちらは整頓されたあまり飾り気の無い感じなのに対し、向こう側はファンシーな小物やぬいぐるみが目立つ。



「アンタはよく美奈とこっちの方でイチャイチャしてたじゃない」



…何のコト?


いや、順を追って下さい。頼みます!




────────


坂田理奈の話はこうだ。


理奈と双子の美奈はこの部屋をシェアしていた。


二人とも今の会社に就職し、僕と(やはり僕は覚えていないが)菅原正人と知り合った。


皆同期だった事もあり、仲良しグループ的に遊んだりした…らしい。


そのうち僕は『美奈』と、理奈は『正人』と付き合う様になった…という。




そして美奈はこの部屋から消えた。



「訳が解らなかったわ、『シャワー先に使うね』ってお風呂に行って、シャワーの音が止んでも出て来ないから…倒れてるんじゃないかって心配して覗いたら」



誰も居なかった。


理奈は方々探した後、『正人』へ連絡した。


『正人』は美奈の事を覚えていなかった。


実家にも会社にも連絡したが『美奈』を覚えている人物は居なかった。



「怖かった…美奈が初めから存在していない状態だったのよ。覚えているのは私だけ」



美奈が消えて二日後、理奈は『正人』を部屋に呼んだ。独りで居るのが心細かったからだ。





そして『正人』も消えた。




「『ちょっとトイレ』って…流す音が聴こえた後、いつまで経っても…トイレに鍵は掛かっていなくて……」



その時の事を思い出して嗚咽おえつ混じりに語る理奈。


もちろん僕は『菅原正人』も『美奈』も知らない。


会社の同期は目の前の理奈だけのはずだった。



「私、気が付いたのよ…この部屋で消えた人を覚えていられるのは、一緒にいて消えた事を知る事が出来た…私だけだって」



僕に信じてもらえないと思いつつ、理奈は僕に語った。


それはそうだ、入社記録も住民票も存在していないのだというのだから。



ただ、僕は『美奈』や『正人』に起こった──という──事を自分に置き替えて、背筋が粟立あわだった。



存在が消える。


生まれてから今までの記録も記憶も全ての人からすっぽ抜ける……



理奈はたまたま現場に居合わせただけに過ぎない。


その場に居なかったなら理奈も自分の双子の姉妹や恋人の存在を…



「ただ…この部屋に居ると見えるの」


「な、何が?」


「美奈や正人が…ほんの数秒、それが無かったらこんな部屋出ていくのに」





…居るのか?




────────


「つまり…ちょっと目を離した隙にこの部屋で人が消える。だけど時たま…見る事があるから存在はしてるって?」


「そう!それよ!」


「で…僕に何をしろって?そりゃあ、ヒトより多少はオカルトとか詳しいけど、何か出来る訳じゃ」



そう言いながら冷めたコーヒーに口を付けた時。






目の前に理奈がもう一人増えた。






いや…理奈じゃなく『美奈』だ。美奈が理奈の隣に座って居る。


一気に僕の記憶が甦ってくる!



「み、美奈ちゃん」



ああ!そうだ美奈ちゃんだ!そこのぬいぐるみは僕があげたモノじゃないか!?このコーヒーカップ、美奈ちゃんが僕にくれたのと同じ…



美奈は姿が消える直前、こちらに気付いた顔をした。



「……見たのね?見えたのね?」


「ああ…見た、思い出した…理奈ちゃんどうしよう!?」



理奈はボロボロと泣いた。




────────



「ごめんなさい、取り乱してばっかで…ちょっと待って、着替えるから」



気を取り直した理奈はカーテンを閉めると着替えを持って向こう側に行く。



「……一応言っとくけど覗かないでよ?」



彼女の口許が少し上がっていた。多分僕という同志が得られた事で心に余裕が出たんだろう。







……そして理奈は消えた。




────────


僕はこの部屋に越して来た。


…越すも何も、自分のアパートを引き払って転がり込んだだけだけど。



僕の考えでは、この部屋は幾つもの『そっくりな世界』に繋がっていて、一人一人が別世界に足を踏み入れたんだ…と思う。


時おり美奈や正人、そして理奈と顔を合わせたりするのは、僕と三人それぞれの世界が繋がった時なのだ。


多分、僕も含め全員が今こうしている間にも別の世界へ渡っているのかもしれない。


僕は三人へ毎日手紙を書き、炬燵の上に置いた。


嬉しい事に三人からもそれぞれ手紙があった。意思の疎通は可能だ!


ならばきっと四人揃って同じ世界に集まる事が出来る。



……ただ一点、不安材料が無いとは謂えないが。






それは、この部屋が繋げている世界の数。




……幾つあるんだ?




数え方すら思い付かない。


それがもし……







……無限大に等しかったなら?





─────第三話 終。


楽屋裏


美奈「ぅわホントに1シーンだけ理奈と共演した。作者ひどくない?」


正人「僕はお休みでした。名前だけだったね」


理奈「今回はホラーっていうより…怪奇な話って感じね」


武士「いやぁ…なんか主役やっちゃったみたいで…ゴメン」


正人「なんかモテキャラだよね武士君」


理奈「前回は私、今回は美奈と恋人設定だし」


武士「次は悪役とかにフラれそう…」


美奈「そういや今回悪役無しだわ」



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