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骨のあるヤツ  作者: 神谷錬
村人、始めました。
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 待って! 待って! 待って!

 久しぶりに頭が真っ白になった。

 もう、なりふり構ってなどいられなかった。

 でも、どうすればいいのかわからない。

 わからないなりに、それでも力いっぱい叫ぶ。

 待って! 待って! 待って!

「待って!」

 小屋の中に、大きな声が響いた、ように思った。

 それは確かに自分の声で。

 ミザリはピタリと泣き止んだ。そして、棺桶の中にいる自分をのぞきこんだ。

 あ、あれ?

 棺おけのふちに手をかけて、自分の顔を見つめているミザリと目が合った。

 他の人たちも、次々と棺桶をのぞきこんでくる。

 あ、あら?

 えっと……。

 えっと……。

 えっと……。

「みんな、聞こえる?」

 数秒の沈黙の後。

 ミザリがこくりとうなづいた。

 そういえば、体もなんか動かせるような?

 そんな気がしただけだったが、腕をあげると、あ、やっぱり上がった。

 棺桶のふちをつかんで起き上がることができた。

 …。

 ……。

 ………。

 おぃぃ!

 まじか!

 なんか、復活。

 立ち上がって棺桶からでると、ミザリがぎゅっと抱きついてくる。

 それを抱きしめ返す。

 胸もおなかもないからうまく抱きしめてあげられない。

 けど、背骨と肋骨でミザリの頭を包むように抱いた。

 子供の高い体温が骨に染み渡る。

 それにしても。

 あぶなかったー。

 もうちょっとで人生?詰んじゃうとこだった。

 エミリが目に涙をためたまま、唖然と言う。

「あ、あんた……?」

「えっと、なんか、復活しちゃったみたい」

 てへぺろ(うまく舌が出せない)

「でも、みんなの声は聞こえてたんだよ?」

 しばらく、呆然としていた一同だったが、だんだん状況が飲み込めてきたらしい。

 彼らの顔は青から、赤や黄色に変わっていった。

「あんたの死んだふりはシャレにならないんだよ!」

 ぱこんと頭を殴られる。

 脳みその入ってない頭蓋骨は乾いたいい音がした。

 ゲンさんは、肩をばしばし叩いて来る。

 あまりに強くたたかれたもんだから、肋骨が一本ぽろっと落ちた。

 が、拾ってもとの場所におしつけてたらなんかくっついた。

 えー。

 この体、適当すぎる……。

 我が事ながら若干心配になったが、そういうものだとあきらめるしかない。

 ロイ君は、大きな舌打ちをしながら小屋を出て行った。

 エミリもすぐに小屋を出て行った。後を追ってみたら、いろんな人に頭を下げているようだった。

 多分、葬式の準備をしていた人たちに謝りにいっているのだろう。

 ところで、自分はそういえば仕事の途中だった。

「ゲンさん、仕事に戻ってもいい?」

 そう言うと、なぜだかゲンさんはこっちをあきれた目で見た。

 そして、わははと笑って「いいぜ」と言ってくれた。


 自分はふたたび斧をもって森の中に入っていった。

 ゲンさんと、それからミザリも一緒だ。

 ミザリはいまもずっと自分の腰骨にひっついたままだ。

 仕事の邪魔にならないかな?

 ゲンさんに目で確認すると、苦笑いしながら許してくれた。

 ミザリを安全な場所にある切り株に座らせて、自分とゲンさんは仕事にとりかかった。

 一本目より二本目、三本目のほうが確かに早く切り倒せるようになった。

 けど、自分はやっぱり非力なのか。

 一日の間に、ゲンさんの三分の一、普通の人の半分の仕事しかこなせなかった。

 でも、あきらめない。

 半分の速度しかだせないなら、倍の時間、働けばいい。

 皮膚も筋肉も内臓もない代わり、自分には精神的な疲れはあっても、肉体的な疲れは全くない。

 気持ちが張っているときは何日でも連続で働くことができた。

 もちろんミザリと遊ぶのも忘れない。

 彼女は相変わらずしゃべることができなかった。 

 が、自分といるときはいつも子供らしくきゃっきゃと笑った。

 笑顔が戻ってから変わったのか。

 そのうち村の子供たちとも駆け回る姿が見られるようになった。

 そうなると、ミザリはエミリにまかせ、自分は仕事に打ち込んだ。

 一週間、一瞬も休むことなく働いた。

 自分の分を終わらせるとゲンさんの分まで一気にやった。

 予定よりもだいぶ早く注文の木材を出荷できた。

「骨、お前、すげぇな」

 ある朝、ゲンさんが仕事場に現れたとき、あたり一面切り株だらけになった場所をみてつぶやいた。

 そうそう。

 仕事が早く終わった分、お金も早くもらえた。

 手渡された皮袋の中には、聞いていたよりもたくさんのお金が入っていた。

「ゲンさん、これは?」

 ゲンさんは何も言わず、たくましい背中を向けると一言。

「とっとけ」

 ああん、惚れそう。

 そういえば、自分は男か女かもわからなかったっけ。

 もらったお金はエミリに渡した。

 ミザリの食べ物と服を買ってきてもらうためだ。

 エミリは近くの町に下りていって、かわいらしい上着とスカートを買って来てくれた。

 それを着てミザリはまたきゃっきゃと喜ぶのだった。

 子供は小さな器みたいだ。

 注げば、こうしてすぐに溢れる。

 ところで、あまったお金で自分は中古の斧を買った。

 自分の仕事道具がほしいと思ったからね。

 エミリに小言を言われ。

 ロイ君ににらまれ。

 ゲンさんに肩を叩かれ。

 ミザリは毎日、肋骨にぶら下がってくる。

 毎日が幸せだった。

 でも、良くも悪くも自分は特殊な存在だった。

 だから、目をつけられた。


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