13
あれから三ヶ月。
秋の初めごろ。
ゲンさんの仕事を手伝ってお金を稼ぎながら、自分はミザリの家に一緒に住むようになっていた。
「じゃあ、心配だしあたしも一緒に住む」とエミリが言い出したのは、そのすぐ後のこと。
結局、ミザリの家で三人で住む事になったのだが、それを知ったロイ君は歯軋りをしながら自分をにらみつけてくるようになった。
ロイ君のことを十分承知しているはずなんだけど、彼の見ているところでは特に自分に体をぐいぐい押し付けて仲の良さをアピールするエミリ。
朝出かけるときは「行ってらっしゃい」と言ってくれるし、帰ってくれば乾いた布で頭蓋骨を拭いてくれたりするのはうれしい。
けど、一部始終を見ていたロイ君がショックで日に日に弱っていくのでなんか悪い気がしてくる。
彼女は彼女で、そんなロイ君の様子を見てニマニマしてるし、どれだけ自分が好きかをはかっている節がある。
正直、ほめられたやり方じゃないけど、他人の色恋沙汰に口出しする権利は自分にはない。
すっかり打ちひしがれたロイ君を見ながら、心の中でつぶやく。
その辺でやめたげてー。
ある日の夕食の時だった。
食事は三人でとるのがなぜか日課になっていた
食べられないながらも、一応、自分もテーブルについて会話にだけは参加する。
ミザリの前に食事の皿を差し出して、エミリもいすに座った。
「あれ、エミリはたべないの?」
さりげない質問だったんだけど、はた目にわかるくらい過剰にエミリは反応した。
「いや、あたしはおなか空いてなくてさ」
完全にごまかし笑いだった。
ん? 何か隠してる?
食事がおわって、ミザリがベッドで眠った後。
「骨。ちょっと」
エミリはテーブルに自分を手招きしてきた。
「なになにー」
と気軽に返事をしたものの、エミリの表情は明るくない。
「どうしたの?」
ちょっとあらたまって聞く。
エミリはため息をついて率直に言った。
「食料の値段が上がってる」
「うん?」
自分は食事を必要としない体だ。
だから、稼いだ金は全部エミリに渡してしまう。
その金とエミリが自分で稼いだお金でこの家の家計は回っている。
けど自分は買い物はしない。
何がいくらくらいで売っているのか、ということまでは詳しくは知らない。
でも、エミリの表情は深刻だ。
「そんなに高くなってるの?」
「うん。今年は不作だったみたい」
不作……。
畑を作ってない自分には実感できなかった。
なので、聞く。
「どれくらい高くなってるの?」
「ものにもよるんだけどね。まぁ、ざっと二倍かな」
もっと高くなってくと思う、と付け足して。
つまり、生活に必要な金が今までの倍以上になるということ?
「それでどうすればいいの?」
自分の質問にエミリは小さく笑った。
「いや、あんたにこんなこと話してもしょうがないんだけどさ。でも、言っとかなきゃなーって」
「今までの倍、自分が働けばなんとかなる?」
そうすれば、お金も倍もらえて、今までどおりの暮らしができる。
だけど、エミリは首を振った。
「ゲンさんとこも儲かってるわけじゃないからね。受ける注文にだって限りはあるだろうし……」
「エミリ?」
「あっ、ごめん。ちょっと考え込んじゃって。ま、やるしかないね。あんたもさ、ゲンさんに仕事増やしてもらえないか相談してみてよ」
そう言って彼女はテーブルを離れた。
次の日、仕事に行く道すがら母子とすれ違った。
子供が母を見上げて言った。
「かーちゃん、腹減った」
母親は子供にすまなさそうに微笑んだ。
その顔が、一日中頭にはりついて離れなかった。
不作の影響は、もう出始めているようだった。




