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33. Sweet Sixteen (side Aki)


日笠愛生視点のお話です。






川口樹は無愛想な男だ。


素材は悪くないのに、残念なヤツ。


しかも、こーゆー男に限って才能ってヤツがあったりするんだから、世の中ってホントに不公平だよね。


ま、私もその才能に救われた一人だから、文句を言う筋合いじゃないけどね。






私の家は、所謂、大家族ってヤツで、祖父ちゃん祖母ちゃんに父さん母さんに加えて子供が四人。


私は一番上で、下に弟・妹・弟と続く。


狭い家は騒がしくて、早く独り立ちして一人暮らしがしたかった。


歌が好きで飛び込んだ芸能界は厳しくて、それなりに売れてても、落ちぶれた時が怖くて未だに一人暮らしは出来ない。


何が悲しくて女子大生の妹と一緒に二段ベッドを使わなくちゃならないのか?


何度も何度も一人暮らしを考えるけど、私は二年前までさっぱり売れない歌手だったから、またいつ売れなくなるのか?判らない。


せめて、分譲のマンションか一戸建てが買えるくらいまでお金を貯めないと、一人暮らしは出来ない。


先行き不安な芸能界だもの!


二年前、所属していたプロダクションでは私をグラビアに転向させようか?なんて話まで出てた。


自慢じゃないけど、私はそれなりにボン・キュ・ボンの人だから。


でも、それだけは絶対に嫌だった。


私は歌が好きでこの世界に入ったのに、TVに出たいとか、みんなに騒がれたいからって理由で芸能界に入ったんじゃないから、歌が歌えなくなるなら辞めようって思ってた。


その時に来た話が、TVドラマの主題歌を歌う話で、その番組の音楽を担当していたのが樹だった。


お陰さまで歌はヒットを飛ばし、私は歌い続ける事が出来た。


川口大先生には大変感謝しております、ハイ。


その後も、実力が認められて、それなりに曲は売れてるんだけど、樹にまた曲を書いて欲しくて、何度か彼の家まで足を運んだ。


そうしているうちに気付いた事。


樹は一戸建ての家に一人で暮らしている。


聞けば、両親は既に亡くなっているとか。


樹の家に行くと、歓迎はされないけど、大人しくしてる分には邪険にもされない。


一人暮らしが羨ましい私は、樹の家に度々お邪魔する事にした。


もちろん、行ったらちゃんと曲の依頼も忘れないし、何より樹の家にはグランドピアノがあるのだ。


そして当然ながら充実したオーディオ機器も!


しっかり防音もされてるから、スピーカーから音をガンガン流したって家族やご近所から怒鳴り込まれる事を恐れなくたっていいんだ!


樹も音楽を聴いている時は大人しい私を許容してくれるようになった。


その所為で、噂になった事もあったけど、私達の場合、どうも色気が足りない。


私は、身体つきはともかく、中身は男だと周りから言われる性格だし、樹は淡白な性質らしい。


鼻息荒く迫られた事も無いし(まあ、私みたいなのがタイプじゃないからかもしれないけど)、音楽を聴きながら眠ってしまった事が何度もあるけど、目が覚めると、毛布を掛けるでもなく、ベッドに運ぶでもなく、ただ床に放置されていた。


初めてそんな目に遭った時、私は『ああ、こいつとはダメだな』と思った。


樹は音楽以外の物に対する意欲が薄い。


私が持ち込んだ音楽については時折、熱く語る事すらあるのに、それ以外に関しては興味がないみたいだ。


私も、樹に曲を書いて欲しい、って言う下心と、居心地のいい樹の家に惹かれているだけだから、噂は男除けにはありがたい物だし、休みの日にはダラダラと樹の家に通い続けて二年が過ぎてた。


そんなある日、出不精で人見知りの樹が「今日は人が来るから、来たら帰れよ」と言った。


へぇ、珍しい、と思っていたら、来客は若い女の子。


一番下の弟よりも若そう・・・高校生くらい?


一瞬、男の子かな?とも思ったけど、声は女の子だったし、よ~く見れば、胸だってある。


聞けば、樹にピアノと曲を教えて貰うって・・・随分と性格が変わったわね、樹。


でも、直ぐに納得した。


お世辞まがいな事を言った私に笑い返してくれたその子の笑顔ときたら!


それまで、無表情に近い顔だったのに、滅茶苦茶可愛かった!


私の可愛げのない妹と交換したいくらい!


そーか、樹はこーゆー女の子がタイプだったのか・・・なるほど。


でも、高校生って・・・犯罪じゃない?


まあ、私も気に入ったし、二人の進行状況も気になるから、それから毎週顔を出すようにしたんだけど。


翌週は新曲のプロモーションがあってバタバタしちゃったし、その次も顔を出したら、その子、朱里ちゃんは発声の練習までしてた。


へぇぇ~!良い声をしてる!


樹に聞けば、どうやら大森サンが狙ってる子らしい。


本人は吐かなかったけど、樹もその気で色々と教えているらしい。


朱里ちゃんが歌手かぁ・・・朱里ちゃんにはまだその気が無いらしいけど、デビューしたらライバルになっちゃうのかな?


基礎はしっかり出来てるし、私には出来ない作曲やらも出来そうだし、本当に才能に恵まれてる人って居るんだなぁ。


嫉んでも仕方がない事があるってコトは、今までの人生でイヤって言うほど味わされて来たけど、今度のはジワジワとボディに来そう。


そして、樹のレッスンに最後まで付き合った日、朱里ちゃんを迎えに来た、従兄だと言うハンサムボーイ。


あらら、樹のライバル?


聞けば、朱里ちゃんは財閥のお嬢様なのだとか。


うう~ん・・・困ったな。


私は朱里ちゃんが好きなんだけど、嫌いになりたくないんだけどなぁ。


私って人間の器が小さ過ぎるのかなぁ?


まだまだ、だなぁ。






樹の処で朱里ちゃんの従兄に会った週末、私の所属する事務所に仕事の依頼があった。


それも、朱里ちゃんの従兄クンから。


何でも、次の週末が朱里ちゃんのお誕生日だとかで、パーティで歌って欲しいとか。


残念ながら、その日は地方に行く予定が入っていたので断ると、VTRで構わないから歌って欲しいと言って来た。


凄いわね、幾らお金持ちと言えど、私は一応プロの歌手なのに、お金を出して歌わせようとするなんて。


ちょっとばかり、お金をチラつかせる従兄クンにイラっとしてしまったけど、そこまで私に固執する理由を聞いて、ビックリした。


どうしても私に歌って欲しかったのは、朱里ちゃんが私の事を物凄く褒めてくれてたからって・・・いやん、そんなコト言われたら断り辛いわ。


「朱里は帰国子女で、まだ日本の音楽についてあまり詳しくないんですが、日笠さんの歌は素晴らしいと絶賛していました。朱里の為にもお願い出来ませんでしょうか?」


お金持ちのお坊ちゃんだとばかり思っていた朱里ちゃんの従兄である成島蒼司クンは、そう言って私に頭を下げた。


あらあら、タカピーなお坊ちゃんかと思ってたら、ちゃんと人に頭を下げられるのね。


でも、私に歌を歌わせる事をプレゼント代わりにしちゃダメダメよぉ!


「いいわ、歌ったビデオは私からの誕生日のプレゼントとして贈らせて貰います。お金はいらないわ」


マネージャーは渋い顔をしてたけど、お金持ちとはいえ学生からお金を取ろうだなんて、阿漕だと思わない?


朱里ちゃんの従兄クンは困った様な顔をしてたけど、悩め青少年!






私は朱里ちゃんがレッスンに来る前に、樹の家に押しかけて、樹に伴奏をさせて歌ったVTRを作った。


ま、ホームビデオだけど。


最近の物は、小さくても性能が良いし、大丈夫よね?


選曲は『Happy Birthday Sweet Sixteen』にした。


パーティには相応しい曲よね。


古いけど、有名な曲だし、サビの部分はリフレインが多くて、知らない人だって合唱する事も出来るし。


朱里ちゃんは十六歳になるのかぁ。


私が十六歳の時は、歌手になる事を決意して、オーディションを受け捲ってたなぁ。


恋もしたし(フラれたけど)友達と一緒になってワイワイ遊びもした。


辛い事や悲しい事だってあったけど、今から思い返せば、やっぱり楽しい時間だった。


もう二度と戻らない、輝いてた時間。


朱里ちゃんにも、これからそんな素敵な時間を過ごして欲しいなぁ。


それはそうと、どうして朱里ちゃんは私に「あかり」じゃなくて「しゅり」だと名乗ったのかしら?


樹に聞いてみると「さあ?女子高生の考えてる事は判らん」とあっさり一言。


むむむ・・・その発言はおっさん臭いぞ!


そんなんじゃ、ピチピチ大学生の蒼司クンに負けちゃうぞ?


仕方ないなぁ、微力ながら、この私が力を貸してあげようか?


日頃、お邪魔してお世話になってるし、それに・・・


「ねぇ、樹。朱里ちゃんに伴奏してくれた事、伝えてあげるから、私に曲を作ってよ」


そうしてくれたら、これからもプッシュしてあげるから!


都内の防音設備が整った分譲マンションを買うには、あとちょっとなのよね。


ヒットが出れば、一発だと思うのよ。







愛生が朱里の誕生パーティで歌のプレゼントをした経緯にはこんな事がありました。

蒼司クン、折角思いついたプレゼントを取り上げられてガックリです。

おまけにライバルには強力な助っ人が登場したようで・・・苦労しそうですね。


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