ⅩⅢ「弁士」【女帝初陣ノ章/終】
大剣を横一文字に振ると、大剣から放たれた虹の斬撃が4人を貫きます。
4人には目に見える外傷は無いのですが、彼らはピクリとも動かず、目は虚ろになっておりました。
「陛下、これは?」
「命は取っていません、彼らのこれから次第ですが……」
「??」
「勇者の剣のこの2つの赤い魔石は、魔力の血統を示す魔石と、魔を滅する魔石が使われています。魔力の血統を示す魔石が刀身を変化させ、魔を滅する魔石は、いわば心を斬る魔法です」
「心を?」
「身体と精神を分離しました。この者たちは、見えているし、聞こえてもいる、しかし身体を動かそうとしても、身動きは取れません。罪を認め、人の為に生きる意思を持たない限りこの魔法は解けません。いつ身体に精神が戻るかは彼ら次第ですが……人を欺き、利用し、他責し、命を軽んじて生きてきた彼らが心の底から、そう思える事は無いかもしれません……その場合、死ぬより辛い人生を歩む事になるでしょう。もし改心して身体に精神が戻っても彼らの罪ならば、死罪は免れないのですから……」
僕はそれを聞いて、彼らはそこで陛下に斬られ、命を失った方が楽だったと思いました。
彼らがどう思っていたかは分かりませんが、他者に体を自由に拘束され、投獄され、弁明の余地もないまま裁判にかけられる事になるのです。
後から陛下に聞いたのですが、魔を滅する魔法の斬撃を喰らった精神が体に戻る事例は殆どないそうです。その理由として、罪人は改心し罪を認めるよりも先に、精神が崩壊する方が早いと言われているそうです。
それでも、万が一でも、罪を認めさせ、反省させる、罪人が被害者の気持ちを考え、理解する事を、陛下は優先したのです。
彼らは裁判にかけられても死罪や終身刑は免れないですが……
こうしてグリフ、ハッシャー、ポルポ、ゲニスの4名、そしてポルポ小隊の面々と用心棒たちはそれぞれ法の下に裁かれる事となりました。
ハッシャー商会が、ポルポ小隊と共謀し、山賊行為をして、穀物の価格を不正に操作していた事の証明は、意外な形で証明されました。
南部裁判官のグリフが首謀者であるこの事件は、汚名を返上するべくブギョウの懸命な捜査により、陛下が阻止した隊商襲撃事件で使用されていた武器が、コーラルローズのダグラスの武器屋製である事が判明。
そしてダグラスの証言により、ペアー商店に納品予定だった品物を、ハッシャーマーケットに1割増しで売却したという事で、ハッシャー商会とポルポ小隊の繋がりが証明されたのです。
ダグラスは、陛下のお役に立てたと大喜びしていたのですが、今後は犯罪に武器が使われる事を考慮し、販売相手をちゃんと精査するように、厳重注意もされていました。
判決の結果は、主犯であるグリフ、そして実行部隊のポルポ小隊メンバーは死罪。ハッシャーは終身刑となり、用心棒たちは、陛下の恩赦もあり、業務上の過失として処理されました。
そして陛下は国政を担う帝国政府ヘンズリー宰相に相談し、実際に施行されるのは、それから5年後ではありますが、帝国領内のブギョウが行う裁判の上に、帝国最高裁判所を置き、判決が不服な場合、上告するシステムが整備される事となったのです。
そしてレティは……
宮殿の私室で、クリスティーナから、レティについて報告を受ける陛下は、クリスティーナの申し出に驚いていました。
「クリスティーナは、大丈夫なのですか?」
「はい、レティちゃんの親戚は無く、身寄りが無いとの事で、家族とも話し合って、うちで引き取ろうと」
「未婚で子供を持つと婚姻が遅れるなんて話を聞いた事があります、世間の目と風当たりは強いかもしれませんが、頑張って下さい。私も微力ながらお手伝いさせて下さいね」
「ありがとうございます。しかし陛下のお手を煩わせない様に、精進いたします……それに」
クリスティーナは、キリッと陛下を見て
「お言葉を返す様ですが陛下、私の婚姻よりも、陛下のご成婚を急がれた方が良いのでは?」
「えぇ!!??」
「陛下はヴァーミリオン家の末裔なのです。このままでは、皇帝の座は、他の家に移ってしまいます」
「それは、そうですが……私はまだ、そういう事は」
「いいえ、帝国政府、帝国官僚組織はかなりそれを問題視しております。今回の件で陛下の能力を認める者もいれば、政治介入に疎ましく思う官僚や大臣達もいるでしょう。政治の舞台はまだ陛下が自由に動ける状況にはございません。今後何かしらの動きがあるとご覚悟下さい」
「モモ、どうしましょう。結婚するべきでしょうか?」
話を振られたモモは、
「……モモは……僕は……そういう話題は、よくわかりません」
モモは顔を真っ赤にして、隠れてしまい、2人は優しくお笑いになりました。
一息つくとクリスティーナは、陛下の前に跪きました。
「陛下。改めて、今回は本当に感謝しております。父の無念を晴らして頂き、ありがとうございました。以後、私は全力で陛下をお支えします。これからも宜しくお願い致します」
「こちらこそ改めて、宜しくお願いしますね、クリスティーナ」
「クリスとお呼び下さい」
「承知致しました。クリス」
これがお飾りの女帝と言われていたイリデスケンティア女帝陛下が、初めて新米剣士イーリス・ビリオンとして、帝都に降り、民の声に耳を傾け、問題を解決し、帝都の闇を成敗したお話でございます。
これより新たな勇者の伝説が始まったのです。
「モモ、誇張が過ぎますよ。それに赤子にそんな事を言っても、理解は出来ないと思いますが?」
コーラルローズの街の中心部にある森林公園の中、白亜の大きな御屋敷のバラの庭園。そのテラスで紅茶を飲むイリデスケンティア。その視線の先には、赤子をあやすモモがいます。
「いいえ、姫姉様。姫姉様の功績をこうやって伝説として、赤子の頃から教える必要があるとモモは思います」
「ですが、ずいぶん前から寝ていますし、モモの主観が強すぎて、誇張が激しいですし、モモが知らない部分の創作が過激ですよ。それに私はそんなに優れた人間ではありませんよ」
「そんな事はありません。まだ足りないくらいです。姫姉様の子には、イリデスケンティア女帝陛下の勇者の伝説を、しっかりと教える事は、モモの使命です!!」
「モモったら、もう」
そうです。
これは僕がつぶさに見てきた、イリデスケンティア姫姉様が、勇者になるまでの物語であります。
【女帝初陣ノ章】
「狙われた米と麦。少女が見た帝都の闇」
END
エピソード1【女帝初陣ノ章】完結です☆
仕事が忙しい時期&他長編連載を優先しているので、次回更新は12月中旬を目標として執筆中です。ブクマ登録&更新通知をONにして、次回の更新を楽しみにして頂けるとありがたいです
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