それでも俺はあいつを救いたい
アタゼンとナオムンとの決着が付くまでの間にも、金属音が鳴り響く。
ミナレさんが一振りするたびにアックーの剣が壊れ、オユキ様の氷の剣たちによりやはりアックーの刃が削れて行く。
「それでもまだかなりの数が残っている。そしてそれ以上に残っている物がある」
「俺への、怒りですか」
「ああ、でもその前に」
俺は、アックーから多くのもんを奪って来たのかもしれない。
この戦いが終われば、俺はトウミヤ市のギルドからとんでもない報酬を受ける事になる。
またキミハラ様を始めとした偉い人たちからも名前を覚えてもらえる。
冒険者としては間違いなく大成功だろう。アックーが「閃光の英傑」と言う名前で得たそれの数倍、いや数十倍のそれになる。
でも、俺は結局弱虫だ。
「ノージさん…」
「このチーズ、覚えていますか!」
俺は逃げた。ヤヤさんたちが大事だと言う名目で、逃げた。
「あの時の!」
「そうです。あの時俺が渡した奴です。これをファイチ村の皆さんに」
「いえ、それより別のを、いやでも……ミナレさんとハラセキさんに申し訳ないですけど……!」
タフネスチーズを渡そうとした俺を断るヤヤさん。やっぱり俺の弱腰を見抜かれたのか、本当に嫌そうな顔をしている。
「でもせっかくここまで来て命を落とすなんて!」
「わかりました!でもお願いします、ノージさんたちも絶対に死なないでくださいね!」
俺はチーズをヤヤさんに渡して、振り返らずに走った。
(死なないでください、か……)
確かに俺がわざわざ出て行く必要はもうないかもしれない。
でも、俺はけじめを付けなければならない。
「ヤヤからも話は聞いている、そなたとミナレ殿が山賊団を壊滅させたと」
「村人の皆さんのおかげです!」
「その姿勢は良し!なれば…」
「俺はもう決めたんです!チーズから逃げないと!」
チーズがなければ、俺はずっと孤児として馬鹿にされ続けたかもしれない。
だが俺がチーズを出せるようになった事により、故郷の村人の心は揺らいだ。
そしてその俺が作ったチーズを食べたことにより、結果としてギビキも、ルワーダも、アタゼンも死んだ。
(ここで傍観していたら同じじゃねえかよ、あのデーキと……!)
デーキが何を狙っていたのか、正確な所はもうわからない。
でもおそらく、クロミールとアックーを操り貴族様に取り入って出世栄達してやろうとかは思えない。
チーズの研究と言えば体裁はいいけど、おそらくは人体実験。
「安全な所で引っ込んでいるのはもうこれまでだ!」
俺は、アックーを包む光の中に飛び込んだ。
「ノージ!」
「……」
俺は口を動かしながらミナレさんに歩み寄る。
すでに折られた刃の数は十本を越えているが、再生などしないはずなのにまだまだ刃が残っている。
「……」
「下がれ!ここは私とオユキで!」
「……」
無言のまま、俺は剣を抜く。
これまで食べた事のないほどのチーズ。味が口いっぱいに広がり、体中がチーズになったように感じる。
「アックー…」
走りながら口に入れていたチーズをようやく嚥下した俺は、怪物と化したアックーを見上げながら声をかける。
「お前、俺から何もかもぉ!」
「今、俺が助けてやる。俺がお前を、解き放ってやる」
まともなら言えないセリフだけど、この時ばかりは思いっきり言えた。
自分の出したチーズの力を、信じているから。
「わかった!だが私も共に戦う!」
「ミナレさん!」
「アックー!私は一度も、お前の悪口をノージから聞いていない!それが全てだと言う事だ!」
「俺はただ、お前が、お前なんか大した事なんかないと!!」
「んな事知ってるよ!でもそんな俺でも、今のお前はおかしいって思う!おかしいと思っているから止めて何が悪い!俺はまだ、お前に期待してるんだよ!」
アックーは、俺にいろいろ教えてくれた。
冒険者としてのあれこれを、ギビキに引きずられているばかりだった俺に。
「ギビキと二人の時はいつもあんたは後方にすっこんでろ、あんたはただの食事係、そればっかりだ!だがアックーと出会ったからは俺に戦い方を教えてくれた、ギビキが鎧はともかく武器はもったいないって渋ってた時もふざけんなってテーブル叩いてくれたよな!」
今思うと、ギビキもアタゼンたちも俺の事を給仕係、っつーか給餌係としか思ってなかったらしい。
「下手に武器を持たせると後ろから刺されるかもしれんと思わなかったのか」
「んな事になればやった方がおしまいだろ!俺もギビキも、一撃じゃ死なねえんだから!」
「なるほど、それだけでも人となりが分かると言う物だ」
「甘い、甘い、本当に、甘ったるい……」
アックーが見せてくれた誠意にミナレさんが感動してくれている中、飛び込んで来た砂糖を丸呑みしたような声。
「兄貴……こんな奴が勝者だなんて……俺は、認めんぞ……」
「認めるも認めねえもあるか!あるのはお前らがバカだって事実だけだろ!」
「うるせえ!!」
砂糖を呑み干した口で叫ぶ声は、唐辛子を呑み込んだように辛かった。
「こうなれば、最後の決戦だ!」
最後の決戦。
その言葉と共に、またアックーの刃を斬り飛ばしたミナレさんが後方を向く。
「キミカッタは私たちに任せろ!」
「頼みます!」
そうだ。俺は、俺にしかできない事をしなければならない。
たった一人、俺が守ろうとしている存在を守り抜くために。




