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シックスpieceチーズ  作者: ウィザード・T
第十章 チーズは何を救う? 後編 始まりの終わりと終わりの始まり

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俺の突撃(後半ミナレ視点)

「ノージ……!これ以上、調子に乗るんじゃねえ!!」

 アックーは俺を見下ろしながら、残った刃を振り回そうとしている。その間にもオユキ様が放った氷がへばりつき、動きが重たくなっている。

 とは言えいくらタフネスチーズを重ねていたとしても、直に戦えるとは思えない。



(俺には俺の、戦い方がある!)



 俺はチーズを作り出す。


 もちろんニュートラルチーズ。そして、もう一種。



「お前の、あるべき姿に、戻れ!!」



 俺は次々と、チーズを投げる。

 目標はもちろん、アックーの口。


「何を言ってるんだお前はァ!」

 アックーは刃を振り回し、飛んできたチーズを斬ろうとする。

 でも、斬れない。



「俺だって、きちんと見てるんだよ!お前の注意を守って!」

 ミナレさんが斬ってくれた刃。まだ根元のギザギザぐらいは残っているが先端の機能はない方向から、口を目掛けて投げ付ける。


「誰が食うかそんなもん!」

「俺が責任をもって食べさせる!それが俺の役目だから!」

「そんなもんより先に参ったと言えよ!」

 あるはずの口に、投げる。


 そして俺は、また別の期待をしていた。

(効果があるのかないのかはわからないけど、やってみる価値はある……)

 

 あのチーズの霧を見て、口をふさぎ切れないもんだろうか?

 騎士たちがいくら村人さんたちに押されていたとしても、俺のチーズの危険性ぐらいは把握していてしかるべきであり、とっさに口を塞いで逃げおおせる事は、十分可能なはずだ。もちろん魔物の姿になっていたけど、それでもただでさえ逃げ腰だった事を思えば—————。


 あるいは食べなくとも、触れるだけで効果があるのかもしれない。まとわりつかせるだけでも、意味はあるはずだ。


「てめえ、なぶり者にする気か!」

「これ以上暴れるなって言ってるだけだよ!っつーか俺なりの本気を出しているだけだ!」

「お前の本気はそれかよ!」


 見た目からすれば大マヌケかもしれねえけど、これが俺の戦い方だった。

 剣は抜かない。チーズを投げるのに邪魔だから。


「今ならばまだ間に合う!そうだろ、なあ!」

「うるせえ!お前はどんだけ甘いんだよ!」

「甘い事は悪なのかよ!」

「もう遅えんだよ!領主様さえも、既に答えは決めている!お前を殺すか自分が死ぬかの二者択一をな!」

「んなもん俺がギルドに頼み込めば!」

 今度の戦いで、アックーは何人を殺したのか。もし仮にデーキしか殺していないんならそれこそ罪どころか功績と言ってもいいぐらいで、俺が今回の功績を盾に助命ぐらいはするつもりだった。もちろんルワーダの事は許せないが、それでもそれ以上の罪は要らないと思った。



「うがああああああああああああああ!!」



 アックーの右足首の刃が迫る。俺はつまずいたようにしながらチーズを投げる。手首の力が付いたのか口元へ正確に届くようにはなっているが、それでも弾き返され続ける。

 もう少し、きちんと足場を固めてから投げないと無理か…。

「何余裕ぶっこいてんだぁぁぁぁ!!」

 アックーの叫び声にも、俺は余裕があった。


 不思議なほどの余裕。


 確かに白い光が俺を包んでいると言う安心感もあったが、それ以上に何とかなると根拠なく思っていた。




 ——————————だから。




「おっとぉ!」


 チーズを守りながら後ろに飛んだ俺の胴を切り裂いた刃。胴から血が出ていたが、それも気にならないまま俺はチーズを投げた。

「何だ、お前、あぶ…!」

 どうやらすんでの所で口を閉じられたらしいが、それでも真っ黒な顔にチーズがべったりとくっついている。


「てめえ!」

「うかつに口を開けるな、チーズが入り込むぞ!」

「お前はなんでそんなに、俺の刃を受けたはずなのに……!」

「悪いな、もうこれ以上悪い事はできないんだよ……」

 チーズの硬さまで調整はできないけど、何せこの戦場の熱気だ。オユキ様がいる事を加味してもかなり暑いはずだ。その力を持って、俺は、勝つ!




※※※※※※




 竜人よりもさらに大きい。


 ドラゴン、いやそこまでではない。


 ドラゴンナイトと言った所か。




「この力で、俺はお前たちを殺すぅ!」

「殺してどうなると言うのだ!」

「弱肉強食はこの世界の正義だ!」

 そのドラゴンナイトはものすごい速さで剣を振りながら、口を大きく開ける。

「まずい!」

 私がそう叫ぶのが間に合うか否か、口から炎が噴き出される。


 しかも狙いは、農民たち。



「ああもうっ!」



 オユキがあわてて氷の盾を張ってくれたおかげで少しはましになったが、それでも何とも気持ちの悪い熱気が戦場を覆う。


「そうよ、いくらお前でも、灰になってしまえば蘇らせようがないでしょ!」

「自分に恵みをもたらしてくれる人間たちを殺してどうする!」


 何度でも何度でも、キミハラ殿は訴えかける。それこそ、もっとも確固たる信念だからだ。無駄だとしてもやらなければいけない、それもまた為政者である前に兄として当然の行いのはずだ。


「わからないの!?これが、兄上の、兄上の厳しさを込めた力!」

「ふざけんな、最も甘ったるい力だ!」

「甘……ったるい?」

 ツヌークはもっとも言われたくない言葉を耳にしたせいか両眉を吊り上げるが、確かにキミハラ殿の言う通りだ。



「ああ、甘ったるい。

 ブラックチーズに頼ったからとか言う訳ではない、力と言う一点だけですべてうまく行くと考える発想があまりにも甘ったるい」


 確かに魔物となれるチーズに安易に手を出したのであれば甘いとも言える。

 だが最終手段としての行使である以上それはまだ目をつぶれる。

 つぶれないのは、為政者と言うか組織の上に立つ存在としてはあまりにもやり方が粗暴で単調すぎると言う事だ。


「ノージは自分ができない事はできないとはっきり言う。平気で丸投げする」

「それのどこがいいんだよ!」

「だが決して無茶はしない、そして自分にできる事をする。さらに言えば、どこまでも良心的でどこまでも他人優先だ。かのアックーさえも守りたいと言っている」


 ノージはチーズを惜しげなく私たちに配り力を与えると言う自分にしかできない事を平然とやっているのに、ちっとも威張ろうとしない。

 あくまでも私やハラセキたちを立て、余計な事はしない。必要な事だけをする。その挙句自分を追放したも同然のアックーさえも守ろうとしている。

「今のお前にはノージの百分の一の価値もない。チーズを差し引いても九十九分の一だな」

「ふざけんじゃねえ!!」


 また、火を噴いて来た。


 まったく、そんな事をすればどうなるのかわかっているのに。


「はいよっ!」


 チーズの粉が宙を舞う。

 行き先はもちろん……。


「そんなもの!」

「逃がすかぁ!」

 侮りの姿勢を崩さないキミカッタに向けて剣を打ち込む。思わぬ一撃に動揺したのか受け止めきれないキミカッタは鱗でその一撃を受けてしまい、あわてて下がろうとした所にさらなる一撃が来た。

「兄貴…!」

「お前の力ってのは、この程度なんだよ!」

「うるせえ、うるせえ!」

「そうやって泣きわめいて何を求めるんだよ!それが甘ちゃんなんだよ!」


 そんな甘ちゃんを助ける人間は、もう残っていない。


 いや、

「そこをどきなさい!」

「どきません!」

 妹だけは残っていた。




 ——————————馬を強引にぶつけようとして、チーズ込みとは言え村人一人に止められている哀れな娘だけは。

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