俺が暗殺!?
「畜生、せっかくアタゼンが命を懸けたのに!」
「命がけとか言う言葉は正直嫌いだ。残された存在を重くするだけだからな」
アタゼンの名前を口にしながら、故郷の村人たちが向かって来る。おそらくアタゼンは……。
「ここまでさせたのはあいつだ!あいつが悪いんだ!」
「誰かのせいにできればどれほどまでに気が楽な物か!日が昇るのも沈むのもノージのせいだとでも言うのか!」
「なんでだよ、なんでそこまで必死に守れるんだよ!」
さっきも思ったが。今更悲しむ気になどなれない。戸惑う事すらできず、ただ単に逃げる事しかできない。
「ちくしょう、デーキかよ!」
その感情をぶつけられる存在がいるとすれば、デーキしかいない。アックーにこんなチーズを食わせる事が出来るのはデーキしかいねえ。
「それだが、どうもおかしい!」
「どういう事ですかぁ!まさか逃げたとか!」
「うあああああああ……!」
「デーキらしき人物の首が、血の海に沈んでいる!」
と思っていたら、いきなりこんな言葉が飛んで来た。
「貴様ぁ!俺らにギビキの最大の協力者の仲間を殺させたのかぁ!」
その前のアックーの声が俺への怒りなのかデーキの死なのかはわからないが、アタゼンの仲間たちの言葉はそれ以上に痛烈だった。
ギビキへの期待と、ある種の俺への期待。それを裏切られた悲しみと怒り。もちろんはた迷惑でしかないけど、それでも本気ぶりは恐ろしかった。
「死ねえ!」
「正面からも来たのかよ!」
そして俺の正面からも攻撃が来た。
「兄上!」
「てめえなんぞに兄上と呼ばれる筋合いはねえよ!」
俺はあわてて剣を抜き受け止めるが、太刀筋も鋭ければ攻撃も重い。まさかと思って首を上げると、やっぱりキミカッタだった。
「ハラセキ!お前が虐げられてた事は認める!でもそいつはお前が侍女としては三流以下だったってだけだ!そのくせいちいち歯向かいやがるから性根を叩き直そうとしてただけだ!」
「そんな言葉がよくも吐けるものだな」
「いーや言えるね!聖女?だか知らねえけどよぉ、本物の聖女様なら暗殺なんかしねえだろ!」
「暗殺?」
「クロミール母上様を殺したのはてめえだろノージ!」
「お前一体何を食ったんだ」
キミハラ様の冷めたツッコミにもまったく動ずることなく、キミカッタは俺を殺そうと剣を振る。
すぐさま冒険者の皆さんが攻撃してくれたおかげで三発目は放たれなかったものの、それでも攻撃は実に重い。
「出撃の直前、チーズを作ってくれと頼もうとしたら何者かに毒を飲まされてたんだ!どうして俺らが殺す理由がある!」
「それはそっくりそのまま俺のセリフだ!」
「すっとぼけやがって!」
俺がキミカッタの横っ腹を斬りながら逃げようとすると、また大軍がやって来た。今度は騎士団だ。
「国母様の仇ぃ!」
赤い目をした騎士たちが迫って来る。言うまでもないが正常じゃない。
「ハラセキ様のためにも守るぞぉ!」
「なんとぉ!」
農民の皆さんも突っ込んでくれる。だが当然だが刃傷沙汰となり、お互い赤く染まりまくる。
その度にハラセキが輝き、リンモウ村とオカマゴ村の農民たちの傷が治る。
「不公平じゃねえかぁ!」
「お前らに戦う気がありすぎる、俺には正直それほどない!それだけだろ!」
情けないかもしれないが、これこそ本音だ。
俺にはヅケース家に敵対する理由も気持ちもないし、ミナレさんにもない。キミハラ様さえも現在のリンモウ村の領主で満足していたっぽい。もちろん村人たちがそれを許さない可能性はあったが、それでも少なくとも俺らにはその理由はない。もちろんハラセキだって。
でも—————。
「お母様さえ奪った男……」
いつの間にか馬上の人になっていたあのツヌークは、本人がブサイクだと自称するそれ以上に醜い顔をしていた。
「お姉さ」
「お黙り。あんたなんか妹を名乗るんじゃないわよたかがメイドの分際で、そんな服を着たまんま何をほざいているわけ?」
今もハラセキはメイド服だ。
だがそれは俺やミナレさんに対しての意味であり、そもそもハラセキを手放したのはヅケース家の当主様であってこいつじゃない。
「姉とか妹とかの以前に人間だろ、同じ。そこまで徹底的に見下して何がしたい」
「しつけがなってないからだけど」
「しつけって何だよ、何にもしてねえハラセキの母親に自分の母親がコテンコテンにされた悔しさを晴らす事か?」
「黙りなさいよ、すっかり骨抜きにされて!私の親を殺し、兄をたぶらかし、英雄アックーの仲間二人を殺した男がぁ!デーキとハラセキを討ち取れば金貨一万枚よぉ!」
ツヌークは吠える。武器も何もないのに手を振り、騎士たちを差し向ける。そしてそのまま途方もない報酬を叫び、必死に味方を増やそうとする。
「ふざけんな!ハラセキ様を殺させるか!」
「やっちまええ!」
しかし村人さんたちは余計にやる気になり、騎士たちをなぎ倒す。その間に俺は構う事なく突っ込み、主戦場から離れた位置へと入った。
「なんで、なんで誰も動じないの!?」
あまりにも嘘のない声が、なんだかものすごく哀れだった。




