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シックスpieceチーズ  作者: ウィザード・T
第九章 究極の配合
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ブラックチーズ

「人間を魔物に変えるチーズ……」



 聞くだけで頭が痛くなって来る。

 見た目だけじゃなく、性格や言動そのものまでまったく別人になってるじゃねえか。


「人間のする真似じゃないですね」

「だが何者かがこれをルワーダに使った。首もないのにルワーダの死体に、おそらくは腹を切って胃袋に…」

「うわぁ……」


 ルワーダの事を何だと思ってるんだろう。




 …………そう、ルワーダの仲間だったはずなのに。




「やはりアックーと…」

「間違いないだろう。閃光の英傑の二人だ」

「アックー…………」



 —————アックー。


 とうとうあいつは、一線を越えちまったって言うのか。


「なんでこんな真似を……」

「すまなかった」

「ハ?」

「……と言う事が出来ないんだろうな。お前がこんなにも素晴らしい存在だったなんて気が付かなかった俺が悪かった。どうかまた一緒にやり直してくれ、と」

「図々しいな」

「それでダメならばあきらめればいい。もちろん最初からあきらめるのもありだろう」


 ごめんなさい、か。

 自分が悪かった、間違っていたから謝るって事が素直にできていればこんな事にはならなかった……。


「でも俺は今でも、アックーは自信満々な態度相応の実力の持ち主だと思っています。それがなぜこんな風になってしまったのかわかりません」

「ほんの少しの違いで、運命なんて簡単に壊れる。戦いにてほんの少しの過ちで命を落とした例は枚挙にいとまがない」

「それはそうですけど」

「だが今回はそれとは違う。アックーからしてみればそなたが自分の上だという発想がそもそもないのだ」

「え?そりゃまあ、俺はアックーのように強くないし…今でも戦闘はミナレさんたち任せだし……」


 俺は自分が強いと思った事は一度もない。

 どんなに頑張ってもまだまだと言われ続け、この力を手にしても頼りにされるっつーより便利屋扱いで終わった。ギビキと一緒に村を出ても、閃光の英傑の一員になってからも、その扱いは変わる事はなかった。


「それだな。

 1を100にするのはそれほど難しくないが、ゼロを1にするのは難しい。アックーもギビキも、そなたは自分たちがいなければあっという間に死んでしまう脆い存在だと思い、それこそ自分たちがどんなに扱っても付いて来ると信じていた」

「そんな」

「すると何ですかい、ギビキって女はノージ様が断ったからあんなになっちまったって!」


 オカマゴ村の皆さんが吠える中、コトシさんは黙ってうなずく。

 もしかして俺の故郷の村人もって聞いたらコトシさんはまた首を縦に振った。

「予想外の事態に混乱し、そこに入り込んで来たのがデーキだったわけだ。ノージっと同じ力を持ち、かつノージよりも強い…」

「そんな!」

「ハラセキ、強いと言うのはアックーから見た話だ。アックーにしてみればデーキはノージを叩きのめして参ったと言わせられる絶好の存在だった訳だ。そんなピッタリ当てはまる存在の言う事を聞かないはずはない」


 なんて事だよ…アックーはデーキの思うがままに動いてるって事か……。


「でも私だってノージ様の思う通りに動いているつもりです」

「その通りだ。だがデーキはそれを企図してやっている、そなたにはそれがない。

 それゆえに守りたくなる」

「計算を立てるのは全く悪くない。だが計算である事は見えてしまうと自分の力だけが目当てなのかと人間そのものを信用してくれなくなり、その力を失った時に見捨てられる」

「……アックーは……」


 でも俺はまだ、アックーを諦められない。

 今思うとギビキのおまけだった俺に、武器の握り方を教え、非力なりに冒険者としての生き方を教え、決して出しゃばってはいけねえって事を教えてくれた人間だ。


「ノージ、そのアックーのためにも、全力で当たるしかない。ここまでならばギルドとしてはデーキのせいにできる。キミハラ殿」

「ああ、もうキミカッタやお袋とはどうにもならねえ。でも親父は見た所関わってねえみてえだし、ツヌークはもう無力だ。アックーなんて金と地位で釣られたただの冒険者だろ」


 コトシさんもキミハラ様も、俺のことをわかってくれている。

 本当にありがたい。


「ありがとうございます!でも、いったいどうすれば……」

「全部、やってみる?」


 

 そこに割り込む、オユキ様。



「全部って…」

「やってみる価値はあるだろう」


 あまりにもあっけらかんとキミハラ様も言うもんだから、俺は少し止まってしまった。

「この大きな鍋を使ってもらいたい」

 それでも促されたもんだから実験用のそれとは違う、大鍋に六つのチーズを放り込む。

 アンカース。タフネス。ビューティー。ホット。ニュートラル。ラブ。

 六つの味のチーズが次々と鍋に落とされ、また火が灯される。


 幾度目かわからない火とチーズのにおい。


「デーキも同じようにチーズを使っているのでしょうか」

「だろうな。あくまでも、自分の役得のために……」

「まさかアックーだけじゃなくクロミールやキミカッタも」

「おそらくは。研究のために、何でも使うだろう。それこそこの地域の住民全てを使い尽くしても驚かない」


 ミナレさんとコトシさんの言葉が重く響く。


 チーズたちが混ざり合うのを見つめている間にも、鍋がデーキのように迫って来る気がする。

 鍋なんて、ひっくり返して地面に突き刺せば蓋だ。

 鍋と地面に挟まれた存在は、どちらかを破らない限り助かりようがない。


 俺達は、その鍋に潰されるか、鍋をひっくり返すしかない。俺達に、いや、俺にできるのだろうか。


「ノージ様、チーズの色ってのはいろいろあるんですね」

「ああ、似たように見えて全部違う。だから俺でも見分けがついたんだけどな」

「黒いチーズもあるんですか」

「聞いた事だけはある、だがそれこそ使い方次第では国をも滅ぼすというとんでもないチーズだとか」

 黒いチーズかよ、まったく、まるでこの鍋みてえだ。

「それが全部混じり合うとこうなっちゃうんですね」

「だな」

 何とかしなきゃいけない、何とかしてこのチーズを……

「こんなにもきれいな色に」

「そうそう、こんなにもきれいに…………」




 そうそう、こんなにも、きれいに……こんなにも…………って、えっ?




 虹色、に…なって、る…………?

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