究極、レインボーチーズ!!
「さっきから結構騒いでたぞ」
「すみません、つい集中してて…………」
「集中と言うより、抱え込んでいるだけだろう。自分で非力だと思うなら、それこそ何でも言えばいい」
鍋の中で輝く、虹色のチーズ。
あまりにもデーキの事ばかり考えていたせいか俺だけが気付かなかったらしい。
村人の皆さんもオユキ様も、虹色に輝く鍋の中身を見てとにかく楽しそうにしている。
「いやー、言ってみるもんだよねー」
「確かにすごい見た目だ」
「でも、その、効果がどうなのか……」
でも俺はやたらと冷静だった。結局これまでの六つのチーズをかき集めただけじゃちっとも変わらない。もちろんチーズそのものの力はあるが、それだけでルワーダをあんなにしたチーズに勝てるかどうかわからない。ニュートラル?チーズなんて言う食べ物が口があったかどうかさえもわからないファントムに使えたかどうか。氷漬けになって粉砕された鎧を調べてみたが、ルワーダらしき肉体のような存在はあったが兜の部分には何もなかった。文字通りの空っぽだった。
「ツヌークにはお前自ら食わせたんだろ?」
「まあそうですね」
「少なくともニュートラルチーズが入っている以上こっちがその手の被害を受ける可能性は下がる。ビューティーとかだって決して悪意を持ったそれじゃない、善意にも悪意にもなりうる、まったく公平な奴だ。と言うかチーズに意志なんてあるか?」
「まあそういうこと、ノージは石でも砕けない意志を持たなきゃね」
「フフフフ…」
お寒いはずのダジャレもキミハラ様の笑い声と相まってなぜか暖かい。
全ては使いようと言う事か、まあありきたりだけどそういう事だよな。
「ノージやクロミールのチーズもそなたなら使いこなせるかもしれぬ」
「使っていいんですかね」
「使えるかどうかは別にしてだ。とにかく、食べてみよう」
鍋の中で虹色に煮えるチーズに向かって放たれるオユキ様の氷。あまり激しく温度を下げると割れるからか量は少ないがチーズを正確に冷やし、直に食べられるような温度まで下げる。もちろん薪の火も消した。
「虹色のチーズ、私から行っていい?」
「いやとりあえず俺から」
「もう、いちいち真面目なんだから」
鍋に恐る恐る棒を突っ込み、チーズが固まっているのを確認する。鍋は相変わらず熱いが、チーズはきちんと固まっている。俺はチーズを棒で削ぎ取り、手元へと持って来る。
「熱くはなさそうだな」
きれいな輝きだ。だがそれでもどうしても関心はそっちになり、さらに味、それ以上に効き目の事になる。
「とりあえず食べてください」
ハラセキの言葉に押されるように、虹色のチーズをくわえる。
これで勝てるのか、アックーを救えるのか……
それから、まともに喰えるのか……
「うまい」
……他に何も言えなかった。
これまで食べたどのチーズよりもうまい。
六つの味がごちゃごちゃにならずに全部足され、いやそれらとは全く別の味に化けている。
確かなのは、単純にうまいと言う事だけ。
「そうかそうか!それは素晴らしい!」
「あ、でも…」
「少なくとも効果はあるようだ。美味と言うな!」
キミハラ様もコトシさんも、食べてもいないのに喜んでいる。
「とりあえずだ、うまい食べ物は人を幸せにする。確かに何も苦労をしないのはいい事ではないが、どうしても苦労すればしただけ自分が得た物が大きくなければいけないと思ってしまう。今のそなたのようにな」
「ミナレさん…」
「そうです。ここ数日ノージ様はいろいろあったとは言え本当に辛そうでした。オユキ様を救った時のようにもっと晴れ晴れとしているのが似合っているはずです」
辛そうに見えたのか、俺は……。
確かに、いろいろありすぎた。
それも楽しくもない事ばかり。
仮にも冒険者のくせに、こんな程度で落ち込むほどには俺は弱いのか。
「たくさんのレインボーチーズの材料を出します」
——————————俺は結局、こんな事しか言えなかったしできなかった。
「それでも全員分には少し足りなかったなんて…」
「わかるんだよ、わかっちゃうんだよ……ましてやラブってのは出すのにかなり力が要ってな、明日になればもっととは思うけど、その時間をくれる相手じゃねえだろう」
ああ、眠い。
それからずっとチーズを出し続けてはレインボーチーズを入れていた鍋に放り込み、煮炊きを繰り返してチーズを作り上げた。だがラブチーズを作るのに時間と力が足りなくなってしまい、結果的にできたのは百人分程度だった。
「今コトシ様が連れて来てくださった冒険者と村人の皆さんの中で戦闘力の高い皆様をコトシ様とキミハラ様が選別しております」
「そうだ、とりあえずラブでなければ作れるのだろう。タフネスは村人分以上にあるからそれで戦えるぞ」
確かに戦うだけならば、とりあえずタフネスがあればいい。アンカースやニュートラルはともかくホットが役に立つかわからないし、ビューティーなんて論外だ。ラブは……わからん。
「なあ、ずいぶんと疲れた顔をしているな。レインボーチーズを本当に食べたのか?」
「食べましたよ」
「ミナレ様、明日こそ決着を着けましょう」
「決着……」
そうだよな、決着だよな。
アックーには今でも感謝しているつもりだ。
でも今のアックーは、「ルワーダをバケモノに変えた奴の仲間」でありコトシさんが悪党の烙印を押した男だ。ノジローさんも間違いなく同意するとの事だ。
「だからな、今日は私と一緒に眠るがいい。思いのたけを話してくれ」
「では私はそれまでの世話をいたします!」
俺がアックーとの決戦を思っていると、いきなりミナレさんがベッドをめくり、ハラセキがテーブルにコップを置いた。
「お茶……?」
「お酒よりよろしいかと思いまして!」
「どこから取り出したのかは知らんが大したものだ」
「あらかじめ持って行くようにお兄様がおっしゃっただけです!」
ハラセキが顔を赤らめている。
—————本当に懸命に、俺達のために頑張っている。
「わかったよ。俺、頑張るから」
「そうだな、それまでは休め。それが年上からの言葉だ」
「お願いします、ミナレ様……」
俺は紅茶を飲みながら、ミナレさんに寄りかかった。
ここまでゆっくり眠れそうになるのは初めてじゃないかってぐらい、気持ちがいい。
ハラセキはキミハラ様の所にでも行ったのかもういない。
「カップは私が片付けておく。今はゆっくりしろ」
「はい……」
こんな気持ちになれたのは一体いつ以来だろうか。
こんな、まるっきり安心できるような気持ち。
「ふわぁ…」
あくびが出てしまう。
まぶたも重くなって来た。
「もう眠くなったか。まあ当然だな」
「はい…すみません…」
「安心して眠りに就け」
俺はベッドに横たわり、すぐさま目を閉じた。
その後ほどなくして何かが俺に被さって来た気がしたけど、もう眠すぎて覚えていない。
いや、なぜか知らないけどものすごくよく眠れる気がした。
孤児には縁のなかった、親とも違う存在の温もりって奴がして—————。




