敵援軍!?
「キミハラ様…!」
「兄貴…!」
リンモウ村正門とも言うべき場所で行われている戦いに割り込む、一人の男性。
数年に渡り暴発した寒さから耐え抜いたリンモウ村の領主、キミハラ様。
「ええかっこしいの甘ったれ兄貴、何しに来た!」
「甘ったれはお前だ!父上も母上も俺らより先に死ぬ!その二人の言葉をいつまでホイホイと聞いてるつもりだ!」
「うるせえ!そんなに庶民様が愛おしいのかよ!」
キミハラ様とコトシさん、二本の刃がキミカッタを襲う。
「兄貴、手配書を知らねえのか!」
「あんなお袋の私怨で出されたようなシロモノに何の意味があるんだよ、ツヌークだってあの顔を鼻にかけて威張りくさって、誰も内心から褒めてねえんだよ」
「すると何か!こいつらのせいでツヌークが美貌を失って引きこもりになってもざまあみろとしか思ってねえのか、妹に対する情もねえのか!」
「妹?五年近くまともに顔も合わせてねえ、最後にかけられた言葉が「いつまであんな場所にいるんですか、本当お兄様はお優しい方ですわねー」だった女が?」
キミハラ様の心のほどが嫌ってほどわかる。
(戦いを楽しむのって、ぶっちゃけ悪趣味だよな……)
口では腹立たしそうにしているが、口元は固くない。
真剣な刃で斬り合う姿は本当に楽しそうであり、戦闘が大好きな人間の顔だ。
冒険者にはいろんな人間がいる。それこそ金を稼ぐことが目的と言う奴もいれば、名前を売る事が目的の奴もいる。中にはいい異性を見つけることが目的だとか言いふらしている奴もいる。
その中で一番性質が悪いのは—————。
「貴殿は冒険者になれぬ。一番なってはいかぬ人種だ!自分の武を生かす事だけに木楽を求め価値を置き、手柄も何も求めない!」
「無欲でいいじゃねえか」
「大欲は無欲に似たりと言うが、貴殿は大欲と言うより貪欲だ。それ以外の欲を切り捨てた貪欲だ。そういう存在は下手に魅力的なだけに厄介だ」
禁欲的で自分の信じる道を極めようとしている。
実にカッコいい言葉だ。
だがそうして自分の武を生かす事だけに専念したその先にあるのは、戦いしかない。
戦いのための戦い。その後に残るのは何か。
「金さえも残らない戦い。結局武を磨くのは自己満足でしかない。何のために強くなろうとしている?」
「ヅケース家をこの国で一番強い家にするんだよ、そのためにはまず次代当主である俺が強くなくちゃ話にならねえだろ」
「貴族の強弱は国力の強弱だ、お前は自ら国力を下げてるんだよ!」
「庶民にペコペコする事が強くなる道だって言うんなら俺はいくらでも頭を下げる、よっ!」
キミハラ様の言葉にも全く耳を傾ける様子がない。むしろ得たりとばかりに強く剣を押し込み、コトシさんにも斬りかかる。2対1なのにまったくひるむ様子もないし打撃も受けていない。
「これは当主様の命令だ!」
「それでも我々はぁ!」
騎士と農民さんたちがやり合っている間にも、キミカッタは楽しそうにしている。
「ひどい…」
「ひどいって思うならとっとと俺に降伏しろ!それがセイジョサマの道だろ?」
ハラセキの涙もまったく届かない。
「てめえ…!」
「おっ!?賞金首様自らおいでなする気か!?こいつはいいや!」
「自分が犠牲者だったらとか考えねえようなバカが当主になったらヅケース家とやらはおしまいだよ!」
「ったく、悪気もなしに妹をぶち壊すような野郎だからな、実にやりがいがあるぜ!」
俺は食べた。三つほど食べた。
「効果が倍になるのかはわからねえけど、これ以上黙って見てられねえんだよ!」
「ノージ!」
「ミナレさん!行かせてください!」
チーズ三つを強引に呑み込んだ俺は、長くもないし切れ味も良くない剣で突っ込んだ。狙いはもちろん、キミカッタの腹。
自分でも信じられねえ速さだ。アックーのそれと比べても見劣りしねえって言える気がする。
その自信と、自分なりの思い。
「うぐっ…!」
そう、ハラセキを…!
「よくやった!後は任せろ!」
結論から言えば、成功だった。
俺の一撃はキミカッタの脇腹を捉え、その肉に一撃を差し込んだ。
その弱いはずの攻撃にキミカッタは大きくひるみ、その間に二人の攻撃が飛んでくる。
「何が武を極めるだ!しょせんお前はこの程度なんだよ!」
「うるせえ、まだ戦いが終わったって誰が決めたんだよ!」
「お前はこれだけの人間を泣かせて何がしたいんだ!」
「この甘ったれ兄貴!」
それでも必死に抵抗するキミカッタ。脇腹から血を出しながらもなおもその勢いは衰えない。
まったく、どれだけしぶといんだよ!
「知ってるんだよ、ノージ……お前の、弱点を。まもなく。来るんだよ……!」
「弱点…?」
「お前のような血の通ってない奴でさえも、これを見れば……!」
そのキミカッタが首を大きく振ると同時に、南からやって来た軍勢。
いや、農民たち。
「ファイチ村か?」
「いや、あれは…!」
オカマゴ村の人たちより少しだけ服の綺麗な農民たち。やはり手には鎌や鍬が握られている。
「あのチーズだ!」
俺は先頭の男に向かってチーズを投げる。
—————ほとんど何も反応しない。確かに口に入ったのに。
「まさか!」
「お前、よくもお前のような孤児の分際でうちのギビキを……!!」
ニセモノじゃねえ、本物だった。
本物のアタゼンと、本物の俺の故郷の村人たちだった!




