キミカッタ
「ちゃんと咀嚼し、飲み込んだ上で走ってください!」
「おう!」
チーズの力を得た村人たちが、リンモウ村へと走る。
量そのものは案外すぐ出せたが、それでも全員に配るには時間がかかるし、何よりも誰が行くか行かぬかが問題だった。
「敵軍がこちらを狙わない保証はない。何人かは残らねばならないだろう」
そのミナレさんの言葉に不満そうな人もいたが、それでもその言葉はもっともだった。
「この戦いにおける相手の勝利は何だと思う?」
「それは俺と、キミハラの…」
「それもある。だがそれ以上に、二人に付いた存在をいかに貶めるかだ」
「それじゃギビキと変わらないじゃないか」
「相手の名を落とすと言うのはそういう事だ。私も冒険者として幾度も小競り合いに参加してとにかく連勝と言う結果を作れと言う任務を得た事もある」
俺やハラセキを泣かせるためならオカマゴ村を焼いてもいいのかよ…まあ元々リンモウ村を攻撃する意味なんかちっともありゃしないんだが、正直頭が痛くなる。
「いったいあの屋敷に何人の騎士様が」
「領主だからな、ひと声かければかなりの数が集まるだろう。名目など適当でいい」
乱暴だが、それこそお貴族様なんだろう。そんな相手と正面切ってやり合うなどそれこそ初体験だ。
「やっぱり来やがったか!」
「やっぱりそんな事か!」
リンモウ村へと突入せんとした俺達に、きちんとした鎧を着た騎士たちが向かって来る。
「その装備はもしや」
「おうおう、俺様が次期ヅケース家当主のキミカッタ様だ!遠慮はいらねえかかってきやがれ!」
そしてその一団の先頭にいたのが、口を大きく開け歯をむき出しにし眉が吊り上がり、目がだらしなく笑っている男。
「キミカッタ様…!」
「ハラセキ~お前うちのお袋をずいぶんとブチ切れさせてくれたらしいな~?お前だけはぶった斬るだけじゃなく目一杯辱めてやらなきゃ気が済まねえってお袋も言ってたぜ!」
「キミカッタ、親孝行もいいが兄孝行も考えろ。このままだと兄上様を殺す事になるぞ」
ハラセキはその顔にひるみ、ミナレさんは冷静だった。
ヅケース家の次男でキミハラ様の双子の弟であるはずのキミカッタ様とやらだが、正直似ていない。
キミハラ様が温厚で優しいのに比べるとかなり好戦的で、見るからにこっちを殺したがっている。
「ああ~?兄貴は昔っからやせ我慢の王様だからな、そんで自分の飯を部下にやって平然と食べましたと言いのけるような大ウソつきだぞ」
「それは主人が部下に無意味にきつく当たるからだ。とりわけお前だ」
「ったく、領主様が庶民にヘコヘコするようなのがいいのかよ、本当そういうのってありえねえよ、なっ!」
キミカッタの剣がオカマゴ村の住民に襲い掛かる。
ミナレさんの使うそれより倍ほどでかい剣の輝き。
チーズの力があっても受け止められる気がしないほどの刃。
とてつもなく狂暴な刃。
「方向が違う!」
そしてその剣の懐に潜り込み叩きにかかるコトシさん。
「コトシか~なんで俺の部下となって金を得ようとしねえんだ?」
「私は冒険者が性に合っている。それにお前は騎士たちを自分が強くなる道具としてしか見ていない」
「お前ってなんだお前って!」
「だがその強さはしょせん人間的な強さではない。単純な暴力だ」
華麗な身のこなしでキミカッタとも戦うコトシさん。俺達も見とれてはいられない。
「聖女様のためにぃ!」
村人たちと、騎士たちがいよいよ本格的に衝突する。
「これは反乱だぞ!」
「俺達の聖女様が何をした!」
「何が聖女様だ!」
「聖女様は聖女様だ!」
激しい殴り合いの開幕。
村人さんたちはクワやらカマやらだけど、チーズの力のおかげか騎士たちと戦えている。
だが犠牲者がいない訳じゃない。
「痛いだろ!お前らが俺らに逆らうからだ!」
騎士たちは向かって来た村人さんたちに向かって攻撃をかける。全くひるむ様子はない。当然血も流れる。
「やあ!」
ミナレさんも騎士たちに立ち向かうが、騎士たちがミナレさんに向かって来ない。俺がミナレさんに向かって来た騎士の脇腹を刺してとどめを刺そうとしても、その標的が来ない。
「お前だ、お前らのせいで、村人たちが死んでいくんだ!わかったらおとなしくしろ!」
その間に村人さんたちが傷つき、死にそうになる人も出て来る。真っ赤な血と荒い呼吸、戦いの場と言うにはあまりにも嫌なそれ。
「村の門の前で何をやっている!」
「俺はなあ、父上と母上に逆らう兄貴とお前らを殺すために人をかき集めたんだよ。そのためになあ!」
「兄殺しのために、いや子殺しのために!?」
「さっきも言ったようになあ、あんな甘ったるい奴にお家を任せたら潰れるに決まってる!だからだ!これは必要な行いなんだよぉ!」
似てないにせよ双子なのに、どうしてこうなったのだろうか。
ちらちらと視界に入る騎士様たちは、みんな無駄にしかめっ面で武器を突き出している。
真剣と言うより迫られている感じで見るに堪えない。
こんな事をするために騎士になったんじゃないだろ、そうだよな……!
「皆さん!」
「ハラセキ!悲しいだろ?悔しいだろ?お前がおとなしくすればもうこれ以上犠牲者は増えないんだぞ?メイドの分際で俺らに逆らおうとするからだ!」
「私…」
「聖女様!私らは最後までやります!!」
キミカッタは武器を振りながらもハラセキを責める。
最後の最後まで殺そうとしただけで殺さなかったギビキとは違う、本物の流血沙汰。ハラセキの全身が震えている。
「わた、し…」
「ほれほれ、早く、早くしろ!早くこっちに来い来い来ーい」
「静まれ!」
「黙ってろ、村人殺し野郎~」
おちょくるような言葉を重ねる。
どこまでも腹立たしい、いやそれ以上に恐ろしくて、許しがたくて…!
殺してやりたくて……
「その必要はねえよ!!」
そこに飛んで来た一人の声と、大きな刃。
「キミハラ様…!」
「兄貴…!」




