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シックスpieceチーズ  作者: ウィザード・T
第八章 二本の刃が迫る時
52/89

ギルドの使者は

「あのデーキとか言う男は一体……」



 デーキとか言う、新たなる閃光の英傑のメンバー。



 魔導士なのか。



 だがただの魔導士と呼ぶにはあまりにも不気味だ。



「あの光線はこけおどしだと」

「確かに決定的な殺傷力はない。だが攻撃としては十分だ。先ほどの冒険者も致命傷ではないようだからな」


 ニセアタゼンだった男もまた腹から血を流しながらも、まだ息ができている。


「でも、本当、なんだ、お貴族、様が……」


 そして、その男から出た言葉は、もっと重たかった。



 指名手配。

 文字通りの賞金首。


 それこそ狩りの対象であり、少しでも気を許せばいつでも狩られる金銀財宝同然。

 だがその実態はとんでもない腕前の戦士であり、下手をすればこっちが斬られるだけでもある文字通りの孤児、じゃなかった虎児。そんな財宝を求めて返り討ちに遭い罪状と言うより勲章を増やすだけになった冒険者を俺は山と見て来たつもりだ。

 実際閃光の英傑のメンバーで賞金首を狩りに行った事もあったが、その相手は動きがすさまじく速い上に装甲も厚く、アックーやギビキをしてもまともに打撃を与えられずルワーダの防御で必死にごまかしてしのぎ切り、撤退させるのがやっとだった。



 —————だが、今の俺にそんな力はない。



「なぜ、ご当主様は……」

「貴族にとって娘とは他家とのつながりの道具なのだろう。良き家に嫁ぎ家同士の結束を固める。そんな娘を傷物にしてしまったも同然だからな」

「でもそれはあくまでも俺で」

「そうだ。だがおそらく、その決定をしたのはクロミールだろう。彼女が何を思っているのか詳しいことはわからないが、彼女はハラセキをひどく憎んでいる」

「意味不明です」


 問題はハラセキだ。ハラセキなんて言うただのメイドに何ができるのか。

 正直意味不明であり、どう反応したらいいのかわからない。


「まあとりあえずハラセキを守らなきゃいけないって事は間違いないな」

「そうだな。クロミールも正直、以前からおかしかったが最近はより加速している」

「奥方様をご存知だったのですか」

「話に聞く程度だったがな、ヅケース家に嫁ぐ前に数名の令嬢とその座を争ったとかいう話だ。その程度ならば珍しくも何ともない」


 珍しくもなんともないとか、ミナレさんもずいぶんと簡単に言ってくれる。さっきも言ったように優秀な貴族様の力を得ようとみんな躍起になるんだろうけど、そこにあるのはおそらく下手な戦争よりもずっと面倒くさくて厄介な駆け引きなんだろう。

「まさか弱みでも握り合ったとか、弱みを部下に握らせるとか」

「そうだ。お互いがお互いを利用し合う暗闘が繰り広げられている」

「俺達も以前、一通の手紙を運んでほしいと言うお使い任務を受けた事があります。そしてその結果ひとつの貴族の家の領国が大幅に減ったとか」

「うむ。そういう事だ。

 それでクロミールとヅケース家へ嫁ぐことを競い合った貴族令嬢たちが、ある時をきっかけに次々と顔面を崩してしまったと言う話がある」

「顔面を崩した?」

「ああ、それなりに磨かれて来たはずの美顔が程度の差こそあれど一気にくすみ出し、一挙に自信を失ってしまった。だが不思議な事にそれをきっかけにヅケース家への嫁入りを断念すると急激に顔が戻り出し、中にはむしろその前より良くなったと言う話まである」

「なんなんだそりゃ」


 クロミールとかって人、相当に問題ありそうだぞ。

 で、そんな人がご当主様に許可を取ったならまだともかく許可を無視して手配書を作ったとなるとそれこそ暴走以外の何でもねえじゃねえか。


「まさか奥方様がそこまで私を…………」

「もちろん話は話でしかない。だがクロミールと言うのがそういう疑惑が上がる程度には怪しい人物だと言う事だ。そしてそのクロミールの薫陶を強く受けているのがキミカッタであり、キミハラ殿はおそらくクロミールになついていないのだろう」

「ヅケース様は」

「それはわからぬ。だがノージにとってはツヌークに関する行いで間違いないだろう。いずれにしても逆ギレに類するそれであり正当性はないがな」


 俺を求めてやって来た冒険者の皆様もまったく動けずにいる。

 冒険者と言うのは強盗の異称だとか言うが、だからこそ信用を大事にしている。貴族が多少強引なのは仕方がないが、それでもそれ以上に信頼を欠きそうな依頼主様の実情に失望と混乱を覚えてもまったくしょうがないだろう。

「ああ、もう、やめた……」

「え」

「金貨一万枚とか言う名前に惑わされ、チーズを食わされこんな風に袋叩きにされ……犯罪奴隷になるのはわかってるけど、そっちのがよっぽど……」

「その点は心配いらぬ」


 冒険者さんたちがわずかな絶望と大きな失望を抱える中、また男の人の声がした。



 今度は、耳慣れた声だ。



「久しぶりだな、ノージ」

「コトシさん!」




 トウミヤ市の冒険者ギルドの中でも一番のエースであるコトシさん。




 しっかりと地面を掴む足。

 そして鋭い眼光と節くれだった手。


 まさに冒険者の鑑のような人。


「コトシさん…!」


 賞金首になった俺を狙ってもまったくおかしくない存在は、俺らの姿を認めるや地に投げ捨てた。


 腰に付けていた剣を。




「ルワーダが、死んだぞ」




 そしてそれに続くように、言葉の刃を投げ付けた。

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