「新メンバー」
ローブを目深にかぶる、見るからの魔法使いと言うべき男。
「ノージ、ハラセキ。あなた方はヅケース家からお尋ね者とされています」
その男から出て来た、予想通りかつ予想外の言葉。
「そ、そんな!」
「あー、どう考えても踏み倒されるのが分かり切っているのにそんなに飛びつくわけ?」
二人のお尋ね者がそれらしく対応すると、魔法使いは懐から一枚の紙を差し出した。
「紛れもなく、ご当主様の……!」
ご当主様って、あのヅケースってお方の事かい!そんな人が自らお尋ね者の手配書を記すだなんて、相当に暇なんだな。
「なるほどな…となれば情報が広まったのもわかる。ヅケース家の屋敷からトウミヤ市までは強引に行けば二日も要らん。
と言うか、あまりにも気の弱い話だと思うがな。私はどうなんだ私は」
「容疑としては王女様をたぶらかしていると」
「貴族が王女の言葉を無視できるとは、ずいぶんと偉くなったものだな。まあ私とてこの剣以外証明できる物など持っていないのも事実だがな……」
「我々は疑ってなどいませんよ、貴女の事など。ただどうしてランクも持たないような冒険者などにくっついているのかは疑っておりますが」
「ひどい頭痛に苦しんでいたのを治してくれたからだ」
「なるほど…」
王女様である事を、俺は半ば忘れていた。いつも俺に声をかけてくれる時のミナレさんはそんな遠いもんじゃなく、ただ強くて頼れるお姉さんでしかない。
俺が適当に炊事洗濯(チーズは入れたり入れなかったりだ)したり先頭に立って邪魔な雑草とかを買って道を示すぐらいの事しかしていないのに褒めてくれる、本当に優しい人だ。アックーはそれが俺の役目だからと淡々としてたけど、その時はもうそんなもんだよなって思ってた。正直、そうやって褒められるのが最近快感になりつつある。まあハラセキが加わってからは炊事洗濯とかはそっちに持ってかれてるけどな。
「ほざくな!王女様だか何だか知らねえが俺は賞金首を狩りに来てるだけだ!邪魔すんじゃねえ!」
でもそんな事、関係ねえ人もいる。
本当とか嘘とか関係なく金貨一万枚と言う、実際にあれば魅力的極まる報酬に駆られる気持ちはよくわかる。
「とりあえずは」
「駄目だ!」
とりあえずその人を片付けてから話をと思った俺の足を止めたのは、ミナレさんの声と一本の光線だった。
「あんたっ…!」
「手柄が分散するんですよ、生きてられると」
ニセアタゼンの胴を貫き、突き抜けた先の木を焼いたその光線。
さっきのそれと似たような光線。
「そんな強い魔法があるんですか!」
「ああそうです。同じようになってもらいましょう」
「ああ、なんと……!」
ハラセキは全身震えている。つい先ほど自分を狙った一撃がここまでとなれば誰だってそうなるだろう。しかも見た所あまり力を入れている様子もない。かなり面倒な相手だ。
「落ち着け!さっきと同じチーズを!」
ミナレさんの言葉が聞こえる。
そうだ、俺の武器はチーズだ。直接打撃を与える事はできないにせよ、相手に影響を与える事はできる。化けの皮を剝ぎ、何者かを示す事はできる。
「この野郎!」
「おっと」
自分でも見た目からしてマヌケなのはわかっているが、それでも俺はチーズを投げまくる。そして敵もそれに反応するかのようにチーズを避けたり叩き落としたり光線で焼いたりする。
たちまちにして草原がチーズの匂いで染まり出す。美味しそうと言うよりどこか香ばしく、それでいて圧が籠っている匂い。もしこの匂いだけでどうにかできるならば、あっという間に解決できそうなほどの匂い。
「うっ…」
そこに混じる不愉快なうめき声。もしかして本当にチーズ嫌いなのかと思ったが、だとしても正直食べた直後の事を思うと…
「もらった!」
「ええっ!?」
とか思ってたら、ミナレさんがローブの男に突っ込んで行った!
「では…!」
ローブの男は淡々と手を出し光線を放とうとしている!
どう考えても避けようがないじゃないか!
「ミナレ様!」
ハラセキが叫ぶと同時に空が白く染まる。
だがそれに何の意味があるのかわからない、俺はどうすればいい!
「うあああああああ!!」
もう、自分でやるしかない!ミナレさんがどうなってしまうのか、このままミナレさんに万が一の事があったら…!
「くっ…!」
うめき声だ!
大丈夫なのか、まだ戦えるのか!
「ミナレさん!!」
「そなたはそれだからいいのだがな……」
「それだからって、そんな悠長な場合、じゃ……!」
……全くと言うほどではないが、無傷に近かった。
「やりますねぇ……!」
「今の内だ!」
「ああ、はい……」
俺は残っていたチーズをローブを斬られた男の口に放り込んだ。
男は全く無抵抗に口をモグモグさせる。
「なぜ……ああもしかしてハラセキの!」
「それもある。だがさっき聞いただろう、うめき声を。ほらあれを」
俺が振り向くと、ハラセキがニセアタゼンに向かって頭を下げて傷の手当てをしようとしている。
「大丈夫ですか」
「あまり大丈夫じゃ、ない……っつーか何なんだよ、殺そうとした相手に……!」
「でもお金を稼ぐためには」
「この、野郎…!」
傷は負っているが、死んでいない。直撃したのにだ。
「さすが、噂通りだな……自分では物を考えられない、付き従うだけが取り柄の…」
そんな見た目ほど威力のない一撃を放っていた奴が吐いた、言葉。
「何だと…」
「それほどの事を言わせる程度には人の心をつかむのがうまい男……」
チーズにより正体を現したはずの男は、黒と白の入り混じった髪の毛をかきながら笑っていた。
「私の名前はデーキ。閃光の英傑のメンバーだ」
「閃光の英傑!?」
そのデーキとやらの口から出た名前は、途方もなく衝撃的だった。
「閃光の英傑……」
「そうだ。アックー率いる閃光の英傑だ」
「では閃光の英傑がノージとハラセキを!」
「そういう事だ。ではいずれ、どこかで……」
「待てぇ!」
俺が叫びながら剣を突き出そうとする前に、デーキの姿は消えていた。
「閃光の英傑…」
「アックーが、俺を……!」
「ギビキだけでなく、アックーまで血迷ったか…」
「アックー…」
俺は何と言ったらいいかわからない。
デーキとか言う奴はどうでもいい。
だが、なぜギビキに続きアックーまで、俺を狙うのか。
「アックー……何だよそれ……」
俺がギビキを殺したからか?
それならそれでいいけど、だとしてもギビキをなぜ止めなかったんだ?
その答え、教えてくれよ…。




