(間章)っつーか疲れるんだけど(アックー視点)
「そろそろ仕事しないと」
ルワーダの言うとおりだ。
あれから延々一週間近くノージ追放記念って事ではしゃいでたんだけど、そろそろちょっと動かねえといけねえなって訳で俺たちは宿を出た。
っつーかあのおっさんたちはなんなんだよ。
コトシのおっさんは俺がお荷物を放り出したってのに閃光の英傑の雲行きが怪しいってぼやきまくるし、ギルドマスターのノジローっておっさんもあいつのチーズをやたら惜しがるし。
「胃袋を掴まれるってマジで怖いのよねー、今更あいつのチーズに頼る必要もないし」
「しかし他のメンツも他のメンツだよ、なんでこの閃光の英傑の募集に誰も引っかからねえんだか…………」
給料基本四等分・ただし働きにより一~四割に変化する事あり、職務・主に荷物持ち、必要希望能力・回復魔法またはマッピング能力。
そんなに厳しくもねえ条件でAランクパーティになれるってのにどうして誰も応募して来ねえんだろう。あー、わけわからねえ。
「って言うか正直疲れるんだけど」
「何言ってんだよ、まだ一時間しか歩いてねえんだぞ」
で、とりあえずは腹ごしらえがてら軽い依頼でも受けようと思って小さな村を目指したんだけど、何だよギビキの奴一時間少々で息上がりやがって。この前までは三時間ぶっ通しで歩いてものほほんとしていたくせに。
「でもなんかここ最近急に疲れやすくて、オーバーペースって言うか」
「オーバーペース?このペースで俺らずっと歩いてただろ」
ルワーダの言うとおりだ。ったくなんでこんなんでへばんなきゃいけねえんだか。
にしても、どうしてか息が切れるのが早い。
「それで目的地は」
「ファイチ村だよ。そこでつまらねえ山賊をちょいと小指で片すんだよ。そうすれば閃光の英傑の名前はますます上がる。ナウセンだかナウマンだか知らねえけど悪い奴らをあっという間にやればいいんだよ。この上なく簡単な仕事で金までもらえるんだから本当、冒険者って最高だぜ!」
悪い奴を殺して金を得る。それこそ冒険者の特権って奴だ。しかも騎士様とやらのようにわざわざ堅苦しい事をする必要もない。
あーあ、楽しいねえ。
「はあ?」
……他に何も言いようがなかった。
「山賊は一週間前に全滅した?」
「そうなんです、大変申し訳ございませんが、一週間前に腕利きの冒険者様がやって来ましてなあ、それでナウセン団を全滅する事が出来たのです」
ナウセン団、そうナウセン団だ。
確かにそんなに強くはなかったがそれでも三ケタ近くはいたはずだぞ?それが全滅?
「はぁ……」
「何呆れてるんだよ」
「いや、疲れてるんだよ」
「ったく、この程度で疲れるんだなんてルワーダも軟弱ね」
「お前こそ……」
ギビキもだろとツッコミたいが、俺も息が重い。
他ののろまな連中の五割増しの速度で歩いてただけなのに、なんでこうも足が重くなるんだ?
っつーかどこの団体だよ、三ケタの山賊を一網打尽にするなんて。
「一体何名だよ」
「二名です」
と思ったら二名?たった二人で?
「嘘吐け」
「嘘ではございません」
「ああわかった、ちょうど一週間かけてやったんでしょ」
「いえいえ、そのお方たちのおかげで一日で終わりました。いやーまったく素晴らしいお方たちですなあ!」
ギビキのもっともな言葉もこの村長はあっさり否定する。
で、ああなるほど魔導士なんだなとさらに詰めようとするが、騎士二人だと。
騎士二人がどうやって山賊団を一日で壊滅させるんだ。
しかも戦場は山に乗り込んでとかじゃなくてこの村だっつーし、飛んでも速いのかと思ったらそんなに速くねえし、斬ったのは十人ぐらいだったってと言うし……もう一人が斬ったのはわずか一人だっつーし。
なんだ一体……話がびた一文噛み合わねえ。
「…………おじさん強いの?」
「わしはとても強くはないです。少し前までは強かったんですがちょっと年ををってしまいましてなあ!」
ちょっと前までは強かった?こんな愛想だけは一流なひょろいおっさんが??
じゃあなんで今までずっとナウセン団を倒せなかったんだよ……なんてツッコミをする気にはもうなれなかった。
「帰ろうか」
「ああ、帰る」
「でも疲れたから一日だけ」
反論する気にもなれねえ。
まったく、どこの誰だよ、一週間も前にこの俺たちの活躍できる舞台を奪いやがった奴は!
本当、気持ち悪い疲れが体中を覆うぜ。もしこんな時ノージのチーズがあれば……って何考えてんだ俺!
あんな奴が役に立つ訳ねえだろ!ああ、今日の俺は頭が冴えねえ。何だよ、あの野郎……!




