第七十三話 感覚的な先生とスパルタな先生
この時期って中々忙しいですね………
「『それ』………」
胸の奥にあったモヤモヤに形が与えられ、違和感が表面化する。
なぁ………お前は何なんだ?
「あぁ、依り代に攻撃はしないから安心していいぞ」
ビシッとこちらに指をさして言い放つヒガンさん。
急に『さん付け』にしたのは自分よりも年上だったことに気付いたからじゃない。
決してない。
「『それ』は依り代――宿主って言った方がいいか?――決して害さない。というか守るように動く」
「そうですか?」
「現にお前の傷治そうとしてるし」
そういえばヒガンさん言ってたな。
「だが、問題があるとするなら『それ』は宿主以外どうでもいい。害があると判断したら消しに来るしな」
怖ッ!
「だから!」
何かよく分からないポーズを決めて構える。
「だから?」
「俺たちは『それ』の力を扱えるように訓練しなきゃいけない!」
たしかに?
「それを俺はお前に教えてやる!あと、ついでに色々教えてやる!」
「は、はぁ……」
大丈夫だろうか?
―――取り敢えず来い!
ヒガンさんに俺は左腕を掴まれ、軽く身体に衝撃が走る。
「え?」
「ここが俺の訓練場だ!」
パスカルなパープルの空間に目を奪われる。
「ここ、どこだよ………」
「ふっ………知りたいか?」
身体を捻じるようにポーズを決めて言うヒガンさん。
くそ………無駄に顔が良いせいで似合っていて、逆に無性に殴りたい。
「ん?不穏な空気?………まぁいい!ここは雲の上!名付けるならば天空の雲だ!」
いや、何だよ!
空の雲って!
普通じゃん!
「力の神髄を教えてやる!神だけにな!」
意味分からん……
「おい!よく聞け!ここで何しても基本的に何も壊れたりしないぞ!雲だし!」
何で雲の上を動けるかは考えないようにしておこう。
「てことで俺も軽く力を解放するから気絶すんなよ?」
「え?」
この人の強さ分かってないけどそんなに強いの?
ただの高速移動する中二病にしか見えないけど?
……………割と強いな………
「うっ………」
ヒガンさんが右腕に巻かれた赤い包帯に触れると重々しい空気が俺を押しつぶそうとする。
「俺の中にあるこいつの名は…………」
突然口を紡ぐヒガンさん。
「ど、どうしたんですか?」
重圧により俺は雲の上で膝を付く。
「ちょっと待て。なぁ………■■■、言っていいのか?」
『ちっ………仕方ねぇ奴だなぁ………わぁったよ』
「サンキュー」
「――!?」
声聞こえた!?
「こほん、こいつの―――
『こいつって言うな』
「この素晴らしきパートナーの名前は」
『良し』
適当に言ってる感あるけどこれでいいんだ………
「『それ』の中でも化け物、イザナミだ。能力いっぱいある」
『おい!説明もっとあったろ!』
「えっと………イザナミさん?でいいんですよね?」
『……聞いたか、ヒガン。ちゃんとさん付けで読んでんぞ?』
「お前、何か嬉しそうだな………」
『ちげぇ!俺の方が先輩なのに誰も敬語使わねぇから新鮮なだけだ!』
この『それ』何か社交的だ………
「それで、俺の中にある奴は何なんですか?」
めっちゃ気になる!
『知らん』
「え?」
は?え?どゆこと?
説明ください。
『さっきから無言を貫いてやがるコミュ障とか知らん!』
こ、コミュ障………
「なるほど、コミュ障か。いいじゃないか!」
ヒガンさん!?
『黙れ』
「「―――ッ!?」」
心臓を掴まれるような強烈な圧。
『おいおい、宿主ごとビビらせる奴なんて普通いねぇぞ?まさかしっかりと力を扱いきれねぇのか?』
ヒガンさんが無言で俺の顎を持ち上げる。
顎クイ!?
『はーん、お前がサツキとかいうヤバそうな娘に切れてたのはそういうことか』
何それ?
怖いんだけど?
サツキ生きてる?
『お前、このガキを守り切れなかったのが情けないんだな!』
『黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!』
『うっわ、雑魚い野郎だぜ』
『黙れ黙れ黙れ黙れ!』
子ども!?
めっちゃ喧嘩してるし。
「うるさい!お前らが黙れ!頭痛いだろ!」
『『―――ッ!?』』
ヒガンさんが金色の瞳を輝かせて一喝すると急に静かになった。
「お前ら一旦俺らから離れろ!話はそれからだ!てかイザナミ俺の身体勝手に操んな!」
「うっ!」
ヒガンさんが俺の顔を掴むと何かを引っぺがす。
『何するんだい!』
闇で出来た人型が姿を現す。
あ、何か見たことある。
どこだっけ?
『俺は違うよな?………ヒガン?』
「………」
『ヒガン!?』
「ていっ!」
右腕から放たれる黒い蛇。
その姿は異様なほどの瘴気を纏っている。
「これで良し!」
ちなみに俺の警鐘は知らない間に鳴りすぎて麻痺ってます………
「リクの中にいた奴。名は?能力は?経緯は?全部吐け!じゃないと殴る!」
えぐ………
『ふんっ、人間如きに殴られてもね?僕をその辺の『それ』と同じにされちゃ困るよ』
その辺に居たら世界滅ぶって。
『素直にしねぇとやべぇぞ?』
『たかが人間だろう?僕には意味ないね』
「そうか………じゃあ殴る!」
じゃあ、って何だよ!?
「おらっ!」
蹴った!?
『ぐはぁっ!?』
掴みどころのない闇の塊なのに吹っ飛んだ!?
「やっぱ、できそうな気がしたんだよなぁ」
もう、やめて………
「とりあえずここでしばらく修行してもらうから、付いてこいよ?」
すいません、ヒガンさん。
もうすでに置いてきぼりです………
「はぁはぁ………」
仰向けに倒れて息を荒くする猫耳の少女。
「情けないですねぇ………」
それを見下し、ため息を吐くミリアナ師匠。
「十二時間続けては死んでしまいます!」
私は叫びました。
異常です!
この人、修行が始まってから休憩させてくれない上に自分も休憩してません!
「あはは………大丈夫。十日ぐらいまでなら人は死なないから」
目が、笑ってないです………
リクさんはこんなに恐ろしい人に剣術を教わったのでしょうか?
「私やリクの使っている流派の技はですね………極めれば、神話級のモンスターも一撃で倒せるようになりますよ?」
神話級のモンスターとかいうの聞いたこともないです!
「クラーケンとかヘカトンケイルとかフェンリルまでなら本気を出せば倒せますよ?」
「本でしか読んだことないです!」
そんなの存在するんですか!?
「えぇ………田舎過ぎません?」
いえ、貴女が異常なだけだと思います!
「さてと………休憩もしたところですし、続きをしましょうか!」
「はい?」
今日はもう終わりじゃ………
「もちろん、できますよね?」
殺気が笑みから零れる。
「は、はい……」
私は小さくか弱い声で返事をするしかありませんでした……………
これからしばらく本編ではあまり語られないスキルの内容などについて書いていこうと思います。
また、気が向けば小話を書きます。
ユニークスキル【逢魔の本マグロ】
シースー教最高幹部の一人、ブルーフィンの持つユニークスキル。
マグロへの愛、というアイデンティティが暴走した結果、マグロになるという結論に至った。
パワーや大きさ、スピードなどが底上げされ、マグロ怪人になれる。
『ツナソード』との組み合わせは抜群。
【炒】
料理スキル。
本来は強火で素材をさっと焼くためのスキル。
だが、タカナシによって魔改造され、戦闘に使えるほどの火力を持つに至った。
なので、こんな火力で料理をすれば、必ず焦げる。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字等あれば報告ください。
「面白い!」「他のスキル見せろよ?」など思っていただいた方は是非、ブックマーク、高評価、お願いします!
これでようやく『vs.シースー教』も大体終わりです!
ありがとうございました!