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82話目【天界 2 地獄の記録整理】

天界の巨大な保管庫の中でゴロゴロと台車を押す松本。


「やっと壁が見えた、とりあえず端から持って行くか。

 棚番は334、覚えておかないと帰ってこれなくなるからな…」


棚から石板を取り台車に積む。


「これくらいでいいか、早く終わらせて下界に戻ろう。

 長い間ここにいると体がどうなるのかわからないし…」


天井から下がる看板を頼りに出口を目指す。

棚の森の中で台車を押しながら記憶を辿る松本。

何故天界にいるのか思い出せずにいる。



俺はなんで天界にいるんだろうか?

巨大モギの素材で作成された装備の受け取りと、

光筋教団に光魔法を布教する為にウルダに向かった筈だが…

ポンコツ女神によると俺まだ死んでいない。

額の「生」がその証らしい。

ということは瀕死、いや仮死状態にでもなっているのか?

寝ているうちに寒さで? いや、違うな…そこまで寒くはない。

何者かに襲撃された? 無いな。

バトー、ミーシャ、ルドルフと一緒だ、襲撃犯の方が仮死状態になるだろう。

とすると事故か? 記憶にはないが…可能性が無いとは言えないな…



「っは!?」


視界の隅を何かが通り過ぎた気がして、辺りを見渡す松本。

特に変わった物はなく、所々に骨が落ちているだけである。


「ふぅ、なんだ骨か、全く紛らわしい。 

 いやなんでこんなに骨が落ちてんの!? 怖いんですけどぉぉぉ!?」


どぉぉぉ…


ぉぉぉ…


静かな保管庫に松本の魂の叫びが木霊した。

ポンコツ女神曰く、落ちてる骨はオブジェらしい。

事件性はない、 …と思う。


「と、取りあえず急いで運ぼう」


走って台車を押す松本、運搬速度が上がった。




「神様ー持ってきましたよー」

「ちょっとそこに置いておいてー」


松本が保管庫から出てくると、テーブルの下で女神がゴソゴソしていた。

天使達は転生君で魂を浄化している。


「今、パソコン届いたからセットしてるのよー。これでウチの部署も近代化ねー。

 えーっと、この線は何処に繋ぐのかしら?」

「これが新しく予算で買ったパソコンですか?」

「そうよ、よしこれでいいはず。電源ぽちっと…」


パソコンが立ち上がり、モニターに「天窓XP」の文字の後に草原の画像が表示された。

椅子に座りパソコンを弄る女神。


「えーっと、これね。ちょっと石板取って貰える?」

「はいー」


机の上に置かれた石板を見ながらキーボードで入力する女神。


「ポセトニウム3世ね、ポ、セ、ト、ニ、ウ…えーと、どこかしら?」


キーボートの上で目を泳がせ、両手の人差し指で1文字ずつ打ち込んでいく。



お、おっそぉぉぉ…



「あのー神様、もしかしてキーボード不慣れなのでは?」

「何言っているの、私は全知全能の神よ? 侮るんじゃないわよ! 次の石板持ってきなさい」

「りょ、了解」


台車から石板を降ろし、次の石板を取りに行く松本。


「戻りましたよー、ん?」


1時間後に戻って来ると、女神と天使の姿が無かった。

部屋を見渡すが見当たらない。


どこ行ったんだ?

作業の進捗は…なにぃ!?



テーブルの上の石板は1時間前と変わっていなかった。



「このクッキー美味しいわね~天使ちゃん」

「甘いです神様ー」

「紅茶も美味しいです神様ー」

「うふふ、沢山食べていいのよ~」


テラス席から楽しそうな声が聞こえてくるが、いつもの位置に姿が見えない。

綺麗な青空と白い雲が流れている。



声が聞こえるのに、いない?

ん? なんかあの辺…



よく見ると隅の方の雲だけ動いていない。

近寄ると声が大きくなる。



「なれない作業で疲れちゃったわ~」

「お疲れ様ですー神様ー」

「紅茶のお代わりどうぞー神様ー」

「ありがとう頂くわ」


青空と雲が描かれたパーテーションの裏で女神と天使達がお茶していた。

女神の頬を鷲掴みにする松本、眉間に血管が浮いている。


「おい、なんでお茶飲んでるんだ、作業は?」

「ちょ、ちょっと今休憩中なの…」

「1時間の作業の進捗具合は?」

「だ、大丈夫よ進んでるから、紅茶飲めないでしょ、放して」


テーブルのポットを取り、直接女神の口に注ぐサタン松本。


「あばばばばばば!?」

「進捗具合は?」

「さ…3行です…」


無言で紅茶を注ぐサタン。


「あばばあばばばばばば!?」


満面の笑みで天使達に振り向く松本。


「天使ちゃん達、いつから休憩してるのかな?」

「30分位前からですー」

「ちょっと!? 天使ちゃん!?」

「その前は絵を描いてましたー」


パーテーションを指さす天使。


「やめて! 天使ちゃんやめてぇぇぇ!」


女神にゆっくりと振り向く松本。

満面の笑みから般若へと表情が変わる。


「ヒェッ!?」

「おいポンコツ…侮るなって言ってたよな?

 何をだ? 画力か? 偽装までしてサボってたことか?」

「す、すみませんでたぁぁぁぁぁ!」



椅子に縛り付けられキーボードを突く女神。


「石板取ってくるからサボるなよポンコツ、

 次やったらこのギザギザの石の上に正座させて、石板乗せるからなポンコツ」

「ポンコツ言うんじゃないわよ! 神なのよ敬いなさいよ!」

「こっちも敬わせて欲しいわ、ちくしょぉぉぉ!」  


涙と共に松本は保管庫に消えた。





石板を台車に積み込み戻る松本は再び記憶を辿っていた。



えーと、ウルダに出発した朝は…

獣人達用のパンをテーブルに置いて、

洋服と日用品、読む時間の無かった本と家の横のキノコを鞄に入れた。

レム様と獣人達に見送られポッポ村へ、村人達に見送られウルダへ出発。

ここまでは問題なし。

旅の道中、馬車の荷台でキノコを調べて…


「マツモト、なんだそのキノコ? 食えるのか?」

「家の近くに生えてるんですよ、食べられるかどうかは今から調べるんです」


荷台に転がるキノコと図鑑を覗き込むミーシャと松本。

図鑑を捲ると似たようなキノコが記載されていた。


「似てるな、それじゃねぇか?」

「似てますね、なになに、ヤマタケ、山や森などの暗い場所によく自生しています。

 毒は無く生でも食べられます。焼くとさらに美味しい。らしいです」

「へぇーいいじゃねぇか、食べて見ろよマツモト」

「どれどれ? ん~ちょっとピリピリしてますね、刺激があってなかなか…」


確かそこで記憶が途絶えて…

って、あのキノコかぁぁぁ!? いやでも食べられるって書いてあったし?

ちくしょう騙されたぁぁぁ! 誰だあの本書いたやつぅぅぅぅ!



棚の間で頭を掻きむしる松本。

背後から獣の声が聞こえた。


「グルルルル…」

「ヒェッ!?」


恐る恐る振り返ると、棚の奥で目が2つ赤く光っている。


「ガウガウガウガウ!」

「なななななにぃぃ!? なんかいるぅぅぅ!?」


台車に片足を乗せキックボートのように走る松本。

後を追う赤い目。


「いやぁぁぁぁ!? 追ってこないでぇぇぇ!」

「ガウガウガウガウ!」


必死に逃げる松本、迫る何か。


「で、出口だぁぁぁおらぁぁぁ!」

「ガァーウ!」

「ぎゃぁぁぁ足噛まれたぁぁ!? 死ぬぅぅぅ誰か助けてぇぇ!」


部屋に転がり込み、散乱する石板と台車の中で倒れる松本。

足に小さな犬が嚙みついていた。


「いだだだだ!? 何この犬!? なんで天界にポメラニアン!?」

「あーケロちゃんだー」

「神様ーケロちゃんですよー」

「いだだだ!? 何ケロちゃんて、いいから取ってぇぇぇ!」

「「 はーい! 」」


転生君のハンドルから手を放し、松本の足に齧り付くポメラニアンと戯れる天使達。


「いだだ、酷い目にあった…神様、なんですかあの犬は?」

「保管庫の番犬のケロちゃんよ、下界じゃ地獄の番犬とも呼ばれてるわ。

 侵入者を排除するのが仕事なの、記録を持ち出してるから勘違いされてんでしょ」

「ちゃんと説明しといて貰えます!?」


目をしょぼしょぼさせ、人差し指でキーボードを突く女神。

転生君を回す天使達。

噛まれた足を擦る松本

テラスで走り回るケロちゃん。



地獄の番犬ケロべロスはポメラニアンだったのか…

テラスにいるなら大丈夫だろう…



台車を押し再び石板を取りに行く松本。



「ガウガウガウガウ!」

「ぎゃぁぁぁ!? なんで今度はハスキー!? 殺意が凄いんですけどぉぉぉ!?」

「ガァーウ!」

「いだぁぁぁ!?」


再び部屋に転がる松本。

松本の尻に齧り付くハスキーに天使達が駆け寄って来る。


「今度はベロちゃんだー」

「モッフモフー」


天使達と戯れたハスキーはテラスで走り回っている。

尻を擦る松本。



ケロちゃんとベロちゃん別枠なのかよ…

ってことは…


「神様、もしかしてスーちゃんいるんですか?」

「いるわよ」

「いるんかい!」


キーボードを突きながら、そっけない声で答える女神。

しょぼしょぼの目が3になっている。


三度、保管庫で石板を回収する松本。

当然のようにスーちゃんに追われている。

ケロちゃん、ベロちゃんと異なり三つ首である。


「ガウガウガウガウ!」

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙! いやもうお前だけでケロべロスでいいだろぉぉぉ!」

「ガァーウ!」

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙! 尻と足がぁぁぁ!」



三度、部屋に転がる松本。

尻と両足を齧られている。


「ローちゃんも来たー」

「久しぶりだーオヤツ取ってくるー」


ローちゃんもテラスで走り回っている。

天使達がテラスに出るとケロちゃん、ベロちゃん、ローちゃんが寄って来る。

天使達が手に持ったオヤツを食べさせている。


「神様、あれ何あげてるんですか?」

「最近流行の『にゅーる』ってオヤツ」



にゅーる…



「私ちょっと目がしょぼしょぼして…」

「休憩しますか…」

「そうしましょ…」


目がしょぼしょぼの女神と尻と両足を擦る松本はクッキーと紅茶で一息ついた。



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