表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
83/309

83話目【天界 3 進まない仕事、止まれない松本】

石板を運ぶ松本、キーボードを突く女神。

転生君のハンドルを回す天使達。


「あのー神様、俺がここに来てから何回休憩しましたっけ?」

「えー? 5回くらいじゃない?」

「それって結構時間たってますよね?」

「えー? うんまぁ、経ってるんじゃない?」


目がしょぼしょぼの女神、返事に覇気がない。


「なに? どうしたの? あぁ~目がぁ…」


3になった目を揉む女神。


「いや、いつまで経っても夜にならないんで、おかしいなって…」

「夜?」


首を傾げる女神。


「あぁそういうことね。そりゃならないわよ天界だもの」

「どういうこと?」


石板を持ち上げた松本が首を傾げた。


「それは貴方の世界の基準であって、天界では通用しないのー。

 考えてみななさい、ここは全ての世界から魂がやって来るのよ、

 全ての世界が貴方と同じ時間軸で動いてるわけないでしょ~」


肩を上下させ首振る女神。


「あ゙ぁ~肩が凝ったわ…ちょっと貴方暇でしょ? 肩揉んで頂戴」


首筋を抑え背中を向ける女神、仕草がババ臭い。



あんたは俺の親か…



女神の首筋から肩に掛けて親指で指圧する松本。


「あ゙ぁ~効くわぁ~、そこそこ、そこ押して頂戴。

 あ゙ぁ~首筋から目の奥まで響くわぁ~」



声の出し方がオッサンなんだよなぁ…



「なかなか上手いわ~貴方ここでマッサージ係りやりなさいよ」

「いや俺まだ生きてるんで…」

「心配しなくても大丈夫よ~、そのうちちゃんと肉体が死ぬから問題ないわ~」

「はい!?」


寝耳に水の松本、動きが止まる。



「あれ? 言ってなかったっけ? 魂が抜けた肉体って動けないから栄養取れないでしょ?

 当然そのうち衰弱死するの、まぁ無防備だから野生動物に襲われることもあるけど」



おぃぃぃ!? さらっとトンデモナイこと言ってんですけどぉぉぉ!

最初に言えよそういう重要なことは!



「ちょっと、手が止まってるわよ。神に仕える者としての敬いと自覚が足りないんじゃない?」

「では失礼しまして…」

「そうよ、しっかり揉みなさい」

「しっかりですね…畏まりました」


目を見開き、親指に力を込める松本。


「あだだだだ!? ちょっと強いだだぁぁぁ!?」

「何さらっと重要事項伝え忘れてんだおらぁぁ!」

「ぎゃぁぁぁ肩がぁぁぁ肩がぁぁぁ!?」

「どうすんの!? 俺の体どうなっちゃってんの!? 

 今頃きっと大変なことになってるってこれぇぇぇ」

「ぎゃぁぁぁ私の体も大変なことになってるわよぉぉぉ!?」


半泣きの松本とポンコツ女神。

女神の肩こりが解消した。



「体が軽い! まるで羽が生えたように軽いわ!」


澄んだ瞳で青空に両手広げる女神。


「うぅ…俺の体ぁぁぁ…またポンコツ神に殺されるぅぅぅ…」


膝を抱えたまま転がり涙を流す松本、床に水溜まりが出来ている。

天に昇る神と地に沈む人間。

まるで天国と地獄の縮図である。



「うぅ…」

「悪かったわよ…元気出しなさいって…と、取りあえず体の様子を確認しましょう」


机にあるもう片方のモニターを松本に向ける女神。

モニターにはポニ爺が引く馬車が映っている。

シュバっと松本がモニターに張り付き目を凝らすと

手綱を引くバトー、荷台にミーシャとルドルフ、そして松本の体が見えた。


「どうだミーシャ、ルドルフ、まだ起きそうにないか?」

「まだ駄目だな、息はしてるけどよ」

「大体なんでこのキノコ生で食べちゃったのよ? 図鑑調べたんでしょミーシャ」


ルドルフが齧られたキノコをミーシャに突き付けている。


「ちゃんと調べたぞ、食べられるって書いてあったんだよ。ほらここ」


図鑑を捲りヤマタケのページを開くミーシャ。

バトーとルドルフが覗き込む。


「ほらここだよ。 『ヤマタケ』山や森などの暗い場所によく自生しています。

 毒は無く生でも食べられます。焼くとさらに美味しい。な?」

「そうだな、確かに書いてあるな」

「はぁ~」


文章を読み納得するバトーの横でルドルフがため息をついている。


「よく見なさいよ2人共」

「見たじゃねぇか」

「どうしたんだルドルフ」

「ここよ、こーこ!」


ページの右下に記載されている注意書きをバトーが読む。


「なになに? ヤマタケにはヤバタケという非常に似たキノコが存在します。

 毒性が強く間違って食べると非常に危険です。詳細は次のページを参照。」


ページをめくるバトー。

ヤマタケに似たキノコがドクロマークと共に記載されている。


「えーと、『ヤバタケ』毒性が強いヤバいキノコ。

 生で食べると舌にピリピリと刺激を感じます、

 瞬く間に気を失い、その後一時的に仮死状態になります。かなりヤバいです。

 ヤマタケと非常に似ており、森で過って食べると野生動物や魔物に襲われ

 ほぼ間違いなく死にます。凄くヤバいです。

 仮死状態は数時間時間程で解消し、後遺症などはありませんが

 気を失った際に転倒し、大抵怪我をするので外傷を負います。そこはかとなくヤバいです。」

「ヤバいわね」

「ヤバいな」

「やべぇな」


とにかくヤバいキノコ『ヤバタケ』。


「どうやって見分けるんだよ?」

「えーと、ヤバタケとヤマタケはキノコの裏側の色で判断できます。

 ヤバタケの裏は紫色。ヤマタケの裏側は白色です。 だそうだ」

 

転がるキノコに視線が集中する。

コロコロと転がり止まる、裏側の色は…


『 紫 』




 


ヤマタケじゃなくてヤバタケだったぁぁぁ!

本の作者の方、疑ってすみませんでたぁぁぁぁぁ!



モニターの前で白目を剥く松本。

松本の横で女神オーラが揺らいでいる。


「っは!?」

「貴方、確か私を疑ってたわよね?」

「す、すみませんでたぁぁぁぁぁ」


土下座する松本、忍び寄る転生君と天使達。


「いやぁぁぁ! 本当にすみませんでしたぁぁぁ! 敬いますぅぅぅ!」

「二度と神を疑うんじゃないわよ! ポンコツなのはどっちなの?」

「私で御座いますぅぅぅ!」

「そうよ! っは、いい眺めね! そうやって這いつくばり地面に額を擦り付けるのよ!

 私は全知全能の神! 敬い奉られる存在なのよぉぉぉぉ! おーっほっほっほ!」


松本を見下ろし、ここぞとばかりに承認欲求と自己顕示欲を満たす女神。

 

「私はポンコツではない!」

「ありません!」

「私は神!」

「全知全能の神であらせられます!」

「トースターを落として人の子を爆死させていない!」

「いや、それはあるだろ。あんま調子に乗るなよ」

「っち…」



何どさくさに紛れて無かったことにしようとしてんだ、このポンコツ…



一方、下界のバトー達。


「ところでよ、数時間で目が覚めるんだろ? もう1日経つぜ?」

「なんで目覚めないのかしらね?」

「まぁ、マツモトだしな」

「そうね」

「そうだな、うおっ!?」


車輪が石に乗り馬車が跳ねた。

松本の体が跳ね頭をぶつけた。


「コブが出来たな」

「回復しとけば大丈夫でしょ、マツモトだし」

「「そうだな」」


ヒールを掛けられ松本のコブが治り、ついでにリバイブを掛けられ体が膨らんだ。

松本の体は頭を打たないように荷台の天井から吊り下げられた。




「いや…有難いけど、扱いが雑じゃない?」

「贅沢言うんじゃないわよ」


天界の松本は複雑な気持ちになった。







キーボートを突く女神、相変わらず遅い。

運んできた石板が山積になっている。


「あの、終わった石板戻したいんですけど」

「それならあそこのやつよ、持って行って」


女神が指差した部屋の隅に石板が積まれている。



12枚…作業開始してから結構時間経ったよな…



「ちょっと神様、作業ペース上げて貰えないですか?」

「うるさいわね、既に全力よ。 えーっと何処だっけ?」」


キーボードの上で目を泳がす女神。


「本当にお願いします、このままだと俺の体衰弱死しちゃうんで」


女神の額に血管が浮いた。


「あのねぇ! 私は全力でやってるの! ごちゃごちゃ言うんじゃないわよ!」

「いや、それはわかりますけど…」


立ち上がり、松本の胸倉を掴み前後に振る女神。


「なに? 私がサボってるとでも言いたいわけ! 

 私の努力を考慮しなさいよ、ど・りょ・く・を! 

 結果がすべてじゃないの! 過程が大事なのよ!」


女神の胸倉を掴み前後に振る松本。


「時と場合に寄るだろ!? 見てあれ、12枚、これだけ時間があって12枚!

 何十年掛ける気なんだよ! 俺死ぬよ? このままだと俺確実に死ぬよ!?」


攻守が入れ替わる。


「いいじゃない! 一度死んだんだから腹据えなさいよ!」 

「いいわけないだろ! 俺を下界に戻してからやればいいじゃない!? 

 1人でゆっくりやればいいじゃない!?」

「それは嫌」

「なんでよ?」

「大変なのよ、私一人だけ大変な思いしたくないのよ、同じ辛さを共感しなさいよ」

「ただの我儘だろ! 神様の仕事に一般人を巻き込むんじゃないよぉぉぉ!」

「手伝いなさいよぉぉぉ! 手伝って私を楽させなさいよぉぉぉ!」

「だから手伝ってるでしょうが!? 見なさいよこの山積の石板!

 入力が遅いからどんどん溜まってるんでしょうが!」


女神の机の後ろには石板が山積になっている。

もはや壁である。


「そこまで言うなら貴方が入力したらいいでしょ! やってみなさいよ!

 私に大口叩いた実力を見せて見なさいよぉぉぉ!」

「あぁ見せたいね! 出来る事なら変わりたいですよー!

 でもね、読めないの! 文字が読めないのよちくしょぉぉ!」


松本は天界の文字が読めなかった。


「なに? じゃ文字が読めれば入力できるわけ?」

「まぁ、神様よりは確実に早いですけど…え? 読めるように出来るんですか?」

「ちょっとまってなさい」


ごそごそと棚の引き出しを漁り、女神が戻ってきた。


「てれれれってれ~、翻訳眼鏡~」

「なんでダミ声なんですか?」

「なんとなくよ…」


女神は少し恥ずかしそうに目を逸らした。


「これを掛ければいいんですか?」

「そうよ、掛ければ読める筈よ」

「はぁ… おぉ!?」


眼鏡を付けたり外したりする松本。

レンズ越しだと日本語に見える。


「へぇ~すっごい。流石天界、これが神の御業か…」

「それ市販品よ、この本で買えるわ」


分厚い本を見せる女神。

業務用用品が沢山記載されている。



コピー用紙、バインダー、ホースや梯子…

こういう本って、何処の世界にもあるんだな…

俺も翻訳眼鏡欲しい…



モニターの前に座る松本。

キーボードを突いている。


「どう? できそう?」

「大丈夫ですね、入力した文字も理解できます。ここに入力すればいいんですか?」

「そうよ、さぁ実力を見せてもらお…は、早い!?」


両手で入力する松本、それなりに早い。


「ふふ、これが俺の実力ってヤツですよ!」

「や、やるじゃない」


女神の額を汗が伝う。


「生前、伊達にゲームやってたわけじゃないですからねぇ! あーっはっはっは!」


入力しながら高笑いする松本。そこそこ早い。


「これが、いい年してゲームをやり続けたオジサンの末路なのね…」

「ぐぅぅぅ!? や、やめて…」

「こ、これが死ぬまで恋愛経験のなかった…種の存続を顧みなかった人間の実力…」

「ほげぇぇぇ…」


的確に心を抉られながらも手を止めず入力を続ける松本。

何故なら急がないと体が死ぬのである。

心が死ぬのが先が…体が死ぬのが先か…

止まるな松本、己が未来の為に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ