83話目【天界 3 進まない仕事、止まれない松本】
石板を運ぶ松本、キーボードを突く女神。
転生君のハンドルを回す天使達。
「あのー神様、俺がここに来てから何回休憩しましたっけ?」
「えー? 5回くらいじゃない?」
「それって結構時間たってますよね?」
「えー? うんまぁ、経ってるんじゃない?」
目がしょぼしょぼの女神、返事に覇気がない。
「なに? どうしたの? あぁ~目がぁ…」
3になった目を揉む女神。
「いや、いつまで経っても夜にならないんで、おかしいなって…」
「夜?」
首を傾げる女神。
「あぁそういうことね。そりゃならないわよ天界だもの」
「どういうこと?」
石板を持ち上げた松本が首を傾げた。
「それは貴方の世界の基準であって、天界では通用しないのー。
考えてみななさい、ここは全ての世界から魂がやって来るのよ、
全ての世界が貴方と同じ時間軸で動いてるわけないでしょ~」
肩を上下させ首振る女神。
「あ゙ぁ~肩が凝ったわ…ちょっと貴方暇でしょ? 肩揉んで頂戴」
首筋を抑え背中を向ける女神、仕草がババ臭い。
あんたは俺の親か…
女神の首筋から肩に掛けて親指で指圧する松本。
「あ゙ぁ~効くわぁ~、そこそこ、そこ押して頂戴。
あ゙ぁ~首筋から目の奥まで響くわぁ~」
声の出し方がオッサンなんだよなぁ…
「なかなか上手いわ~貴方ここでマッサージ係りやりなさいよ」
「いや俺まだ生きてるんで…」
「心配しなくても大丈夫よ~、そのうちちゃんと肉体が死ぬから問題ないわ~」
「はい!?」
寝耳に水の松本、動きが止まる。
「あれ? 言ってなかったっけ? 魂が抜けた肉体って動けないから栄養取れないでしょ?
当然そのうち衰弱死するの、まぁ無防備だから野生動物に襲われることもあるけど」
おぃぃぃ!? さらっとトンデモナイこと言ってんですけどぉぉぉ!
最初に言えよそういう重要なことは!
「ちょっと、手が止まってるわよ。神に仕える者としての敬いと自覚が足りないんじゃない?」
「では失礼しまして…」
「そうよ、しっかり揉みなさい」
「しっかりですね…畏まりました」
目を見開き、親指に力を込める松本。
「あだだだだ!? ちょっと強いだだぁぁぁ!?」
「何さらっと重要事項伝え忘れてんだおらぁぁ!」
「ぎゃぁぁぁ肩がぁぁぁ肩がぁぁぁ!?」
「どうすんの!? 俺の体どうなっちゃってんの!?
今頃きっと大変なことになってるってこれぇぇぇ」
「ぎゃぁぁぁ私の体も大変なことになってるわよぉぉぉ!?」
半泣きの松本とポンコツ女神。
女神の肩こりが解消した。
「体が軽い! まるで羽が生えたように軽いわ!」
澄んだ瞳で青空に両手広げる女神。
「うぅ…俺の体ぁぁぁ…またポンコツ神に殺されるぅぅぅ…」
膝を抱えたまま転がり涙を流す松本、床に水溜まりが出来ている。
天に昇る神と地に沈む人間。
まるで天国と地獄の縮図である。
「うぅ…」
「悪かったわよ…元気出しなさいって…と、取りあえず体の様子を確認しましょう」
机にあるもう片方のモニターを松本に向ける女神。
モニターにはポニ爺が引く馬車が映っている。
シュバっと松本がモニターに張り付き目を凝らすと
手綱を引くバトー、荷台にミーシャとルドルフ、そして松本の体が見えた。
「どうだミーシャ、ルドルフ、まだ起きそうにないか?」
「まだ駄目だな、息はしてるけどよ」
「大体なんでこのキノコ生で食べちゃったのよ? 図鑑調べたんでしょミーシャ」
ルドルフが齧られたキノコをミーシャに突き付けている。
「ちゃんと調べたぞ、食べられるって書いてあったんだよ。ほらここ」
図鑑を捲りヤマタケのページを開くミーシャ。
バトーとルドルフが覗き込む。
「ほらここだよ。 『ヤマタケ』山や森などの暗い場所によく自生しています。
毒は無く生でも食べられます。焼くとさらに美味しい。な?」
「そうだな、確かに書いてあるな」
「はぁ~」
文章を読み納得するバトーの横でルドルフがため息をついている。
「よく見なさいよ2人共」
「見たじゃねぇか」
「どうしたんだルドルフ」
「ここよ、こーこ!」
ページの右下に記載されている注意書きをバトーが読む。
「なになに? ヤマタケにはヤバタケという非常に似たキノコが存在します。
毒性が強く間違って食べると非常に危険です。詳細は次のページを参照。」
ページをめくるバトー。
ヤマタケに似たキノコがドクロマークと共に記載されている。
「えーと、『ヤバタケ』毒性が強いヤバいキノコ。
生で食べると舌にピリピリと刺激を感じます、
瞬く間に気を失い、その後一時的に仮死状態になります。かなりヤバいです。
ヤマタケと非常に似ており、森で過って食べると野生動物や魔物に襲われ
ほぼ間違いなく死にます。凄くヤバいです。
仮死状態は数時間時間程で解消し、後遺症などはありませんが
気を失った際に転倒し、大抵怪我をするので外傷を負います。そこはかとなくヤバいです。」
「ヤバいわね」
「ヤバいな」
「やべぇな」
とにかくヤバいキノコ『ヤバタケ』。
「どうやって見分けるんだよ?」
「えーと、ヤバタケとヤマタケはキノコの裏側の色で判断できます。
ヤバタケの裏は紫色。ヤマタケの裏側は白色です。 だそうだ」
転がるキノコに視線が集中する。
コロコロと転がり止まる、裏側の色は…
『 紫 』
ヤマタケじゃなくてヤバタケだったぁぁぁ!
本の作者の方、疑ってすみませんでたぁぁぁぁぁ!
モニターの前で白目を剥く松本。
松本の横で女神オーラが揺らいでいる。
「っは!?」
「貴方、確か私を疑ってたわよね?」
「す、すみませんでたぁぁぁぁぁ」
土下座する松本、忍び寄る転生君と天使達。
「いやぁぁぁ! 本当にすみませんでしたぁぁぁ! 敬いますぅぅぅ!」
「二度と神を疑うんじゃないわよ! ポンコツなのはどっちなの?」
「私で御座いますぅぅぅ!」
「そうよ! っは、いい眺めね! そうやって這いつくばり地面に額を擦り付けるのよ!
私は全知全能の神! 敬い奉られる存在なのよぉぉぉぉ! おーっほっほっほ!」
松本を見下ろし、ここぞとばかりに承認欲求と自己顕示欲を満たす女神。
「私はポンコツではない!」
「ありません!」
「私は神!」
「全知全能の神であらせられます!」
「トースターを落として人の子を爆死させていない!」
「いや、それはあるだろ。あんま調子に乗るなよ」
「っち…」
何どさくさに紛れて無かったことにしようとしてんだ、このポンコツ…
一方、下界のバトー達。
「ところでよ、数時間で目が覚めるんだろ? もう1日経つぜ?」
「なんで目覚めないのかしらね?」
「まぁ、マツモトだしな」
「そうね」
「そうだな、うおっ!?」
車輪が石に乗り馬車が跳ねた。
松本の体が跳ね頭をぶつけた。
「コブが出来たな」
「回復しとけば大丈夫でしょ、マツモトだし」
「「そうだな」」
ヒールを掛けられ松本のコブが治り、ついでにリバイブを掛けられ体が膨らんだ。
松本の体は頭を打たないように荷台の天井から吊り下げられた。
「いや…有難いけど、扱いが雑じゃない?」
「贅沢言うんじゃないわよ」
天界の松本は複雑な気持ちになった。
キーボートを突く女神、相変わらず遅い。
運んできた石板が山積になっている。
「あの、終わった石板戻したいんですけど」
「それならあそこのやつよ、持って行って」
女神が指差した部屋の隅に石板が積まれている。
12枚…作業開始してから結構時間経ったよな…
「ちょっと神様、作業ペース上げて貰えないですか?」
「うるさいわね、既に全力よ。 えーっと何処だっけ?」」
キーボードの上で目を泳がす女神。
「本当にお願いします、このままだと俺の体衰弱死しちゃうんで」
女神の額に血管が浮いた。
「あのねぇ! 私は全力でやってるの! ごちゃごちゃ言うんじゃないわよ!」
「いや、それはわかりますけど…」
立ち上がり、松本の胸倉を掴み前後に振る女神。
「なに? 私がサボってるとでも言いたいわけ!
私の努力を考慮しなさいよ、ど・りょ・く・を!
結果がすべてじゃないの! 過程が大事なのよ!」
女神の胸倉を掴み前後に振る松本。
「時と場合に寄るだろ!? 見てあれ、12枚、これだけ時間があって12枚!
何十年掛ける気なんだよ! 俺死ぬよ? このままだと俺確実に死ぬよ!?」
攻守が入れ替わる。
「いいじゃない! 一度死んだんだから腹据えなさいよ!」
「いいわけないだろ! 俺を下界に戻してからやればいいじゃない!?
1人でゆっくりやればいいじゃない!?」
「それは嫌」
「なんでよ?」
「大変なのよ、私一人だけ大変な思いしたくないのよ、同じ辛さを共感しなさいよ」
「ただの我儘だろ! 神様の仕事に一般人を巻き込むんじゃないよぉぉぉ!」
「手伝いなさいよぉぉぉ! 手伝って私を楽させなさいよぉぉぉ!」
「だから手伝ってるでしょうが!? 見なさいよこの山積の石板!
入力が遅いからどんどん溜まってるんでしょうが!」
女神の机の後ろには石板が山積になっている。
もはや壁である。
「そこまで言うなら貴方が入力したらいいでしょ! やってみなさいよ!
私に大口叩いた実力を見せて見なさいよぉぉぉ!」
「あぁ見せたいね! 出来る事なら変わりたいですよー!
でもね、読めないの! 文字が読めないのよちくしょぉぉ!」
松本は天界の文字が読めなかった。
「なに? じゃ文字が読めれば入力できるわけ?」
「まぁ、神様よりは確実に早いですけど…え? 読めるように出来るんですか?」
「ちょっとまってなさい」
ごそごそと棚の引き出しを漁り、女神が戻ってきた。
「てれれれってれ~、翻訳眼鏡~」
「なんでダミ声なんですか?」
「なんとなくよ…」
女神は少し恥ずかしそうに目を逸らした。
「これを掛ければいいんですか?」
「そうよ、掛ければ読める筈よ」
「はぁ… おぉ!?」
眼鏡を付けたり外したりする松本。
レンズ越しだと日本語に見える。
「へぇ~すっごい。流石天界、これが神の御業か…」
「それ市販品よ、この本で買えるわ」
分厚い本を見せる女神。
業務用用品が沢山記載されている。
コピー用紙、バインダー、ホースや梯子…
こういう本って、何処の世界にもあるんだな…
俺も翻訳眼鏡欲しい…
モニターの前に座る松本。
キーボードを突いている。
「どう? できそう?」
「大丈夫ですね、入力した文字も理解できます。ここに入力すればいいんですか?」
「そうよ、さぁ実力を見せてもらお…は、早い!?」
両手で入力する松本、それなりに早い。
「ふふ、これが俺の実力ってヤツですよ!」
「や、やるじゃない」
女神の額を汗が伝う。
「生前、伊達にゲームやってたわけじゃないですからねぇ! あーっはっはっは!」
入力しながら高笑いする松本。そこそこ早い。
「これが、いい年してゲームをやり続けたオジサンの末路なのね…」
「ぐぅぅぅ!? や、やめて…」
「こ、これが死ぬまで恋愛経験のなかった…種の存続を顧みなかった人間の実力…」
「ほげぇぇぇ…」
的確に心を抉られながらも手を止めず入力を続ける松本。
何故なら急がないと体が死ぬのである。
心が死ぬのが先が…体が死ぬのが先か…
止まるな松本、己が未来の為に。




