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35話目【ウルダ祭 8 勝利の裏側】

「アハハハハ! 実に愉快な助っ人じゃないですか!」

「そんなに面白いですか? 私は心配になりますけど…」

「この試合は既に決していました。チャンピオンの勝利は揺るがず、結果を待つだけ。

 その流れを、あの少年は見事に変えてくれました」

「まぁ、少しは変わったかもしれませんが…あの様子では結果は同じのようですね」

「フフ、私はあの少年に期待していますよ、デフラ町長」 




松本とゴンタは1本の剣を握り互いを押し合う。

ステージ中央から始まった力比べは東側へ移動し、ゴンタへと旗色が傾いた。


多少回復したとはいえ戦う力は残っていない、自分の戦いは終わったとカイは感じていた。

押し込まれるながらもゴンタへと抗う松本に、少年達は思いを託す。

ステージ上の静かな戦いが勝敗を決するのだ。



「頑張ってマツモト君、下がっちゃだめだ…」

「マツモト君は頑張っているよ、ゴンタと力比べしてあれだけ耐えてるんだ」

「そうだね、僕達じゃ無理だ…でも…」

「目を逸らしちゃ駄目だよ、ラッテオ。これが最後の戦いだ」

「ぞうだねカイ、一緒に見届けよう」


勝敗の行方を見守るカイとラッテオは、一瞬時間が停止したように感じた。

前進していたゴンタの背中が止まり、ゆっくりと押し戻される。

にわかに信じがたい光景は、ステージ中央まで戻って来たゴンタの表情を見て確信へと変わる。

先程までの自信は消え、焦りと驚きが浮かんでいる。

場外が射程圏内に入るとゴンダが声を上げた。


「ぐっ…認めねぇ! 俺様がこんな弱いヤツに負けるわけがねぇ!」

「負けるんだよお前は、俺だけじゃない。カイとラッテオにもさ」


ラッテオは胸を締め付けられた。

何一つ及ばず、策も通じず、呆気なく場外に落とされ、その結果カイは1人になった。

諦めず立ち上がるカイを見て強がってはみたが、自分のせいで勝敗が決したことは理解していた。

ゴンタを追い詰めているのは松本の力であり、貢献などしていない…


「ふざけるな! あいつ等は俺様に負けたじゃねぇか!」

「カイはまだステージの上にいるだろ、2人が頑張ったから俺がここにいるんだよ。

 それに、その足をそこまで弱らせたのはカイとラッテオさ」


松本の言葉を受け初めて気が付く…ゴンタの足は震え踏ん張れていない。

その意味を理解し胸が熱くなった。

無意味ではなかったと、自分の戦いはまだ終わっていない。

2人で積み上げた成果の上で松本は戦っている。


「まだ終わっていなかった…マツモト君だけじゃない、あれは僕達3人の戦いだよ」

「そうだねラッテオ。僕自身は負けたけど、僕達はまだ負けてなかったんだね」





西側ステージの淵、松本とゴンタは立ち止まる。


「もう後がないよゴンタ」

「うるせぇ! 俺様は強いんだ! 負けるわけねぇ!」


虚勢を張るゴンタを見て戦いの終わりを感じ取るカイとラッテオ。

ゴンタは場外に落ち、長かった戦いはあっさりと決した。


「ラッテオ、僕達の勝ちだ」

「僕はまだ信じられないよ、カイ」


2人の元に両脇腹を擦りながら松本が寄ってくる。


「いてて…危なかったけどなんとか勝てた。2人が頑張ってくれたおかげだよ」

「僕達だけじゃ勝てなかったよ、ありがとう」

「ありがとうマツモト君、君の言葉に救われた気がしたよ。

 さぁ、カイも立って。勝者は格好よくステージを降りないと」

「肩を貸そうか?」

「大丈夫、自分で歩けるよ。 それにマツモト君の方が重症だと思うよ」

「確かに…」

「「「ハハハハハハハ」」」


北側ステージ端で笑う3人の少年達に司会進行のカルニが話しかける。


「おめでとう少年達! お楽しみのところ悪いんだけど、そろそろステージを開けて貰えないかしら」

「あ、すみません。行こうカイ」

「わかったよ、ラッテオも行こう」

「僕の分まで胸を張ってよ、広場の東側でミリーも見てる」

「観客に手を振っていきなさい。盛り上げるのも勝者の仕事よ~

(結局、勝っちゃったわね…よく解らないけど変な子だったわ…)」


歓声に包まれ勝者達はステージを降りた。






「美しい! 実に美しい試合でした!

 次々と倒れる有志、危機を救うべく現れた少年、剣技は遠く及ばず、

 無謀とも思われる力と力の戦い、劣勢に陥りながらも逆境を覆し、勝利を収める。

 なにより、あの勝利には倒れた有志の力も含まれていました」

「随分とお気に召されたようですね、ロックフォール伯爵。

 とはいえ、私も大人げなく力が入っていましました。

 特にチャンピオンを押し返し出した時は、思わず声が出ましたよ」

「華やかではありませんでしたが、ストーリー性のある見事な戦いでした。

 チャンピオンにも賛辞を贈りたい…デフラ町長、先の魔道義足の件、喜んでお受けします」

「本当ですか!? 感謝致します!」

「いえいえ、こちらこそ感謝します。招待して頂かなければ、この試合は見られませんでしたから。

 それにしても面白い少年でしたね」

「確かに、変わった少年でした」


北側の観覧席で貴族と町長はグラスを交わした。





「カイお兄ちゃん達すごーい!」

「やったよミリー! これで明日から好きなお菓子を買えるよ!」

「ホント? 焼き芋も買える?」

「買えるさ! もうゴンタにパンを買わなくて済むからね、お兄ちゃんの分も使ってもいいぞ!」

「やったー! でもお兄ちゃんの分はいらない、一緒に食べたい!」

「そうか! 一緒に食べようなーミリー!」


広場から東、少し入った路地で子供達は喜びを爆発させていた。

特にミリーは明日のお菓子に目を輝かせている。


「ラッテオ、マツモト君、本当にありがとう。ミリーと僕だけじゃゴンタには勝てなかったよ」

「よかったねカイ、ミリー。こちらこそありがとう。僕1人じゃ踏み出せなかった、少し変れた気がするよ」



眩しぃぃぃぃぃ! 眩しすぎる! 青春の光ィィィ! 



輝く子供達に両脇を抱え身悶えする松本、不思議がる3人。


「どうしたのマツモト君? そんなに身悶えして…傷が痛むの?」

「き、気にしないで、少し光に焼かれただけだから…」

「よく解らないけど、とにかくありがとう!」

「どういたしまして! こちらこそ、ありがとうね」

「「どういたしまして!」」

「ところでラッテオ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど…」


手招きしてラッテオを呼ぶ松本


「どうしたの? 僕だけに聞きたいこと?」

「まぁ、あの2人は知らない方がいいからね。ゴンタの居場所を教えて欲しいんだよ」

「なんで?」

「今この町の子供達はゴンタが力で支配しているんだろ? そしていくつかチームがある」

「そうだよ」

「さっき絶対王者のゴンタは負けたんだ、今まで保たれていたバランスが崩れて誰かが支配者になりたがる筈さ」

「なるほど…そうすると、カイ達はゴンタからは自由になったけど、別の支配者は現れたら同じ…」

「そういうこと。いやー流石ラッテオ君、話が早いねぇ」

「でもどうするのさ? きりがないよ?」

「まぁ、オジサンに任せときなさい…」

「だから、君、年下だよね?」


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