↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/310

34話目【ウルダ祭 7 オジサンの戦い方】

ステージ上の人数が1人減り、挑戦者に敗北の色が濃くなる。

北側の観覧席では、貴族と町長が結果を見守っている。


「この試合もそろそろ終わりのようですね。

 無謀に思われたチャンピオンへの挑戦、集う有志、巡らせる思考…

 持ちうる力を出し切っても、なお届かぬ高見、それでも消えない光。

 抗う者全てが望む結果を得るとは限らない…悲劇もまだ美しい。

 …そうは思いませんか? デフラ町長」

「内情を知る私としては挑戦者を応援しておりましたが、ここまでのようです」

「おや? デフラ町長は公平な立場で観戦されてると思いましたが…意外ですね」


予想外の返答に驚くロックフォール伯爵。


「ハハハ、私も人の子ですからね。立場上、私の元には様々な情報が集まります。

 これは我々大人とは異なる、子供達の世界、その規律に抗う戦いなのです。

 挑戦者は自分の力で乗り越えようとしたのですよ。

 我も子供の頃は、ああいう世界がありました。今では酒の肴ですがね」

「確かに、ありましたねそんな世界も。まぁ、私の場合はその延長線上ですが…」


軽くため息をつくロックフォール伯爵、それを見て苦笑いするデフラ町長。


「貴族というのは大変そうですね」

「まったく、飽きもせずよくやりますよ… それより、風向きが変わりそうですよ」


新たな風に目を輝かせるロックフォール伯爵、ステージの外をフランスパンが運ばれていく。




「惜しかったね、怪我はないかい? ラッテオ」

「マツモト君? 大丈夫、怪我はないよ。 …僕には変えられなかったみたい」


悲しい笑顔をで笑うラッテオ。


「そうでもないさ、君は立ち向かえただろ? 午前中に会った臆病な君と今の君は別人だよ。

 褒美として、またポニ爺の耳を触らせてあげよう」

「そうかな? それなら今度は自分でポニ爺に相談するよ。もう臆病じゃなからね」


ラッテオの顔から少しだけ悲しみが消えた。


「はは、ちょっとだけ元気になったみたいだ。さて、俺はカイのところに行くよ、限界みたいだし」

「参加するのかい? 君が?」

「なぁにオジサンに任せておきなさい。勝負はこれからさ」

「…君って僕より年下だよね?」


松本の背中が大きく見える。

ポッポ村の仕事で広背筋が発達してきたようだ。




ステージ上ではゴンタがカイに苛立っている。


「なんだその目は! やる気だけあっても意味がねぇ!

 必要なのは力だ、強い者が偉いんだ! その強い俺様にお前は負けたんだよ!

 これで終いだ、明日から約束通りパン2個持ってこいよ!」


ゴンタが剣を構える、カイは両手を下げたまま睨みつけている。

カルニが杖をカイに向け強化魔法を唱えようとした時、背後から声が上がった。


「ちょっとまった~」


北側のステージ上にフランスパンが置かれ、松本が手を挙げている。

横にはラッテオの姿もある。

声に反応し、ステージ上の3人が振り向く。


「なに? そんなにパンが食べたいの? 俺のパン1個あげようか?」


ステージに置かれたパンを見て判断に迷うカルニ。


「(何この子? 助っ人でいいのかしら? いやでもパンなのよね…)」


パンを片手にステージに上がる松本、カイとゴンタも反応に困っている。

会場も状況がよく解らず、カルニのアナウンスを待っている。


「カイ大丈夫かー? あんまり無理すると歳取ってから後悔するぞ」

「なんとか大丈夫だけど…どうしたの? マツモト君」

「いや~カイとラッテオが頑張ってるのが眩しくてね。

 少しあっちで休んでおいでよ、剣と盾は貸してね、俺何も持ってないから」


ラッテオのいる方向を指さす松本。


「僕はまだ試合中だよ…まだ負けてないんだ」

「そうだね、まだ負けてない。だから少しの間、俺が変わるよ」

「マツモト君が? 大丈夫?」

「今のカイよりはマシさ、オジサンを信じなさいって」

「…よく解らないけど、任せるよ。頑張ってね」


フラフラとラッテオの傍に寄り座るカイ。

カイと入れ替わる松本を見てようやく判断が付くカルニ。


「さぁ! なんと、土壇場で助っ人が現れましたー! 勝負再開です!」

「よく来た助っ人ー! 応援してるぞー!」

「時間を稼いで休憩させろー! 2人で戦えー!」


再び沸き立つ会場、新たな助っ人に期待が高まる。


「アイツ、午前中の爪のヤツだろ?」

「オイオイオイ」

「死ぬわアイツ」


ゴンタの取巻き達は松本を見てニヤついている。


「ほうフランスパンですか…美味しそうですね」


取巻きの後ろで眼鏡のオッサンがフランスパンに興味を持つ。


「フランスパンは植物系オイルと相性がいいとか…」

「何だこのオッサン…」

「焼きたてのフランスパンにオリーブオイルと塩を愛用する者もいるくらいです」

「なんでもいいけどよォ…」

「フランスパンは試合に関係ないだろ…」


取巻き達は困惑した…







「お前も俺様に逆らうんだな! さっきはワザと見逃してやったんだ、俺様が勝ったらその爪を渡せよ」 


剣を向け凄むゴンタ、松本は、胸を張りパンを持ったまま腕を組んでいる。

威風堂々、チャンピオンに臆する様子はない。


「いいだろう! 負けたら爪をやろう、ただし俺が勝ったら俺に従うんだ、大体ねぇよくないよああいう…」

「おらぁぁぁ!」

「ぐっふぅぅぅぅぅぅぅ!?」


両手で振るったゴンタの全力の一撃が松本の左脇腹にめり込む。

真っ二つに千切れ宙を舞うフランスパン、ステージでのたうつ松本。



「チャンピオンの渾身の一撃ー! まともに受けたが大丈夫かー!

 (えぇ…大丈夫かしらこの子…のたうち回ってるけど…)」


えげつない光景に静まる会場


「おいバトー…大丈夫かあれ…」

「死んだんじゃないの…あれ…」

「いや…まぁ、大丈夫だろ…マツモトは大体いつもあんな感じだ…」

「どんな感じだよ…」

「恰好付けて出て行ったのに…凄く格好悪いわよ…」


酒場のテラス席ではミーシャとルドルフが呆れている。






「だ、大丈夫? マツモト君!」

「マツモト君、生きてる!?」


カイとラッテオの心配する声が響く。


「な、何が? ぜ、全然大丈夫…ですけど?」


左脇腹を抑える松本、膝が笑い顔色が悪い。


「全然大丈夫そうじゃないよマツモト君!?」

「無理しない方がいいよマツモト君!? 膝が震えてるよ!?」

「え? 何が? 全然痛くないですけど!? 全然平気ですけど!? ちょっとちょっと、やめてよ2人共! 

 これはあれだから、ただの武者震いだから! 恰好付けて出てたんだよ? そんな訳ないでしょ… うぷっ…」


口を押える松本。


「絶対無理してるよ!」

「絶対やせ我慢だよ!」

「ち、違うから! 無理してないから! ちょといい加減にしてくれる!? 

 違うよ? 今のは剣と盾持ってなかったからね? フランスパンだったからね?

 ったく、頼むよゴンタ君~、チャンピオンならその辺さぁ…ほらあるでしょ武士道みたいな?」

「いや知らねーよ…早く拾えよ…」


松本の必死さに引くゴンタとカイとラッテオ。

口笛を吹きながら剣と盾を拾う松本…冷や汗が止まらない。


「…準備はいいか?」

「ちょっと待ってくれる?(えーと左手が盾で、右手が剣だろ? てことは攻撃を盾で防いだ後、剣を振ればいいんだよな…)」


剣をブンブンと振り感触を確かめる松本。


「いやーごめんごめん。 もう大丈夫」

「今度は言い訳なしだぞ!」


武器を持って向かい合う松本とゴンタ、再び死闘が幕を開ける。

松本の復帰に沸く会場。



「一度中断しましたが、試合再開です!」

「おらぁぁぁ!」


カルニのアナウンスと共に、松本の右脇に剣振るゴンタ。

剣筋を確認し、左手の盾を動かす松本。


「(よし! この攻撃を盾で防いで反撃…)あっ…」


カン!

右手の剣に当たり、盾が止まる。

ゴンタの全力の攻撃が松本の右脇腹にめり込む。


「ぐっふぅぅぅぅぅぅぅ!?」



再び、のうたうち回る松本。

歓声は止み、カルニは魔法を掛けるか迷っている。


「(えぇ…さっきの子より弱いわね…この子、何しに出てきたのかしら?)」




「おいバトー…お前マツモトに稽古付けてるって言ったよな?」

「全然駄目じゃない…まるで素人なんだけど…」

「稽古って言っても、まだ剣は教えて無いからな…」

「じゃぁ何の稽古したんだよ…」

「基礎体力だな、今は鍬を1000回素振りさせている」

「あんた…それ子供にやらせてんの? 鬼ね…」

「どうすんだよ…体格で負けてんだ、剣の腕が無いと話になんねぇぞ…」

「まぁ、マツモトだからな。心配しなくても大丈夫だろ、アイツは馬鹿じゃないからな」

「そうかぁ?」


ミーシャとルドルフはバトーに呆れていた。





「ホントに大丈夫? マツモト君」

「今度こそ生きてる? マツモト君」

「え? だ、大丈夫ですけど? ピンピンしてますけど? え? 何? 何かありました?」


右脇腹を抑えながら白目を剥く松本。ときより痙攣している。


「絶対大丈夫じゃないよ!」

「ピンピンどころかビクンビクンしてるよ!」

「いやホントに大丈夫ですけど!? 全然イケますけど? 

 まだ2回やられただけじゃん!? 2人共もっとやられてたじゃん!? 

 逆に大丈夫2人共? まぁ俺は全然大丈夫ですけどね!」

「僕達は1回もまともに攻撃受けてないよ! 全部防いでたよ!」

「そんな風に体にめり込んでないよ! さっき僕に無理するなって言ったじゃん!」

「えぇ? 全然無理してませんけど!? 言いがかりはやめてもらえます!?」

「俺様は言いがかりでもなんでもいいぜ、どっちにしろこれで終いだからよ!」

 

カイとラッテオに対し強がる松本にゴンタが剣を付く。

溝内に向けられた剣は、松本に当たる寸前で止まった。


「なに掴んでるんだよ! 剣を握る奴がいるか! 放せよ!」

「剣? 真剣ら握る事なんで出来ないけど、これは木剣だろ? ただの棒と変わらないじゃないか?」

「ふざけるな! 俺様は剣術で戦ってるんだ、その手を放せ!」

「剣術ねぇ…それならカイとラッテオの方が先に剣を当てただろ?

 それに、お前もラッテオの剣を我慢して受け、その結果カイを止めた。

 剣術といっても、この試合は鈍器の殴り合い、結局我慢比べだ。

 どちらかが降参するか、場外に落ちるか、それがこの試合の決着だよ」

「だったらなんだ! さっさと手を放せ! 俺様の剣だぞ!」

「そんなに大事なら、しっかり握ってた方がいいよ」


ゴンタと松本、ステージ中央で1本の剣を握ったまま対峙している。

均衡を破り松本が前進する。


「なに!? 俺様と力比べする気か?」

「早く押し返しなよ、握り方はこっちが不利なんだよ?」

「調子に乗るなよ! おらぁぁぁぁ!」


両手で柄を握り全身に力を込めるゴンタ、松本を押し返し中央より東側に移動する2人。


「押されてるぞー! チャンピオンを押し返せー!」

「押せー! 力負けした方が場外に落ちるぞー!」

「チャンピオンの方が大きいから有利よ」

「助っ人の少年も頑張ってる方だろ、体重差は2倍以上あるぞ」


唐突に始まった力比べに会場の声援が飛ぶ。


「力比べでゴンタ様に勝てるわけないだろ!」

「剣が使えないからって、苦し紛れが通用するか!」

「生意気だぞ、押せーゴンタ様ー!」


取巻き達はゴンタの勝利を疑わない。

ゴンタと松本の身長差は50センチ近くあり、体重は2倍近い。

普通の子供であれば勝負にならない。






「いいねぇ、しっかり押すんだよ。力を抜くと転ぶからね」

「なに余裕こいてんだ! もう少しで場外だぞ!」


力を込めているのは松本も同じだが、言葉に余裕が感じられる。

2人の位置はステージ上東側、4分の1を残すのみとなっている。


「気を緩めてはいけないよ、怪我をするからね」


松本が口を開くとゴンタの前進が止まる。

重心を落とし、両脇を固め、足の指でステージを掴む。

一歩、また一歩と確実にゴンタを押し返していく。


「なっ!? この…」

「体の割に随分と軽いんだなゴンタ」

「くそっ!? なんでだ? こんな小さいヤツに…」

「それはね、腰が浮いてるからだよ。重心が浮いている、地に足が付いていないのさ」


勢いはないが一歩ずつ確実に、ゆっくりと押し返されるゴンタ。

状況が理解できず、会場全体が騒めいている。



「ほらな? 大丈夫だったろ」

「へぇ~、小さいくせに身体の使い方が上手いな。剣でチャンピオンの重心を押し上げてやがる」

「そんな小手先じゃ押し返せないでしょ? どういうことよ?」

「マツモトは俺達と一緒に仕事してるんだぞ? 毎日毎日、木を切って運んでるんだ。

 おまけに森に住んでるからな、村まで往復2時間の山道を歩いている。

 単純な基礎体力と足腰の強さでマツモトに勝てる子供は、あまりいないんじゃないか?」

「おまけにチャンピオンに先に足を使わせたしな、こりゃ決まりだな。 店員さーんビール1つ」

「俺もビール1つお願いします」

「私は果実酒を1つ、あと豆無いかしら?」


松本の勝利を確信したバトー達は一足先に祝杯を挙げた。




ステージ上の2人は西側に寄り、残り僅かで場外である。


「ぐっ…認めねぇ! 俺様がこんな弱いヤツに負けるわけがねぇ!」

「負けるんだよお前は、俺だけじゃない。カイとラッテオにもさ」

「ふざけるな! あいつ等は俺様に負けたじゃねぇか!」

「カイはまだステージの上にいるだろ、2人が頑張ったから俺がここにいるんだよ。

 それに、その足をそこまで弱らせたのはカイとラッテオさ」


ゴンタの足は小刻みに震え踏ん張りが効いていない、滴る汗がステージに染み込む。

だが、ゴンタは『ヒヨコ杯』5連覇のチャンピオン、この状況でも心は折れていない。


「もう後がないよゴンタ」

「うるせぇ! 俺様は強いんだ! 負けるわけねぇ!」


西側ステージの淵、後のないゴンタが虚勢を張る。

体格で劣り、剣の技術では足元にも及ばない少年がチャンピオンを追い詰めている。

長かった戦いの終焉に向け、観客は大きな声援で後押しする。

ゴンタの取巻きは信じられない光景に言葉も出ない。


「あとちょっとで場外よー! 押すのよー!」

「これで終わりだー! 一気に押せー!」

「最後よー! 油断しちゃだめよー!」

 



「あ、そうそう、確か…必要なのは力、強い者が偉いんだたっけ?」


剣を挟んで力み合う2人、松本がゴンタの目を正面から見る。


「なら俺の方が強いんだ…逆らうなよ」

「ヒェッ!?」


松本の狂気に満ちた目を見て肝を冷やすゴンタ。松本が手を離すと、剣を持ったまま場外へ落ちた。


「リングアウトー! 長かった戦い、ここに決着! チャンピオンを破り、挑戦者の勝利です!」


大番狂わせの勝利に沸く会場、何故か西側の観客は静かだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。