308話目【4千年の歩み(中)】
渡り鳥がマスト(帆柱)に止まった、
体毛は雛鳥のようにフサフサとしており、
嘴の下にペリカンのような喉袋がある、
鳴き声から察するに元はウミネコなのだろうが面影は少ない。
羽を休めにきたのか、私達を観察にきたのか、
どちらにせよ目に見える変化は喜ばしい、
何処までも広がる海と空、その境目に漂うヨット、
私達の外見が同じということもあり、
ここ1週間程は変わり映えの無い風景が続いている。
「部長、鳥がいるってことは陸が近いんですかね?」
「見る限りはそんなことはなさそうだが、南君どうだ?」
「全然駄目、きっとその鳥はマナで変化して
メチャクチャ飛べるようになったんだよ」
「あ、南先輩、次双眼鏡借りてもいいですか?」
「いいよ~私中でちょっと寝て来るから」
東大陸で人間が生存競争に負けたことを察した私達は
微かな希望に掛けて南大陸を目指すことにした。
故郷のある西大陸の選択肢もあったが、
旧時代の世界情勢的を踏まえた結果、
核兵器が存在している可能性が低い南大陸を選択した。
もし生き残った人達がいるならば、
対処不能な脅威は無い方が良い、
アレは再建した文明を再び破壊する力を持っている。
港に残されたヨットを整備して出港したのが1ヶ月程前、
操船方法は知らなかったので沖に出てから
試行錯誤しつつなんとか体得した。
ヨットは帆に風を受けて推進力を得るが離着岸の際は勝手が違う、
風が求める方向に向かって吹いているとは限らないからだ、
吹いていたとしても細かい操作は出来ずにぶつかってしまう。
その問題は搭載されているエンジンを使用し、
プロペラを回すことで解決できるのだが、
それはオイルと燃料が手に入る前提の話。
壊れていなくても動かせないエンジンは無用の長物、
悩んだ末に代替案としてマナを放出することで推進力を得ることにした。
この方法は凪の時の航行や、水平移動、後退といった
ヨットでは本来不可能な動きを実現できるので非常に使い勝手が良い。
「南西220度、恐らく大丈夫でしょう」
操船術とは別に航海技術も必要なのだが、
残念なことに私達はそちらも有してはいない。
小さなコンパスと地図と双眼鏡だけを頼りに大海原を進んでいる、
例えるなら手ぶらにサンダルで山を登るような暴挙。
常識人であれば青ざめるところだろうが、
幸いなことに私達は食料と水を必要としない、
傷も直ぐに完治する特異体質なので
遭難という概念は一般のそれとは異なる。
寿命や老化の概念が存在するかも怪しいくらいなので
大抵のことは時間を掛けさえすれば解決できてしまう。
勿論、現在地が分からない状態で
方角だけを頼りに進む危険性は理解しているが、
目的地は小島ではなく巨大な大陸なので、
その一端でも見つけられれば問題ない、
ヨットの転覆だけは致命傷になるので注意を払っている。
「お…皆~! 陸が見えたよ~!」
「「「 おぉ~ 」」」
3ヶ月程掛かったが無事に南大陸へと辿り着くことが出来た。
ヨットには船体の下にキールと呼ばれる
大きな羽状の重りが付いているため浅瀬には近寄れない。
上陸場所を探して大陸の北側を航行していると、
船着場にもたれ掛かる巨大な船を発見した。
所謂クルーズ船というヤツで、
船の上にホテル、カジノ、プール、ショッピング施設、
フィットネスジム、ダンスホール、映画館、レストランなどなど、
様々な娯楽施設がこれでもかと詰め込まれた富裕層向けの超豪華客船、
動く海上都市と言っても過言ではない。
運行内容も世界1周旅行とかなので
金銭面だけでなく乗船期間的にも一般人には縁遠かった存在。
初めて実物を拝んだ感想としてはとにかく大きい、
かなり錆びれているとはいえ当時の繁栄を色濃く感じさせる。
「う~ん…」
「どうしたんですか部長?」
「いや、船と船着場の大きさが合ってない気がしてな、
ここはもっと小さな…それこそ漁船とか向けの漁港なんじゃないか?」
「言われてみれば確かにそうですね、
この手の船は都市部に近いもっと大きな船着場に停泊します」
「見渡す限り森だし都市があった感じはしないね、荒川君地図は?」
「ありますけど現在地がはっきりしてないので
あまり参考にならないと思いますよ、はい地図…あ!」
「どうしたんだ荒川君? いきなり大きな声を出して」
「皆あそこ! 船の横に人がいます!」
「「「 !? 」」」
上ばかりに気を取られていて気が付かなかったが、
お爺さんがこちらに向けて手を振っていた、
私達は大急ぎで帆を畳みマナを放出して船着場にヨットを寄せた。
「ほっほっほ、海から人が現れるだけでも珍しいのに
4つ子とはのぉ、お前さん達はどこから来たんじゃ?」
「東大陸です」
「ほほ~それはまた遠いのぉ、よくそんな小舟で辿り着けたもんじゃ、
喉は乾いとらんかの? 水が必要なら遠慮なく言ってくれてええよ」
表情が穏やかで見ず知らずの私達を気遣う余裕があり
貴重な水まで分けて貰えると言う、
安定した生活基盤が無ければ出来ない対応だ、
少なくとも東大陸ではそうだった。
何にせよ飲めるほど清潔な水を無駄に消費するべきではない、
丁寧にお断りしてお爺さんが何をしていたのか訊ねてみた。
「何もしとらんかったよ、他の皆は中で作業中じゃが、
ワシは年を取り過ぎとっての、中には入れんのじゃ」
暇を持て余しているとのことで色々と話を伺うことにした。
お爺さんは元々西大陸の出身で、20歳になった記念に両親と共に
このクルーズ船で旅行に出かけたそうだ。
豪華な船旅を満喫していたが
西大陸から南大陸へ移動する間にマナ災害が発生、
陸地から遠く離れた海上だったため直接的な被害は免れたが、
通信機器が使用不能となり事実上の遭難状態に陥った。
船長達の航海術で南大陸へは辿り着けたが、
本来停泊する予定だった港が崩壊していたため、
都市部から離れたこちらの港に船を停泊させることになった。
「途中で迷ったせいで燃料があまり残ってなかったそうでの、
辿り着くまで船長は気が気でなかったそうじゃ、
その頃はここらも開けとったんじゃが、
試しにリンゴの種を植えたらすっかり森になってしもうた」
これがリンゴの木だと言うなら太過ぎるし真っすぐ過ぎる、
まるでイチョウだ、明らかにマナの影響を受けている。
「勝手に増えていきおるから少々恐ろしいわい、
まぁ、建材になるから有り難くはあるんじゃがの」
マナの影響を受けた植物は総じて繁殖力が強い傾向にある、
成長速度が速く力強いものも多い。
東大陸では雑草にアスファルトが持ち上げられ
道が森に変わる事例は沢山あった。
リンゴの実がなっていたので試しに食べてみたが、
渋くはないが甘くもなく歯ごたえが凄い、
生のニンジンを食べているような感じだ、
種は柿と同じ位の大きさがあるので
やはり例に漏れず繁殖力側に振れている。
「ずっとこの船で生活してたんですか?」
「船底に穴が開くまでは皆これに住んどったよ、
電気の設備が壊れてからは暗かったが寝るには困らん、
素人が作った家よりは安全で快適じゃて」
雨風を凌げ外敵から身を守れる居住場所、
雨水を溜められる甲板の巨大プール、
船内医と備蓄された薬、食料を確保し易い海、
聞けば聞く程に生き残るための条件に恵まれている。
災害後の世界に無傷の町を持ち込んだようなものだ、
このクルーズ船に乗っていた人達は
世界で最も恵まれた被災者だったのかもしれない。
「7000千人もおったら食料の確保が大変でのぉ、
一時期は海藻とその辺の草を煮たスープばかり飲んどったわい、
言うても皆で分けるから海藻が入っていれば当たりなんじゃがな、
ほっほっほ、ハズレは殆ど青臭い煮汁じゃよ」
船が港に到着して1ヶ月もしない内に食料は底を付いた、
揉め事を起こして船から追放される者、
絶望して自ら命を絶つ者、正気を失いどこかへ消えた者、
負担を減らすために静かに去る者、
餓死者こそ出なかったが半年で5000人にまで減った。
お爺さんは軽い口調で話しているが実際にはかなり悲惨だった筈だ、
きっと流血沙汰の出来事もあっただろう、
実際に私達はそういう場面に何度か遭遇している。
初めに食料問題を解決するための畑が作られ、
次に船体の老朽化に伴い家が建てられ徐々に村が形成された、
最初の家を建て始めてから完全に移住するまでは20年以上掛かっている。
現在は800人程が暮らしていて子供の割合も多く人口は増加傾向、
お爺さんのお孫さんも船の中で作業中らしい。
「農具を増やすための鉄が必要になっての」
船は住居としての役目を終えたが内部に残る品は貴重品、
村の財産として扱われており必要になる度に回収に来るそうだ。
今回の目的は金属製の配管で溶かして再利用する予定、
製錬技術もあるとは驚いた、例え精度が低くても
金属を扱えるとなれば文明的レベルは1段高くなる。
完全に野生化しているリンゴは除外するとして、
村で育てている作物は芋、タマネギ、麦、米、ブドウ、オレンジ、
麦と米は同じ場所で時期をずらして栽培する二毛作。
かなり大規模に栽培しいるらしく、
聞く限りでは完全に食料自給に成功している、
なるほど余裕がある筈だ。
話の腰を折るのも悪いのでそのまま聞いていたが
作物に関して少し気になることがある。
船内に積まれていた食料を利用したと考えて、
芋はそのまま植えれば育つ、タマネギも芽が生えれば育てられる、
ブドウとオレンジは種があるし、麦もまぁ…あり得なくはない。
だが米は? 船内に精米前の米を持ち込むとは考え難い、
精米後の米は発芽に必要な胚芽が取り除かれているので
植えても芽が出ることはない。
何処かの都市に精米前の米が残っていて、
誰かが命がけで探しに行ったのだろうか?
それともう1つ、リンゴの木に隔てられて見えないが
村はここから歩いて15分程の場所にあるそうだ。
米を育てるには大量の水が必要になる、
それとは別に800人分の飲み水や生活水も必要だが
近くに川が流れている様子はない。
船のプールを使っていないとすると
それらの水は何処から入手しているのか?
溜め池の可能性も残されているがこれは…
「荒川君」
「はい、僕も同じ考えです」
「トラブルになるといけませんのでここは慎重に…」
「ねぇお爺さん、もしかして水の魔法使える?」
「「「 ちょ… 」」」
南さんはこういう時に躊躇しない、
頼もしくもあり恐ろしくもある。
「使えるよ、ほれ」
「うわ!? 本当に出た」
「凄い、水だ」
やはり村の水源は水魔法だった。
私達が探し続けていた水の精霊の名はウィンディーネといい、
アザラシのような見た目で西にずっと行った先の海岸沿いにいるそうだ。
「いや、ワシはササキさんから教わったんじゃ、
最初に教わりに行った5人以外は誰も水の精霊様には会っとらん」
『 ? 』
人から魔法を教わるなんてことが可能なのだろうか?
詳しく伺ってみるとササキさんというのは
船でバーテンダーを務めていた女性で、
ウィンディーネに会いに行ったメンバーの内の1人。
習得したての頃は他の4人と大差なかったが、
1年後には水を自在に操れるようになり、
3年後には船のプールを1人で満たせるようになるなど、
メキメキと腕を上げ一線を画す存在になった。
「今ならなんかイケそうな気がする」
そう言って、7年後には人に魔法を習得させ始めたという。
「もう18年も前に亡くなっとるから無理じゃよ」
本人に直接話を伺いたかったのだが少し遅かったようだ。
最初の5人以外にウィンディーネに会いに行った人はいない、
だが18歳以上の人達は全員水魔法を習得していて、
逆に18歳より下の人達は誰も習得していない、
ふむ、状況から考えるとお爺さんの話は信憑性がある。
魔法習得者による魔法の普及が可能となれば
危険を冒して精霊の元へ赴く必要が無くなる、
精霊の居場所に拘らずに居住地を広げることも出来る、
これはとても有益な情報だ、ぜひ事実であって欲しい。
ただこれだけ多くの人達が習得しているにも関わらず、
ササキさん以外に魔法を普及出来た人はいないとなると
特殊な才能が必要なのかもしれない。
その辺に付いては後々調べるとして、
差し迫った問題を解決するために
お爺さん達はウィンディーネの元へ向かう計画を立てていた。
今も海岸沿いにいるなら荒れた陸路を行くより
ヨットで海路を行く方が早くて安全だ、
私達もウィンディーネには会っておきたいので
ヨットの提供と操船を買って出るとお爺さんはとても喜んだ。
「それは助かるのぉ、実はササキさん達も船で向かったんじゃ、
海から見た時の陸地の特徴は伝わっとる、
それらを目印に進めば辿り着ける筈じゃ」
お爺さんには悪いが経験上何十年前の証言はあてならない、
リンゴの木が示すように植物の繁栄は地形を変える、
岩肌が森に変わっている可能性も十分あり得る。
だが、私達には精霊を感じ取る特殊な感覚が備わっている、
範囲内に入りさえすれば辿り着けるので安心だ。
村の人達の間でも以前から水魔法の習得問題は議論されていたが、
危険な旅路に若者を送り出すことを躊躇していた、
私達の提案はまさに渡りに船というわけだ。
「当時使っていた船はないのですか?」
「嵐で流されてしもうたんじゃ、
あれがあればワシ等ももっと早く行動しとったんじゃがのぉ」
当時使用されたのはクルーズ船に搭載されていた自走可能な救助艇、
燃料がなくなった後はオール使用に変更され漁で活躍していたそうだ。
残っている救助艇もあるがそちらは
自走出来ない浮くだけの救助ポットタイプ、
漁にも向いていないので村に運んで倉庫として活用されている。
「皆に紹介したいから是非村に来て貰えんかの、
長旅で腹が減っとるじゃろ、豪華料理とはいかんが、
それなりの食べ物とワインならある」
「え? お爺さん達お酒作ってるの?」
「そうじゃよ、ワインはなかなか良い出来じゃ」
「趣向品を作れるとは豊な村だな」
「材料をお酒に回せるってことですもんね」
「いやまぁ、ブドウは渋くて食べれたもんじゃないの、
元々ワイン用として育てとるんじゃ、
芋と米も酒にしようとしとるがなかなか上手くいかん、
ビールは2年前は形になったんじゃが去年は駄目じゃった、
毎年作物が変っていきおるから難しいんじゃ」
「何故そんなにお酒を? 収穫物が余り過ぎたとかですか?」
「ほっほっほ、数少ない娯楽というのもあるがの、
酒を作るのはカカ様との約束なんじゃ、これを違えることは出来んよ」
「カカ様というのは…」
『 !? 』
突如として西に現れた強烈な反応、
久しく感じていなかったそれが示すのは精霊の存在に他ならない。
「これは…こちらに向かって来てますね」
「何がじゃ?」
「えっと、精霊です、僕達はそういうのがちょっと分かるんです」
「お爺さん良かったじゃん、こっちから行かなくても
ウィンディーネの方から来てくれるみたいだよ」
「ほう、それは本当かの?」
「…いや、ちょっと待ってくれ皆、なんか変だ、内陸の方から感じる」
「確かに、海岸にいるなら変ですね、移動も早過ぎる気が…」
「勉君も先生も気にし過ぎだって、相手は精霊なんだからさ、
素早く移動するアザラシなんだよきっと」
暫くすると反応が消えた、
私達の1キロ以内に精霊が入ったことを意味しているが
ハッキリ言って異常だと思う。
水の精霊はこれ程までに早く移動できるものなのか?
精霊とう常軌を逸した存在なのであり得なくはないが、
陸上を疾走するアザラシというのはなんとも想像しがたい。
『 え!? 』
「カカカカカ! 前々から妙だとは感じておったが、
なるほどのぉ~お主等は4つで1つか、
見た目も変わらんとは随分と変わっとる、
のうワタクモ、カカカカカ!」
間もなくして私達の頭上に姿を現した精霊は
アザラシではなく人の形をしていた。
「ほっほっほ、あちらは水の精霊様ではなくカカ様じゃよ、
カカ様~何か言い物は見つかりましたかの~?」
「全然駄目じゃ、今日はやめにして村で酒を飲むことにするわい、
お主はまだ戻らんのかの?」
「まだ中で作業しとりますのでもう暫くは」
「そうか、ならワシは先に戻っとるぞ、
そこの妙なお主等も一緒に来るとええ、
酒の肴に話を聞きたいからの、カカカカカ!」
『 (なるほど、それでカカ様か) 』
呼び名の由来は聞かずとも理解出来た。
問題は何の精霊なのかだが、
そちらはカカ様が森の向こう側に消えた後に
お爺さんから教えて貰った。
雷の精霊ヴォルト、従者はワタクモ、
それが私達が出会った2体目の精霊と従者の名前、
ワタグモと発音を曇らせると怒るらしい。
そういうわけでお爺さん達は2つの魔法を習得していて、
農業や生活水などの水問題は水魔法、
外敵から身を護ったり、漁や猟、火起こしなどは雷魔法、
といった感じで活用している、素晴らしい限りだ。
この2つの魔法を脆弱な人間が生き残るための必需品とすると、
土魔法は整地や畑を耕すなどの労働力で補える作業を
楽にしてくるれる補助的な立ち位置と言えるだろう。
無知な私達に親切に接してくれたノームとサーフェスには悪いが
土魔法は生活基盤が固められてから習得するべき魔法だ、
そう考えると東大陸の人達の運命は
最初から決まっていたのかもしれない。
「お~いウィル爺、配管取って来たぞ~」
「あれ? カカ様の笑い声が聞こえた気がしたんだけどな」
「ウィル爺その人達誰?」
「え!? 四つ子?」
船の中で作業していた人達が戻って来たので
私達は同行して村へと向かった。
木製の住居群と広大な農地、鍛冶場と恐らく酒造所、
大勢の人達が楽しそうに金色に輝く麦を収穫している、
中には幼子を担いだ人も、笑い声が響き渡る安全な場所、
この村には旧時代の近代的な街にはなかった活気と魅力がある。
「ここがカカ様の家じゃよ」
「村の中に精霊が住んでいるのか、凄いな」
「(こういうのって普通村の中心とかに作るんじゃないのかな?)」
「(ちょっとだけ神殿感がある)」
「(おや、これは…)」
ヴォルトの住処は酒造所の中にあった。
年季の入った表札に書かれたのは
私達の故郷で使われていた文字、
主に聞こえて来る言葉は英語なので違和感があったが、
制作者はササキさんと聞いて納得した、
名前から察していたがやはり同郷だったようだ。
「考えてみたら私お酒飲むの初めてかも、
勉君は絶対ないだろうし荒川君は?」
「僕も無いです、いや~初めてのお酒楽しみだなぁ」
「嘘みたいに鮮やかな黄色にキウイみたいな産毛、
先生、これオレンジって言ってませんでしたか?」
「はい、私達の知るオレンジでは違います、甘いと良いのですが」
「カカカカカ、思うところはあるじゃろうが取り合ずは乾杯じゃ、
話は酒の肴、飲まずに聞いては勿体ないわい」
常温のワインと魚を中心とした食事を頂きながら
ヴォルトと話をしていくつか分かったことがある。
まず、精霊が誕生したのはマナ災害の直後だが
ヴォルトはマナ災害以前の記憶を有している。
「カカカ、マナは大昔ら存在しとったんじゃ、
それ等が集まり形を成したのがワシ等じゃ、
であれば当然、何も不思議がることはなかろう」
本人がそう言うならそうなのだろう、精霊とは世界の理、
私達程度が理解できるような存在ではない。
次に、旧時代の記憶の影響なのかヴォルトは無類のお酒好きである、
全ての思考と行動がお酒のためにあると言っても過言ではない。
マナ災害発生に誕生した精霊は各地へと散ったが、
ヴォルトはクルーズ船に降り立ち乗客に混じって酒を堪能していた。
しかも不正乗船がバレてお酒が飲めなくなるのを避けるために
乗客が寝静まった頃合いを見計らって紛れ込んでいる。
なんとも人間臭いというか、共感できるというか、
神秘的で重厚な威厳を纏っていたノームとサーフェスに比べると
ヴォルトとワタクモは自由奔放過ぎる。
村に同居して不要な筈の食事を3食摂取し、
酒を楽しんで夜に寝る、まるで人間そのものだ、
ヴォルトの外見はそういった性格や特性が反映されているのかもしれない。
クルーズ船は被災後から2週間程は混乱を避けるために
通常営業が行われており、ヴォルトは悠々自適に最後の楽園を満喫。
「ササキと話しながら飲む酒が一番美味かったの~、
ワシは静かに飲む高い酒より誰かと飲む安酒の方が好きなのかもしれん」
特にササキさんの担当していたプールサイドバーがお気に入りで
毎日入り浸っていた、砕けた性格と接客が心地よかったそうだ。
その後、船長から状況説明がありお酒が提供されなくなったため、
ササキさんにオレンジとブドウの種を保管するように依頼して船を離脱。
食料危機への助言でもあるが主な理由は
その先にあるワインと果実酒の再現である。
南大陸へと移動したヴォルトはお酒の元になる物を捜索し、
3ヶ月程掛けて芋と米を確保して船に帰還する、
ここで米の出所の謎が解けた。
この頃には既に船内の食料は尽きていて、
問題を起こした人達が追放されるなど人口が激減した時期、
残っている人達も限界が近い状態だった。
「精霊は自然のそのものじゃ、恵みを与えはするが助けはせん、
カカカ、じゃから雷魔法を与えて使い方を示してやったんじゃ」
ヴォルトが手本として海に雷魔法を使用し、
気絶して浮いて来た魚を網で集めることで
村人達は一時的に飢えを脱した。
これは所謂、電気ショック漁と呼ばれる手法だ、
旧時代では生態系を破壊するため禁止とされていたが
飢えに苦しむ人達はそんなことを考える余裕はない、
同じ境遇なら私だって気にしない、その日を生きることが先決だ。
ヴォルトが魔法を使ったのは最初の1度だけ、
雷魔法を習得したからといって即座に同じことが出来る筈がなく、
村人達は再び食糧難に陥るがその際は助言を与える程度で傍観している。
これは先程述べていた
「精霊は自然そのもの、恵を与えはするが助けはしない」
という言葉が全てを表している。
意思疎通が図れるので勘違いしがちだが精霊とはそういうものなのだ、
誰の味方ではない、誰かの敵でもない、特定の種族のみを救う存在ではない。
「ワシとて皆が死ぬのは望んではおらん、
酒を造る者も共に飲む者もおらんくなるからの、カカカカカ!」
だが本人にその気がなくてもヴォルトのお酒好きは
回り回って人間を救っていると思う。
少なくとも東大陸で何も果たせなかった私達よりは人を導いている、
村人達がカカ様と慕いお酒を造り続けていることこそがその証明だ。
3つ目の分かったことだが、
ヴォルトの桁違いの感知範囲を有している。
南大陸どころではない、全大陸を網羅しており、
全ての精霊の居場所をリアルタイムで把握している、
ウィンディーネのことを村人に教えたのもヴォルトだ。
「なるほどの、土の精霊ノームとその従者か、
どおりで随分と力強い感じがするはずじゃ」
但し、把握しているのは場所だけで、
その反応がどの精霊のものなのかまでは分らない。
港で私達の前に現れたのは前々から感じていた
精霊とも違う妙な反応の正体を確認しに来たというわけだ。
因みに、私達の元に現れる前は遠くの廃都市に出向いて
お酒が残っていないか探しに行っていたらしい、
どおりで初めに存在を感じなかった筈だ。
「今の若いのは米の酒を飲んだことがないからの、
これは由々しき事態じゃ、味を知らねば造るのも難しい」
「確かに! 知らねば作れない! 口頭で伝えるのはとても難しい!」
「勉君煩い」
「部長、失礼ですよ」
お酒の再現を望む精霊の涙ぐましい努力に
同じく技術の再現を望む荒川君は感銘を受けていた。
4つ目は現在の精霊分布、東大陸に土の精霊ノーム、
南大陸に雷の精霊ヴォルト、水の精霊ウィンディーネは確定、
そして南大陸の北側にある離島に火の精霊がいるそうだ、
後の4体は全て西大陸で何の精霊なのかは不明。
移動して来てくれれば出会えるかもしれないが、
この村がある限り私達が西大陸へ向かうことはないだろう。
それだけこの村には希望を感じている、
いや、西大陸に生存の可能性を見い出せないというのが正解か、
水魔法とヴォルトの存在は大き過ぎる。
4つ目は私達のことだが、ヴォルト曰く、
私達は空を飛ぶことが十分に可能らしい。
考えもしながったが確かにそうだ、
マナを放出してヨットの推進力を得ていた、
ようはアレを下向きにして体を浮かせればよい。
まぁ、言うは易し行うは難しなわけで、
マナ同士を干渉させてしまうと大惨事になるし、
傷の治りが早いとはいえ痛みは感じるので
失敗して落下すると地獄をみることになる。
だが、もし飛べるようになれば移動はかなり楽になる、
時間はあるので練習してみるべきだろう。
そして最後の分かったことだが、
どうやら私達は酔えない体質のようだ。
「この楽しさを味わえんとはお主等不憫じゃなぁ…
不憫じゃ…のうワタクモ…」
ヴォルトにもの凄く憐れまれてしまった。
「なんか大人になりそこねた気がする…」
「ちょっとガッカリですね…」
「大人でもお酒を嗜まない人はいる! 気にするな2人共!」
南さんと荒川君は残念そうだが杉本君はそうでもなさそうだ、
まぁ、彼は生真面目なのでお酒を求めるタイプではない。
個人的にはどちらでも…いや、残念ということにしておこう、
長い人生を思えば楽しめる要素は1つでも多い方が良い。
翌日、村の代表者達と水魔法習得に付いて話し合った。
正確な居場所と安全な航路、往復に必要な日数を確認するため
先に私達がウィンディーネの元へと向かい、
それから村人達を連れて行くことに決まった。
更に翌日の早朝に港を離れ、西へ3時間ヨットを流した末に
海岸に寝転がる猫の耳が生えたアザラシと
背ビレの生えた青色のカモノハシを発見した。
「ウィンディーネですか?」
「そうだにゃん」
『(にゃん…)』
毛づくろいもしているしアザラシ寄りの猫なのかもしれない、
無事に水の精霊ウィンディーネと
従者のトットルに遭遇できたので引き返して報告。
順当に進めたとして往復6時間以上かかるため、
日出に出航して暗くなる前に戻る1日1便運航を採用、
3ヶ月程掛け赤子を含めた304人に水魔法を習得させた。
「これで暫くは大丈夫だな」
「はぁ~私暫くヨットは乗りたくないかも、
東大陸を出発した時から合計したら半年くらい乗ってるんだもん」
「ははは、僕達船酔いしない体質で良かったですよね」
「そうですね、あのヨットもその内駄目になるでしょうから
陸路の開拓を考えた方がよいかもしれません」
安定した食料自給、2つの魔法、雷の精霊ヴォルト、
この村の未来は間違いなく明るい、
導き手として貢献で出来たことに
私達は久しく感じていなかった充実感を得た。
それから1ヶ月後、私達は再び旅に出ることにした。
「ほっほっほ、ワシが生きてる間にまた会えればええがの、
もうじき寒くなるから体に気を付けて行くんじゃよ」
『 はい 』
お爺さん達には南大陸の現状確認と生存者の捜索と説明したが、
東大陸を経験した私達としては今更生存者がいるとは考えてはいない、
本当に捜索しならればならないのは核兵器だ。
確率が低いと見積もって南大陸に来たが
無いと確定しているわけではない、
人類再建の芽を摘まないためにも早期に確認し、
有るのであれば隠匿するなどの処置を講じる必要がある。
今後を見据え寝る前は空を飛ぶ練習を行うことが日課になった、
何度かマナ干渉を発生させ地形を変えてしまったが
私達以外は誰もいない場所なので大きな問題ない。
「大丈夫か荒川君?」
「こ、腰を打ちました…大丈夫だとは思います…」
「では次は私が、体の重心を意識して下から押し上げるように…ほわ!?」
「「 せ、先生ぇぇ!? 」」
「皆頭で考え過ぎだって、もっとテキトウにブ~ンてやればいいんだよ~」
「「「 (ブ~ンねぇ…)」」」
南さんは2ヶ月程で安定して飛べるようになった、
感覚で物事を捉えるタイプの方が上達し易いのかもしれない。
頭で物事を考えるタイプの私と杉本君と荒川君はとにかく駄目で、
体制を崩したならマナを弱めて立て直すべきなのに、
焦って強めてしまい制御不能に陥る悪循環の繰り返し。
理屈は分っていても実践しようとするとパニックになる、
運動が出来ない人の典型例だ。
荒川君は1年半、杉本君は2年、私は3年も掛かってしまった、
そう言えば自転車に乗れるようになったのも遅かった、
100年以上生きても人はあまり変わらないらしい。
全員飛べるようになってからの探索はかなり効率的になった、
空からの視点は地形や現在地の確認を容易にしてくれる、
高低差に悩まされることはもうない。
流石に大陸間飛行は無理だが近場の離島へは渡れたので
火の精霊サラマンダーと従者のウーパに出会うことが出来た。
南に連なる竜の背ビレのような山脈や、
北西にそびえる大山もいずれ飛び越える日が来るだろう。
8年が経過した頃に村の様子を確認しに戻ると
お爺さんは既に亡くなっていた、私達が村を離れた2年後だったそうだ、
年齢を考えれば仕方がないことだが残念だ、
いろいろとお世話になった身としてはもう1度会って話がしたかった。
人口は増加、食料は安定、
米の酒が上手くいっているそうでヴォルトは上機嫌、
特に問題はなかったので核兵器の捜索を再開。
15年が過ぎた頃に北西の大山の調査に手を付けた。
「大きいな、どう見ても人工物の扉だ」
「嫌な予感がしますね…」
同感だ、不自然過ぎる、胸騒ぎがする。
マナを干渉させて扉を破壊し内部へと侵入、
暗がりを抜けた先で待っていたのは見覚えのある円筒だった。
「最悪だ…何でこんな物を! 何が平和主義だ! ふざけるな!」
「部長落ち着いて下さい!」
「そうだよ勉君、暴れたってどうにもならないって」
「クソォォ!」
余程悔しかったようで杉本君は壁に感情をぶつけていた、
気持ちは分る、だが当時コレを用意した国の考え方も理解出来る。
いくら平和を謳おうとも力無き言葉は抑止力になりえない、
襲って来る相手は喉元に矛を突き立てねば止められないのだ、
危険を感じるからこそ人は踏み留まる、
どんなに取り繕うとも力は必要だ、綺麗ごとでは守れない。
こうなってしまっては秘密にするしかないだろう、
人類がここに辿り着くまではまだ時間が掛かる、
500年位は隠し通せるだろうか?
その後は禁忌の地として私達が人知れず人払いするのも手か。
いずれにしろ1つの結論を得られたとして私達は村へと戻った。
それから、100年、200年、300年と時間は流れ、
人口は20万人近くまで増加、1つの村は5つの町へと発展した。
鳥と羊と牛の家畜化、麻と綿とトウモロコシの栽培、
革の加工、布の生産と染色、石鹸の普及、
木材加工と釘を使用しない建築、
小型船の造船、小型船と網を使用した漁、
お酒の多種化とアルコール度数の上昇。
様々な変化がありその度に人々の生活は豊かになった。
マナによる世界への影響だが、
世代交代のサイクルが早いものはやや落ち着いてきた感じがある、
毎年世代が変る麦や米などはここ200年度程大きな変化はない。
逆にサイクルが遅い大型の生物が過渡期を迎えているのか、
角の生えた馬が目撃されるなど著しい変化が見られる、
攻撃性が高い生物も多く、中でも特に危険な生物は魔物と呼ばれ、
魔法や武器で戦う自警団のような魔物専門の組織が各町に存在する。
農地拡大、武具の作成に伴い鉄の需要が増加、
クルーズ船はほぼ完全に解体され朽ちた残骸が海底に残るだけだ。
信仰の対象は神から精霊へと移り変わり、
他者に魔法を習得させられる人は
精霊の代理人として神官と呼ばれるようになった。
ウィンディーネの元に2番目の村が作られたため、
ヴォルト同様に町の中に住居が用意されたが基本的には海辺で寝ている、
食事をすることは殆どなく1日の7割は寝ている。
対照的にヴォルトは3食お酒付きの日々を楽しんでおり、
新しい肴を探しては頻繁に他の町へと出向いている。
医療と呼べる程のものはないが最低限の知識と縫合技術は存在する、
クルーズ船の船医の教えが生きているため、
瀉血などの誤った解釈は広まっていない。
各町を繋ぐ道があり、通貨があり、商いがあり、法律がある、
ここまでになれば1つの国と呼べるだろう。
懸念していた核兵器が眠る北西の大山には人類は到達していない、
100年後は大丈夫だと思うが200年後は分らない、
その日が来れば私達は町を離れ禁忌の守護者となるつもりだ。
だが今はまだその時ではない、
町の中で人々と共に生活しながら
導き手としての役割を細々と担っている。
「だからさ、マナをこうギュッてやるんだって」
「すみません…全然分からないです…」
「例えばだけど、え~と、あこれでいいや、
ギュッて、こうギュッて、ほら逆さにしても零れないでしょ」
「えぇ…凄いけど何で? マナをどう扱ったらそうなるんですか?」
「だから! ギュッてやるの!」
「いや…それが分かんないんですって…」
水の入ったコップにマナで蓋をしているらしいが
私には原理が全く理解できない。
南さんは感覚的に何かしらを理解しているらしいが
言語化が苦手なためマナを研究している荒川君は頭を抱えている。
私が行っているのは主にマナによって変化した生物の調査だ、
魔物に該当する生物の情報があれば多少なりと対処できる。
杉本君が行っているのは旧時代の技術の再現なのだが…
「はぁ…」
あまり上手くいっておらず最近は暗い顔をしている、
原因は明確だ、そして現状での解決は難しい。
杉本君の言葉を借りるなら、
私達は旧時代が築き上げた技術の最先端を享受していた。
再現しようとしているのは技術の集合体、完成品であり、
それらは多くの部品によって構成されている、
構造を知っていても1つ1つの部品を作れなければ再現はできない。
車の心臓部であるエンジンには
複雑な形状で精度の高い部品が使用されている、
ボルト1つの加工すら難しいのに無理だ、
そもそもアレ等は只の鉄ではなく合金、様々な金属が必要になる。
アルミニウムで言えば原料はボーキサイトだが未だに発見出来ていない、
発見したところで製錬するには苛性ソーダや設備が必要になる。
電子部品に不可欠な銅も同じ、
町で使用されている金属はクルーズ船や
かつての都市の残骸から得たものであって、
素材である鉱石の採掘は行っていない。
完成品に関する知識と製造技術、
構成する部品に関する知識と製造技術、
部品を製造するために必要ま道具に関する知識と製造技術、
全ての元となる素材に関する知識と製造技術。
完成品を下流とするなら素材は上流、
学生時代の杉本君が目指していた技術者は下流側で、
上流側にも数々の技術者が存在していた。
そこに至るまでには何世紀分もの失敗と成功があり、
次々と現れる天井を打ち破った天才達の閃きがあった。
「結局私は凡人か…本当の技術者にはなれそうもない…」
私はそうは思わない、振り子式の時計を再現しただけでも
十分に優れた技術者だ、おかげで町の人達は時間を知ることが出来ている。
杉本君なら全く同じものは無理でも代替品による再現が可能かもしれない、
ただ人類の発展の歴史はあまりにも膨大で、
それを辿るには解決しなければならない問題が多過ぎる。
「杉本君、考え込むと余計に深みにハマるものです、
たまには頭を空にして気晴らしをした方が良いですよ」
「ふぅ…ありがとう御座います先生、ちょと外に行ってきます、
暫く戻らないかもしれませんが…あ、いや」
「はい、大体の位置は分かりますから心配はしません、
好きなだけ楽しんできて下さい」
「それでは、南君、荒川君行って来る」
「「 はいはい~ 」」
飛び去った杉本君は1ヵ月経っても戻って来なかった、
反応は北西からずっと動いていない、
居場所の検討は付いている、思い詰めてなければ良いが…
「すまない皆、とても身勝手な話なのだが、
私は、私はもう…終わりにしたい…」
2ヵ月後に戻って来た杉本君は辛そうな顔をしていた。
「ずっと考えていた、時間を掛ければ技術の再現は可能だと思う、
だが、その行きつく先がアレだというなら…私は…」
「あ、あのさ勉君」
「分かっている、必ずそうなると決まっている訳じゃない、
技術が良い方向に向かうのか悪い方向に向かうのかは扱う人次第だ、
だが過去には実例があって、今でも脅威として残ってしまっている、
探求心と向上心はより優れた技術の糧となる、だがそれが、
本来賞賛されるべきそれこそがアレに繋がっているんだ、
人の欲は止められない、発展のためには止めるべきではない、
ならせめて過去にアレに至ってしまった旧時代の技術だけは、
再現すべきではない…だから私が…私の手で終わりにさせて欲しい…」
『 … 』
拳を震わせながら絞り出された言葉、
誰よりも技術と向き合っていた彼が出した答えを私達は否定出来なかった。
それから更に2か月が過ぎ別れの時が来た。
「私1人だけ導き手の責任を放棄することになるが許して欲しい」
「謝らないで下さい、誰も恨んだりはしてませんから」
「私はまだ納得してないけど~だって寂しくなるじゃん!
一緒に生きていけるのはこの4人だけなんだよ!」
「すまない、本当にすまない…」
「南先輩、そういうこと言わないって約束したじゃないですか、
部長だって散々悩んで決めたことなんですから」
「だってさ~別に無理してやらなくてもよくない?
ほっとけばその内腐って無くなるって、先生もそう思うでしょ?」
「まぁ、腐りはするでしょうが…」
「南君、そうなってからでは遅いんだ、ウランなのかプルトニウムなのか
分からないがそれなりの量が積まれている筈だ、
核物質が外部に漏れ出せば長期に渡って周辺が汚染される、
そうなる前に無理にでも処理しなければならない」
「失敗したら結局汚染されるじゃん、やめとこうよ」
「だが成功すれば脅威は無くなる、
放置しても失敗しても結果が同じならやるべきだ」
「南さん、杉本君を信じましょう」
「え~…」
「部長、僕が言った話はあくまでも仮説なので
本当に消えるかどうか分かりません、
残ったら恥ずかしがらずに出てきて下さいね」
「その時は感知出来るから隠れてもバレるさ、
そろそろやろう、皆離れてくれ、今までありがとう、それとすまない」
「この…謝るくらいならやるなこらぁぁ!」
「はいはい、行きますよ南さん」
「南先輩、暴れると先生が落ちますって」
「離してよもう! 1発殴らせて! 1発でいいから!」
「許してくれ南君、すまない」
「だから謝るなっての! こっち来~い!」
核兵器が眠る北西の大山は
キラキラと輝く渦に飲み込まれて消えた。
後に残ったのは麓の一部と剥き出しの岩肌、
慣れ親しんだ反応は感じられない。
「さよなら勉君…」
その日、私達は永遠ではないことを知った。
詰め込もうと思ったのですが無理でした、
もう1話程続きます、終わる終わる詐欺ですみません。




