306話目【後日談2、大団円】
さて、長らく続いた本作品だが、
ここまで読み進めて頂いた読者の方々には心から感謝を申し上げたい。
後日談があと1話残っているが
メインストーリーとしては今回の話が実質的な最終話となる。
広げた風呂敷を大急ぎで畳み切らねばならないのだが、
魔王討伐後の各地の動きもしっかりとお伝えしたいところ、
だが、視点があっちこっち動くとゴチャゴチャなってしまう、
従って今回の話は日によって分ける箇条書き方式とさせて頂きたい。
・先ずは魔王討伐から【4日後】
魔王討伐地の調査に向かっていた衛兵&冒険者チームにより、
『守り人』(ノアの体)が発見される。
シード計画職員であり、全ての事情を知る松本が適任とのことで、
松本とモジャヨがダナブルへ向かう際に馬車で運搬する方針が決まる。
・【5日後】
各国を飛び回っていたシルトアとケルシスがウルダへ帰還。
・【6日後】
ウルダの外出制限が解除される。
「キ…キノ…お、俺のキノコォォォ!」
開門と同時に飛び出したシメジの父親が
倒壊したキノコ小屋の前で魂の叫びを響かせる。
「あ! 父さんエリンギ! ポッチャリエリンギが逃げた!」
「なにぃ!? 網を探せシメジ!
キノコ農家の誇りに賭けて絶対に逃がすんじゃねぇぞ!」
「「 あ… 」」
逃げたポッチャリエリンギがマッシュバットに捕獲され
吸血の館(ドーラの宿)にて美味しくモッチャモッチャされる。
※吸血の館と病院は被害を免れ現存しており、
松本の説明を受けたロイダ子爵が立入禁止場所に指定、
現在は女医と助手によって管理されています。
・【同日、午後】
魔王討伐部隊が王都で開催される凱旋イベントのためにウルダを出発、
中央広場から北西の城門を繋ぐ大通に住民が並び、
歓声と感謝の言葉で英雄達の旅立ちを見送る。
「折角なんだからバトーも一緒に行けば良かったのに」
「英雄ってガラじゃないしな、カルニこそ行った方が良かったんじゃないか?
王都召集はカード王からの指令なんだろ」
「町がこんな状態でギルド長が離れるわけにはいかないでしょ、
強化魔法が使えるのは私だけだしやること山積みなの、
アクラス1人なら抜けても大丈夫だから行くように言ったんだけどね」
「最後だけ参戦した私が英雄方と同列である筈がありません、
それに私よりもあの場に相応しい人物を知っていますので」
召集を受けたメンバーの内、
カルニ、バトー、アクラスの3名は辞退、
光の盾と光の槍はそれぞれミーシャとノルドヴェルに預けられる。
「それでは私はこれで、王都到着までには合流するから心配するな」
『 はい~ 』
ケルシスはウルダを出発後に自国の事後処理のために一時離脱。
・【7日後】
アクラスが借りていたポニコーン返却のためリコッタへ出発。
※約2週間後に到着し衛兵達に手厚い歓迎を受けます、
またポニコーンの勇敢な行動に対してルート伯爵から報酬でており、
飼い主である衛兵に200ゴールドが手渡されます。
・【8日後、午前】
「ロマノス様、ありがとう御座いました」
「うむ、苦難の時ほど上に立つ者の力が試される、
ホラントよ、良き領主として民を導け」
「はい、クラージさんとルルグ大臣もありがとう御座いました」
「国のことが落ち着いたら次は私から会いに行きます、
あぜ酒を持って行きますのでゆっくり飲みましょう」
「是非、お待ちしてます」
「今回の件で食料が随分と減ったさね、
早いとこ交易を再開して貰わないと困るさね」
「可能な限り努力します、それでは」
タルタ国に避難していた混在都市コルビーの住民と
モントレー伯爵がトロッコに乗って出国。
※世界最小人数、且つ、低練度の光魔法、
直前に意図せず結成されたドワーフと人間の混成部隊、
という厳しい状況下で行われたタルタ国防衛戦だったが、
死者数0人という世界で唯一の快挙で幕を閉じました。
これは特殊な地形により魔族の侵入箇所が限定されたことに加え、
魔族が湧くカラクリ(黒いマナの流入)に勘付き、
即座に坑道を塞ぐなどの指示を実行させたタルタ王の洞察力と統率力、
光魔法を絶やさなかったコルビーの民の踏ん張り、
大型魔族を徹底的に抑え込んだドワーフの武力が噛み合った結果です。
・【同日、午前】
「民を食わせて貰っておいて手伝いもせずにすまんな」
「いんですよ~気にされなくて、シルフハイド国も大変なんですから」
「ほっほっほ、防衛戦の助力だけでも十分過ぎるのに、
国の立て直しまで手を借りてはビスマス様に顔向けできんわい」
「今後とも良いお付き合いをお願い致します、
シルフ様の元にもいずれご挨拶に伺わせて頂きたいと考えておます」
「あぁ、その時はマツバ殿だけでなくスギエダ殿とトド殿も、
勿論イナセもマイもカニも来ると良い、歓迎しよう、テイジンだぞ」
「え~どうしようかな、ワシもうお爺ちゃんだし、森歩くの辛いかも」
「交易で使ってる道なら馬車で来られるだろう、何で密入国前提なんだお前は」
『 はははは 』
「どうせ来るなら春から夏がお勧めですよ、ナシカブトが見つかり易いんで」
「お、気が利くなトトシス、確かにナシカブトは良いものだ」
「まぁナシ、良いわねナシ」
「お母さん果物じゃないよ…」
「マイ、あまり期待しない方がいい…」
キキン帝国に滞在していたシルフハイド国の民が帰国。
・【同日、昼過ぎ】
『 気を付けて~ 』
「「 はい~ 」」
ダナブルの行きの馬車集団に混ざり、
『守り人』を積んだ松本とモジャヨの馬車が出発。
「ふぁ~にゃむにゃむ…ようやく出番ってわけね」
「頼みましたよモント、書簡はロックフォール伯爵へ直接手渡して下さい」
「はいはい~任せて頂戴」
「ウルダの顔でもあるのですからくれぐれも失礼の無いように」
「言われなくても分かってますもと、デフちゃんこそ町のこと頼んだよ~」
「その呼び方はやめるようにと…」
「んじゃ出発~」
「モント!」
「(ダナブルかぁ~何年振りかな?)」
影の功労者であるノアと松本が無事にダナブルに到着出来るようにと、
ルート伯爵の指示でモント率いる数人の護衛が人知れず馬車集団に合流。
ザックリこの辺りで松本がこの世界に来て1年が経過する。
・【9日後、10時】
「うぉほん、皆好みのお酒は持ちましたかな?
お酒が飲めない方は好きな飲み物をお持ち頂いて」
「持っとるぞ~シャガール! はよ飲ませい!」
「もう少しだけお待ち下さいヴォルト様~!
え~では急かされておりますので簡潔に、
皆の愛する者達が迷うことなくマナの海へと還り、
いつの日か再びこの地に戻り、良き友とならんことを」
『 ならんことを 』
各国の中で最も多くの犠牲者を出したルコール共和国にて、
全領で時間を合わせての大規模な国葬が執り行われる。
「シャガールは分かっておらんの~、のう? コムギもそう思うじゃろ」
「いえ、すみません、私よく分かってないっす」
「理が正されたんじゃ、最早マナが迷うことなどない、
竜というのはワシ等の元となるマナを司っておってな、
レムと新しく体現した…お、そうじゃった、
コムギ、この樽を開けたらワシはちと出掛けて来るぞ」
「了解っす~どちらの領へ?」
「領ではない、行き先はカード王国じゃ」
「えぇ!? ヴォルト様ルコール共和国からいなくなっちゃうんすか!?」
「新しく体現した精霊に会って来るだけじゃて、
心配せずともちゃんと戻って来るわい、
ここには酒とお主がおるからの~カカカカ」
「ヘヘっ、そう言われるとメチャ嬉しいっすね、
では何かご用意した方が良いっすか?」
「いや、気にせんでええ、コメイモ領の一番辛~い酒を持って行くわい、
カカカ! アヤツのせいで散々苦労させられたんじゃ、
酒でも飲ませて小言の1つも言わんと気が済まんわい」
約5時間後、ヴォルトがホップ領からコメイモ領へと移動、
その後、新しい精霊がいると思われるカード王国の南部へと飛び立つ。
・【10日後】
「こんにちは~賢者の末裔の皆さん、マスト族長はいらっしゃいますか~?」
「これはこれは、ペナさん、カルパスさん如何されましたか?」
「国葬を手伝って頂いたお礼をお持ちしました~カルパス」
「ん」
「立派な干し肉?でしょうか、どうもありがとう御座います」
「カード王国のサントモール産の生ハム原木だ、
薄く切って焼かずに食べる、赤ワインと合わせると美味い」
「重いですから別な人が受け取った方がいい良いと思いますよ~」
「そうですか、ハッテ、シシリお願い」
「「 はい~ 」」
賢者の末裔達にバーボン領の領長が大切にしていた生ハム原木が贈られる。
「干し肉とは違うのかしら?」
「ちょっと弾力があるし違うんじゃないか?
ほらこの切り取られた部分は色が鮮やかだ、薄く切るのは難しそうだな…」
「ねぇちょっと待ってハッテ、これ食べられてない?」
「腐ってないかの確認で切ったんじゃないか?」
「(鋭いですねぇ…)」
「(バレたか…)」
シシリの読み通り領長のちょと食べかけ、
賢者の末裔全員に行き渡る物を探したがこれしかなかったらしい、
現状新しい物が入手困難であるため他意はなく100%善意。
「方針は決まったか?」
「それがまだ、意見が分かれておりまして
もう暫く時間を頂ければと思います」
「急がなくても全然大丈夫ですよ~」
「戻るならシルトアを呼ぶ、残るならルコール共和国として歓迎するそうだ」
「そう言って頂けると助かります」
賢者の末裔は村に戻るかどうか方針が定まっておらず、
暫くはルコール共和国のバーボン領に残留する方針となる。
・【11日後】
「この話は鍛冶屋のボンゴシさんから聞いたものだ、
ボンゴシさんは師匠のドナさん、ドナさんは魔王討伐部隊の英雄、
ドワーフのゲルツ将軍から聞いたと伺っている」
「イエーツ支部長、どのような内容でしょうか?」
「焦るなナナヤマ、今から話す」
「ヤァー!」
「実は英雄方よりも早く魔王に単独で挑んだ者がいるらしい、
その者のは子供を守るために魔王の前に立ち塞がり、
圧倒的な光魔法によって魔王の凄まじい攻撃を防いだとされている、
光魔法の有効性を示したこの一戦は、
後に続く英雄方の作戦に大きな影響を与えたそうだ」
『 おぉ~ 』
「私は思う、その者こそが光筋教団にとっての真の英雄ではないかと、
勿論、魔王討伐部隊の英雄方を否定したいわけではない、
ナナヤマ、レム様の教えは何だ?」
「はい! いつの時代も、諦めず抗う者こそ、成果を得る、です! ッハ!」
「そうだ、私達は光魔法が失われている間も諦めず、抗い、成果を得て来た、
つまりは筋肉、いつでも光魔法を扱えるようにと備えていたのだ、
光の盾を使わず鍛え抜いた己の筋肉のみで魔王と渡りあったその者こそが、
その者の在り方こそが、光筋教団の目指していたもの、そうだろう皆!」
『 おぉ~! 』
ウルダの光筋教団員達が謎のマッチョを讃えることで
トレーニングのモチベーションを上げる。
後に捜索が行われたが該当する人物は見つからず、
その流れはカード王国全土へと波及、更に各国へと波及し、
やがて謎のマッチョは光筋教団の伝説となる。
なお、松本は光筋教団員ではないのでこの流れを知らない。
・【15日後】
「寂しくなるわねぇ~」
「またいつでも来なよ~」
ダナブルの魔物園に避難していたガチムチカンガリュウ達が旅立つ。
・【22日後】
「カード王国の国王として共にこの日を迎えられたことを嬉しく思う、
さて、始める前に皆に伝えておかねばならぬことあがる、
あの城門の向こう側には皆が待ち望んだ方々が待機しておられる、
だが、諸事情によりこの度の式典に参加出来なかった方々もおられる、
その内の誰1人欠けたとしても今は無かったであろう、
敢えてこの場で名前を呼ぶことはせぬが、心の内に留め置いて欲しい、
ふむ、皆準備は良いか? では開門、歓声をあげよ!
魔王を討伐し世界を救った英雄方の凱旋である!」
『 おぉ~! 』
カード王国の王都バルジャーノで英雄の凱旋イベントが開催される。
「見事な出来だダルトン、少ない時間で良くやってくれた」
「いや俺が手を動かしたわけじゃないで…」
「謙遜するな、人を動かしたのはお前だ」
「実は間に合いそうになかったんですけど、
見かねたイド爺さんが手を貸してくれたんすよ、
タルタ国の将軍を中途半端な馬車には乗せられんって」
「ほう、式典用の馬車に鍛冶屋は関係ないと思うが」
「外装の飾りの部分です、弟子達引き連れて来て2日でササっと、
この間町を守った英雄として白帝達を王城で褒め讃えたじゃないですか」
「あぁ」
「飾り気が無さ過ぎるってキレてましたわ、
まぁ、結果として馬車が完成したんで良かったのかもしれないですけど」
「ふん、無茶を言う、瓦礫も片付かぬうちにそんな余裕があるものか」
「この規模の式典を真面に2つもやったら食べ物の備蓄も吹き飛びますしねぇ、
復興が終われば王位継承、慌ただし過ぎですって」
「まだまだ楽にはなれんな」
「俺もう只のジィジなんすけどねぇ、そろそろ開放されてゆっくりしたいんすけど」
「っふ、善処したいところだが無理だろな、カーネル説明を」
「はい、ダルトンさんにはラガーギルド総長からギルド本部への加入要請が来てます」
「カーネルさんや、それ丁重にお断りして」
「多分無理ですね、この書類を見る限り既に加入処理が完了してます」
「何ぃ!? どういうことだパニー!」
「私はなんもしてませんよ、あとカーネルって呼んで下さい」
「ってことはラガーの仕業か、あの野郎ぉぉ!」
ダルトンが強制的にギルド本部へ加入。
・【24日後】
「カットウェル衛兵長、ロックフォール伯爵をお連れしました」
「ご苦労、下がってくれ」
「はい」
「…、シルトアさんからの報告で伺ってはいましたが、
一瞬言葉を失ってしまいましたよ…酷くやられましたねマツモト君」
「まぁ、生きてはいますんで、ははは…すみません…
無理やり飛び出して行ったんで自業自得です」
「伯爵として規則を破ったことは容認は出来ませんが、
貴方が大役を果たしたことも伺っています、よく生きて戻りました」
「はい」
「良かったわねオマツ」
松本達がダナブルに到着。
「あの…ノアさんのことなんですけど」
「伺っています、どちらに?」
「後ろです」
「…ノア、いえ、イオニアも随分と頑張ってくれたのですね」
「はい」
モジャヨとは城門で別れ松本と『守り人』は
ロックフォール伯爵と共にシード計画施設へと移動。
と、いうのが松本がダナブルへ到着するまでの各地の主な出来事である、
以降は松本に焦点を当ててマクロな視点でのお話。
・【同日】
「ルーベン!」
「!? な、何すか主任…」
「マツモト君が帰って来たらしいわよ」
「マジすか!?」
「今ドーナツ先生のとこにいるらしい、やる?」
「やるっす」
「「 ふふふふふ… 」」
勝手に飛び出して行った松本をぶん殴ろうと
リンデル主任とルーベンが腕をグルングルン回しながら突撃。
「覚悟~!」
「マツモト君歯を食いしばるっすよ~!」
「「 !? 」」
「あ、2人も無事だったんですね、良かったです、
あと黙って出て行ってスミマセンでした」
「「 … 」」
「あぁ、これ? いや~魔王にやられちゃいまして、もうバッサリスッパリ」
「凄い傷でしょ、なんか1回死んじゃったらしいけど、
精霊様の従者が助けてくれたんだって、あと天界とかよく分かんない話してる」
「(無理…私には無理…)」
「(そんなのズルいっすよ…)」
振り上げた拳は静かに降ろされた。
「よ~しハンク君! ルーンマナ石とルーン魔増石を取り外そう!」
「主任…無理しなくてもいいですよ、私がやっておきますので」
「前回はさ、いきなり死んじゃったから何も言えなかったけど、
今回はしっかりお別れ出来たでしょ、だからもういいの、
悲しくないって言ったら嘘になるけど泣く程じゃない、
イオニアは頑張ったんだから私も、いや、私達も頑張らないとね!」
「主任! 一生付いて行きます!」
カプアとハンクにより『守り人』から
ルーンマナ石とルーン魔増石が取り外される。
その後、ルーンマナ石はアダマンタイトの容器にて保管、
ルーン魔増石と共に貴重なルーン資料として
タルタ国へ引き渡されることとなる。
・【26日後】
「どうでしたかドーナツ先生?」
「以前よりマナ濃度が上がってるけど普通の人間の範囲だね」
「まぁ、ドーラさんもそんなこと言ってましたし、
賢者の末裔みたいにはなってないと思ってました」
「一応左目が赤くなってるよ、ダリアさん達程明確じゃないけど」
「え? そうだったんですか?」
「うん、ほら、黒目の部分の外側が」
「あ、本当だ、薄っすら赤い」
「手術は問題なく出来ると思う、あと魔道補助具代なんだけどさ」
「ど、どうでしたか?」
「腕と足、どっちがいい?」
「はい?」
「腕と足、選んで」
「じゃぁ…足?」
「うん、僕もそっちの方がいいと思う」
「あの~何の話ですか? 手術の順番?」
「カード王が片方の代金を出してくれるってことになってたみたい」
「えぇ!?」
魔王討伐部隊に対してはカード王より報酬が与えられており、
松本の活躍に対しても報酬が与えていたことを知る。
※光の盾と槍は国宝としてカード王国が買い取ったため、
バトーとアクラスの該当する借金はチャラとなりました、
それとは別にアクラスは雷の槍の代金を報酬として受領、
バトーが選んだ報酬は後に登場します。
「そ、そんな…良いんですか?」
「良いんじゃない? 出してくれるって言うなら貰っとけば、
でも最初の1回だけだから成長して交換が必要になったら
自分で出さないといけないけどね」
「いやいやそんなの全然大丈夫です、そこまで贅沢言いませんよ」
「古い魔道補助具を利用して新しい魔道補助に交換すれば、
貴重金属の使用量が抑えられえるからかなり楽になると思う」
「おぉ~素晴らしい」
「残った腕の代金なんだけどさ」
「は、はい…(頼む、なんとか借金を…俺に筋トレと労働のを権利を…)」
「ロックフォール伯爵から提案があるって」
「ほう?」
松本が見た賢者の記憶はフルムド伯爵と解読班の協力の元、
失われた歴史を紐解く貴重な資料として文章化される予定、
それを元に一般向けの本をロックフォール伯爵が出版する予定なので、
情報提供代として売上金の一部は松本の懐に入る予定。
ロックフォール伯爵の提案としては
未来の売上金を前借して魔道補助具代に充てる、
もしくは、情報提供者としての権利を全て放棄し、
魔道義手を1本と手術代を得る、というもの。
歴史書、賢者の物語など複数の関連本が作製可能であり、
演劇の題材となる可能性も高く、
恒久的な収入源になるため権利を保持した方が断然お得。
ロックフォール伯爵としても1つ目の選択肢を推奨していたが、
売上金がカード王国内の魔王被害者の救済に充てられると知り、
松本は2つ目を選択、権利と引き換えに魔道義手を得ることを決める。
ザックリこの辺りで 暦が8月になる。
・【35日後】
松本が魔道補助具装着の手術を受ける。
「…んぁ? …ぁ、ドーナツ先生…もしかして終わりました?」
「うん、終わったし既に魔道補助具も接続済み」
「さぁマツモト君! 麻酔も切れてることだし動かしてみよう!」
「どうですか? 皆最初は戸惑いますけど動かせた時は感動して…」
「…動かないです」
「「「 え? 」」」
「あ、ちょっと動いた、でもちょとだけしか動かないですね」
「「「 … 」」」
マナの扱いが下手過ぎたため碌に動かせず、
歴代の魔道補助具装着者の中で圧倒的不適格者が誕生する。
「主任、これは…」
「今までにないデータが取れる予感、ハンク記録の用意!」
「はぃぃ! 今後の予定も立てましょう主任!」
「(う~ん…マズイ、これでは宝の持ち腐れになってしまう…)」
「まぁまぁ、こういうのは慣れだからさ、焦らなくてもいいと思うよ」
「そうですかねぇ…」
トナツに諭されるも松本の中で焦りが生れる。
・【38日後】
「ジェリコさん、ちょとお願いがありまして」
「おう、どうしたマツモト?」
松本がシード計画施設内から姿を消す。
「本当なのジェリコ?」
「流石に無茶でしょ…」
「何処に置いて来たのよこの馬鹿! お嬢、連れ戻しに行きましょう」
「駄目だ! 今マツモトに必要なのは優しさじゃねぇ! 根性だ!」
「「「 えぇ… 」」」
頼まれたジェリコが町の端に置いて来たことが判明する。
「ふんん…ふんぬぬぬ…」
無理やりにでも動かせるようになるため、
町の端からシード計画施設へ自力で戻るリハビリデスマーチが開始される。
※魔法の粉を所持、パンと水は現地調達。
「まぁ、マツモト君だし大丈夫じゃない?
手術後3日間様子をみてたけど拒絶反応とか無かったし、
本当に困った時は周りの人に助けを求めるでしょ」
「落ち着いてますね…」
「ところでドーナツ先生は何を作っているのですか?」
「いわゆる精神安定剤ってヤツ、いつものお店が潰れちゃって
まだ復旧してないから自分で作るしかないんだよね」
「ドーナツですか」
「(精神安定剤…)」
クルートンとペンテロから話を聞いたトナツは
問題無しと判断し粛々とドーナツを自作。
・【39日後】
「「 … 」」
「ふぬぬぬ…」
「(怖ぇ…プルプルしてるのに目だけバキバキ過ぎるだろ…)」
「ちょと君いいかな?」
デスマーチ松本が衛兵に職質される、この日は合計4回職質される。
・【40日後】
「あ、いた! パトリコさんマツモト君いたよ~!
なんか凄くプルプルしてる~!」
パトリコとヤルエルに発見される。
「ドーナツ先生から話は聞いたぜ、案外元気そうじゃねぇか」
「ははは、見てのとおり右半身は無傷で済みましたからね」
「だはははは! 魔王相手に半身なら上出来さ!」
「(半身でも致命傷だと思うけど…)」
松本のシャツを剝ぎ取って傷を確認すると
パトリコは満足げな顔で撤収、困惑したヤルエルも撤収。
「(なんだったんだ一体…)」
松本はリハビリデスマーチを継続。
・【42日後】
リハビリデスマーチ4日目にして松本がぎこちないながらも歩いて帰還、
魔道補助具をある程度動かせるようになる。
「そんなのって…そんなのって…」
「それならそれで過程のデータが欲しかった…」
「う~ん…(悪いことしたかな…)」
『こんなに下手な人でもこれくらいの期間で動かせるようになりますよ~』
の参考にしようとしていたカプアとハンクが泣いて悔しがる。
・【44日後】
「お久しぶりです~マツモト帰りました~」
『 … 』
「あの~…」
「お、オマツゥゥ! 全然戻って来ないから心配したんだから!」
「ぐぇぇ…」
「ママ~! オマツが戻って来たわ~!」
「ラッチちゃん達が言ってた通りちゃんと手と足が付いてる~ん!」
「なぁ、魔王ってヤベェんだろ? モジャ姉が言ってたぜ」
「っけ、なかなか気合の入った見た目になったじゃねぇかクソガキ」
ダナブル到着後、初めて『新世界』へと顔を出しオネェ達に熱烈ハグを受ける。
・【45日後】
毎日1往復を日課とするリハビリを兼ねた
色物街からシード計画施設までの出勤が開始される。
・【48日後】
「すみませんね~ちょっと歩くのに時間掛かってまして」
「モゴモゴ、ッペ…」
色物街の路地でユキジカのユキちゃんとすれ違う。
・【55日後】
魔道補助具を装着してから20日が経過し、
かなり自然に扱えるようになる。
・【58日後】
「あ、あの…そこの坊や、そこの左手がなんか凄い坊や」
「ん? 俺ですか?」
「そうそう坊やのこと、ちょっとあの…お菓子あるけど…いる?」
「いえ、必要ないです」
「あ…そ、そう? いらないかぁ…」
「(人が良さそうな感じだが微かに俺のレーダーが反応している)」
シード計画施設へ向かう途中で不審なオジサンに声を掛けられる。
「実はあの…私はこの辺に住んでるんだけど、
坊やいつもこの道通ってるでしょ、だからその…あの…」
「すみません、もう行きますね」
「ちょ、ちょっと待って、もう少しだけ待って坊や、
実は左手のヤツが気になっててね、ほらそれ、
ロックフォール伯爵が言ってる魔道補助具ってヤツでしょ、
失った手と同じように動かせるって噂のなんか凄いヤツ」
「えぇ、そうです(急に早口になったな)」
「あの…私実物をちゃんと見たことが無くて…
流石にパトリコさんに声を掛けるのは恐れ多いから、
坊やにちょっと見せて貰えないかなって…」
「ふむ…構造に興味があるとかですか?」
「ま、まぁ…そんな感じ、甲冑とかじゃなくて、
本当に失った腕の代わりにそれが付いてるんだよね?
あ、ゴメン…失ったとか…聞くべきじゃなかったね…
ぐす…ちょっと…涙が…ゴメン…ゴメンね…」
「(今度は泣き出した、感情の入れ替わりが激しい人だな)
まぁ、気にしないで下さい、腕の話であれば
俺の場合は肘から先が欠損したのでこんな感じになってます、
こっから生身、こっから魔道補助具ですね」
「そ、それってあの…外せるの? ずっと付いたまま?」
「外せますよ、固定ロックを外して2回回すと、ほら」
「あ~凄い、本当に義手で元の腕と同じように動かせるんだ」
「接続面は防水になってて…ぎゃぁぁ!? ななななんだぁ!?」
「すまん少年!」
「早く行け!」
「ゴメン! ゴメンね坊や!」
成人男性2人に取り押さえられ魔道義手が不審なオジサンに持ち去られる。
「こんの…なんじゃこらぁ! くっ…1ヶ月以上筋トレしてないから力が…」
「すまん少年、本当にすまん、君に恨みはないんだ」
「俺達だってこんなことはしたくないんだけど他に方法がなくて」
「ちょっと俺の目を見て貰っていいですか?」
「ん? ヒェ!?」
「ど、どうし…ヒェ!?」
「ふぅ…はやり早急に筋トレを再開せねばならんな、待てコラァ!」
筋力不足を狂気で補い危機を脱出、追跡を開始。
「ゴメンね! ゴメンね!」
「謝るくらいなら止まらんかい! この腕泥棒がぁ!」
「うわぁぁ早い!? ゴメンねぇ! 本当にゴメンねぇ!」
「そこが家かぁぁオラァ!」
「ぎゃぁぁぁ!?」
家の扉を開けたところでタックルにより捕獲、
2人して家の中に転がり込む。
「ちょっと何事? その子は…っは!? アンタもしかしてそれ…」
「ま、魔道補助具…」
「あなたこの人の奥さん? この人俺の腕を盗んだんですよ!
大人しく手を放すように言って下…」
「ゴメンね坊や、お願いだから見逃して…」
「チクショ~! あんたもそっち側かぁ!」
「「 ぐぬぬぬ… 」」
オジサンにしがみ付く松本を引き離そうと奥さんが参戦、
床に転がった状態での攻防は右腕1本で耐える松本が若干の不利か。
「もうやめてよ、お父さん、お母さん」
「「「 !? 」」」
「多分その子も腕が無いんでしょ、だったらそれを取り上げたら可哀想だよ」
「「 ぅぅ… 」」
部屋の奥から聞こえた女の子の声により、
オジサンと奥さんが泣きだして脱力、魔道義手争奪戦は終了。
「(その子も…か)取り敢えず事情を説明して貰っても良いですか?」
「「 はい… 」」
奥の部屋には両腕を失った女の子がベットに座っており、
父親から大型魔族に襲われた際の傷だと聞かされる。
「私が弱かったから守ってやれなかったんです…」
「私達にはそんなに高価な物を買うお金は無くて…つい…、
ゴメンね…坊やも辛かったのに…ゴメンね…」
左腕は松本と大体同じ位置から失われており、
女の子を憐れんだ友人と共に犯行に及んだとのこと。
「私はもういいの、何度もそう言ってるんだけどお母さん達聞かなくて、
ずっと元気付けようとして来るんだ、元気になっても何も出来ないのにね」
「ぬぐっ…」
色褪せた目で全てを諦めた少女に松本の中の何かがブチキレる。
「顔を上げろ! 全員だ! こっちを見ろ!」
「「「 !? 」」」
「魔道補助具は体側に受け手とそれを取り付ける手術が必要なの!
俺の義手だけ盗っても意味ないんじゃクラァ! 黙って付いて来い」
「「「 はい… 」」」
家族を引き連れてロックフォール伯爵の屋敷へ移動。
「折角ご厚意で頂いた義手ですが、
どうかこの子に譲る許可を…何卒この子に左腕1本分の希望を…」
「手術代はどうするのですか?」
「俺が負担します、厚かましいお願いですが、
俺の新しい左手と合わせて借金をさせて頂けませんか?」
「そんな坊や…」
「娘のことなんだ、私達が…」
「素人は黙ってろぃ! 魔道補助具ってのは金が掛かるの!
ある程度成長する度に交換が必要なの! これからどんどん金が掛るの!
左手は俺に任せてアンタ等は大人しく右手代と、
これから先のお金を稼げばいいの! わかったかコラァ!」
「「 は、はい… 」」
「それから君は左腕が動くようになったら俺にとびきりの笑顔を見せること!
そんなねぇ! 幼気な子供の絶望的な顔を見せられてねぇ!
見て見ぬふりが出来る程オジサンは人間出来てないんだからねぇ!」
「は、はい…(オジサン?)」
「(ふふふ、本来であればコレは私が対応せねばならないことなのですが、
面白いのでマツモト君の好きにさせましょう、
例え払えなくとも本の売上で賄えますし)」
松本の義手は名も知らぬ女の子へ譲渡されることに、
シード計画施設は一般人には秘密のため、
後日サジウスの病院で手術が行われることに決まる。
・【59日後】
「ということでして、カプアさん、ハンクさん、
出来るだけ安くで新しい腕を頂けませんか?
支払いはニコニコ借金出世払いです」
「ほうほう、そもそも足に比べたら小さい分全然安いんだけど、
まぁ、材料を減らすのが一番かな?」
「例えばですけど、指の数を減らせばその分
貴重金属の使用量を減らせます」
「なるほど…そう言えば初期の頃の魔道補助具に
そんな形のヤツがありましたよね」
「あるけどアレは今のヤツと操作概念が違うよ、ねハンク」
「はい主任、人の腕を動かすというより道具を動かす感じです」
「操作が機械的になるけど形状によっては
人体に不可能な動きが可能ってヤツですよね、
気になってたんですよねぇ、こう言っちゃなんですが、
俺そういうの結構イケるタイプなんですよ、
将来的にパイルバンカーとか欲しい」
「ほう、やっちゃうハンク? 折角志願者がいるなら試しちゃう?」
「ありですよ主任、パイルバンカーというのはよく分かりませんが
もし使いこなせれば新しい魔道補助具の可能性が見えてきます、
取りあえずは簡単な形から試しましょう!」
「「 おぉ~! 」」
「その前にギガント君にご飯をあげましょう」
「「 おぉ~! 」」
松本の新しい義手はプロトタイプの魔道補助具を改良し、
3本指の伸縮機能付きマジックハンドスタイルとなる。
ザックリこの辺りで暦が9月になり、
松本が9歳(精神年齢39歳)になる。
・【63日後】
「動く…動く! 腕が…ある…うわぁぁぁ! 腕があるぅぅ…」
「ふふ(見せて貰うのは泣き顔じゃなくて笑顔の約束だったんだけどね)」
「ありがとう坊や! 本当にありがとう!」
「先生達もありがとう御座いますぅ!」
「拒絶反応が出るかもしれませんから…数日はここに泊まって下さい…」
「よろしくねサジウス、僕も様子見に来るから」
女の子の手術が無事完了し左手に魔道義手が装着される、
マナ操作が下手過ぎた松本とは異なり初日から普通に動かせた。
・【68日後】
「ほう、俺宛の手紙ですと?」
「そそ、今日届いたヤツ、持って行っても良かったんだけど、
どうせ待ってたら来るだろうと思って留めといたんだ、
え~と…ちょっと待ってよ~…ほい」
鳥便局の前を通り掛った際にラポルから
右端に赤と金の小さな花が重なるように描かれた厚手の白い封筒を受け取る。
「おぉ、2通も、しかもなんかお洒落」
「違う違う、君のは1通だけだよ~もう1通はモジャヨって人宛て」
「え? あ、本当だ」
「届け先が同じだから多分知り合いでしょ」
「あ~そういう、知り合いなんで渡しときます」
裏を確認すると差し出し人名が2つあることに気が付く。
「バトーさんとカルニさん? 何で2人から…
っていうか手紙の差出人って2人のことあるんだ」
「そりゃ1人だったら変でしょ」
「そうですか? 2人で1通の手紙を出す方が変だと思うけどなぁ…」
「全然変じゃないよ、だってそれ結婚式の招待状だもん」
「あ~なるほど………はい?」
バトーとカルニの結婚式の招待状であることを知る。
「まぁ、マツモト君はまだ子供だから知らなくても無理はないか、
白い封筒に赤と金の花ってのが結婚式の招待状を送る時のお約束、
覚えとくといいよ、私くらいの年齢になると沢山届くから…、
もうね、はぁ…その封筒見る度になんか複雑な気持ちになるから…」
「(あ、恋愛するタイプの人だったんだ、
てっきり鳥と結婚するタイプかと思ってた…っは!?)」
2通目の宛名を見て渋い顔になる。
「(そ、そうだった…これ俺が渡すんだった…)」
バトーのことが好きなモジャヨにとってこの招待状は失恋宣告書であり、
それを届ける松本は乙女の恋心を完膚なきまでに粉砕する
ロマンスクラッシャー、いや、ロマンスデストロイヤーとなるわけで…
「(今夜は長くなるぞ…)」
友ならばこそ引導を、ということで覚悟を決める。
・【同日、夜】
「この間笑顔で見送ってくれたばかりなのに酷いわよぉぉ…」
「うんうん、そうですねぇ」
「全然女っ気なかったじゃない! いつもの爽やか筋肉だったじゃない!」
「同じ苦境を乗り越えた男女は結ばれやすかったりしますから」
「それで言うなら私だって命賭けで魔王から一緒に逃げたわよ!
あの時は確かに心が通じ合ってたのに、何で私じゃないのよぉぉ…」
「まぁまぁ、ウルフさんもう1杯お願いします~濃い目で」
「出すわけねぇだろクソガキ、どう見てもモジャ姉は飲み過ぎだぜ」
「いいのよウルフ、今日は好きなだけ飲ませてあげて」
「いやでもよママ…」
「まったくウルフは分かってないぴょんね~、
こういうのは飲んで忘れるのが一番ぴょん」
「そ・れ・か、思いっきり騒ぐのも効果的よ~ん、私の歌聞きたい人~!」
『 いぇ~! 』
「モジャヨさんステージが呼んでますよ」
「嫌よ~そんな気分じゃない! お酒頂戴! すっごく濃いの!」
「あらやだ、拗ねちゃったわ、どうするオタマ?」
「オネェにとって失恋なんてパンみたいなものでしょ、
いちいち凹んでたらキリがないわ、無理やり連れて行きましょパーコ」
「ちょと放して! 化粧が崩れたままステージなんて無理無理よ~!」
モジャヨがドラムっぽい楽器に行き場のない感情をぶつける。
「なぁマツモト、モジャ姉なんか凄ぇな、いつもより気合が入ってるぜ」
「シルバ君、人ってのは悲しみを乗り越えて強くなるのさ、酒抜きスープの貝食べる?」
「おう! 食う!」
涙を嚙みしめながら崩れた化粧姿で荒ぶるモジャヨがパンクバンドのようになる。
・【76日後】
「はいこれ、マツモト君の分」
「おぉ~随分と立派な本ですね、表紙の革がなんか凄い」
「各国の代表、各領主、それと箱舟保管用の特別版だからね」
松本の情報を元に纏められ報告書が完成、
フルムド伯爵から1冊手渡される。
内容は賢者の歩み、世界と精霊の関係、天界の存在、
不完全な理について 魔王の発生原理と討伐の意味するところなど。
「これを元に各国で話し合いを行ってどこまでの情報を一般公開するか決めるんだ、
ポッポ村の人達に見せる程度ならいいけど人に売ったりしたら駄目、
異世界から転生して来たマツモト君だから渡すってことを理解して欲しい」
「了解です~、レム様に預けておくので誰にも盗られないと思います!」
「本当!? 皆聞いた? 僕達の纏めた報告書が精霊様に献上されるんだって!」
「「「 バンザ~イ! バンザ~イ! 」」」
「(凄い喜んでる…)」
協力していた解読班のペンテロ、ロダリッテ、ハルカが大喜びする。
※天界の説明などで松本が転生者であることは避けて通れなかったため
シード計画職員に対して公表されました。
「マツモト君例の物を」
「へい、プリモハ様、ご所望のパンで御座います」
「お兄様これは何ですか?」
「パンです」
「ヤー!」
「おふ…」
「違います、美味しそうなパンです、アントル様これは何ですか?」
「お、美味しそうなパン…」
「ヤー!」
「おふ…」
「違います、モッチリ香ばしい食パンです、お兄様! アントル様も!
あの時私の言葉とジェリコのパン利き力を軽んじたことを深く反省して下さい!」
「はい(あと何回やるつもりでしょうか…)」
「(さっきは外はカリカリ中はふっくらのパンだったような…)」
別の日の話だが、プリモハが物的証拠(食パン)と
断罪の槍(ネネの槍のレプリカ)を振りかざして
鬼の首を取ったようにロックフォール伯爵とフルムド伯爵を攻め立てる事件が発生、
4回目で執事のアンダースによって強制終了させられる。
※異世界人の証明としてロックフォール伯爵、フォール伯爵、
プリモハにのみパンが出せることが公表されました。
・【90日後】
「ノルドヴェルさんダナブルにいたんですね」
「そうよ~これからはずっといるわ、
Sランク冒険者は引退して衛兵に戻ったから」
「へ~」
「毎日と彼氏とイチャイチャラブチュッチュしてるわ」
「いや~んモジャ羨ましぃぃ~ん!」
「来年の春か夏頃に私達も結婚する予定なんだ、式には君達も是非参加して欲しい」
「勿論よ~カットウェル衛兵長、2次会は新世界にお任せ~」
「その頃は俺ウルダにいると思うので早めに連絡下さい」
松本、モジャヨ、ノルドヴェル、カットウェル衛兵長が
結婚式に参加するためダナブルを出発。
ザックリこの辺りで暦が10月になる。
・【約4ヶ月後】
『 おめでとう~! 』
10月の中旬、ウルダのカルニの実家前の路上にて
バトーとカルニの結婚式が執り行われる。
ウルダに残留し普及作業に協力していたポッポ村の住民、
ウルフ族とニャリ族は全員参加。
その他にゲルツ将軍とケルシスを除く魔王討伐部隊、何名かの冒険者、
カルニの実家の近所の人達、デフラ町長一家、ルート伯爵一家が参加。
「おう、マツモト、唐揚げ食うか?」
「頂きます~まだ食べ物の供給が安定してないって聞いてたんですけど、
唐揚げは沢山あるんですね、あっちはカニっぽいのもあるし、凄い贅沢」
「唐揚げはバトーとカルニが討伐したコカトリスだな、
カニは俺達が来る時に街道で遭遇してよ、だはははは、丁度良かったぜ~」
「おぉ~流石はミーシャさん、気が利きますね、
実は俺はパンを寄付しました、この会場のパンは全部俺のです」
「お、流石マツモト、気が利くぜ~」
「「 だはははは! 」」
「ところでオメェ変わった義手だな、どうなってんだそれ?」
「ちょっと普通のとは違う試みでして、指は3本しかないですけど、
腕がちょっと伸びます、こんな感じで少し離れた場所のパンも取れちゃう」
「だはははは! 面白れぇ!」
「あと手首が左右に3回転半ずつ回りますんで、
こういうフックタイプのネジを壁にめり込ませる時とか便利です」
「だはははは! しょうもねぇ! やっぱマツモトだぜ!」
変わり種の義手に大喜びしてミーシャが床を転げまわる。
「結婚おめでとうカルニ、チン」
「…っふ、残念だったわねルドルフ、
もうチンを付けられても私が取り乱すことは無いの、
だって結婚したんだもの! 私今乙女してるんだもの!」
「っけ、詰まんない女になったわねアンタ、全然張り合いがないんですけどぉ」
「見ましたロイシン父さん、カルニちゃんが
ルドルフちゃんの挑発を躱せるようになったわよ」
「あぁ、見たともクレア母さん、大人になったなぁ…」
カルニの両親が感動して涙を流す。
※カルニの母親の正式名称がクレアチンであることは余り知られていない。
「バトー、コイツ胸が小さから子供が出来ても乳出ないわよ」
「むきゃぁぁぁ! アンタも同じでしょうが!」
「私は結婚してないし子供も産む予定はありません~」
「見たかいクレア母さん、カルニちゃんがいつも通りはしゃいでいるよ」
「えぇ、見ましたともロイシン父さん、良い友達に恵まれたわねぇ…」
「今度一緒にトレーニング行ったりしないかなぁ」
「行きますとも行きますとも、あんなに仲が良いんですもの」
再びカルニの両親が感動して涙を流す。
※2人が光筋教団員であることは近所の人達には良く知られている。
「カルニ姉さん綺麗…」
「カルニ姉さん幸せそう…」
「うぐっ、うぐぅぅ…カルニ姉さん良かったぁぁ…」
「ぐぇぐぇっ、カニ美味しいぃぃ…」
カルニ軍団は盛大に泣いた。
「(こ、これで良かったのですぞ…)」
「(これで良かったのであります…)」
「はぁはぁ(これで良かったんだな…)」
ラストリベリオンの3人は端の方で静かに泣いた。
「バトー、おめでとさん」
「ありがとうゴードン、ポッポ村の皆も準備を手伝って貰って悪いな」
「気を使うなよ、皆で手伝うのがポッポ村流だろ、
町に移り住むからってもう忘れちまったのか?」
「ははは、まだちゃんと覚えてるさ、年に1回は戻るから俺のことも忘れるなよ、
本格的に戻るのは…そうだな、カルニがギルド長を引退してからだ」
「子供が出来たらそうはいかねぇさ、心配すんな、
無理に戻って来なくても村は大丈夫だ、カルニさんバトーを頼むぜ」
「はい」
「それはそうとバトー、例の物はちゃんと渡したのか?」
「いや、まだだ」
「え? まさか…あの乙女心がこれっぽっちも、
全く全然分からないバトーが私のためにこっそり贈り物を…」
「感動してるところ悪いが多分期待してるのとは違うぞ、
俺の家に代々伝わる掟でな、結婚したら女性側にこれを渡すことになってるんだ」
「ペンダント? でも随分と古いような…」
「実際に古いんだ、いつからある掟なのかも分かってない、
嫌かも知れないが身に着けておいて欲しい、俺の母親の形見なんだ」
「あぁ、確か子供の頃に亡くなられたって」
「父親も一緒にな、バトーの両親はポッポ村を守るために死んだんだ、
あの頃はまだ今みたいに戦える大人が多くなくてよ、俺もまだ若かった」
「そうですか、ありがとうバトー、大切にするから」
バトー家代々のネックレスがカルニに譲渡される。
「この模様の意味は?」
「太陽って聞いてるぞ」
「へ~太陽、ん? これ裏に文字が彫られてない?」
「あるぞ、凄く大切なものだから必ず子供に引き継ぐように言われてるんだが、
掠れてるせいでなんて書いてあるか分からないんだ、
そのせいで何が大切なのか、何故大切なのか誰も知らないんだ」
「バトーの家計が途切れたら村長が引き継ぎようにも言われててな、
なんか凄ぇヤツなのは間違いねぇ」
「へ~…そう言えば、マツモト君って確かどんな文字でも読めるんじゃなかった?」
「あ~そうだったな、でもこれ掠れてるからなぁ…、
まぁ、試してみるか、お~いマツモト~!」
「はい~」
松本が呼ばれ文字の解読か試みられる。
「あ~普通に読めますね、俺ある程度文字の形が成立してればイケるらしいんで」
「本当にどういうことなの…」
「「 まぁ、マツモトだしな 」」
「え~では読み上げます
『太陽の沈む場所に光は眠る、闇に抗う者は伝承を辿れ』です、
(あれ? この言葉何処かで…)」
「「「 ふむ? 」」」
「バトー何か知ってるか?」
「いや、ゴードンは?」
「知らねぇ」
「どうしたのマツモト君?」
「いや、俺この言葉聞いたことがあるような気が…」
「「「 ほう 」」」
「何処だったかな~? 誰に聞いたんだっけ? 太陽の沈む場所…」
「太陽が沈むのは西だな」
「まぁ、そうですけど…西ぃ!?」
「「「 !? 」」」
「カンタルだ…カンタル…嘘ぉ…そいうこと?」
「カンタルって、マツモト君そんなところまで行ってたの?」
「バトー、カンタルって何処だ?」
「西にある古い町らしい、今は砂漠になってる」
「違う…違う違う…カンタルで聞いたんじゃないです…
フルムド伯爵から聞いたんですけど…どうしようこれ…まだ確定じゃないし…」
「どうしたんだマツモト? 様子がおかしいぞ」
「そりゃおかしくもなりますよ、え~どうしよう…うわ~これちょっと…、
よく考えたらメッチャ似てるんだよなぁ…うわ~もうこれは…う~ん…、
俺がこの場で下手なことを言うと大問題になるんで待って貰っていいですか?
正式な回答はちょっと時間掛かると思いますけど」
「「「 はい 」」」
「シルトアさ~ん! お願いしたいことがあるんですけど~!」
「はいはい~どうしました?」
「人のいない場所で話しましょう、かくかくしかじかなんたらかんたらで~」
「えぇ!?」
松本の伝言とバトー家のペンダントを受け取ったシルトアがダナブルへ飛ぶ。
「ペンダントのことは時間が掛かるらしいし、
カルニ、取り敢えずケーキでも切り分けるか」
「そうね、そうしましょう」
「いや~随分と大きなケーキですけど、この時期にバトーさんも良く用意しましたね」
「魔王を倒した報酬で貰ったんだ、カード王からの贈り物だぞ」
「そりゃ味わって食べないと罰が当たりますね、カルニさんは何にしたんですか?」
「今着てる私とバトーの服、そうでもしないとこんなの手に入らないもの」
「なるほど、それで国章の刺繍が付いてるんですか」
※バトーとカルニの結婚式後、
ポッポ村の住民とウルフ族、ニャリ族はポッポ村へと戻ります、
松本は同行してポッポ村へ、モジャヨはダナブルへと戻ります。
・【同日、同時刻】
「千年の時を超えて蘇った名画を見たいか~!」
「「「 おぉ~! 」」」
「私達がカンタルで発見した歴史的名画を見たいか~!」
「「「 おぉ~! 」」」
「職人によって見事に修復された名画を見たいか~!」
「「「 おぉ~! 」」」
「お~っほっほっほ! 良くってよ~良くってよ~! それではいきます!
これが光の3勇者の1人、トルシュタイン様と、
そのお相手であるルノテニアさんです!」
「「「 おぉ~! …ん? 」」」
ロックフォール伯爵の屋敷の一室にて、
プリモハの独断によりシード計画職員達に先行する形で
プリモハ調査隊が修復された絵画を確認する。
「「「 … 」」」
「どうしたの皆?」
「いや、どうしたと言いますか…」
「このトルシュタイン様なんですけど…」
「バトーさんじゃね?」
「…ん? あら本当、よく似てるわね」
・【約5ヶ月後】
松本の証言を元に作製された報告書に
『光の3勇者の1人、トルシュタイン様の子孫について』
という項目が追加される。
・【約9ヶ月後】
翌年の4月頃。
冬の間ポッポ村に帰っていた松本がウルダへ出稼ぎにやって来る。
「おぉ~凄い、これが噂の世界を救った10英雄達の像か」
ウルダの中央広場に新しく出来た像を見上げる。
「ははは、ミーシャさんが言ってたのってこれのことか」
バトーの像は左手に光の盾、右手に水晶玉となっており、
ミーシャの像は右手に大斧、左手にフランスパン、
ノルドヴェルの槍が愛槍から光の槍へと変更になっていることに気が付く。
『名も無き英雄達に敬意を』
それがミーシャが選んだ魔王討伐の報酬である。
「(今度会ったらお礼言おう、これくらいの扱いが丁度いい、
どう考えても俺は英雄向きじゃないからな)」
鞄から取り出した食パンに塩を振り、
松本は満足そうな顔でギルドへと向かう。
「(さ、久しぶりの冒険者活動だ、頑張って借金返すぞ~)」
異世界転生したが能力が高いわけでないのでパンを齧る。




