月子さんはその後も
最終話です。
カオルが手招きをすると、講堂の一番後ろから女生徒が1人歩いてきた。
他の生徒がそちらを向く前に、カオルはマイクを持って話しはじめた。
「おかしいと思ったのよ。だって、こんな稚拙なロボットを、ロボット派遣団体が派遣するはずはないもの。“はい”と“いいえ”しか喋れなくて、水にも弱い、物を食べることもできないようなロボットで、調査ができるはずがないのよね。
生徒会長、あなたが自作したというのは、大したことだわ。一般高校生の自由研究でここまでできたのだもの。だけどね、本物のロボットっていうのは、こういうものよ」
そのカオルの言葉に合せるようにして、後ろから歩いてきた女生徒が舞台に飛び乗った。
「きゃあ!」
幾人かの女生徒が悲鳴を上げた。
壇上に上ってきたのは“カオル”だった。
顔には大きな絆創膏と眼帯をしていて、右手足には包帯が巻いてある。昨日までのカオルだ。
「これは、私が作った、試作品一号。このくらいのデキでも、まだ試作品って言うのよ。まあ、それでも、私が事故にあって動けない間、学校に来て充分情報を集めることができるくらいの精度ではあるけどね。
分かった?生徒会長さん。これくらいのものができなけりゃ、実験なんて失礼だからやっちゃいけないんですよ」
生徒会長も、生徒たちも、先生ですらあっけにとられていた。
まさか、昨日まで学校に通っていた“怪我をしたカオル”がロボットだったなんて、気づかなかったのだ。
「どう?騙されてて、良い気分がしたかしら?」
みんなは、カオルの気持ちが分かった。どんなに見抜けないロボットが相手でも、騙されていたと分かると、嫌な気分を味わうのだ。しかも、カオルは学校中から1人のけ者にされて騙されていたのだ。まだ気分が収まらなかった。
そこで、カオルはさらにこう言った。
「だいたい、趣味で女の子のロボットを作っちゃうところがオタクよね。気持ち悪いったらありゃしない」
なるほど。確かに気持ちが悪い。
このカオルの言葉を聞いて、今まで生徒会長ラブだった女生徒たちは目が覚めたようだ。
これがカオルの復讐だった。
生徒会長もカオルも、高度なロボットを使ったわけだが、これをもって自由研究と復讐はチャラになった。
「君には参ったよ」
生徒会長は、それから心を入れ替えて、男のロボットを作ることにした。勿論、ロボット作りの大先輩であるカオルに意見を仰ぐようになった。
カオルの希望で、月子さんはその後もカオルの隣の席に座っていた。
時々カオルが自宅に持ち帰ると、次の日には月子さんは少し賢くなって学校に現れ、いつしかクラスメイトたちに交じってお喋りをするようにもなった。
生徒会長の自由研究はカオルによって大失敗となったが、カオルがいたおかげで、生徒会長はもっとたくさんのことを学ぶ機会を得たのだった。
というか、多分生徒会長のロボットは相当素晴らしかったのだけど、怒らせた相手が悪かった、ということだろう。
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