月子さんが可哀想
9日目
生徒集会があるというその日から、カオルは体中の包帯や顔の眼帯を外して来た。
「おはよ~、カオルちゃん、すっきりしたね」
「おはよう~。やっと包帯取れたんだぁ」
みんながカオルの怪我が治ったことが分かり、喜んでくれた。
「今日から体育もするつもり」
カオルが言うと、ユッコが笑った。
「今日は体育ないのよ。生徒集会があるから。生徒会長の大事な話があるみたい」
「へえ~」
生徒会長の大事な話とはなんだろう?カオルは大して気にもしていなかった。
しかし、今日のカオルは、全校生徒からの注目の的であった。
なぜなら、生徒会長が臨時に集会を開くには、きっと月子さんの秘密とカオルのことが話題になるはずだからだ。
カオルは気付いたのだろうか。生徒会長はどうするのだろうか。生徒たちはみんな、そのことを知りたくてずっとカオルを見ていた。
生徒会長は、そろそろカオルが月子さんの秘密に気づいても良いころではないかと思っていた。
いつまでも、みんなと違う認識をしていては、まるで仲間外れのようでカオルが可哀想だと思った生徒会長は、今日の生徒集会で、月子さんのヒントを与えようとしているのだった。そのヒントで、カオルが月子さんの正体を知ることができるか、それとも、人間と思い込んでいるために、ロボットであることに気づかないかがわかる。
ピントがボケてるとはいえ、生徒会長の優しさを織り交ぜた賭けでもあった。
生徒集会が始まった。
生徒会長は檀上に上がり、堂々とマイクを持った。あちこちから、女生徒の黄色い声が聞こえる。
「諸君おはよう」
カオルは思わず吹き出してしまった。
そんな、漫画みたいな挨拶をする生徒会長がいるのだ。さわダン気取るにしたって、やりすぎだろう。逆に恥ずかしいったらありゃしない。
「諸君も知るとおり、先日下校中に大きな事故があった。幸い、けが人は二人、大したことはなかったが、その現場にいた僕は、自転車は自動車ほどではないにしても、十分に交通事故に成りうるものだと思った。
自転車で登下校している者もいるだろう。加害者にならないためにも、十分に注意して運転して欲しい。また、徒歩でも見通しの悪いところでは、飛びだしたりしないように、お互いに注意できる環境を作って欲しい」
生徒会長がそう言うと、パチパチと拍手が起こった。
「その時のことだが、不思議なことがあった。
1年の綿貫君が、自転車に飛ばされて手首が曲がってしまったのを、僕は目撃した」
ああ、そういえば、そうだった。とカオルも思い出した。
あの時は、意識が薄れていくところであったし、あれは幻だったのかもしれないと思っていたのだけれど、どうやら生徒会長も同じものを見ていたらしい。
「その、綿貫君だが、次の日には手首になんの後遺症もなく学校に現れている。非常に不自然だ」
それを聞くと、生徒たちがざわざわと騒ぎ始めた。
生徒会長は、ここで月子さんの種明かしをしてしまうのだろうか。それとも、最後まで言わないつもりだろうか。生徒たちは非常に興味を持って生徒会長を見つめた。
「綿貫君、檀上に上がって、説明したまえ」
いつもは「月子」と呼んでいるはずなのに、こういう時は「綿貫君」と呼ぶらしい。などと、カオルはいらんことを考えていた。
しかし、そんなことで檀上に上がらなければならないというのは、月子さんが可哀想だとも思った。
月子さんが舞台に上がると、生徒たちから拍手が沸き起こった。