森の探索-2
【ホーンラビットを撃破。経験値を18得ました。】
【レベルが3から5に上がりました。】
【小ゴブリンからゴブリンに進化します。】
【スキル《弱いものいじめ:レベル1》《投擲術:レベル1》《棍棒術:レベル1》を獲得しました。】
【スキル《ゴブリン語》がレベル3に上昇しました。】
頭の中に、連続で無機質な声が響く。
……進化?
黒い靄が全身を覆い、身体が急に熱くなっていく。
骨が軋むような音が内側から聞こえて、全身が内側から押し広げられる感覚が走った。
痛い。だが、嫌な痛みではない。本能が喜んでいるのを感じる。
数秒後、熱が引く。
自分の腕を見下ろすと、明らかに太く、長くなっていた。
身長は、さっきまでの70センチ前後から、1.5メートル近くまで伸びている気がする。
目の前の小ゴブリンやホーンラビットが急に小さく見える。
口元の違和感に触ってみると、爪も牙も、大きく鋭くなっている。
「……これが、ゴブリンか」
小さく呟く。進化というものは想像以上に大きいもののようだ。
手元の棍棒も、急に短く感じる。
新しく得た《棍棒術》の感覚が、自然と手に馴染んでくる。
振り方のコツみたいなものが、頭ではなく体に流れ込んできた感じだ。
《投擲術》も同じだ。さっき石を投げたときの感覚が、より正確に再現できそうな気がする。
そして——《弱いものいじめ》。
名前からして嫌なスキル。前世の嫌な記憶が蘇りそうだ!
だが、効果の一端が直感的に理解できた。
「自分より弱い生き物、特に同族に対して、威圧をかけられる」
目の前で、ホーンラビットの首に齧り付いたままの小ゴブリンが、こちらを血走った目で見ている。
傷だらけで、今にも倒れそうだ。
さっきまでの僕なら、殺すか逃げるかの二択しかなかった。
だが、今は違う。
僕は棍棒を構えながら、ゆっくりと前に出る。
小ゴブリンが牙を剥いて唸る。
その瞬間、《弱いものいじめ》を意識した。
まるで、視線に重みを乗せるような感覚。
小ゴブリンの体がびくりと震えた。
唸り声が止まり、目が細くなる。
威圧が効いている。
「……座れ」
ゴブリン語なんて全くもってわからないが、スキルゴブリン語を意識して短く言ってみる。すると口と舌が勝手に動きだす。
小ゴブリンは一瞬抵抗するように身を強張らせたが、結局、ゆっくりとホーンラビットから牙を離し、その場に膝をついた。
まだ警戒は解いていない。だが、攻撃してくる気配はない。
僕はさらに一歩近づき、自分の体を見せつけるように直立する。
身長差はもう明確だ。
小ゴブリンは、僕を見上げるしかない位置にいる。
「仲間になれ。そしたら食わせる。逆らえば、敵だ」
できるだけ低い声で、ゆっくりと言った。
《弱いものいじめ》が、言葉に重みを加えているのがわかる。
正直胸はバクバクだ。僕としては絶対に仲間になってもらいたい。
あんな魔物と今後一人で戦うなんて無理だ。
小ゴブリンはしばらく沈黙していたが、やがて、小さく頭を下げた。
……従う、という意思表示だ。心の中で心底安堵する。
正直、うまくいくとは思っていなかった。完全にスキル頼りだ。
だが、このスキルの効果は想像以上らしい。
小ゴブリンとの敵対という不安要素が消えると、急に嗅覚が血の匂いを強く認識し始める。
周囲も小ゴブリンも血だらけだ。
今、他の魔物が寄ってきたら絶望的だ。
「とりあえず、食べて移動しよう」
小ゴブリンは、短く鳴くとすぐにホーンラビットのお腹に齧り付く。
僕は息を吐き、周りを見渡す。
鬱蒼とした森が風に煽られ、音を立てながら左右に揺れる。
今にもなにか出てきそうで落ち着かない。
その時、小ゴブリンが勢いよく何かを差し出してくる。
見るとそれは噛み千切られたホーンラビットの上半身だった。
小ゴブリンの口にぶら下がっている下半身よりは大きく見える。2:1ぐらいで分けたのだろう。
分け方的にも忠誠心ゆえなのだろうが、あまりにグロデスクな見た目に一歩引いてしまいたくなる。
だが、それと同時に近づけられた生肉の匂いが強烈に脳を刺激し、食べたいという欲求が急速に膨れ上がる。
これはまずいと思ったときには、身体は無意識のうちに頭を鷲掴みにし勢いよく齧り付いていた。
鋭くなった爪は目を抉り、牙は角ウサギの頭を裂いていく。
先ほど以上のショッキングな視覚情報に僕は今度こそ意識を失った。




