第三百六十話 光の中へ(最終回)
森の中は思った以上に冷やりとしていた。
この外では真夏の太陽が容赦なく照り付けているはずなのに、ここはまったくの別世界だ。
ずっと昔、三人で一度来たことがあるこの道なき道を進みながら、不思議なことに紫野は、誰かが自分を導いてくれているのではないかという気持ちになっていった。
なぜなら、体がどんどんと前に向かうのである。
もちろん、子供たちを助けにいかねばならない、その気持ちは強い。
だがまるで後ろから押されているように、紫野は迷うことなく進んでいるのだ。
そして、さらに不思議な予感――
(これから俺は、変わる)
それが何なのかはわからない。
期待なのか、恐怖なのか、希望なのか、失望なのか。
歩きながら浮かんできたのは、天礼を山の湯だまりにつれていった、あの幸福感だった。
結果はどうだったとしても、
(あの時俺は、自分のなすべきことをした)
ひとりで決心し、決行し、そして感謝という喜びの泉に満たされた――
(俺は、やれる)
紫野の行く手には、木漏れ日できらきらと輝く枝葉や道が用意され、次第に高揚していく気持ちに心地好く酔いしれながら、彼はその光の帯の上を振り返ることなく歩いていった。
行き過ぎるその背後で、即座に白い霧が渦巻き、押し寄せる陰惨な闇が足元に溜って自身を完全に外界から遮断していくのも知らず――
ふと紫野は、誰かを呼ぶ、少年の細い声を聞いたような気がして辺りを見回した。
そして、その目の先に、森の出口を認めたのだった。
かつてそこには、張り巡らされた木の柵と立て札があったはず。
けれど今、そこにあるのはまばゆい光のみである。
まるで太陽の光をすべて集めたようなまぶしさがそこから噴き出している。
(――さあ)
過去はすでに背中でたゆたっている。
紫野は大きく一息つくと、その光の洪水の中に飛び込んでいった。
-了-
長い間、お読みいただきありがとうございました。
『風の刻-花の陰-星の雫』はこれで連載を終了させていただきます。
私にとっても初めての連載、楽しく、時には苦しく書かせていただきましたが、皆さんの残してくださるメッセージやアクセスが大変励みになりましたことをここにご報告し、この場を借りまして心から感謝させていただきます。
そしてそして、この1月1日より、『陰陽伝(一) =陰陽開眼=』を開始させていただいています。どうぞ、この後の三人の運命を見守ってやってください。
かなり衝撃的な描写がございますので、「前書き」をお読みになった上で心してお読みくださいませ。
ありがとうございました。