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どうにもならない……

 本日の夕食はバーベキューだ。

 カリンはホイルで包んで網の上で酒蒸し風にしたホタテを食べながらニコニコしていた。

 タツキの顔を引っ叩いたらスッキリした、ある意味後腐れのないサッパリした子だ。


 と、思いきや――


「あ、あたしのホタテ!」


「ふっふっふ……早い者勝ちです」


 カリンはヒトミの狙っていたホタテを素早く奪取した。カリンの眼は挑戦的に輝いてヒトミを見据えている。


「ほら、荒井さん。僕のホタテあげるから」


 それを見ていたタツキがヤレヤレと自分が食べようとしていたホタテをヒトミにあげた。


「ありがとうございますぅ」


 ヒトミが勝ち誇ったようにカリンを見ると、カリンはどこ吹く風で次の得物を見定めている。


 彼女なりに咀嚼して考えた結果、先生のことは「好きじゃない」になった。ドキドキしたのはきっと気のせいで、自分より背が小さくて生意気で女にだらしないタツキなんか「好きじゃない」。

 だからタツキがヒトミと仲良くしようが一緒にお風呂に入ろうが「気にしない」のだ。かなり強引だが強情で一本気なカリンがそう思い込んだら誰にも止められないし、止める人もいない。夏木さんのせいでタツキとカリンの距離は相当離れてしまった。

 そもそもカリン相手に駆け引きなんて通用するはずないのだ。

 恨みがましい目で夏木さんを見つめるが、彼女は涼しい顔でビールを飲みながらカリンにピーマンを取ってあげた。


「おい、夏木さん……ピーマンはないんじゃないか?」


 口出しする気のないタツキだったのだが思わず口に出してしまった。お肉が美味しそうに焼けているのによりにもよってピーマンはないだろう。

 ところが――


「お、お姉さん……どうしてあたしがピーマン狙ってるって分かったんですか!?」


 カリンは目を輝かせて夏木さんを見つめながらピーマンをムシャムシャと食べた。


「ほほほほ、カリンちゃんをよく見ていれば分かるわよ。はい、海老ね」


 夏木さんがそう言いながらカリンのお皿に海老を乗せるとカリンは感極まって頬を染めて夏木さんを見つめた。しかも海老の殻を剥いてあげるという小技を駆使している。夏木さんを見つめるカリンの瞳に熱が篭っているのは気のせいなのか。


「次は――」


「人参だな!」


 夏木さんの目の前をタツキの箸が掠める。


「はい、アーンするんだカリン!」


「ほぇ……!?」


 ポカンと口を開けていたカリンの口に放り込まれる人参。


「……カリンちゃん、ホタ――!」


 ホタルイカもタツキに強奪された。夏木さんはケッ、と鼻で哂うと冷たい麦茶をグラスに注いだ。


「カリンちゃん喉が渇いたでしょう?」


「はい! ありがとうございます」


「……カリン! 江島が握った塩むすびは美味しいぞ」


「しつちょぉ、あたしにはアーン、してくれないんですかぁ? ホタテぇ」


「うるさい! これでも食べてろ!」


「キャッ! 熱い!」


 焼き立ての熱々ソーセージをヒトミの口に突っ込むタツキは鬼気迫っている。その隙に玉ねぎをふぅふぅしてカリンの口許に持っていく夏木さん。

 バーベキューは混沌の渦に呑み込まれたが、根岸と江島はビールを飲みながらマイペースに食べていた。因みに二人は大人の男らしくエスプリの利いた下ネタを交わしていたらしい。


「ふぅ……お腹いっぱいだよ……」


 デザートの豆大福を食べながら幸せそうな顔のカリン。色々あって(周りが勝手に騒いでいただけとも言う)疲れたのか眠くなってきた。もう一度温泉に浸かりたかったのだが、皆に挨拶をしてから与えられた部屋に下がった。



***


 夜更けの静まり返った別荘の廊下を足音を立てずに歩く人影。

 しっかりとした足取りの人影は静かに、とある部屋の扉を開けた。


「ふっふっふ……駆け引きがダメなら、既成事実だ!」


 意味不明のことを呟きながらカリンの部屋に忍び込むのはもちろんタツキ。

 抜き足でベッドに忍び寄り、神業のような素早さでカリンの手に手錠を掛けてベッドに拘束した。


 だが、皆さんお察しの通りタツキが拘束したのは――


「あら、何をやっていますの室長?」


「ゲッ……! 夏木さん!?」


 で、ある。


「カリンの部屋で何やってるんだよ!?」


「夜這いに決まってますわ」


「カリンはどこだ!?」


「トイレです」


 ガチャ――


「「「………………」」」


 タイミング良く戻って来たカリンとベッドの上の二人、三人はお互いに顔を見合わせて硬直してしまった。

 我に返ったカリンがドアを閉めようとするが、タツキはササッと動いてカリンの腕を掴んだ。


「逃がすか!」


「はーなーせー!」


 カリンは身の危険を感じて、後のないタツキは死ぬ気でお互い踏ん張っている。

 お互いの力が拮抗している。


 だが、運命はとうとうタツキに勝利を齎した。

 カリンの足の下にあった小さなマットレスがワックスの利いたフローリングで滑ってしまい、カリンがそのまま倒れてしまったのだ。


「ふふふふふ……はっはっはっはっは!」


「ぎゃーっ!」


 倒れたカリンの手と足を素早く縛ってベッドに引っ張っていくタツキからは執念というか妄執と言うか、それっぽいものが放出されている。

 

「あら、私の目の前でヤるんですの?」


 そして夏木さんの存在を忘れていた。ここで夏木さんを解放すればまたきっと邪魔されるのだろう。


「……もちろんだ。問題あるか?」


「ありませんわ! 是非どうぞ!」


 そう言われると、ヤりずらいことこの上ない。

 おまけに――


「あたしも混ぜてくださぁい!」


 騒ぎを聞きつけてヒトミまでやってきた。


 もうメチャクチャだ。

 誰が悪いのだろうか。


 もちろん、カリンの生着替え動画に釣られたタツキが悪い。上手くいけばカリンはタツキを「好きかもしれない」になったかもしれない。


 この後、タツキがカリンを振り向かせるのに数年は費やすことになるだろう。




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