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不運死する幼馴染を救ったら懐かれた  作者: ChaCha


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集中できない理由

魔術の基礎練習は、終わったはずだった。


終わった、はずなのに。


「……」


私は庭の隅で、じっと自分の右手を見つめていた。

さっきまで確かに、ここに“感覚”があった。

巡って、集まって、灯った、あの確かな熱。


……なのに。


(……今、やっても)


深呼吸。

意識集中。

身体の内側へ――


ぽっ。


……何も起きない。


「……あれ?」


もう一度。


吸って。

吐いて。

心の臓から、右手へ――


(……来ない)


首を傾げる。


「おかしいな……?」


さっきは、できた。

確かに、できたのだ。

小さいけれど、はっきりと光った。

幻でも気のせいでもない。


なのに、今は、静まり返っている。


「セナ」


背後から声。


……ビクッ。


反射的に肩が跳ねた。


「な、なに!?」


振り向くと、ラウルが立っていた。

さっきまで一緒に練習していたのに、

ほんの数歩離れただけで、なぜか不意打ち感がすごい。


「……集中、切れてる」


「き、切れてないよ?」


即答。

なおさら怪しい。


ラウルは小さく息を吐いた。


「顔に出てる」


「……まじか」


私は両頬をぺちぺち叩いた。

気合、入れ直し。


「よし。もう一回!」


宣言して、瞳を閉じる。


……が。


(……さっきと、違う)


雑念が、やけに多い。


芝生の匂い。

風の音。

遠くで鳥が鳴いた。


そして――


低い声。

近い距離。

背中に感じた、体温。


(……あ)


思考が、そこで止まった。


「……」


瞳を開ける。


ラウルが、すぐ後ろにいた。


近い。

近いっていうか、近い。


「……なに?」


「いや。呼吸、浅くなってたから」


真面目な顔。

本気で、魔術の話をしている顔。


(……なのに)


私の頭の中は、さっきの練習の再生会。


後ろから回された腕。

手を包まれた感触。

耳元に落ちた声。


『ほら、集中』

『そう……いい感じ』


(……いい感じ、って……)


思い出しただけで、胸の奥がむずむずする。


「……セナ?」


ラウルが、首を傾げた。


「さっきから、ぼーっとしてる」


「し、してない!」


即否定。

二回目。


怪しい。


「……休憩する?」


「う、うん……」


素直に頷いて、私はその場に座り込んだ。


芝生が、ひんやりしている。

さっきまで感じていた熱が、すうっと引いていく。


(……おかしい)


魔術の基礎は、精神集中が命。

なのに、集中しようとするほど、別のことが浮かぶ。


しかも、その“別のこと”が、

だいたい全部、ラウル絡み。


声。

距離。

体温。


(……え?)


そこで、ようやく気づいた。


(……もしかして)


私は、そっとラウルを見る。


ラウルは、いつも通りだ。

落ち着いていて、余裕があって、

真剣に魔術を教えようとしている。


……多分。


(……多分だけど)


「……ねえ、ラウル」


「ん?」


「さっきのさ……」


言いかけて、止まる。


どう聞く?

どう言う?


“近すぎない?”

“声、低すぎない?”

“体温、気になりすぎない?”


……全部、言えない。


「……教え方、上手だったね」


結果、無難なところに着地した。


ラウルは一瞬だけ目を瞬かせて、

それから、少し照れたように視線を逸らす。


「……必要なことを言っただけ」


その声。


(……また)


胸の奥が、きゅっとなる。


「……」


「……」


沈黙。


風が、二人の間を通り抜ける。


(……あー)


私は、内心で頭を抱えた。


これだ。


魔術ができたりできなかったりする理由、

これだ。


集中が乱れる原因、

これだ。


(……ラウル)


本人は真剣。

私は混乱。


これは……困る。


「……もう一回、やる?」


ラウルが言う。


私は、一瞬迷ってから、頷いた。


「……うん。でも」


「でも?」


「今度は、前に座って」


言った瞬間、

ラウルが、ほんの少しだけ目を見開いた。


「……それは」


「……集中できないから」


正直に言うと、

ラウルは一拍置いてから、ふっと笑った。


「……なるほど」


納得、したらしい。


「じゃあ、距離、考える」


そう言って、一歩下がる。


……それだけで。


(……できそう)


胸のざわつきが、少し落ち着いた。


(……これ)


私は、心の中で結論を出す。


魔術の集中が乱れる理由。


それはきっと――

ラウルが、近すぎる。


近すぎて、

声が、体温が、存在そのものが、

意識の全部を持っていってしまうから。


(……これ、慣れるのかな)


いや、慣れたら困る気もする。


そんなことを考えながら、

私はもう一度、瞳を閉じた。


今度は――

ちゃんと、集中できる、はずだ。


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