茜色の夕日
「ああ、重い……。」
「そうだね、平助くん……。」
柚季は平助と二人で日が暮れてまもない街を歩いていた。
普通の女の子ならドキドキするシチュエーションだが、それどころではなかった。荷物がとてつもなく重いのだ。
平助は、大根三本と、ほかの野菜。柚季は、大根二本と、そのほかの野菜をもっている。肩が外れるかと思うほどの重量だ。テスト前のリュックよりも重たい。
こうなったのも、遡ること一時間。
稽古着から着物に着替え終わった頃のこと。
「柚季ちゃん!」
ミツが入ってきた。
「なんですか?」
「確か藤堂君と仲が良いわよね? 二人に買ってきて欲しいものがあるんだけど……。」
「了解です。」
思えば、この時に断らなかったのが元凶だ。まあ、目上の人に頼まれて、断ることなどできるはずがないのだが。
とん。小さな衝撃が肩に走った。この荷物の量だ。よろけてしまった。
「すまねえ、お嬢ちゃん。」
ぶつかってきた男はそう言って去っていった。
転びそう。だが、柚季の着物が土で汚れる事はなかった。
「大丈夫? 柚季。」
藤堂に支えられていたのだ。私は決して軽くないはずなのだが、藤堂は荷物を持ちながら、私の背中に手を当てている。
「ごめんね! 平助くん! 重かったよね、腕つってない?」
「柚季、背筋ものすごいあるな。」
必死に謝った柚季に対する藤堂の返事はこれだった。
「デリカシーなさすぎ……。」
ちいさく呟いた。
「みて!」
藤堂が突然、川の方を指さして言った。
「すごい綺麗だよ。」
それは、切ないほどに美しかった。
黄昏時の金色の光が川面をきらきらと反射している。
町の喧騒が、遠く感じる。まるで、別世界のよう。
この時代でしか見ることの出来ないこの景色をしっかりと目に焼き付けておきたい。そして、自然を前に、少年のように目を輝かせている藤堂の横顔も。
「君のその小さな目から大粒の涙が溢れてきたんだ。忘れることはできないな。そんなこと思っていたんだ。」
夕焼けの空を見つめて、柚季は、ふと、フジファブリックの茜色の夕日を口ずさんでいた。
二人の間には、この歌が流れている。




