目標
マクスウェルside
冬まじかの朝は冷える、
年老いた体にはちと酷じゃのう、
しかし、
時間を指定するのを忘れたのう、
わしが指定した場所へ行くと見覚えのある緑色の髪をした少女が屈伸したり腕を振り回したりしている、
足を上げたりすると下着が見えてしまっているのう、
幽霊殿はそこら辺を教え忘れたのかの?
さすがに100歳以上も歳が離れた幼子の下着を見ても欲情はせぬがな、
どちらかというと孫かひ孫のようなものかの、
そう考えていると少女がわしに気づいたのかこちらを見た、
わしと確認すると手を振り叫んだ、
「おじいちゃーん!」
おじいちゃんと呼ばれると嬉しくもあり寂しくもある、
わしは軽く手を上げて歩み寄る、
「すまないのお、
時間を言ってなかったから困ったであろう、」
「うん、
それを師匠に言ったら起きてご飯食べてすぐに行けばいいよって言われたの、
それでまだ来てないなら準備運動をして待っていたらいいって言ったの、」
すごく申し訳なくなった、
そう言えば幽霊殿が見当たらぬ、
「幽霊殿はどちらに?」
「師匠は来てません、
それと師匠から、
全力でやってこいと言う伝言をもらっています、」
やはり気づいておったか、
今からすることに、
そのためにアレクも宿に待機させている、
感謝するぞ幽霊殿、
「シルフィード殿、
お主に頼みがあるのじゃ、」
シルフィード殿は少し首をかしげる、
「わしと魔法の勝負をしてくれぬか、」
「うん、
いいよ、」
あっさりと言うシルフィード殿、
この子は疑うことを知らぬのかの?
するとシルフィード殿からキツネの耳と尻尾を出した、
可愛らしい少女が更に可愛くなったのう、
「やり方はただの魔法の打ち合いじゃ、
武器による攻撃は反則じゃ、
動いて魔法を避けるのは大丈夫じゃ、
魔力切れをするか降参をするまで勝負が続くのじゃ、
使用する属性はなんでも良いし何種類でもいい、
初級から上級までは使用して良い、
命の危険がある魔法だけは使用しないで欲しいかの、
それくらいかの」
わしはそう言いシルフィード殿と距離を離す、
だいたい距離を離すと立ち止まる、
「準備はいいかの?」
シルフィードは頷く、
わしは火の魔法を空へ打ち上げた、
だいたいの高さになると弾けるようにしている、
シルフィード殿が火を追いかけるように顔を上に向ける、
そして、
弾けた、
わしは水魔法を詠唱する、
詠唱破棄、
不必要な詠唱を幾つか唱えないわしが編み出したやり方じゃ、
魔法の欠点は長い詠唱じゃ、
長いため一回の戦闘に一回しか唱えられないのが現状じゃ、
その欠点を克服したのが詠唱破棄じゃ、
魔法を発動するための必要な言葉だけ唱えることで可能な限り早く詠唱することじゃ、
「水よ、
穿て!
アクアラッシュ!」
わしの周りに無数の水球が現れてシルフィード殿に向かって飛んでいく、
初めは小手調べじゃ、
シルフィード殿は動かずに手を前に出した、
すると周りから火球が現れた、
ファイアボール、
下級魔法じゃが詠唱を必要とする、
手を動かしただけで無数の火球を出すとはすごいのう、
火球が水球にあたり蒸発する、
わしは次の魔法を唱える、
「岩よ押し潰せ!
ロッククラッシュ!」
巨大な岩がシルフィード殿の真上に現れる、
中級魔法のロッククラッシュ、
上から岩で圧し潰す芸のない魔法、
シルフィード殿は真上を向き魔法を使おうとする、
わしはそれを許さない、
「火よ穿て!
ファイアボール!」
火球でシルフィード殿を襲う、
どちらかしか防ぐことが出来ない、
普通ならば、
シルフィード殿は円を描くように回ると途端地面から岩の槍が出現、
それが落ちてくる岩に刺さる、
下級魔法のグレイブ、
普通ならばグレイブは押しつぶされるのじゃが、
シルフィード殿の魔力量は風精霊様より多い、
魔力により魔法の強さが変わる、
グレイブの場合は強度が変わる、
それはわしのロッククラッシュおも貫くほどじゃ、
貫かれた岩は地面に落ちることなく止まる、
じゃがわしにはファイアボールが残っている、
しかし、
シルフィード殿はファイアボールに向かって手を向ける、
すると周りに数えるのも嫌になるくらいの量の火球が現れる、
わしはとっさに土魔法のロックウォールを唱える、
目の前に岩の壁が現れる、
向こうが見えないがわしのファイアボールは相殺されたのじゃろう、
そう思っていると向こうから火球が当たる音が聞こえた、
わしは待つ、
ただ終わることを待つ、
向こう側から音がしなくなったので壁を消す、
薄っすらと砂煙が舞っている、
それ以外は何もなかった、
そう、
何も、
そう思っていると背後から魔力を感じた、
振り返るとキツネ耳の少女が詠唱していたのじゃ、
初めて聞く少女の詠唱、
昨日一緒に街に戻っている時に聞いたのじゃが初級と中級までは無詠唱で放つことができると言っていた、
つまり中級以上、
上級魔法、
しかし、
上級魔法はまだ覚えていないとのこと、
なぜ詠唱をしているかわからないのじゃ、
ふと、
わしは思い出したことがあるのじゃ、
少女が昨日使った見たことのない魔法、
確かシュウノウマホウだったかのう、
あれを見た時には年甲斐もなく興奮してしまったのう、
幽霊殿の力もあったが作ってしまうほどの少女、
もしやと思った、
今作ったのではないかと、
作ったのなら初めは詠唱を必要とすると思う、
もしそうなのならわしをどこまで興奮させるのか、
いいじゃろう、
わしも今持てる最高の技を放とう、
それで決着をつけよう、
わしは無属性の上級魔法を詠唱する、
無の加護を持っているわしの最大の魔法じゃ、
あやかった無の精霊マクスウェル様の名に恥じぬような魔法じゃ、
なに?
無の加護の話は初めてじゃと、
それはそうじゃ、
今初めて言ったんじゃからな、
さて、
お互い長い詠唱を終えた、
しかしわしが早いようじゃ、
「ビックバンメテオ!」
威力はかなり抑えた無属性の上級魔法じゃ、
普通に放っては街まで影響がある魔法じゃ、
空より無数の光輝くものが落ちてくる、
星が落ちてくるという声もあったのう、
その光輝くものは触れたものを爆発させる、
さてシルフィード殿よ、
今のわしの最大の魔法じゃ、
どうするか見せてみよ、
わしはシルフィード殿に目を向けた、
すでに詠唱は終わっていた、
シルフィード殿は空を見上げている、
そして、
「フレアサイクロン!」
炎の渦が空に向かって放たれた、
わしは驚いた、
聞いたこともない魔法のため新しい魔法なのじゃろう、
しかし、
わしが驚いたのはそこではない、
シルフィード殿から風属性と火属性を感じる、
つまりあの魔法は混合魔法、
混合魔法自体は元からあるのじゃがそれは無属性と何かのみじゃ、
それ以外での混合魔法は聞いたことがないのじゃ、
それをやってのけるとはどこまでわしを興奮させるつもりじゃ、
しかし、
わしの魔法をどうやってしのぐのじゃ、
すると空から何かが爆発する音が聞こえた、
わしは空を見上げる、
わしは目を見開いたのじゃ、
炎の渦が光輝くものを包み光輝くもの同士当てて爆発させていたのじゃ、
まさかぶつからせてしのごうとするとは、
しかし、
ビックバンメテオはまだ無数にある、
そう思っているとシルフィード殿から声が聞こえた、
「フリーズサイクロン!
プラズマサイクロン!
サンドサイクロン!」
新たに氷の入った風の渦と雷を纏った風の渦、
それに砂を取り入れた風の渦が現れて空へと上がっていく、
ここまでくるとわしは唖然とした、
一つが成功すれば他の属性でもすぐにできるようになるのかね、
4つの渦は次々とわしの魔法を消し去っていく、
そして全て消え去った後渦も消える、
ここまで惨敗すると清々しいのう、
「・・・わしの負けじゃ、」
わしはそれしか言えなかった、
それにわしの魔力も底つきかけていたからのう、
無数ものビックバンメテオを出すんではなかったのう、
シルフィード殿はまだ余裕そうじゃのう、
「ありがとのう、
見事に惨敗じゃわい、」
わしはシルフィード殿にそう声をかけた、
「おじいちゃん、
ちょっと待って、」
シルフィード殿はそう言いわしに駆け寄りわしの手を握る、
するとその手から柔らかい光が漏れだしたのじゃ、
するとどうじゃろう、
わしの魔力が戻ってきてるではないか、
試合前と同じ位に、
「師匠が傷を直せるなら魔力も献上という形で回復するのではと言ってたので試しに魔力をおじいちゃんに流すように想像したら成功しました、
どうですか?」
幽霊殿の考え方は特殊なのかのう、
そのような発想はわしが生きていて初めて聞いたのう、
「ありがとのう、
正直魔力が少なくなるとふらつくから帰りが大変なんじゃよ、」
わしはシルフィード殿の頭を撫でる、
「おじいちゃんは先に街に戻ってて、
私は森に行って薪とか集めてくるから、」
若いとはいいのう、
「わかったぞい、
わしは先に戻っておるぞい、」
わしは先に街の方に戻る、
しばらく歩いていると街の入り口が見えてくる
すると街から人々が出てきている、
はて?
なぜゆえそんなに慌てたように出てくるのかのう、
1人の若い男がわしに話しかけてくる、
「爺さん!
大丈夫だったか?」
何の話をしているのかのう?
「なにが大丈夫かの?」
「さっき竜巻やら空から光るものやらが見えたもんだから何かが襲いに来たと思ったんだが、」
うむ、
先ほどの戦いで使った魔法じゃない、
ちと説明が面倒じゃがわしの魔法の訓練と無理やり押しきろうかの、
街の皆の説明が終わり宿に戻る、
アレクがわしを出迎えてくれた、
「学園長、
おかえりなさいませ、」
アレクもわかっておるのだろう、
わしがどうなったのか、
「アレクよ、」
「はい?」
「わしは負けたことを隠すつもりはない、
むしろ今の地位が落ちようともさらけ出しても良いと思っておる、」
負けたことを認めてしまうのは恥かもしれぬがそれを隠すのも恥であろう、
アレクや幽霊殿は気遣ってくれたが次の職員会議で他の職員に伝えよう、
「それが学園長の判断でしたら私はなにも言いません、」
忠実よの、
「アレクには迷惑をかけるのう、」
「いえ、
私は迷惑とは思っていません、」
これからどうなるかわからぬが辛くなるかもしれぬのう、
それとは別にわしに大きな目標ができた、
それがわしにとって大きな成果であろう、
それとは別に、
「してアレクよ、
酒場の娘とはどこまでいったかのう?」
「が、学園長!?
い、いい、いきなりなにを言うのですか!」
これはこれで面白いのう、
「しかしあのマスターはかなりの強者ぞよ、
昔からある娘さんをくださいを言うと父親と戦うのが多いのじゃ、
あのマスターと戦わなければいけないのう、
今のアレクでは瞬殺されてしまうのう、」
「そ、それは今から鍛えます・・・
あ・・・」
アレクは顔を赤くしてしまったのう、
自分で墓穴を掘ったのう、
あちらも目標を持ったのう、
良いことじゃ、