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SINJÜ  作者: 平乃ひら
怪獣『出目金』と遭遇すること
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17/23

怪獣『出目金』と遭遇すること8

 今後の方針を決めてから会議が終了し、ようやく解放された河合はとっとと会議室を出て行こうとしたところで松沢に声を掛けられる。後で話があるということで、河合は松沢が会議室を出るまでドアの横で壁に背中を預けて全員が出ていくのを待っていた。

「これじゃいの一番に出てった意味がないなぁ」

 最後に出てきた宗近みそぎが河合を一瞥し、軽く頭を下げて去って行く。

「いいよ、入ってきて」

 松沢の声が聞こえてきたので中に入ると、松沢以外誰もいない。先ほどまでは狭っ苦しい会議室だったが、たった二人だけとなれば随分広く感じる。空気が先ほどよりも重い気がするのは気のせいか否か。

 どことなく顔に影が掛かっているその中年男は、一見して一切の害が無い穏やかな表情を浮かべている。松沢は「そうだ」と呟いてから魔術構成を展開した。

「一応声が漏れないようにね」

 松沢も魔術師だ。部屋の外に声が漏れない魔術を改めてかけ直している。

「よし。それじゃあ確認するけど、君さ、何か調べてたでしょ?」

「まぁ、そりゃ色々と調べてますけど」

「そうだよね。命令されていないことまで調べているんじゃないかって、そう思ったんだけどなぁ」

「いやー、それはないっす。全て命令の範囲内です」

「山塚透についてはどうなってるんだい?」

「……あー」

 彼について『調べるだけ』なら確かに捜査範囲なのだが、元々の情報源については決して言うことができない。そうすれば彼の土御門家の期待を裏切ることになり、もしや最大の情報源を失う可能性もあるからだ。

「松沢さん、アマテラスの人じゃないでしょう?」

「ああ、警察でもないね」

「んじゃ、これ以上は言えないっすねぇ」

「一応該当する人物について調べたんだけどねぇ」

「んあー、それはまた……これ、どこまで声をもれなくできます?」

「得意分野なんだ、秘密の会話ってのがね。コレなら間近に来られない限り土御門家すら破れない、そのぐらいの自信はあるさ」

「それは助かります。なら大丈夫かな。あ、これから言うことはオフレコで。決して誰にも……ね?」

「言っただろう? そういうことなら自信があるんだ。決して誰にも悟らせやしないよ」

「……分かりました。分かりましたよ。じゃあなんでトオル・ヤマヅカについて知ったのか、それから話しますよ」

 ――それから河合はかいつまんで土御門家から情報があったこと、土御門家が何を考えているのかは不明なこと、山塚という男がどういう実験をしていたのか、また山塚の借りていたアパートに何があったのか、また山塚の実験がもし公になれば妖怪側がどう動くか予測不明なこと。

 それらを一通り聴いた松沢は、一度眉を強く寄せた後、顔を下に向けて呻き、それから長い溜息を吐いた。

「……薄々気付いてたけど、やっぱり人間側の仕業かぁ。しかも山塚透は魔術師の家系ではあっても、魔術師とは言い難い。立場も曖昧。いや、厄介だねぇコレ」

「そうなんすよ。なんで俺の調べ事については内緒にしてくださいねってことなんです」

「うーん……とはいっても社長に黙ったままなのは怖いなぁ。いずれバレるなら上に通すぐらいはいいんじゃない?」

「土御門家がそれを察しない訳ないでしょ。あの家、あの浪木夜夢よりも怖いっすよ」

「うん、それは分かる。噂だと数百年生きている魔術師もいるって話だし」

「あ、それ土御門家の今の当主でしょ。さすがにそれはないでしょーって話に花を咲かせてる場合じゃないんスよ。ちょっとでも上に話して動きがあったら勘付かれるじゃないですか。絶対。なら俺が個人で勝手に動いたほうがいいでしょう?」

「君がなー。まぁ君は立場があやふやだからなぁ。表向きは警察だけどアマテラス側の人間で魔術協会にも足を突っ込んでる、もう何なの君?」

「いや……言われてみるとホントなんなんでしょ……」

「……ふーむ、それじゃあ山塚透の件を探ってくれないかな。逐次情報は共有するからさ。こちらは魔術協会として何かしらの痕跡を見つけて解析作業をしよう。事件の犯人や計画を暴くのは警察とアマテラスに任せていいんじゃないかな」

「役割としてはそうですけど、それ俺も警察だから犯人捜さないといけないってことっすよね」

「山塚透を探り当てるなら、自然とそうなるでしょ」

「まだ今回の怪物騒ぎの犯人か確定してないですよ」

「サーバーに残されてたログだとほぼ黒だけど、証拠としては弱いかぁ……ま、なんとか見つけてよ。見つけたら後はこちらで何とかするから」

「いやはや怖いなぁ」

 魔術協会は魔術師の管理という一面を持つ。協会に所属していない『はぐれ』の魔術師であろうと、人間社会に害を為すのならば全く容赦はしない。それこそ実力のあるアルファベット持ちの魔術師が派遣され、犯人ごと根刮ぎ焼き尽くしてもおかしくはない。

 犯人を見つけたらどうにかする、というのは白状させるのではなくその人間から魔術的なアプローチで証拠となるものを見つけるということだろう。恐らく人権は無視される。だからこその魔術師ではあるのだが。

 河合が魔術協会から離れたのも、そういったドライな一面について行けないからというのはある。ただ魔術協会を抜けるだけだと非常に厄介なので、アマテラスという政府非公認組織に所属することで魔術協会に居ながらアマテラスの下で働くという、彼にとっては絶妙な立場を得たのだ。

「よろしくね」

 念を押すようにそう告げてくる松沢に、河合はうっすら寒気を覚えつつも「了解」と応えたのだった。

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