13 おまけ:クロヴィス殿下、美貌の青年と会う
「あれは剃っているんじゃないのか?」
『天球の灯』の資料室で、アルテミス王国の王太子クロヴィスは目を丸くした。
すっかり定位置となった椅子に腰を下ろし、リンとガイに不思議そうに尋ねる。
「殿下、ソレを信じてんの?すげえな」
「純粋だね~」
ニヤニヤする二人にクロヴィスは、むっとする。
「本人がそう言ってるだろう?」
「分かってないな、殿下」
「そうそう。ハゲはみんなそう言うの」
大体いつも、人を小馬鹿にしたようにしゃべる二人だが、今日は一段とひどい。
少し考えて、クロヴィスは原因に思い至った。
「また、減給されたのか?」
二人の顔から表情が消える。
まずい、と思ったときには遅かった。
「てめぇ、本当に可愛くなくなったな、おい」
「なに?俺たちが減給されたら、殿下が金貸してくれるの?」
安定のチンピラっぷりだ。
「…貸さない。返ってこなさそうだし」
精一杯の抵抗に、二人が鼻で笑う。
勝ち目がないと判断して、クロヴィスは話題を変えた。
「神殿のヴァレリウス司教は、敬虔な信徒で有名な方だ。何でそんな方と面識があるんだ?」
リンとガイは、何も言わず意味深に笑うだけだった。
――これ以上は話さない、という合図だ。
クロヴィスは一瞬だけ二人を見て、何も言わずに視線を外した。
「…どうせ、失礼を働いたんだろう」
「言っとくけど、お前が失礼だからな、それは」
リンが人差し指でクロヴィスの額を弾く。
「王太子に不敬だぞ?」
「遠慮したら、不貞腐れるじゃねぇか」
「殿下、泣いちゃうじゃん?」
二人は、クロヴィスを近所の弟分のように雑な気軽さで扱い、笑った。
当たらずしも遠からずなので、ますます面白くない。
「…そんなことで泣くわけないだろう」
「はいはい。…で?」
ガイがポットからコーヒーを注ぎ、クロヴィスに手渡した。
「ギルドの、イカれた研究者に進捗確認しに来たんでしょ?話せた?」
「王命とはいえ、あんなのの相手をさせられるなんて、ご苦労なこった」
リンがテーブルのクッキーを口に放り込みながら、適当に労ってくる。
「まぁ。…彼の研究は先進的すぎるからな」
このギルドは無駄に優秀すぎる。
監視対象の研究者も、目の前の二人も。
「で、どうだった?」
「進んでいる…ようだったが、正直何を言ってるのかさっぱりだった」
リンとガイが、きょんとする。
そして、同時に肩を震わせた。
「気にすんな、殿下。アレとコミュニケーション取れるやつなんてそうそういねぇ」
「そうだよ、殿下。この前も、カニのゆで方しか聞かされてなかったけど、頑張って!」
「仕方ないだろう!好物のカニの話しかしないんだから!」
悲痛な叫びに、耐えきれずにリンとガイはついに机に突っ伏した。
「研究の話、ゼロじゃん!…カイルのカニ話を聞かされることが仕事かよ!」
「悪いよ、リン。大事な仕事なんだから!」
息も絶え絶えに笑う二人を前に、クロヴィスはむすっと黙り込んでコーヒーを口にした。
そのコーヒーがなくなる頃――
「悪かったって、殿下」
「機嫌、直してよ。ね?」
リンとガイが覗き込む。
目の奥がまだ笑っているが、結局こういう時間が嫌いではない自分がいる。
「そういえば…」
話を振ることで、許してやる。
「上のアンティークショップの方に、えらく美しい男がいたが、あれもギルドの関係者か?」
少しだけ視線を宙に走らせ、リンが手を打つ。
「あぁ、レヴィンか」
「アレ見たんだ、殿下。キラキラがすごかったでしょ?」
一度見たら忘れられない美貌だった。
「顔が良くないと採用されないって話は、本当だったんだな」
才女と名高いエレオノーラである。
理由がそれだけとは思えないが。
「多分、大した意味なんてないぜ?」
「使いもしないコードネームを『格好いいから』で付けちゃうくらいだしね」
「…俺としては、別の理由が欲しい…」
リンとガイがまた笑い出す。
「殿下の気持ちなんて、欠片も忖度しねぇよ」
「そうそう。結局コードネームだって全然使わないもん」
優秀すぎる集団が、時々雑すぎる。
「やはり、学ぶことが多い場所だな…」
ほんの一拍、間が開いた。
「うん。……絶対、見習いたくないな」
静かに、しかし深くクロヴィスは頷いた。
これでこの回は終わりです。ありがとうございました。
あと二回くらいでこのシリーズは完結する予定です。
次の話もよろしければお願いします。




