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翌朝、気の進まないサンディーとメリッサの結婚式出席の為にエマーリエは朝早くから起されて準備をさせられていた。

鏡の前に座らせられて、化粧と髪の毛を整えてもらい衣装室で見た灰色に近い青い色のドレスに着替えた。

鏡の前で自分の姿を見ると、少しは可愛くなったかな?ぐらいの変化で少しだけがっかりする。

あれだけ早起きして侍女の手によってお化粧を施された自分を見て、これが私なのかしらと言う変化を望んでいただけに落胆は激しい。

鏡の前で角度を変えて自分の姿を見ていると、鏡越しにエマーリエの後ろに居るアラン王子と目が合った。

アラン王子は衣装室で見た黒い衣装だが、実際着ている姿を見ると全く別の衣装見える。


「良く似合っていますよ」


あまりのカッコよさに鏡越しに見惚れているエマーリエにアラン王子は少しだけ口の端を上げた。


「エマーリエも良く似合っている」


「ありがとうございます」


「気が進まないな」


「まぁ、仕事ですしね」


公務は仕事であるとマナー教室で教わっていたエマーリエは気合を入れるために両手で自らの頬を叩いた。


「さぁ、行きますよ!」


戦地にでも行くような気合の入れ方にアラン王子が顔をしかめてエマーリエの耳元で囁く。


「お前は絶対にでしゃばるなよ。俺が何とかする」


「いいえ、枝が落ちてきたときだってアラン様はボーっとしていたから心配です」


エマーリエも部屋に居る侍女たちに聞こえないように小さな声で言った。

アラン王子は気まずそうにエマーリエから視線を外す。


「あれは、他の事に気を取られていたからだ。普段の俺ならあんな枝ぐらい避けられる」


「はい、はい。分かりましたよ」


適当にうなずきエマーリエはアラン王子の腕に手を置いた。


「さぁ、行きましょう」


「絶対に、お前は動くなよ」


何度も念を押しながらアラン王子はエマーリエをエスコートしながら歩き出した。

廊下に出ると、騎士達前後についてエマーリエ達と一緒に歩きだした。


「昨晩は誰か部屋に尋ねてこなかったか?」


歩きながら聞いてくるアラン王子にエマーリエは首を振る。


「誰も来ませんでしたよ」


「そうか」


アラン王子は安心したように息を吐いた。





館から馬車に乗り町の教会へと向かう。

こぢんまりとした教会は、素朴な感じがしてエマーリエは親近感が持てた。

こういう田舎の教会で結婚式を挙げるのもいいかもしれないと、アラン王子と並んでいる姿を思い浮かべる。

しかし、アラン王子が刺された姿を思い出して慌てて首を振った。

もしかしたら自分たちの結婚式で刺される可能性があるのだ。

回避できることはしていきたい。

今回も絶対回避すると再度決意して座席へと案内される。

参列者の中ではやはり一番前だが花嫁たちより一番遠い端の席だ。

エマーリエは端の通路側に座らせられる。


「これだけで視た時とだいぶ違います」


エマーリエが囁くと、アラン王子は頷いた。


「お前が視た映像より少し変えるだけでもしかしたら、あの女は襲ってこないかもしれない」


「なるほど、少しの違いで未来が変わるかもしれないって事ですね」


「俺としては襲ってくれた方がやり返せてありがたいがな」


今にも剣を抜きそうなアラン王子は珍しくニヤリと笑っている。


殺気だっている雰囲気にエマーリエは少し距離を取って座りなおした。


「兄上、なにかあったのですか?」


後ろに席に座っているオズワルドが珍しく顔をしかめて囁いてきた。

隣には着飾ったマドリーヌも座っており、二人並んでいる姿は人形のようで大変可愛らしい。あまりの可愛さにエマーリエは微笑んだ。


「特に何もないが」


怒気を孕んだ目を向けられてオズワルドは隣に座るマドリーヌにすり寄る。

マドリーヌも恐ろしいのかオズワルドに寄り添った。


「でも、兄上凄い怖いですよ。戦の前のような雰囲気だよ」


「何でもないと言っている。・・・もし、何かあったらすぐに俺から離れろ。危険だからな」


また珍しくニヤリと笑うアラン王子の顔を気味が悪いと言う風に見てオズワルドは何度も頷いて離れて行った。

パイプオルガンの演奏が始まり、参列者は一斉に入場してきた花嫁に注目する。

真っ白なドレス姿のメリッサの顔はベールに隠れていて表情は見えない。

主祭壇の前には神父と新郎のサンディーが不安な顔をしてソワソワしながら立っている。

ゆっくりと歩いているメリッサを見ながらエマーリエはアラン王子に囁いた。


「思ったんですけれど、誰かにメリッサの身体検査をさせればよかったんじゃなかったですか?」


「それは面白みに欠けるだろう。身体検査をしろ、なんて言ってナイフが見つかったら不審に思われる」


「確かに」


エマーリエは頷いて、アラン王子の腕を叩いた。


「そうだ、メリッサのベールは上がっていませんでした」


「前についてすぐに襲ってくるという事だな。いいか、絶対に俺の前に出るなよ。間違えて斬ってしまうからな」


「えっ」


アラン王子の腰にある銀色の剣を見ると、いつでも抜けるように手を置いている。

準備万端のアラン王子にエマーリエは頷いてまた少し離れた。

とても結婚式に参加しているとは思えないハラハラした気持ちでエマーリエは祭壇に到着したメリッサの後姿を見た。


視えた景色と同じなら振り向きざまに襲ってくるはずだ。

座席の順番が違うのですぐには襲われることは無いだろう。

メリッサとアラン王子の間には5人の人が座っている。

アラン王子はいつでも立ち上がれるように剣に手を置いたまま前のめりになった。

エマーリエもすぐに逃げ出せるように通路側に体重を移動する。

緊張で心臓がどきどきする中、瞬きするのも忘れてメリッサを見つめる。

オルガンの音が鳴りやみ、神父が本を片手に話だした。


ふらりとメリッサの体が左右に揺れた。


フラフラと倒れそうになりながら数歩ずつ歩いているメリッサに参列者が騒めいた。


「具合が悪いのかしら」


心配そうな参列者の声と、彼女を支えようと新婦のサンディーや前に座っている参列者が手を伸ばすがゆらりと揺れて上手くかわして歩いて近づいてくる。


「来た」


エマーリエは呟いて席を立って後ろに下がった。

アラン王子は中腰になりながら近づいてくるメリッサを睨みつけている。


「どうしたのかしら?」


マドリーヌも不思議な動きをしているメリッサを見て立ち上がりエマーリエの後ろへと隠れている。

具合が悪そうに揺れながら歩くメリッサはアラン王子の前に来ると力なく王子に追いかぶさるように倒れた。

視えた映像と同じような光景にエマーリエは両手を握ってアラン王子を見つめる。

キンという金属がぶつかる音が響き、ナイフが宙を舞って不安な顔をしていたサンディーの足に刺さった。


「うあぁぁ、痛い」


「メリッサがナイフを持っている!」


「アラン王子が剣を抜いて弾いた」


一瞬後の静寂が訪れた後、集まっていた参列者が同時に叫んだ。


ナイフが足に刺さった痛みで大声を上げているサンディーの声など搔き消され、大騒ぎをする人々に騎士達が慌てて割り込んでメリッサを取り押さえた。


アラン王子は剣をメリッサに突き付けたまま睨みつけている。


「なぜ俺を刺そうとした」

「フン、私を振ったからよ」


騎士の手によってベールをはぎ取られたメリッサがボサボサの髪を振り乱しながらアラン王子を睨みつけた。


「それだけの理由で?身分が違うとは思わないのか?」


メリッサを取り押さえていた騎士が困惑して呟いた。


「それだけですって?私が声を掛けた男は全員寝たわよ」


醜悪な表情でツバを飛ばしながらメリッサは叫んだ。

教会内にいた参加者は唖然としてメリッサを見つめている。

静まり返った室内でサンディーの痛がる泣き声だけが響いていた。




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