15話
夏休みに入った。
8月8日。ダブルデート先に選んだのは、電車で数駅先にある水族館だった。
ダブルデートに乗り気の進藤先輩が、ユウリと海の気が合った場合も、そうでなかった場合も、いろいろなパターンを一緒に考えてくれたおかげで、シミュレーションは完璧だった。
待ち合わせ時間は14時。
最寄駅に着くと、水族館へ向かう家族連れでごった返していた。
エスカレーターに乗ると、ガラス張りの壁に、お気に入りの白いシャツにサマーニットのタンクトップ、バギーデニムを合わせた自分の姿が映る。上から下まで確認する。
スカートにしようかとも思ったが、クラスメイトがいる中で気合いを入れすぎるのもよくないと思い、やめておいた。たぶん正解だった。
これなら安心して先輩に会えそうだ。
改札を抜けた瞬間、眩しい日差しに思わず目を細める。片目を開けると、駅前のロータリーにいる先輩が真っ先に目に入った。
こんなにもたくさんの人がいるのに、一瞬で見つけられてしまう。
そんな自分に、私はまだ恋をしているのだと実感した。
久しぶりに会う先輩は、少し体つきがよくなり、こんがりと日に焼けていた。
「先輩! 久しぶりです! なんか焼けましたね!」
「単発で配達のバイトしてさ、けっこう焼けたんだよなぁ」
声も周囲の雑踏に少し溶けながら届く。
「そうだったんですね。暑いですけど、大変じゃないですか?」
「だから需要があるんだよ。空いてる時間に入れるし、受け取って届けるだけだから普通のバイトより楽なんだ。道にもめっちゃ詳しくなるし」
駅前を行き交う人の波の中で、先輩の声だけが少し近く感じる。
「ふゆこは変わらないねぇ」
「だって、まだ半年も経ってないじゃないですか」
そう返すと、先輩は答える代わりに、顔を覗き込むようにこちらを見つめた。日差しの強さで、瞳の色が少しだけ濃く見える。
「たしかに今日も可愛い」
突然の甘い一言に、思わず持っていたかごバッグで顔を隠した。
「なに急に?!」
「いや、ふゆこはいつも可愛いから。……手、繋ぐ?」
ちらりと差し出された手は、ゴツゴツとした大きな手だった。
「もうすぐ着くから」
「じゃあ、それまでな」
そう言って、先輩は私の手を取る。
触れた瞬間、汗ばむ空気の中でも体温がはっきりと伝わってくる。
暑くて汗臭くないか気になるし、手汗も気になる。
近づきたい。でも、近づきたくない。
そんな私の葛藤などお構いなしに、絡め取られた手は恋人繋ぎになり、腕までぴったりと触れ合った。
「水族館の前で待ち合わせなんで、見えてきたら離してくださいねっ」
「いいじゃん。見せつけようよ。羨ましくなって、あいつらもカップルになるかもよ?」
(そういう子じゃないし!)
むっとした顔をすると、先輩は楽しそうに笑った。
久しぶりのデートは、幸先が良かった。
水族館のチケット売り場の前に立つ海を見つけると、繋いでいた手をぱっと離し、大きく手を振る。
「海ー!!」
こちらに気づいた海は、被っていたキャップを外し、軽く頭を下げた。




