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甘露の革命 ―泥に堕ちた聖パティシエは、光の結晶で世界を溶かす―  作者: 時空院 閃


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第29話:歯車仕掛けの工房と、黒き悪魔の豆

いつも本作『甘露の革命 ―泥に堕ちた聖パティシエは、光の結晶で世界を溶かす―』を応援いただき、誠にありがとうございます! 皆様の熱いブックマークや感想の一つ一つが、泥だらけの村を「美食の要塞」へと変えていくルカの情熱、そして何より執筆の大きな活力となっております。


 物語はいよいよ、泥の村に「文明の地響き」が鳴り響く、激動の第29話へと突入します。


 前話では、宝石のようなマカロンが帝都の夜会を制圧し、貴族夫人たちの口から国家機密をボロボロと引き出す「甘き情報支配」が繰り広げられました。しかし、聖パティシエ・ルカの進撃は止まりません。


 第29話の最大の見どころは、お菓子作りのための「産業革命」と、ついに降臨する「漆黒の宝石」の衝撃です。

 元宮廷水利技術士ドノバンと、伝説の鍛冶師ゴードン。

 帝都からこぼれ落ちた超一流の技術が、ルカの描く「水力機構」の図面によって一つに噛み合います。


 巨大な水車と鉄の歯車が轟音を上げ、人の手では不可能だった「圧倒的なパワーによる大量生産ライン」が工房に誕生します。


 そんな中、南方の商人が持ち込んだのは、誰からも「泥のような味」と蔑まれる、苦くて酸っぱい謎の豆でした。しかし、その正体こそが、前世のルカが愛し、世界中を虜にしてきた**『カカオ豆』**だったのです。


 巨大な歯車による「自動石臼コンチェ」と、ノエの魔導による「極限の温度管理テンパリング」。これらが組み合わさったとき、この異世界には存在し得なかった禁断のスイーツ、『極上生チョコレート』が産声を上げます。


 一口で脳をドロドロに溶かし、理性を焼き切る「甘美な暴力」

 邪気に笑う七歳の少年が、水車の力で「世界を狂わせる依存薬チョコレート」を量産し始める光景に、女商人ヴィクトリアは再び、いいえ、かつてないほどの戦慄を覚えることになります。


 「ルカ坊は……ついに、世界を屈服させるための『兵器工廠ファクトリー』を完成させてしまったんだわ……!」


 美食の歯車が猛スピードで回転し、帝都の支配構造を根本から塗り替えていく歴史的瞬間。


 29話「歯車仕掛けの工房と、黒き悪魔の豆」、今ここに開幕です!

帝都の夜会がマカロンによって完全に制圧されていた頃、泥の村のお菓子工房では、驚くべき「産業革命」が巻き起こっていた。


「よぉし! 水門を開けろ! 水車を回すぞ!」


元・宮廷水利技術士ドノバンの号令とともに、村の脇を流れる川から引かれた水路に勢いよく水が流れ込む。水流は巨大な木製水車を力強く回転させ、その動力が、元・宮廷鍛冶師ゴードンが精魂込めて打ち据えた「巨大な鉄の歯車機構」へと伝達されていく。


ガコン、ガコン、ゴウンゴウンゴウン……ッ!


工房の床下を通るシャフト(回転軸)を通じて、巨大な自動石臼が回り始め、純銅の巨大な鍋に取り付けられた撹拌羽根かくはんはねが、一定の速度で力強く回転を始めた。


「す、すげえ……! 俺たちが手で回さなくても、機械が勝手に米粉を挽いて、生地を練ってくれてるぞ!」

弟子たちが目を丸くして歓声を上げる。


「ふははは! ルカ様の描いた『すいりょくきこう(水力機構)』の図面通りだ! これで、今までの何十倍もの量のお菓子を、一気に仕込むことができるぞ!」

ドノバンとゴードンが、油と汗にまみれた顔を見合わせて豪快に笑い合った。

手作業から、歯車と水力を利用した『大量生産ライン』への進化。泥の村は今や、帝都のどの工房よりも近代的な「大スイーツ工場」へと変貌を遂げていた。


「すごいよ、おじさんたち! これなら『あのお菓子』も作れちゃうかも!」

ルカが目を輝かせた、ちょうどその時だった。


「ルカ坊、ただいま帰ったよ! ……って、なんだいこの大掛かりな機械の音は!?」


帝都から帰還したヴィクトリアが、目を丸くしながら工房に入ってきた。その後ろには、見慣れない浅黒い肌をした南方の商人たちが、大きな麻袋をいくつも抱えて続いている。


「おかえり、ヴィクトリアお姉さん! その人たちは?」

「ああ、帝都の帰りに街道ですれ違ってね。わざわざ南方から来たのに、積荷がまったく売れなくて破産寸前だっていうから、気の毒に思ってうちの商隊の荷馬車に乗せてやってきたのさ」


南方の商人は、すがるような目でヴィクトリアとルカを見た。

「あ、ありがてえ……。ですが、俺たちの積荷はこんな『苦くて酸っぱいだけの黒い豆』でして。帝都の連中には『泥みてえな味がする』って見向きもされなくて……」


商人が麻袋を開けると、中にはラグビーボールのような硬いカカオポッドから取り出され、発酵・乾燥を終えた、焦げ茶色のアーモンドのような豆がギッシリと詰まっていた。


匂いを嗅いだゴードンが顔をしかめる。

「うおっ、なんだこの変な匂いは。酸っぱくて、ひでぇ苦みだぞ。こんなもん、牛だって食わねえ」


だが。

その豆を見た瞬間、ルカの瞳孔が限界までカッと見開かれた。


「――――――――ッ!!!」


ルカは猛烈な勢いで麻袋に飛びつき、その黒い豆を両手で掬い上げ、まるで黄金の財宝でも見つけたかのように全身をブルブルと震わせた。


「あるかもしれないって思ってたけど……まさか本当に、この世界にもあったなんて……! これ、『カカオ豆』だぁぁぁっ!!」


「カカオ……?」

ヴィクトリアたちが首を傾げる中、ルカはすでに「プロのパティシエ」の狂気を帯びた目をしていた。


「ドノバンおじさん、ゴードンおじさん! 水車と歯車を最高出力にして! ノエは窯の火を調整! ニーナたち弟子のみんなは、俺の言う通りに動いて!」


ルカの号令のもと、工房の歯車がけたたましく唸りを上げる。


まず、ノエの魔法窯でカカオ豆をじっくりと「焙煎ロースト」する。すると、酸っぱかった匂いが消え、工房の中に、えも言われぬ「ほろ苦く、香ばしい極上の香り」が充満し始めた。


「な、なんだこの香りは……!? さっきの臭い豆と同じものとは思えん!」

南方の商人が腰を抜かす。


焙煎した豆の皮をむき(カカオニブ)、それを水車動力で動く自動石臼に放り込む。

 ゴリゴリゴリゴリ……ッ!

凄まじい力で擂り潰されたカカオ豆は、内部の脂肪分カカオバターが溶け出し、ドロドロの黒い液体カカオマスへと変わっていく。


「ここに、お山の蜂蜜と、黄金のバター、それから絞りたての生クリームをたっぷり入れるよ! ゴードンおじさん、自動撹拌機コンチェを回して!」


ルカはドロドロの液体を巨大な純銅の鍋に移し、水車動力の撹拌機で、何時間も何時間も、滑らかになるまで徹底的に練り上げさせた(コンチング)。手作業では絶対に不可能な、巨大な歯車機構だからこそできる圧倒的な暴力パワーだ。


そして仕上げ。ルカは自ら鍋の前に立ち、ノエに指示を出した。

「ノエ、温度を50度にして! ……よし、次は27度まで急冷! ……そこから32度までもう一度上げてキープ!!」


「……この私を、ただの温度計代わりに使いおって」

文句を言いながらも、ノエの魔法は寸分の狂いもなくルカの要求する温度を実現する。


これこそが、チョコレートの口溶けを決定づける命の工程――『テンパリング(温度調整)』。

カカオバターの結晶を最も美しい状態に揃え、極上の艶と、口に入れた瞬間に消える魔法の口溶けを生み出すのだ。


「四角い型に流し込んで、冷やし固めて……最後に、細かく砕いたカカオのココアパウダーを表面にたっぷり振りかければ……」


大理石の台の上で、美しく切り分けられた黒い宝石。


「できた! この世界初の、『極上生チョコレート』だよ!!」


見たこともない、漆黒の四角いお菓子。

ヴィクトリアは恐る恐るそれに手を伸ばし、小さな一粒を口の中へと放り込んだ。


瞬間。


「――――――――――――ッ!!!!」


ヴィクトリアの脳天を、雷のような衝撃が撃ち抜いた。

表面のココアパウダーの「強烈な苦味」が舌を刺した直後、体温でチョコレートが一瞬にして水のように溶け崩れる。

そして、爆発するようなカカオの芳醇な香りと共に、生クリームと蜂蜜の「狂おしいほどの濃厚な甘み」が、苦味を一気に飲み込んで、脳髄を直接ドロドロに溶かしていったのだ。


「あ、あああ……っ!! 美味しい……なんという……恐ろしい食べ物……っ!」

ヴィクトリアはその場に膝をつき、両手で顔を覆って震えた。


「苦味が、甘さを永遠に引き立てている……! これを食べたら、もう他のお菓子では満足できない……っ! 心が、脳が、この黒い甘みを求めて暴れ出しそうになる……!!」


味見をした南方の商人も、ドノバンも、近衛騎士のレオンたちも、全員が白目を剥いてチョコレートの甘美な暴力に沈み、恍惚の表情で床に転がっていた。


「えへへ、大成功だね! 水車と機械があるから、これなら毎日何千個でも作れるよ!」

ルカは無邪気に笑い、大量生産ラインを見上げてピースサインを作った。


だが。

ヴィクトリアは、床に這いつくばったまま、ガチガチと歯の根を鳴らして戦慄していた。


(あ、あり得ない……! ルカ坊は……誰も見向きもしなかった南方のゴミ(豆)から、人間を狂わせる『究極の依存薬チョコレート』を作り出してしまった……! しかも、この水力と歯車の巨大工場で、それを『無限に大量生産』できる体制まで整えて……っ!)


ヴィクトリアの目には、水車の巨大な歯車を背にして笑うルカが、もはや「黒い麻薬で世界を滅ぼし、人類を家畜化する絶対の魔王」にしか見えなかった。


「ルカ坊……。あんたはついに、兵器工廠ファクトリーを完成させてしまったんだね……」


泥の村は、最凶のスイーツ『生チョコレート』の量産体制を確立した。

その甘く黒い革命の噂は、風に乗り、ついには「帝都の最深部」――皇族の耳にすら届くこととなる。


 『甘露の革命 ―泥に堕ちた聖パティシエは、光の結晶で世界を溶かす―』

 第29話「歯車仕掛けの工房と、黒き悪魔の豆」を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました!


 物語はついに、泥の村が単なる「美味しいお菓子を作る場所」から、帝都のどの工房をも凌駕する「近代的なお菓子工場ファクトリー」へと進化する歴史的な瞬間を迎えました。

 今回のあとがきでは、第29話の重要なポイントを振り返ります。


 お菓子の産業革命と技術の結晶: 元宮廷水利技術士ドノバンの「水力機構」と、元宮廷鍛冶師ゴードンの「巨大歯車」が噛み合い、手作業では不可能なパワーによる大量生産体制が整いました。

 これにより、ルカが長年待ち望んでいた「コンチング(長時間練り上げ)」などの高度な工程が可能になったのです。


「黒き悪魔」カカオ豆と生チョコレートの降臨: 南方の商人が「泥のような味」と蔑んでいた豆が、ルカの知識とノエの精密な魔法テンパリングによって、世界を狂わせる「極上生チョコレート」へと変貌しました。


 苦味が甘さを引き立て、口に入れた瞬間に水のように溶けるその衝撃は、これまでの甘味の常識を根底から破壊しました。


 ヴィクトリアの深まる戦慄: チョコレートが持つ「依存性」と、それを大量生産できる「工場」の完成。

 ヴィクトリアの目には、無邪気に笑うルカが、もはや「世界を胃袋から支配し、人類を家畜化する絶対の魔王」にしか見えなくなっています。

 彼女の絶望的なまでの「深読み」も、ついに世界規模の危機感へと到達しました。


 次話、第30話では、このチョコレートの噂を聞きつけた帝国の第一皇女フィオナが、ついにお忍びで村へ潜入します。

 彼女を迎え撃つのは、ルカと一番弟子ニーナが作り上げる、ザクザクの食感と冷たくとろけるクリームが融合した「奇跡のシュークリーム」です。


 ついに帝国の中枢すらもドロドロに溶かし、村が「美食特別領」として独立を果たす記念すべきエピソードにご期待ください!


「チョコレートが食べたくなった!」「ルカの無自覚な支配っぷりが面白い」と感じていただけましたら、ブックマークや評価、感想などで応援いただけますと、執筆の大きな活力エネルギーになります。


 次回、第30話「お忍びの皇女と、奇跡のシュークリーム」にて、また皆様とお会いできるのを楽しみにしております!

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