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甘露の革命 ―泥に堕ちた聖パティシエは、光の結晶で世界を溶かす―  作者: 時空院 閃


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第27話:ガラスの飴細工と、一番弟子の誕生

 いつも本作『甘露の革命 ―泥に堕ちた聖パティシエは、光の結晶で世界を溶かす―』を応援いただき、ありがとうございます!


 物語はいよいよ、泥の村に「文明の心臓」が鼓動を始める、熱き修行の第27話へと突入します。


 今回の舞台は、一流職人たちの叡智が集結して完成した、異世界初の近代的な『お菓子工房』。


 しかし、そこで待ち受けていたのは、お菓子作りを「子供の遊び」と侮る若者たちでした。


 見どころは、七歳の少年のかおが消え、前世の「冷徹なるプロの職人」へと変貌するルカの気迫です。

 という、皮膚を焼く煮えたぎった飴を素手で操り、一輪の「ガラスの薔薇」へと変えていく伝説の技法、『シュクル・ティレ(引き飴)』。

 その圧倒的な熱量と技術を前に、傲慢な若者たちが魂をへし折られ、狂信的な弟子へと生まれ変わるカタルシスは必見です。


 さらに、一番弟子ニーナと共に作り上げる、宝石のように色鮮やかな『米粉のマカロン』がついに誕生します。

 ただ美味しいだけでなく、後に帝都の貴族女性たちを「甘美な中毒」へと陥れ、国家機密をボロボロと吐き出させることになる「情報支配の兵器」としての第一歩を、どうぞお見逃しなく。


 職人の矜持と、飴細工が放つ真珠の輝き。

 第27話「ガラスの飴細工と、一番弟子の誕生」、開幕です!

 泥の村の中央広場に、ひと際大きな建物が完成していた。

 元宮廷水利技術士のドノバンが完璧な排水・給水システムを設計し、元宮廷鍛冶師のゴードンが巨大なオーブン(魔法窯)や純銅の調理器具を設え、大工のバルカスが明るい採光窓と頑丈な木の柱を組み上げた。


 泥はね一つない清潔な石畳の上に建つ、異世界初の衛生的な近代キッチン――『ルカのお菓子工房』である。


「わあ……! すっごく広くて、ピカピカだぁ!」


 真っ白な真新しいエプロンとコック帽を身につけたルカは、磨き上げられた大理石の作業台を見て、目をキラキラと輝かせた。

 その後ろには、同じように小さなエプロンをつけたニーナと、難民の中から選ばれた手先の器用な若者たちが十数人、緊張した面持ちで並んでいる。


「みんな、集まってくれてありがとう! 今日からここで、みんなに俺のお菓子作りの『魔法』を教えるよ。ニーナは俺の一番弟子ね!」

「は、はいっ! ルカ先生!」

 ニーナが顔を真っ赤にして敬礼すると、若者たちも背筋をピンと伸ばした。


 これまではルカが一人で指示を出して作っていたが、村の発展に伴い、お菓子の「生産量」を増やす必要が出てきたのだ。そのための、記念すべきお菓子教室の第一日目。


 だが、若者たちの中には、少しばかり気が緩んでいる者もいた。

「お菓子作りなんて、ただ甘いものをこねて焼くだけだろ?」

「土木工事や剣の修業に比べたら、子供の遊びみたいなもんだよな」

 そんな小さな私語が漏れる。


 その言葉を聞いた瞬間。

 ルカのふんわりとした笑顔から、一切の温度が消えた。

 瞳の奥に宿ったのは、前世で厳しい厨房を生き抜き、数々の修羅場を越えてきた「プロのパティシエ」としての、冷徹な職人の目だった。


「……遊び、かぁ」


 ルカのその微かな呟きに、土間で見学していたゴードンやドノバンといった一流の職人たちだけが、肌を刺すような只ならぬ「気迫」を感じ取ってビクリと肩を揺らした。


「じゃあ、まずは俺の『魔法』を見せてあげるね」


 ルカは純銅の平鍋に、琥珀シロップと水、そして少量の水飴代わりの樹液を入れると、ノエに魔法で火を入れさせた。

 グツグツと沸き立つシロップ。ルカは温度計などないこの世界で、シロップの泡の大きさ、弾ける音、そして水に落とした時の固まり方だけで、完璧な温度(160度)を見極めていく。


「ノエ、ストップ! 急冷して!」

 ルカの鋭い声に合わせ、ノエが氷魔法で鍋の底を一瞬だけ冷やす。

 ルカは煮詰まったアツアツの飴を、冷たい大理石の作業台の上にドロリと流し込んだ。


「あ、危ねえっ! 坊主、そんな煮えたぎった油みてぇなものを!」

 ゴードンが叫ぶが、ルカは止まらない。


 飴の端が少し冷えて固まりかけた瞬間、ルカはそれを素手で掴み上げた。

 火傷しそうなほどの超高温。しかしルカは表情一つ変えず、熱い飴を両手で引き伸ばし、折りたたみ、また引き伸ばすという作業を、目にも留まらぬ速さで繰り返し始めた。


 前世のフランス菓子における最高峰の芸術技法――『シュクル・ティレ(引き飴)』である。


「な……なんだ、あれは……!」

 弟子たちも、職人たちも、息を呑んだ。


 空気を巻き込みながら何度も引き伸ばされた飴は、最初は透明だったものが、次第に真珠のような美しい光沢サテライトを放ち始めたのだ。

 ルカの手の中で、熱い飴がまるで生き物のように形を変えていく。


「飴はね、生きているんだ。ほんの数度の温度の違いで、ガラスのように砕けたり、ドロドロに溶けたりする。熱さと痛みに耐えながら、飴が一番美しく輝く『一瞬』を、この手で掴み取らなきゃいけないんだよ」


 ルカは真珠色に輝く飴の塊から、指先で花びらの形を薄く引きちぎり、それを重ね合わせていく。

 金属のハサミで飴の端を切り込み、捻り、曲げる。


 ほんの数分の出来事だった。

 ルカが手を離すと、大理石の作業台の上には――。

 薄く透き通るような花びらを幾重にも重ねた、本物のガラス細工と見紛うほどに美しい『一輪の薔薇』と、その花に止まろうと羽を広げる『青い小鳥』が、静かに輝いていた。


「――――ッ!!」


 工房の中が、水を打ったように静まり返った。

「あ、あり得ねぇ……。あの超高温の飴を素手でこね回し、鉄を打つ以上の精密さで、こんな芸術品を数分で作り上げたってのか……!」

 鉄の扱いを知り尽くした鍛冶師のゴードンが、恐怖すら混じった声で呻いた。


「すごい……綺麗……!」

 ニーナは両手を口に当てて、ガラスの薔薇に見とれている。

「遊びだなんて言って」と軽口を叩いていた若者たちは、顔を真っ青にしてその場にへたり込んでいた。

 ルカの背中から放たれる、お菓子作りに対する「命懸けの執念」と「圧倒的な技術」に、完全に心をへし折られたのだ。


「お菓子作りは、人を笑顔にする魔法。でも、魔法使いになるためには、火と温度を完全に支配する『厳しい修業』が必要なんだよ」

 ルカは再びいつもの無邪気な笑顔に戻り、弟子たちを振り返った。


「さあ、みんな! 俺の魔法使いの弟子になって、一緒に世界中をびっくりさせるお菓子を作る覚悟はある?」


「「「「はいっ!! ルカ師匠!!!」」」」


 若者たちの目つきが、戦場へ向かう兵士のような真剣なものへと変わった。泥の村のお菓子工房に、ルカの技術を受け継ぐ「誇り高き職人の卵たち」が誕生した瞬間だった。


 それから数時間。

 ルカの厳しい指導のもと、弟子たちは真剣な顔で生地を混ぜ合わせていた。

 次にルカが教えたのは、飴細工の周りを飾るための、宝石のようにカラフルなお菓子だ。


「卵の白身を、ツノが立つまでしっかり泡立てて! そこに、山で採れた木の実(アーモンド代わり)の粉末と、細かい米粉、それからお花から絞った赤い色水を少しだけ混ぜるんだ。混ぜすぎると生地がダレるから、ヘラでボウルの底に生地を押し付けるように『マカロナージュ』して!」


 ルカの的確な指示が飛ぶ。

 生地を鉄板に丸く絞り出し、表面が乾くまで待ってから、ノエの魔法窯で緻密に焼き上げる。


 オーブンから出てきたのは、表面はツルリと丸く、底にはフリルのような「ピエ(足)」がしっかりと出た、可愛らしい鮮やかな赤や緑の焼き菓子。


「できた! 『特製・米粉のマカロン』だよ!」


 外は薄い氷のようにサクッと軽く、中はねっちりとした官能的な食感。間に挟まれた海塩キャラメルのクリームが、木の実の香ばしさと絶妙に絡み合う。


「ル、ルカ先生……これ、お口の中でとろけます……!」

 初めてマカロンの焼成に成功したニーナが、感動で目を潤ませている。他の弟子たちも、自分たちの手でこんなにも美しく美味しいものが作れたことに、歓喜の涙を流していた。


「よし! みんな、とっても上手だよ!」

 ルカは満面の笑みで弟子たちを褒め称えた。


 そして。

 巨大な銀のトレイの中央に飾られた『ガラスの飴細工(薔薇と小鳥)』と、その周囲を宝石のように彩る数百個の『色とりどりのマカロン』。


「……信じられない。これほどの芸術品を、村の工房で量産できるようになったなんて」


 完成したお菓子の山を見て、視察に来ていたヴィクトリアは、背筋にゾクゾクと快感が走るのを抑えきれずにいた。

 これはもはや、ただの食料ではない。貴族のプライドを根底からへし折り、ひざまずかせるための「圧倒的な美と暴力」だ。


「ルカ坊。この宝石箱、私が預かるよ。明日の夜、帝都で最も権力のある貴族婦人たちが集う『夜会』がある。……このお菓子で、帝都の女どもの『情報網』を、根こそぎ私の手中に収めてみせるさ」


 女商人ヴィクトリアの瞳が、獲物を狙う雌豹のように妖しく光った。

 泥の村の工房で生まれた色鮮やかな甘い宝石が、帝都の権力闘争のド真ん中へと、いよいよ放たれようとしていた。


【ルカの特製レシピメモ:米粉とアーモンドのマカロン】

(※材料は地球のものに置き換えています)


■ 材料(約15個分)

<マカロン生地コック

・卵白:1個分(約35g・常温に戻しておく)

・グラニュー糖:30g

・アーモンドパウダー:35g(お山の木の実の代わり!)

・粉砂糖:40g

・米粉(製菓用):30g

・食用色素(赤や緑など):ほんの少し


<間に挟むクリーム>

・海塩キャラメルソース(第24話参照)や、お好みのジャム、バタークリームなど


■ ルカの作り方


準備だよ! アーモンドパウダー、粉砂糖、米粉を合わせて、ザルで2回くらい細かくふるっておく。鉄板にはクッキングシートを敷いてね。


ツノが立つまで! ボウルに卵白を入れ、ハンドミキサーで泡立てる。グラニュー糖を3回に分けて入れながら、ピンとツノが立つしっかりとしたメレンゲを作るよ。ここで色素も少しだけ入れて色をつける。


さっくり混ぜる! 1でふるった粉類をメレンゲのボウルに一気に入れ、ゴムベラで泡を潰さないようにサックリと切るように混ぜ合わせる。粉っぽさがなくなればOK。


一番大事なマカロナージュ! ここからがパティシエの技だよ! ゴムベラで、生地をボウルの側面にこすりつけるようにして、少しずつ泡を潰していくんだ。


生地を持ち上げてみて、「ドロッ」と切れずにリボンみたいにゆっくり落ちて、落ちた跡がゆっくり消えていくくらいの固さになれば完璧! やりすぎると生地がペラペラになっちゃうから気をつけてね。


絞って乾かす! 絞り袋に生地を入れ、鉄板の上に直径3cmくらいの丸い形に絞り出す。


ここも超重要! そのまま室温で30分〜1時間くらい置いて、指で表面を触っても生地がくっつかなくなるまでしっかり乾かすんだ。(乾かないと焼く時に割れちゃうよ!)


150度に温めたオーブン(魔法窯)で約13分〜15分焼く。下にフリルのような「ピエ(足)」が出てきたら大成功!


完全に冷めてからシートからはがして、裏側にクリームをたっぷり挟んで完成だよ!


『甘露の革命 ―泥に堕ちた聖パティシエは、光の結晶で世界を溶かす―』

 第27話「ガラスの飴細工と、一番弟子の誕生」を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました!


 物語はいよいよ、ルカが一人でお菓子を作る段階を終え、「次世代の育成」と「組織的な生産体制」へと移行する重要な局面を迎えました。

 今回のエピソードの注目ポイントを振り返ります。



 高の「聖域」の完成: ドノバン、ゴードン、バルカスといった一流の職人たちが、それぞれの専門知識を結集して作り上げた「近代的なお菓子工房」がついに始動しました。

 泥はね一つない大理石の作業台や、精密な魔法窯オーブンを備えたこの場所は、ルカにとって異世界で初めて手に入れた真の「戦場」です。


 「職人ルカ」の真価と引き飴の芸術: お菓子作りを「子供の遊び」と侮った若者たちを、ルカが前世の冷徹なプロの気迫で圧倒するシーンは、本作の大きな転換点です。

 摂氏160度という超高温の飴を素手で操り、一瞬にして「ガラスの薔薇」を作り上げるシュクル・ティレ(引き飴)の技法は、単なる美しさだけでなく、命懸けの執念がなければ成し得ない職人技であることを示しました。


 「米粉のマカロン」という名の兵器: 一番弟子となったニーナたちと共に作り上げた、宝石のように色鮮やかなマカロン。

 外はサクッと、中はねっちりとした官能的な食感を持つこのお菓子は、ヴィクトリアが予感した通り、単なるスイーツを超えた「帝都の支配階級をひざまずかせるための美と暴力」として機能し始めます。


 次話、第28話では、この「甘い宝石」を携えたヴィクトリアが帝都の夜会へと乗り込みます。

 マカロン一つで貴族夫人たちの口を割り、国家機密をボロボロと引き出させていく「甘き情報支配」の恐るべき様子にご注目ください!


 「ルカの職人気質がかっこいい!」「飴細工の描写に圧倒された!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価、感想などで応援いただけますと、執筆の大きな活力エネルギーになります。


 次回、第28話「帝都の夜会と、甘き情報支配」にて、また皆様とお会いできるのを楽しみにしております!

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