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甘露の革命 ―泥に堕ちた聖パティシエは、光の結晶で世界を溶かす―  作者: 時空院 閃


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第26話:白き結晶と、近衛騎士団の陥落

 いつも本作『甘露の革命 ―泥に堕ちた聖パティシエは、光の結晶で世界を溶かす―』を応援いただき、誠にありがとうございます!

 皆様の熱いブックマークや感想の一つ一つが、泥だらけの村を「美食の要塞」へと変えていくルカの情熱、そして何より執筆の大きな活力となっております。


 物語はいよいよ、帝都の最高戦力とルカの「至高の焼き菓子」が正面衝突する、爽快なカタルシスに満ちた第26話へと突入します。

 前話では、女商人ヴィクトリアの冷徹な知略により、岩塩ギルドの封鎖を逆手に取った「海塩のブランド化」に成功しました。

 村には大量の白き結晶――「海塩」が運び込まれ、それと同時に帝都の精鋭である「近衛騎士団」が護衛として駐留することになります。


 第26話の最大の見どころは、誇り高き「帝都の盾」たちが、ルカの差し出したたった一枚のサブレによって、その魂を完膚なきまでに「陥落」させられていくプロセスです。


 駐留した小隊長レオンは、この任務を「辺境への左遷」と侮り、心を閉ざしていました。


 しかし、そんな堅物な騎士たちの前に、真っ白なエプロン姿のルカが現れます。

 差し出したのは、暴力的なまでに濃厚なバターの香りを纏い、黄金色に輝く分厚い円盤――『特製・海塩の厚焼きバターサブレ(ガレット・ブルトンヌ)』でした。


 通常の倍以上の黄金バターを使い、米粉特有の「ザクザク」と「ホロホロ」が同居する究極の食感。そして何より、手に入れたばかりの海塩がバターの甘みを極限まで引き立てる**「旨味の連鎖」**が、騎士たちの理性を木っ端微塵に砕き去ります。

 鉄の規律を誇る精鋭たちが、顔をバターの粉だらけにしてルカの前にひれ伏す光景は、もはやお菓子という名の「平和的な軍事制圧」に他なりません。


 そして、その様子を物陰から見つめるヴィクトリアの「絶望的な深読み」も絶好調です。

 「山の民(武力)」に続き、「近衛騎士団(防衛)」までもが、ルカ坊の焼いたサブレ一枚で私兵(狂信者)に成り下がった……!


 無邪気に笑う七歳の少年が、無自覚に「難攻不落の美食要塞」を完成させていく様子に、彼女の戦慄は止まりません。


 誇り高き騎士の魂が、甘美なバターの海に沈んでいく歴史的瞬間。

 れでは、第26話「白き結晶と、近衛騎士団の陥落」、開幕です!

 帝都の近衛騎士団に護衛され、泥の村に大量の『海塩』が運び込まれてから数日が経った。

 村はかつてないほどの活気に包まれていたが、村の入り口に駐留することになった近衛騎士たちの間には、どんよりとした不満の空気が漂っていた。


「……信じられん。なぜ我々のような帝都の精鋭が、こんな泥だらけの辺境(もっとも、今は妙に立派な石畳が敷かれているが)の護衛などさせられねばならんのだ」


 近衛騎士団の小隊長・レオンは、磨き上げられた銀の甲冑を鳴らしながら、忌々しげにため息をついた。

 彼は誇り高き騎士だ。侯爵の命令とはいえ、辺境の商取引の護衛など、事実上の左遷であると受け止めていた。


「隊長。ですがこの村、なんだか異常です。獣人の戦士たちが警備を手伝い、帝都から姿を消したはずの一流職人たちが、楽しそうに下水道を掘っています。それに……なんだか、いつも甘くてとんでもなくいい匂いが……」

 部下の騎士が、鼻をヒクヒクとさせながら言った。


「馬鹿者! 貴族の権力闘争に巻き込まれただけの怪しい村だ。決して気を緩めるな。我々は帝都の盾、何者にも屈しない誇り高き――」


 レオンが厳しく言い放とうとした、その時だった。


「お兄さんたち! 遠くから護衛のお仕事、お疲れ様!」


 コロコロと転がるような元気な声と共に、真っ白なエプロンを着た七歳の少年――ルカが、大きなカゴを抱えて騎士たちの前にやってきた。


「なんだ、子供? 我々は任務中だ。遊び相手にはなれんぞ」

 レオンが冷たくあしらおうとするが、ルカはまったく気にする様子もなく、満面の笑みでカゴにかかった布をサッと取った。


「これ、いっぱい届いた『海塩』のお礼だよ! お兄さんたち、お腹空いてるでしょう? 食べてみて!」


 ふわぁぁぁ……ッ!!


 カゴが開かれた瞬間、レオンと騎士たちの鼻腔を、暴力的なまでに濃厚な「焦げたバターの香り」が殴りつけた。


 カゴの中に山積みになっていたのは、普通のクッキーよりもずっと分厚く、こんがりと濃いキツネ色に焼き上げられた、まん丸な焼き菓子だった。表面にはフォークで美しい格子模様が描かれ、ツヤツヤと輝いている。


「なん……だ、これは……? 焼いたパン……いや、凄まじいバターの匂いがする……」

 レオンは思わず生唾を飲み込んだ。


「これはね、『特製・海塩の厚焼きバターサブレ(ガレット・ブルトンヌ)』だよ! ゴードンおじさんに『鉄の丸い輪っか(セルクル)』を作ってもらって、その中に生地を入れて焼いたから、横に広がらずにこんなに分厚く、サクサクに焼けるんだ!」


 ルカは前世のフランス・ブルターニュ地方の伝統菓子を、この異世界で完璧に再現していた。

 水分を極限まで減らし、米粉、卵黄、そして通常の倍以上の『黄金のバター』を贅沢に練り込んだ生地。そこに、ヴィクトリアが持ち込んだミネラルたっぷりの『海塩』を強めに効かせるのが、最大のポイントだ。


「さあ、冷めないうちに食べて!」

 ルカに手渡され、レオンは無意識のうちにその分厚いサブレを受け取っていた。


(いかん、任務中に見ず知らずの者から施しを受けるなど……だが、この匂い、抗えん……!)


 レオンは震える手でサブレを口に運び、ガリッと、その分厚い生地を噛み砕いた。


 ザクッ! ホロッ……ジュワァァァッ!!


「――――ッ!!??」


 瞬間、レオンの頭の中で、帝都の騎士としての誇りと常識が、木っ端微塵に吹き飛んだ。


 歯を立てた瞬間の、心地よい『ザクザクッ』とした力強い食感。だが、口の中に入ると、米粉の繊細な生地が一瞬にしてホロホロと砂のように崩れ去る。

 そして、生地に限界まで閉じ込められていた大量の『黄金のバター』が、熱と共に一気に溶け出し、口の中を濃厚な乳脂肪の海へと沈めていく。

 極めつけは、生地に練り込まれた『海塩』だ。バターの濃厚なコクと甘みを、海塩の複雑なミネラルと塩気がピリッと引き締め、無限に食べ続けたくなるほどの強烈な旨味の連鎖を生み出していた。


「な、なんだこれはぁぁぁっ!!?」

 レオンは、甲冑をガシャガシャと鳴らしながら、その場に膝から崩れ落ちた。


「隊長!?」

「美味い……! 噛むほどにバターの洪水が押し寄せ、この絶妙な塩の粒が、甘さを何百倍にも引き上げている……! こんな分厚くて、力強くて、それでいて儚く溶ける菓子など、皇帝陛下の晩餐会でも出たことがないっ……!!」


 レオンの叫びを聞き、部下の騎士たちも我先にとカゴに群がり、厚焼きサブレを口に放り込んだ。


「うおおおおっ! なんだこのザクザク感は!」

「塩! 塩が美味すぎる! 疲れが吹っ飛ぶぞ!!」

「ル、ルカ様! もっと、もっとくだせぇ!!」


 たった数分前まで「辺境への左遷だ」と不満を垂れていた帝都の精鋭部隊は、顔をバターの粉だらけにして、七歳の子供の前に歓喜の涙を流してひれ伏していた。


「えへへ、いっぱいあるから喧嘩しないでね! お兄さんたちが村を守ってくれるなら、毎日でも焼いてあげるよ!」

「「「「一生、この村をお守りいたします!! 我らが主、ルカ様!!」」」」


 近衛騎士団、完全陥落である。


 その信じられない光景を、視察に来ていたヴィクトリアは、離れた物陰から絶望的な顔で見つめていた。


(あ、あり得ないわ……! 皇帝の盾である誇り高き近衛騎士団の小隊が、たった一つの焼き菓子で、完全に村の私兵(狂信者)に成り下がってしまった……!)


 ヴィクトリアの目には、ルカが『美味という名の麻薬で軍隊を操る、恐るべき支配者』にしか見えなかった。


(ルカ坊は……塩を手に入れただけでなく、それを『最強の軍隊を洗脳するための兵糧』として即座に活用したんだわ……! これでこの村は、山の民の遊撃部隊と、帝都の重装騎士団という、絶対に攻め落とせない二枚の盾を手に入れた……!)


「ルカ坊……。あんた、最終的には帝国を丸ごと乗っ取る気なのかい……」

 ヴィクトリアは一人、その恐るべき統率力と、世界一美味しいサブレの香りの前で、ガタガタと震えるしかなかった。


 極上の海塩と黄金のバターが生み出した、分厚い奇跡のサブレ。

 その圧倒的なカロリーと旨味は、最強の騎士たちを胃袋から完全に支配し、泥の村は名実ともに「難攻不落の美食要塞」へと進化を遂げたのだった。


【ルカの特製レシピメモ:海塩の厚焼きバターサブレ(ガレット・ブルトンヌ風)】


■ 材料(直径6cmのセルクル(丸型)約8個分)

・無塩バター:120g(常温で柔らかくしておく。たっぷり使うよ!)

・粉砂糖:70g

・卵黄:2個分

・米粉(製菓用):130g

・アーモンドパウダー(あれば):30g(なくても米粉150gでOK!)

・海塩(粗塩がおすすめ):小さじ1/2


■ ルカの作り方


バターを練るよ! ボウルに柔らかくなったバターを入れ、ホイッパーで滑らかにする。粉砂糖を加えて、白っぽくなるまでよくすり混ぜる。


卵黄を1.5個分(残りは塗る用にとッテおく)加え、しっかり混ぜて乳化させる。ここに海塩を加えてね!


米粉とアーモンドパウダーを加え、ゴムベラで切るように混ぜる。粉っぽさがなくなったら、生地をラップで包んで、冷蔵庫(氷室)で1時間以上しっかり冷やし固めるよ。


冷えた生地を、厚さ1.5cmくらい(すっごく分厚く!)に麺棒で伸ばし、直径6cmの丸いセルクルで抜く。


ここがポイント! 抜いた生地は、セルクルに入れたまま鉄板に並べるんだ! 型がないと、焼く時にバターが溶けて横にデロ〜っと広がっちゃうからね。


表面に残しておいた卵黄を塗り、フォークの背で斜めに格子模様バッテンを描く。


170度に温めたオーブン(魔法窯)で約25分〜30分、濃いめのキツネ色になるまでしっかり焼き上げる。


焼き立ては崩れやすいから、完全に冷めてから型を外してね。ザクッ、ホロォッの食感がたまらないよ!

『甘露の革命 ―泥に堕ちた聖パティシエは、光の結晶で世界を溶かす―』

第26話「白き結晶と、近衛騎士団の陥落」を最後までお読みいただき、ありがとうございます!


 物語はついに、帝都の最高戦力である「騎士団」までもが、ルカの放つ甘美な衝撃の前に膝を突く展開を迎えました。

  今回のあとがきでは、本エピソードの注目ポイントを振り返ります。

 究極の「甘じょっぱさ」の完成: 前話でヴィクトリアが命懸けで持ち込んだ『海塩』が、ついにルカの手で最高の形に昇華されました。

岩塩の尖った塩気ではなく、海塩特有のミネラルが黄金バターの濃厚なコクを何倍にも引き立てる「ガレット・ブルトンヌ(厚焼きサブレ)」は、まさに素材の勝利と言える一品です。


 「鉄の丸い輪っか(セルクル)」の重要性: 今回のサブレがこれほどまでに分厚くサクサクに焼き上がったのは、偏屈な鍛冶師ゴードンがミリ単位で仕上げた金型のおかげです。

  生地が横に広がらないよう型に入れたまま焼くという、前世の専門的な技法が「誇り高き騎士の理性」を打ち砕くための決定打となりました。

 近衛騎士団の「平和的陥落」: 小隊長レオンをはじめとする精鋭たちが、バターの粉まみれになって「ルカ様!」とひれ伏す光景は、武力をも無効化する美食の恐ろしさを象徴しています。


  ヴィクトリアが戦慄した通り、ルカは無自覚(?)に、山の民という「矛」に続き、近衛騎士団という「盾」までも完全に私兵化してしまいました。


 次話、第27話では、ついに村人や職人たちが総出で作り上げた「近代的なお菓子工房」が完成します!


  清潔な環境を手に入れたルカが、自身の一番弟子となるニーナや若者たちに、プロのパティシエとしての「命懸けの技術」を伝授する熱い展開が待っています。


 宝石のような『マカロン』、そして魂を揺さぶる『飴細工』の誕生をどうぞお楽しみに!


 「サブレを食べてみたい!」「騎士団の変わりっぷりが最高!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価、感想などで応援いただけますと、執筆の大きな活力エネルギーになります。


 次回、第27話「ガラスの飴細工と、一番弟子の誕生」にて、また皆様とお会いできるのを楽しみにしております!

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