立秋・立春 終わり良ければすべて良し
立秋 博多事変の後日談
平谷大統領の野望は打ち砕かれた。
戦車隊による博多への襲撃は博多事変と呼ばれるようになり、無事に解決した立役者として承之助とお佳さんは九州政府から表彰された。
そして異世界人を保護する必要性が高まったと判断した九州政府により、異世界人保護局が創設され、守恒さんが初代局長になった。
守恒さんは「局長なんて柄じゃないんだが」と渋っていたが、釜島大臣に説得されたようだった。
承之助とお佳さんは一人で一軍にも匹敵する強力な精霊術を使えることが広く知られたので、九州政府としても在野のままにしておけなくなった。
守恒さんが調整窓口となって、承之助とお佳さんの意向を最大限尊重した結果、二人は特任精霊術師という新たな肩書を持つことになり、普段はこれまでどおりに暮らすけれども形の上では九州政府に所属し、もし大事件が起きた時には政府に協力することになった。
ただし、これまでどおりに暮らすといっても二人は有名人になってしまった。
特に承之助は光るオーラに包まれ、左右の眼が緑色と水色に輝いた状態で精霊術を行使しているところを多くの人に目撃されていた。
承之助やお佳さんを一目見ようとする人たちが追いかけてくることになり、師匠の家にも大勢の野次馬が押し寄せてきた。
そのせいで、二人は師匠から出禁を言い渡されてしまった。
「そんな、出禁なんて酷いですよ」と抗議する二人に対し、師匠は「活躍した二人には済まないけど、これじゃ弟子が稽古に来られやしないよ。まあ人の噂も七十五日というからさ。そのうちもとの生活に戻れるよ」と答えた。
博多事変から二週間ほど経ったある日のこと。
「何か美味しそうな匂いがする」と言って、めいちゃんが玄関に行くと、承之助とお佳さんがお菓子を持って玄関の外にいた。
「はい、めいちゃん。どうぞ。」
嬉しそうにお菓子を受け取るめいちゃんを見ると、師匠はため息をついた。
「仕方がないねえ。中へお入り。」
七十五日も出禁ではつらいと思った二人は一計を案じ、うまくいったのだった。
承之助とお佳さんは嬉しそうに師匠の家の敷居をまたいだ。
しばらくして、師匠の家では寿司の出前なんかも注文し、博多の街を救った二人の活躍を祝う宴会が行われた。
きぬ葉さんたち芸妓も加わり、小唄や踊りにと、楽しい宴になった。
特任精霊術師といっても週に一度九州政府に顔を出せばよく、再び庭師をするようになった承之助とお佳さんは、落ち着いた生活を取り戻していた。
予知能力を持つ青葉も、もう怖い予知夢を見ることはなくなっていた。
庭師の仕事を終えて甘味処「千代木」であんみつを食べながら、承之助とお佳さんは、博多事変のことを思い出して話していた。
「博多に平和が戻って一件落着ではあるんだけどねえ。」
「そうね。あの世界の織り手のことだけは心残りね。」
承之助の霊力を回復させ、力尽きて消えて行った少女のことで二人は心を痛めていた。
自分たちを異世界に勝手に呼んだのは世界の織り手だが、必要があったことは理解したし、この世界で自分たちは幸せに暮らしている。
任務にすべてを捧げたように消えて行った少女を何とかしてあげられなかったのだろうかと二人は思った。
そのとき、空中から声が降ってきた。
「こんにちは、お兄さんとお佳さん。」
「あら、南天ちゃん。こんにちは。」
「二人とも、何を暗い顔をしてるの?世界を救ったのに?」
二人から事情を聴くと、南天は微笑んだ。
「二人とも優しいから、織り手のことを気にしているだろうって木蓮様がおっしゃっていたけど、その通りね。それじゃあ木蓮様からの伝言を伝えるね。『博多事変の解決には世界の織り手の活躍があったと街の皆さんに伝えて、感謝の祈りを捧げるようにしてはどうでしょう』だそうよ。」
二人は顔を見合わせた。
何となく世界の織り手のことは秘密にしないといけないと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。それなら、木蓮さんの言うとおり、街の人たちに真実を知らせて、感謝の気持ちをみんなで捧げようと二人は思った。
承之助とお佳さんから話を聞いた守恒さんは、二人を連れて釜島大臣に会った。
真相を知った釜島大臣は、功労者である二人の気持ちに応えるため、また力を貸してくれた大精霊である木蓮の提案でもあることから、博多事変の解決には世界の織り手の献身があったことを大々的に発表した。
博多の街の人たちは、力を使い果たして消えた織り手のことを悼み、承之助が織り手に会った神社に参拝する人はひきも切らない状態になった。
立春 世界の織り手再び
この世界に承之助が転移してから一年が経った。
承之助とお佳さんは、織り手の声が聞こえた神社に参拝していた。
すると、参拝を終えた二人の頭上に眩しい光が差し込んだ。
光が収まると、二人の頭上に、あのとき消えた世界の織り手が浮かんでいた。
「えっ、あなたは織り手さん?」
驚く二人に対し、織り手は苦笑した。
「ええ、そうよ。あのとき消えたはずだったんだけど。何故かまた戻ってきているの。」
すると、南天さんが空中に現れた。
「ふふっ。博多の街の人たちが貴女に感謝して祈ったお陰ですね。」
南天によれば、多くの人が感謝して祈りを捧げたことで、世界の織り手は神様になったらしい。
「私が神様なんて、おこがましいわ。自分では何も出来なかったのに。日本の神様たちが怒らないかしら。」
南天は微笑んだ。
「大丈夫ですよ。貴女の功績は大きいと思います。それに、ここは八百万の神々のおわす国。一柱増えても、神様たちは怒ったりしませんよ。」
(完)
このお話は、これで完結です。
更新できない時期があり、途中でアカウントを変更するなど、いろいろありましたが、どうにか完結できてほっとしています。
ここまでお付き合い頂いた方には、御礼申し上げます。




