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第十話 もう一つの姿

 


 鐘の音が聞こえて目が覚める。


 目を開けると、また寝室のベッドで寝ていた。


 ダイニングで勉強しながらリアムを待っていたはずなのに、自分で部屋に行った記憶もなく、また彼に運んで貰ったのだと、気恥ずかしさと申し訳なさで居た堪れない気持ちになった。


 彼はもう起きているのか部屋には居なかった。



 階下に降りて行き、顔を洗って着替えた。


 しばらくして、リアムが帰ってきた。


 「リアム、ごめんなさい、私寝た。ベッドに運ぶ、ありがとう」


 「気にするな」


 そう言って、頭にポンと手を置いた彼はすぐキッチンに向かった。


 「エレーヌは来る?」

 「もうすぐ来る。座ってろ。」


 彼の言うとおり、エレーヌはすぐにやって来た。



 今日も3人で朝食を食べた。


 赤いトマトのような野菜をちょんちょんとフォークで突きながらエレーヌに聞いた。


 「トマトの色はなんて言う?」


 彼女も私の意図が分かったみたいで、次々と色のあるものを指差してから色の名前を言ってくれた。

 

 「トマトは赤、この野菜は緑、この椅子とテーブルは茶色、このコップは黄色」


 そして、エレーヌは何かを探しているのか、キョロキョロと視線をさまよわせ、閃いたようにリアムの目を指差してから言った。


 「リアムの目は青よ」


 いきなり話題に上がった彼は少し驚いていた。

 確かに彼の目は綺麗な青だったなと、彼の目を覗き込んだら、居心地が悪そうに目を逸らされてしまった。

 チクリと胸が痛む。


 不躾に見過ぎたなと反省して目を伏せた。



 朝食後はリアムとエレーヌは出かけて行ってしまった。1人、朝食の時に教えてもらった色の名前を復習する。


 リアムがくれたノートを開き、日本語で色の名前を書き、発音を横にカタカナで書き込んだ。

 「青」と書いた時にリアムの青い目を思い出して心臓が跳ねた。

 彼は口数は少ないが、いつも気にかけてくれる。

 早く自立してここを出たい気持ちと、彼と離れたくない気持ちが混在している自分に困惑する。

 これは「刷り込み」と言うんだろう。この世界で最初に彼に助けられたから、彼を最初に見たから、だから勝手に彼に依存しているだけだ。

 この気持ちに蓋をして、振り払うようにペンを走らせた。

 


 ノートの復習を3巡した頃、お昼の鐘の音が鳴った。


 お昼を作ろうとキッチンに行く。いつも作ってもらうのは忍びないので、サンドウィッチを作ることにした。

 ただ、昨日のサンドウィッチは塩こしょうのみの味付けだった。この世界にはマヨネーズはないので作ることにした。


 リアムがお昼に一度帰って来て、私が作ったマヨネーズの玉子サンドやハムサンドを食べた彼は驚いていた。口に合うか心配だったが、「うまい」っと言って食べてくれた。少し役に立てた気がして嬉しくなった。作ってよかったと頬が緩むのを止められなかった。


 そして入れ替わるように昼食後にリアムは出ていき、昼過ぎにエレーヌが来てくれた。


 夕食までの時間は洗濯をしたり夕食の準備をする。


 夕食をエレーヌと一緒に作っていると、唐突にエレーヌが質問して来た。


 「そう言えば、リナって魔法は使えるの?」

 「まほう?何?使う?」

 何の事かさっぱりで首を横に振った。


 すると、エレーヌは右の人差し指を立てて、自身の唇に近づけてフッと息を吹きかけた。


 彼女の指先に光の球体が浮かび上がった。


 「これが、魔法」


 そう言って彼女は指先の光を私に近づけた。


 魔法のことか!彼女の光る指先を凝視した。

 リアムが魔法を使っているとは思ったが、エレーヌも使えるようだ。この世界の人達はみんな使えるのだろうか?


 「リナは魔法、使える?」


 エレーヌは指先の光を消してまた聞いて来たので、首を横に振った。


 「私はまほう、使えない」

 最後に指でバッテンもしておいた。

 

 「私の世界、みんな魔法、使えない。」

 「魔力はあるの?」

 「まりょく?」

 「魔法を使うための力よ」


 そんなものは無いし、知らないと首を横に振った。


 「この国のみんなは魔法、使える?」

 「ええ。ほとんどは使えるわよ。魔力がない人はこの魔石を使うけど。」

 

 そう言って、IHのような石のプレートに手をかざして赤く光らせた。

 

 トイレやお風呂で見た石は「魔石」と言うらしい。


 「これはリアムが魔石に火の力を入れてあるから私でも使える」

 「エレーヌは火の力は使えない?」

 「私は火の魔石を使えば火を扱えるけど、火を出すことはできないの」


 皆んなが皆んな魔力を使えたら、この世界で生きていくのに私のような普通の人間は不利になると思ったが、使える人と使えない人もいるらしい。


 「リナも黒髪だから魔力が多いと思ってた。」

 黒髪と魔力に何か関係があるのか?と疑問に思った。

 「黒髪は魔力が多い?リアムも魔力は多い?エレーヌは?」

 「そうね。リアムはとても多いし強力よ。私は魔力も少ないし、弱いの。魔力はその人の持っている色で大体が決まるんだけど…」

 「持っている色?」

 「髪の色や目の色のことよ。例えば、白髪、金髪、茶髪、緑、青、紫、赤、黒の順に魔力量や質が変わるの」


 エレーヌが言うには、この国の人は持っている魔力が人それぞれ違う。

 魔力の量は白から順に増えていき、最後に黒。

 魔力の質とは扱える能力の特性や属性のこと。白は浄化。黄色は活性化。茶色は防御や捕縛、緑は治癒にそれぞれ特化する。青〜黒は攻撃に特化する物が多く、青は「万能の青」と呼ばれ、他の色の特性も持ち、水属性の攻撃力がある。赤は火の属性。紫は青と赤の両方の属性を持つとされる。但し、鍛錬しないと魔力質も魔力量も伸びないし、歳と共に魔力量は低下して、白髪になると魔力はほとんど無くなるとのこと。


 なんだか壮大な設定だなとノートに一応メモしておいた。


 「だから、リアムも私も最初あなたを見た時に驚いたの。髪も瞳も黒なのは見たことがなかったから」


 「だから初めて会った時、私の黒髪にあんなに興味があったんだね」

 「そうね。それもあるけどリナが人族だからね」

 「ひとぞく?」と聞こうとして、唐揚げの油が跳ねた。


 そう。唐揚げを揚げている。


 エレーヌが発動させた魔石のお陰で今日は唐揚げを揚げた。リアムが気に入ってくれたマヨネーズとキャベツの千切り、そして唐揚げだ。

 

 こちらの世界で作れそうな料理が特に思いつかなかったが、昼間のマヨネーズを「うまい」と言ったリアムに喜んで欲しくて唐揚げにした。



 料理をテーブルに並べたところでリアムが帰って来て3人でご飯にした。

 エレーヌもマヨネーズは初めてのようで感動していた。沢山揚げた唐揚げは一つも残らなかった。空になったお皿を頬を緩ませながら片付けた。



 夕食後は魔法の色について、他の生き物もその色の力が反映されるのか聞いてみた。


 「魔獣はあるけど、普通の生き物には魔力はほとんどないわ」

 「魔じゅう?」

 「魔力をもった獣のこと」


 それを聞いてノートに書いた狼の絵を見せた。


 「この子は魔じゅう?名前わかる?」

 「それは…狼?」

 覗き込んだ彼女は少し首を傾げる。


 「おおかみ?この子森で会った。黒の毛で目は青」


 それを聞いたエレーヌはハッとしてリアムを見上げた。

 「言っていい?」

 「言わなくていい」


 そんな会話をした2人に、何故か仲間外れにされた気がして間髪入れずに声を上げた。


 「おしえて!この子、森で会った。私助かった」


 エレーヌは大きな声を出した私に驚いたが、決意したように、止めるリアムを無視して言った。


 「驚かないでね?」


 彼女は目を瞑ったかと思うと彼女の体が光り出した。


 彼女が消えるのかと驚いて「エレーヌ!」と叫んで抱きついた。


 腕の中には綺麗な白い毛並みとヘーゼルの目の狼が居た。あの漆黒の狼より2回りほど小さかった。


 そして、合点がいってリアムを見上げた。


 彼は諦めたように一息つき、光を放った。そこにはあの漆黒の狼が青い目を真っ直ぐに向けてこちらを見ていた。


 「リアム、だったんだね。ありがとう。」


 あの時、森で見つけてくれて。側にいてくれて。




マヨネーズ、唐揚げ

みんな好きなはず。。

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