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この物語は全体を通して、人称がくるくるかわります

苦手な方はご注意ください・・・!





 桃色の花々が咲き乱れ、蝶がひらひらと目の前を横切っていく。人々は浮き足だち、どこもかしこもやれ宴会だ花見だと忙しい季節になった

 ただ、このヴァザール家を除いて


「・・・平和過ぎるわ」

「あら、それがいいんじゃない」

(またそれだ)


 ヴァザール侯爵家。それは、アルフレッド・ヴァザール侯爵が家主を務めるれっきとした貴族である。多いとも少ないとも言い難いがそれなりの領地をもっている。侯爵の名の通り、適度な地位もある。オマケに歴史もそこそこある。

 ではなぜ、一部の者には糞がつく忙しさをもつこの時期に、ヴァザール侯爵家がこんなにも暇であるのかというと。


 答えは簡単、影が薄いのだ


 何故かは分からない。けれど、この「セゾン帝国」で侯爵を務めているはずの、その上4人もの娘が居るはずのこの家に、皇帝や皇太子の側室話どころかパーティーの招待状すらも届かないあたりを見ると、国にも忘れられているらしいということだけは分かる

 国に忘れられていて、上流階級の人間に覚えられている訳がない。

 ・・・しかしそれでも、アルフレッド・ヴァザール侯爵にはそれなりの地位を持つの友人がいるようなのだ。まあ2,3人だそうだが

 そんな道ばたにひっそりと咲き、誰の目にも留まらない野の花のような侯爵家の人々は、やはり野の花のような遠慮深さと適応力を身につけている


 末娘、レオナルドを除いて。


「アリシアお姉様、裁縫はもう飽き飽きですわ。早くオースティンお兄様はお戻りにならないかしら」

「しばらくは戻ってこないわよ。オースティンは方向を見極める能力がないのに、馬で旅をしたがるのだから。・・・そうね、そこらを探せばいるかもしれないけれど」

「・・・ハア」


 ヴァザール家の末娘である、お転婆ことレオナルド・ヴァザールが一番この平穏であり、裏を返せば全く刺激のない生活に一人、飽き飽きとしていた

 長女アリシアはしっかりとした性格で、趣味は裁縫。彼女が紡ぎ出す作品は評判が高かった。もっとも、ヴァザール家の中で、だ。

 次女アリエルは口達者で頭の回転が速いためか、物書きが趣味で、彼女の童話を読み聞かせられながら三女アルテミシアとレオナルドは育った。その内容の多くは、素敵な王子様とうつくしいお姫様の恋物語でレオナルドはそれがあまり好きではなかったというのは心に留めておく

 三女アルテミシアはそんなアリエルの物語の影響を受けてか、夢見がちな性格だ。趣味はアクセサリーを作ること。アクセサリー作りと言っても、高価な宝石で作るのではない。銀剛石と呼ばれる、一般市民もよく使用するほどの安価な石を削って繋げるのだ。そのできは中々に美しく、年々腕に磨きがかかっているらしい

 そして、四女レオナルド。彼女が何故このような名前を父から授かったかといういきさつ云々はまた別の機会にするとして、その趣味が武術と馬術というのには閉口せざるを得なかった。


「あら、貴女またアリシアの手伝いを放り出してきたの」

「だってお母様、あんな細かい作業すぐに目がチカチカするんですもの」

「・・・少しは生産的な趣味を身につけてくださいな」


 こうやって、母エイリーンは何かにつけこの困った末娘に内向的かつ生産的な趣味を見つけさせようとしていたのだが、ことごとく失敗しているのであった

 ・・・もっとも、最近は諦めの方が強くその回数も減ってきてはいたが


 「オースティンお兄様がお戻りになられないのなら、オーガスタお兄様でも構わないのに。どうして二人とも外出中なの!」


 ヴァザール家には二人の息子がいた。

 長男オースティンと、次男オーガスタ。息子であるからして、侯爵は二人にそれなりの武術を習得させていた。しかしこの二人は武術を好まず、それぞれが外向的かつ、全くの非生産を誇る趣味を持っていたのだ。

 方向音痴であるオースティンは馬での旅。少し太り気味のオーガスタは森林浴。オースティンは「長旅だった」と旅が終わる度に家族に告げたが、みな彼が屋敷の半径一キロメートル以内から出られた試しがないということをしっていたし、オーガスタは森林浴の最中に眠りこけて帰ってこないこともしょっちゅうだった。


 従って、レオナルドはほぼ常に一人剣の素振りをするかオースティン探しを兼ねた乗馬の訓練をするしかなかったのだった


「・・・ハア」

 憂鬱に外を見やる。昨日の雨で地面はぬかるみ、とても馬を出せるような状態ではない。素振りならまだできるだろうが、何しろ面白くない。

 そんなレオナに声をかけたのは、父アルフレッドだった

「何故ため息をついて居るんだ?レオナ」

「ああ、お父様。・・・そうだわ、お父様がいらしたんだわ。お父様!剣のお相手をしてくださいませんか!?」

 瞳をキラキラと輝かせる娘を前に、父はタイミングの悪さを悔やみ、そしてどうやって逃げるかを考えていた。


 レオナはオースティンとオーガスタが居らず、姉の手伝いに飽きた時いつも侯爵に相手を申し込むのだ。

 そしてアルフレッド侯爵はその度に手を変え品を変え剣を交えることをなんとか回避してきたのだった。


「・・・よし、レオナ。今日の午後から町に連れて行ってやろう。大道芸人が来ているらしいからな」

「・・・え、本当?!お父様ありがとう!それじゃ剣を交えている暇はないわね、準備をしないと・・・」


そして今回も、アルフレッド侯爵は見事にそれを回避して見せたのだった。



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