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第五章:入間先輩

-1-

次の日の朝、音楽堂集合だったので各自楽器を持って

そこに集合した。

練習室でそれぞれ楽器をだし音出しを開始する。


「愛理ちゃん、おはよう」


「あ…うん。」


なんとなく頭がぼんやりしている。


また夢の続きを見たからかもしれない。


「あやめ…私たちさ…昔、」


「え?」


「ううん。なんでもない」


するとあやめはちょっと心配したように小首を傾げて見せた。


「愛理ちゃんどうしちゃったの?なんだか凄く元気がないっていうか…。

何か悩み事?」


「あ?ああ…うん…まぁ…悩み事っていうか…なんていうか…」


「おはようございまーす!」


そこへ入ってきたのは、入間光。


と、入間先輩の左ほほがうっすら赤く腫れていることに気が付く。


ええ?!

嘘!?


いやだ…もしかして昨日私が叩いたから?!


謝らないとまずいわよね…さすがに…。


楽器をテーブルに置くと入間先輩の脇までやってきた。


しかし入間先輩は他の男子生徒と楽しく談笑していてすっかり私の存在に気付いていない様子だ。


もう!


ここは勇気を出して…、私から折れるしかないのよ!!


「あ、あの!!」


すると先に先輩と話をしていた男子生徒が気が付き、入間先輩の腕をツンツンとつついて見せた。


「え?」


やっとの事で入間先輩は私の存在に気が付く。


「あの…、その…昨日はすみませんでした…つい感情的になって…。」


「え?あ…うん…僕の方こそデリカシーがなくって…ごめんね」


すると一緒にいた男子生徒が気を聞かせたつもりなのだろうかその場からさりげなく席を外してみせる。


「ちょっといいかしら?」

そう言って入間先輩を廊下へと誘い出した。


「あの…昨日夢を見たの。」

「…………」


「そしたら入間先輩も夢の中に出てきたのよ。」


「え?僕が?!」


すると今まで真顔だった入間先輩の顔がにんまりととろけるのが分った。


「じゃあその夢の中の僕の名前も勿論?」

「ええ…」



「アキレス」

「アキレス」


二人声がハモる。


「ご名答。良く出来ました。」


入間先輩は満足げに微笑んで見せた。


「じゃあ…やっぱり…夢の中の人ってここにいる人たちと同じって事?」


「そう…全員が全員じゃないけど夢の記憶があるって事。」


「嘘!?じゃ…じゃあ!!」


思わず準備室に飛び込むと

あやめを探す。


あやめは仲間たちとパート練習をしているところだ。


「あやめ!!ちょっといい!?」


「七瀬さん、一体なんなの?今練習中よ?」

先輩に怒鳴られてしまい、すみません…急用なので…と一言付け加え

あやめの手を引いて廊下へと引っ張り出した。


「なに?どうしたの?」


あやめは訳が分らないといった表情をつくる。


「あやめ!あなた、アノンなの!?」


「え?」


「でしょ?!ああ…嘘みたい!!

嬉しいわ!!んもう!!どうして黙ってたのよ?

別に隠すつもりなんてなかったのよ?」


そう言って嬉しくなってアノン、いやあやめの腕に抱きついて見せる。


「ちょ…ちょっと待って?愛理ちゃん…何の話?

私よくわからないんだけど…」


「まぁ~た~、知ったかぶりしてぇ~。

ほら!アキレスもいるわよ?ねぇ?」

そう言って入間先輩を視線で指して見せた。


するとちょっと困り顔の入間先輩がいた。


「掛川さん、せっかく呼び出しておいて悪いんだけどちょっと皆のところ戻って

練習しててくれないかな?七瀬さんと話しがあるから。」


するとあやめははい、と小さく返事をして軽く頭を下げると

私の手をするりとほどきまた室内へと戻っていった。


「え…ちょっと~!どういう事なの?!

あやめ、全然話しが通じてないじゃない!!」


「だから言ったでしょ?

全員が全員じゃない、って。」


「そんなぁ…。あ、でも入間先輩はアキレスの記憶があるんでしょ?

という事はあやめがアノンだってことも勿論知ってたんですよね?」

「勿論」

「そうですか…あの…いつからなんです?

いつから入間先輩はアキレスの記憶があるんですか?」


「去年の夏。」


「………」

静かに深いため息をついた。


もしかしたら他にもたくさん夢の関係者がこれからぞろぞろと

出てくる可能性、高いかもしれない。


室内を見渡す。


と、壁に掛かった時計に目が行く。


「あ!しまった!!」


慌てて走りだそうとすると入間先輩が驚いて聞いてきた。


「どうしたの?ももうすぐ本番だよ?」


「ゲスト迎えにいかないと!!すぐ戻ります!!」


-2-


「あ!来た来た!良かった、見つからないから

どこかで倒れてるんじゃないかって心配しちゃったわよ!」


音楽堂の前。


ぞろぞろとこちらにやってくる人の波の中から

一際背の小さい男の子、明人君を見つけると駆け寄って行った。


「会えて良かった!

一人で来たの?」

「ううん、近くまでお母さんに車で送ってもらった。」

「あら、そう。まぁその方が安心よね。さ、暑いから中に行きましょ。

冷房効いてるわよ。あ、カーディガウンとか持ってきた?

逆に中、寒いかも。」

「あるよ。」

「さすが!」


そういいながらも内心焦っていた。


明人君の顔色がいつも以上に悪いように見えたからだ。


隣の市から車で移動。普通の人間には大したことないが

普段家から殆ど出ない明人君にはやっぱりそれなりに負担になってしまったのだろうか?


無事明人君を客席に座らせると演奏後にホール前で、と言ってその場を後にした。


途中一度振り返ったが

明人君はパンフレットを眺めているようだった。


大丈夫かなぁ…。



演奏中、何度も明人君をチラ見したけどただただ明人君は腕組して

俯いている状態で固まっていた。


やっぱり連れて来ちゃいけなかったのだろうか?


演奏後声をかけようと明人君の席にやって来たのだが明人君は

演奏中と同じポーズのまま眠っているようだった。


やっぱり疲れさせちゃったかしら?


あれだけの大音量で演奏したにも関わらず、寝ちゃうなんて…。


軽く、だが脅かさないように優しく

明人君の肩をポン、と叩いて見せた。


すると明人君は一瞬体をビクリと揺らし顔を上げて見せた。


相変らず顔色は、悪い。


「七瀬さん、どうしたの?」


そこへ舞台から飛び降りて入間先輩が軽く小走りでやって来た。


すると明人君は突然入間先輩を早口で質問攻めにした。

すっかり涙目だ。

かなり興奮している様子が分る。


落ち着かせないと…!


そうだ!ペットボトルのお水持ってきてたんだった。

まだ口つけてないし。


「明人君、ちょっと落ち着いて!!

あ…私お水とってくるね。ここで待ってて?」


慌てて練習室へと向った。


「あら?愛理ちゃん何処行ってたの?

一緒に帰りましょ?」

そういってあやめがバイオリンケースを肩に引っ掛けた。


「あ、ごめ…ちょっと私…ゲスト送っていかなくちゃいけなくって…」

そういいながら慌ててバイオリンをケースにしまい

鞄と一緒に肩に引っ掛けて再び準備室を飛び出していた。


再びホールの客席に戻ったところで思わず心臓がドキリと鳴る。


なぜって…、明人君の顔が涙でぼろぼろだったからだ。


何故泣いているかは大体想像が付いた。


「あー!入間先輩、なに明人君泣かせてるんですかぁ!!」

わざと大声を出してみせる。


すると入間先輩は私の顔をチラリと見ると次の瞬間にはにっと口の端を上げて

笑顔を作っていた。


「いやね、俺がかっこよすぎて感動して涙が止まらないんだって」



「はぁ?」

「はぁ?」


思わず明人君と言葉がダブる。


入間先輩お得意のジョークだ。


でもそのおかげで大分湿っていた空気が乾いたかのように思えた。


家まで送っていく事を明人君のお母さんと約束していた。

なので送ろうとするととても具合の悪そうな素振りを見せたので

入間先輩も念のため、という事で私と二人揃って明人君を

自宅まで送り届けることになった。


帰りの電車の中、相変らず顔色が悪い明人君を気遣って

なるべく話しかけず休ませてあげることにした。


代わりに入間先輩と話したのだが、

これがびっくり。

入間先輩すっごく面白い事を言うから私ったらついつい笑い転げちゃって!


正直星座の話で腹を立てていたはずだったのだけど

こうして普通に話したらこんなに面白い人だとは思わなかった!


会話の引き出しが豊富で話しが躓いたり止まることなくエンドレスで

入間先輩の漫談は続く。


気が付くと射川家の前に立っていた。


明人君を無事に送り届けると

二人して再び来た道を引き返した。


「入間先輩って凄く面白いですね!またいっぱいお話聞かせてくださいよ!!」


「いいよ!今度はずんだむしの巣穴作りについて熱く語ってあげるから」


「ふふふ…楽しみに待ってます。」


そう言って十字路で入間先輩と別れた。


入間先輩はここから一度電車で応船まで戻って乗り換え、再び横須賀線に乗って東小塚まで行くのだ。


遠回りまでしてきてくれるなんて本当思いやりがあるんだな…。


なぁ~んだ…ただのデリカシーのない嫌な先輩かと思っていたけど

意外といい人じゃない!


話せば分ることって結構あるものね。


そう言って私は一人納得し頷くのであった。


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