第52話:宿題は絶対に独りでしましょう
更新、遅れるにも程があるというものですよね……。
本当に申し訳ありません。
夏といえば、真っ先に何を思い浮べるだろう。
夏祭り? 海水浴? インドアに扇風機やクーラー? それともアイスやかき氷?
そのどれも夏っぽい。
でも、一つ、忘れてはならないものがある。
絶対的に大なる存在。決して逃れられない現実。
「めんどいってーの。こんなモンに何の意味があるっつーんだ?」
「校内学力を保つために一応の努力はしてますよ、っていうこと」
「口内……なんだって?」
「もういいよ。それよりその数学を早くしろよ」
「あーはいはい。やりますよ。やりゃいいんだろちくしょー」
そう言って、タクは卓袱台に広げられた数学のワークに突っ伏した。
夏の風物詩の一つであり、おおよそ“学生”と呼ばれる人々なら必ず経験するもの。
宿題。山のような、まさに山と言って相違ない量の宿題。宿題だ。宿題だ。宿題だぁー!!
……んー。頭ん中まで変なテンションになってきた。
「なぁ、孝介」
タクは突っ伏した顔を転がし、右頬を数学ワークの上に置いた。目線が台所の冷凍庫に向かっているのは断固無視だ。
「お前、入院中に宿題やったとか言うわりに、残りすぎじゃねえか?」
「……うるせー」
意外に早く退院できたこともあるけど、「暇だ、勉強しよう」なんてセリフ、気が狂っても吐かない。それが学生の学生たるゆえん。
……まぁ、面倒だっただけなんだけど。
「誰だろうなー? 『子どもの仕事は遊ぶこと』って最初に言ったの」
「『学生の本分は勉強』」
「うーん……」
タクは頭を抱えて唸った。
それはこの宿題に対して、あるいはその迷(惑な)言(葉)の考案者に対して、はたまたいつまでたってもアイスを出さない僕に対してとも受け取れた。
あのガ○ガ○くんは最後の一本なんだ。絶対に出してなるものか。
「…………暑いな」
「暑いね」
「なんでだろうな」
「夏だからだろ」
「それもそうだ」
「うん」
そして、二人同時に大きく溜息。このグダグダ感。うだるような暑さとはよく言ったもんだけど、この際“グダるような暑さ”と言い換えても良さそうな気がする。
「シャーペン止まってるぞ」
「考え中」
うそつけ。よく見たら、その数学ワーク逆さまじゃんか。
「あー、勉強しなくちゃなぁ……」
「わかってるよ。わかってるだけだけど」
「ホンマや! ウチら一応受験生で?」
「わかってるよ。……わかりたくなかったけど」
「そう言う凩は宿題終わったのか?」
「そうそう、ひのでちゃんは……」
……………………ん?
「って、なんでひのでちゃんがいるんだよ!? ていうかいつの間に!?」
振り向くとちょうど後ろに、左手を腰に当て、勝手に家にあがったくせに堂々と立っているひのでちゃんがいた。
「あ、せや孝くん! 見てみて! 当たったんで○リ○リ君!」
僕の問いを軽く無視しつつ、右手で突き出されたアイス棒を見ると、そこには確かに『あたり』の三文字があった。
「おー! すげぇな凩!」
「やろやろー! ウチも初めてなんやって!」
「驚いてる場合じゃないよ、タク。あれ、多分うちのアイスだ。……しかも最後の一本」
「んだとてめぇ」
この口調の変わり様。やっぱり食べ物の恨みは怖い。
「えぇやん。全然宿題もせんとだらけとる人らになんかあげれんわ!」
威張られても。
「で、ひのでちゃんはどうなのさ?」
「ウチはラスト一週間に賭けとるけんえぇの」
つまり終わってないんじゃん。何してんだよ。
……いや、何もしてないのか。
「ほいほい、そんなん言いよる暇があったら勉強せんかい!」
「てめぇに言われたかねぇよ」
「ん? 一応持ってきたけど?」
言いつつ、ひのでちゃんは『漢字の学習』を卓袱台に広げた。本人の言う通り、漂白剤もびっくりな驚きの白さである。
「これでも少しは解いたんで?」
「いや、解いた、って言われても……。真っ白じゃん、それ」
「全部分からんかっただけやっ!」
「それは“解いた”とは言わん」
むしろ、やってないことより問題だろ。これでも僕ら、受験生だし。
「あっ……と。そや、孝くん」
「……そろそろ宿題しようよ」
「まぁそうなんやけど。でもなぁ、ウチ、さすがに他人のアイスを勝手に食べたりせんよ?」
「え?」
ってことは、さっき当たったのは本当にひのでちゃんのアイスで、僕ん家のアイスじゃなくて、つまりまだ最後の一本は残ってて……。
「マジで!? よっしゃ、孝介! アイス貰うぜ?」
「ちょっ、待っ……」
「おお、あんじゃんあんじゃん! あー冷たっ! うまー!」
嗚呼、僕のガ○○リ君が食べられてゆく……。
今日の教訓。夏休みの宿題は、絶対に友達とやってはいけません。宿題がはかどらないうえに、アイスをとられます。本当です。
「なぁ孝介。このポテチも貰っていいか?」
「誰がやるかっ!」
――そんな夏の一日。
黒犬は、生きています。
小説を書き始めたならば、きっちり終わらせる。
それが作者の義務であり使命。
小説を書くことが、作者としての存在証明。
分かっています。
ちゃんと理解しているつもりです。
今は、精一杯頑張る、としか言いようがありません。
絶対に書き続けてみせます。
絶対に。