Prolog〜雨〜
Prolog~雨~
雨の・・・音がする・・・僕の心に降り注ぐ、悲しみの、雨の音が・・・。
「とう・・・さん・・・かあ・・・さん・・・うい・・・・・・」
どうして、こうなったのだろう・・・。
いつから、こんなふうに誰も僕を見てくれなくなったのだろうか・・・。
母さんだけは、味方だと信じていたのに・・・。
「かあさん・・・」
僕は母さんからの最後の置き手紙を見つめながら、呟く。
『怜へ
初とお父さんと暮らすことにしまし
た。』
優しかった母さんは、本当は僕を愛してなんかいなかった・・・。そう思うと、なんだか急にこの世のすべてが憎くなって思えた。
「母さん、なんで・・・なんで・・・」
僕は、意識と無意識の境目で、その言葉を繰り返す。
大好きだった母さん。優しかった母さん。僕を裏切って捨てた母さん。僕は母さんを愛していた。大好きだった。でも、母さんは僕を愛してなんかいなかった。
「う・・・ひっく・・・もう、みんな、消えちゃえばいいのに・・・僕も・・・母さんも・・・みんな・・・消えちゃえばいいのに・・・‼」
涙を流しながら、僕は呟く。
するといきなり、どこかから声が聞こえた。
「君にそんな悲しい言葉は似合わないよ。」
僕は咄嗟に、声の方を振り返る。
するとそこには、見たことのない、黒いコートを着た男が立っていた。
「はじめまして、盃 怜くん。私は、砂茨 雷吟。お前を探していた。」
「ぼく・・・を・・・?」
僕は、絶望に染まった虚ろな目で、男を見る。
「そうだ。お前を迎えに来た。私と一緒に来ないか?」
「・・・・・・・・・」
「私なら・・・私ならお前を裏切らない。お前に愛情というものを教えてやることもできる。」
そう言って男は、僕に近づこうとする。
しかし僕は、男を信じて良いのかもわからず、ただその場で立ち尽くしていた。
「・・・怜。」
男が僕の名前を呼ぶ。誰かに名前を呼ばれたのは、いつ以来だろう・・・。
「今まで、よく頑張ったな。弟にのみ向けられる愛と、自分へと向けられる憎悪に、よく耐えたな。・・・よく、頑張った。」
男が僕の頭を撫でる。その瞬間、僕の中の凍りついた心が、一瞬にして溶けた気がした。
「あ・・・・・・」
僕の目から、再び一筋の涙が溢れる。
「おいで、怜。」
男・・・雷吟が、優しく声をかけてくる。僕は雷吟に駆け寄り、思い切り抱きしめる。
「雷吟・・・僕、生きてていいの?いらない子じゃない?」
「あぁ。お前はいらない子なんかじゃない。もう、私のかわいい子だ。いらないわけがない。さぁ、行こう。私の行くところへ。ずっと一緒だ。絶対に見捨てたりしない。」
「・・・うん!」
僕は、涙をふいて雷吟の手を握った。
このときの僕はまだ、これから始まる喜劇と悲劇の物語に、気づいていなかった・・・。
なぜ、早くに気付こうとしなかったのか。もっと早くに気づけばよかったと、そう思ったときには、もう遅かった。
雷吟との出会いから2年後、この物語は幕を開ける・・・。




