終章
「まったく、オマエたちは!」
脳天から落ちてくるような甲高い怒鳴り声。
生方の怒りがまたもや爆発したようで、脳天から落ちてくるような怒声が奉行所一帯に響き渡る。
「反省しとります!」
「以下同文!」
心にもない詫びで詫びながら、迅三郎と十郎太は、ほうほうの体で奉行所から飛び出した。
「今日は怒らせて、何回目やろ?」
「さあ、まだ三回は行っとらんと思うけど」
一向に反省の気配もなく、二人は相変わらず能天気を装っていた。
「さあ、どうするね? 少し早いけど、昼飯にでもするか?」
「どうせやったら、ぜんざいをもう一回でもええんとちゃうか? 前と違って安うなったんやろ」
十郎太が提案する。
結局、稲垣の作った筋書き通り、事件は無かったものとして取り扱われ、薩摩藩の抜け荷は言うに及ばず龍神組の鉄砲購入も不問に付された。すっきりしない幕切れだが、いみじくも稲垣の言った通り「咎め無し」の裁定に胸なでおろしたのか不満を口にすることはなかった。
「ぜんざい、ねぇ……」
興味無さそうに迅三郎が手を頭の後ろで組む。
現金欲しさに鳥取藩が手中にした大島糖を全て売り捌いたので、天井知らずだった砂糖の値段も一気に下落し、例年並みに落ち着きつつある。前のような高値を吹っ掛けらっる事は無いだろう。とはいえ……
「女子もおらんのに、そんなとこ行っても、しゃあないやろ」
甘党にも拘らず、痩せ我慢をするように迅三郎が答える。潤いがなければ行ってもしょうがないと、気にせず食べれば良いのに、妙なこだわりを持っているのだ。
すると、
「ぜんざい? 食べるんやったら、あたいが付き合ったろか?」
聞き覚えのある声が道向かいから飛んでくる。
声の方向に振り向けば、建屋の軒先から月世が手招きをしているではないか。
奉行所のお膝元だというのに堂々と、またしても盲目を装い、鍼灸院を隠れ蓑にしていた。
「アンタたち、面白過ぎるからな、江戸に下るのは、もう少し後にするわ」
これ見よがしに片目を瞑ると、間合いよく腹の虫が鳴った迅三郎に合わせるように昼食に行こうと提案する。
「はよ、行こ。せっかくやから、砂糖の値段も下がったことややし、甘味処でも行かへん?」
あまりの間合いの良さに、迅三郎が「俺たちの心の中も読めるのか?」と訊いてしまった。
月世は即座に「そんなことあらへん」と手を振って否定した。が、
「ま。いろいろと、お願い事は聞いてるわよ」
意味深に笑うと、「どうやろね」と言いながら、片目を瞑って怪しい笑みを浮かべた。
了




